鬼喰の血刃   作:九咲

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夢幻ノ陸【淡く冷たく朧気な恋心(ゆきこいがたり)・壱】

私の記憶はまばらだった。

 

私の死因は井戸に撒かれた毒を服毒してしまった服毒死らしい。

 

所謂毒殺だったという。どうしてという疑問は浮かぶ。

 

詳しくは知らないと赤い女性は頭を振る。

 

隣にいる父らしき人物は申し訳ないと呟く。

 

理由を知りたかったわけではないと返す。

 

ただどうして私の記憶はまばらなのだろうと。

 

 

そして私の胸中に存在する淡い切ないこの気持ちは何なのだろう。

 

どうしようもなく寂しかったのだ。まるで大切な何かを置いてきてしまったとそれを忘れてしまった喪失感が去来する。

 

わたしの髪に付いていた雪の結晶を模した髪飾りを見て涙がどうしても止まらないのだ。止まらないんです。

 

 

赤い女性は何も言わず抱き締めてくれた。死んだ筈の私達が何故こうして生き返ったかは分からない。かりそめの命をくれたこの人に感謝は尽きない。

 

この虚しさと喪失感を思い出すまでこの人に尽くし仕えよう。

 

この、淡い雪のように脆い恋心の正体に微かに不安と期待を寄せながら。

 

…【狛治】という名前だけを抱き締めながら。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

    雪の呼吸・壱ノ型【雪月花】

 

私は真っ白な霜を撒き散らす氷のような刀身をした日輪刀を振るう。

 

氷のような刀身でも日輪刀共通の陽光の力を持つ玉鋼で打たれている。

 

実戦で抜くのは久しぶりだ。

 

乗客を食らおうとする鬼を切り払う。凍結させ粉々に粉砕する。

 

    血鬼術【凍歩幕】

 

私の足が付く場所が凍結していく。

 

凍らせる血鬼術。私の雪娘たる力を行使する。

 

汽車のあらゆる箇所が鬼の肉となり攻撃を加えてくる。

 

 

「…………邪魔です!」

 

 

    雪の呼吸・弐ノ型崩し【牡丹雪・淡恋語(あわこいがたり)

 

淡雪が如く緩急ついた剣閃が煌めく。

 

汽車の天井から生えた触手を斬り捨て凍結させ粉々にする。

 

まるで、この汽車の自体が鬼になったかのよう。

 

この8両編成の汽車が鬼の肉なのかも知れない。

 

炭治郎様の気配。あの子も戦闘へ向かっているようだ。

 

ならば合流すべきかもしれません。

 

私は致命的に体力がありません。長時間の戦闘は不可能。

 

全集中・常中も長くは持たない。短期決戦で麟様を叩き起こさなければなりません。我等は【百鬼夜行】一鬼だけでは百鬼夜行たりえないのだから。

 

 

「…零余子さん、…炭治郎様達と合流しましょう。」

 

 

「う、うん!!」

肉を爪で切り裂く零余子さんは返事をする。

 

「させるかよ。………貴殿らを殺すのが某らの役目よ」

 

「女子が二人。でもうまそうじゃねぇなぁ。」

 

「人ではないのだ。喰えはせぬよ。波浄(はじょう)

 

「…なら犯してバラすか。肉人形として飼ってやるのも一興だな雨円(うえん)

 

「相変わらずの悪趣味だな。だが好きにするが良い。瑠偉様よりすきにしてよいとの言付けだ」

 

「分かってらっしゃるよ瑠偉様は」

 

「ああ、あの方は【血霞童子】にしか興味ない。あの方は興味ないことには些事に過ぎないよ」

 

進むべき前両より全身に罪人の証の刺青を入れた破戒僧のような格好をしたげすた笑みを浮かべ巨漢の鬼が現れる。

 

後退すべき後両を阻むは長身の糸目の侍のような風貌の歪な刀を二振りを構えた鬼。

 

 

「貴方たちは…?」

 

「我等は【雨獄衆(うごくしゅう)】、【新月の無色】鎖天川瑠偉様より貴殿らの足止めを承った。」

 

「良いこと教えてやるよぉ。お嬢ちゃん。この汽車は我等【新月】と【鬼舞辻】の両陣営がいるぜぇ?【血霞童子】は俺達に殺されるんだぁ!!」

 

「波浄。無意味に情報を渡すんじゃない」

 

「いいじゃねぇか。どうせバラして殺すんだ。」

 

「………馬鹿にされたモノですね」

 

「お、お雪?」

 

「………けして私も弱くはありませんよ?【雨獄衆】さん」

 

日輪刀【雪白狗】を構える。可憐な少女は巨躯と長身の鬼の前に怯まず立ち向かう。

 

「援護は任せましたよ。零余子さん。初めての共闘ですね」

 

「うぇ!?…う、うