上臥原天は抑圧された少女だった。
上臥原家は由緒正しき名家だった。起源はいつにはなるかは彼女自身はとうにわすれた。彼女自体それはどうでもよかった。
各時代にて表裏問わず力を持つ由緒正しき名家だった。
明治時代において華族階級と呼ばれる貴族階級に属していた。
上臥原家当主・上臥原蒼穹は強欲な男だった。あらゆる分野において太いパイプを欲した。
十数人の妻を持ち何十人の子を成した。当主の座を奪い合い蹴落とした兄弟を種馬に使い子を成した。
男は無能なら奴隷にし女は政略結婚の駒として使用した。
大量に子を成したのはあらゆる分野とパイプを繋ぐため。
蒼穹にとって子とは政治のため立身出世のための道具に過ぎなかった。
明治時代、【華族令嬢】とは華族の体面、体裁のための道具に過ぎなかった側面が強かった。
時代柄男尊女卑が根強く政略結婚のため恐怖的な教育など当たり前だった。
そんな中上臥原天は7番目の夫人の次女であった。
他の娘達とは違い剣術に天賦の才を持っていた。
そして長らく失われていた上臥原家秘伝の【天の呼吸】を体得した事が彼女の不幸の始まりだった。
政界の重鎮に見初められた第二夫人の三女の
ただ上臥原天に与えられたのは鬼殺隊とのパイプを作るため【柱】になれという役割だけを与えられた。
令嬢の礼儀作法もおとこを落とすための夜伽の技などではなくただ強さを求められた。
上臥原家は敗北者だという。
かつての鬼殺隊の始まりの剣士になれなかった者の末裔。
汚点だと父は言う。
「天。分かるだろう。そんな不名誉な汚点は濯がねばなるまい」
「はい、お父様」
「お前はただの刀だ。刀は斬るだけに存在する。それ以外の機能はいらない。」
その役割が確定してから今までの礼儀作法などの教育は廃され朝から晩まで寝る間も惜しまされ剣の稽古のみを強制された。
ただ、疑問もなく。
ただ、意味を知らず。
ただ、自分の意思もなく繰り返し繰り返し繰り返し繰り返すだけの毎日。
自分の意思とは介在せず操り主の糸の指示のみが理由だった。
それが上臥原家の【子】の当たり前だった。
ふとした合間に見る清々しいまでの空の【蒼さ】のみが上臥原天の娯楽だった。
何処までも蒼くどこまでも広がる空に自由を感じた。
自分は籠の鳥。
「………………ああ、綺麗だなぁ。アタシも君たちみたいに自由に飛んでみたいなぁ」
壊せば?
「え?」
コワセよ。上臥原天。君を縛る何もかも。
「………壊す…?」
ただ賢くコワセよ?意味が無くなるからさ。
「君は……」
お前だよ。
稽古場の鏡に映るアタシは亀裂のような笑みを浮かべていた。おぞましいだろうその笑みをアタシはすんなりと受け入れられていた。
アタシは羽ばたきたかったのだ。この足枷だらけの世界から。
それからは我が専心はどう、この上臥原家を討ち滅ぼすのみに収束する。
無駄に多い上臥原家。それを討ち滅ぼすには。その方法をのみ考え考え抜いていた。
皆殺しにするのは簡単だ。今の自分は鬼殺隊の隊員で鬼を躊躇なく殺していた。
笑い嗤って満面の笑みで殺戮し惨殺し蹂躙していた。
ただ困惑もなく噛み締めていた。
自分の手で薙ぎ払い縊り殺し命乞いする鬼を蹂躙するのは耐え難い悦楽だった。
鬼とはいえ他人の生殺与奪の権を握れた事に歓喜を覚えていた。
何をするにも父の顔を伺いいいなりになってきた自分が如何に馬鹿らしいのか鬼殺隊での生活で思い知らされた。
狂ったように笑いながらに鬼殺するアタシは他の隊員とは距離を置かれ孤立していたがアタシは充実していた。
上臥原家には味方なんかいなかったし母親もアタシには興味ないから孤立など当たり前だったのでどうでもよかった。
ふと自分と同じくらい年の頃の鬼を殺した時に思い付く。それなりの良家が無残に殺されていた。残念だとは思うがその光景に思い付く。
上臥原家を鬼に襲わせよう。そしてその生け捕りにした鬼を殺せばいい。なんだ簡単だ。
今まで悩んでいたのが馬鹿らしい。
…自分の手であの父親を下したかったが仕方あるまい。
実行は上臥原家の面々が集まる新年の集まりだ。
蒼穹の意向で必ずといっても全員集まる。体裁や体面を気にする男だ。
アタシは愛想笑いしながら頃合を待つ。
深夜近くまで蒼穹を含むお偉い様面々と酒盛りをするのは通例だ。酌をするのも我々女性の役目だった。
鬼殺隊でも上級の剣士になっていてまだ13だったアタシは警護をやらされていたがそれは好都合だった。
生け捕りにし飢餓状態にしておいた5体の鬼。
それを見回りの際に解き放つ。
もちろん侵入した形跡を作って。飢餓状態にして理性を失った鬼は直ぐさま脇目を振らず獲物を目掛けて駆ける。
嗤う。蹂躙される惨状に口角を釣り上げる。
上臥原家は街の外れにある。街の人間を毛嫌いする蒼穹の性根が幸いし気付かれるには時間が掛かる。
アタシは逃げ出す漏れた食い残しを斬り捨てる。
まだ生け捕りにしていた六体目を出す。
生き残りがいてはこの計画は意味が無い。アタシはいなかったことにする。全て殺せば証言など出ないのだ。
逃げ出す顔は見知った顔。上臥原家の子は他の子に興味がない。お互いに。躊躇などない。
「そ、天!!鬼が鬼が出た!!鬼殺隊の貴女の出番でしょう!!」
わめき散らす姉だった女は見るも滑稽だった。
後ろから来た鬼に喰われる。
アタシは歩を進める。
蒼穹の死に様を見るため。狡猾に他人を使い逃げおおせてるはず。
血塗れの夜の屋敷を進む。食い荒らされた死体に死体。
どれも面識があったが感傷はない。むしろ溜飲を下げる要因でしかない。
腐った家だ。無くなれば世のためだろう。
利益を生みはせず利益を啜りながら生きる毒虫のような家だ。
目指すは蒼穹の書斎。そこに逃げ込むだろう。
扉を開くと縮こまる父親。大きく自分を束縛していた存在だったとは笑えてくる。声を大にして笑いたいが我慢。今になってはただの滑稽な年老いた男にしか見えない。権力が剥がれた今の惨状では何の威光もない。
「お父様無事で?」
あえて心配そうに、声かけする。我ながら鳥肌が立つ。
「そ、天!!どこにいっていた!!?貴様何のための剣だ!!何のための鬼殺隊だ!!使えぬ娘だ!」
直ぐさま罵倒とは。立場を理解していないらしい。
「お父様、あの鬼はアタシの手引きで招き入れたのですよ。……聞こえますか?聞こえませんね。悲鳴も無くなったでしょう。ここに来るまでアタシは上臥原家全員と来賓の死亡を確認して参りました。あとはお父様貴方だけです。貴方が生き残って嬉しいです」
薄く微笑。
「は、え?」
蒼穹は、困惑。
アタシの後ろに現れた六体の鬼を見て目を見開き逃げようとする。
天の呼吸・玖ノ型【灼・蒼の水平】
一閃。六体の頸が飛ぶ。瓦解する鬼達。惨状のための無様な傀儡。
「天、貴様……」
「上臥原家は今日にて最後です。アタシもこの穢れた血は遺したくはありません。けどアタシは好きに生きます。自由に空へ。さようなら。貴方をこの手で縊り殺して嬉しいです。」
斬首。それからは鬼に殺されたように見せかけるため解体する。
大量の百に近い死体。細かく検分はしない。
鬼殺隊であるアタシの証言のみが事実となる。
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上臥原家の鬼襲撃事件はアタシの証言のままなんの疑いもなく終わった。
むしろ悲劇の剣士と扱われお館様からの慰めの言葉まで頂いてしまった。
清々としていた。言葉にもできない解放感。
悲劇の剣士と扱われは表立って態度に出せないのが辛いが人間関係が希薄だ。
何回か任務で一緒の鎖天川瑠偉ちゃんは気遣いなんてしてくれる性格ではないのが助かるが。
アタシはいつも来ている空がよく見える野原に来ていた。
蒼かった。鳥が飛んでいた。
雲1つ無い快晴。アタシはこの蒼さを体感するために殺したのだ。親族を何の躊躇いもなく後悔もなく。
壊れている事に気付かず無邪気に倒れ空を見上げる。
アタシは永遠にこの
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上臥原天は、自由を奪う者の対して嫌悪する。
彼女は自由でいるために生きている。
満たされるために。
「あははははははははは!!!!」
彼女は戦いを愉悦とする。
故に悪鬼と堕ちる。
天の呼吸・玖ノ型【絶・翠の地平】
翼を羽ばたかせ舞い横に一閃し柱達を斬り凪ぐ。
「こいつっ…!!」
「…素早い。……ちょこまかとうざったいな」
不死川実弥と伊黒小芭内は吐き捨て顔を顰める。
「嗚呼………お館様の御身を危険に晒すなど柱の恥だ……許すまじ鬼」
鉄球を振りかざし上臥原天を空中より叩き落とそうとする。
「きゃは!!怪力!!そんな【日輪刀】あるんだねぇ!!」
旋回して鉤爪に変容した右脚で悲鳴嶼行冥の肩を掴む。
「……ぐっ!!」
威容。背面に猛禽類の両翼。右脚は鉤爪に変容したまるで鳥人のような見た目へ移行していた。
「……………きゃは!!」
悲鳴嶼行冥の巨体を掴み上昇。
「南無…!!」
血の呼吸・肆ノ型重ね【血刃纏衝】
2重の血刃で上臥原天の鉤爪の脚を脛から下切り払う。
悲鳴嶼行冥は解放され地面へ受け身を取る。
「動けないと思った?天ちゃん?」
【神血】擬きを構える。
血霞麟は座敷から狙いを定める。
「…………きゃは♪」
心底楽しいと笑みを浮かべる。
抑圧されていた少女は自身の溢れる悦楽を抑える術を知らない。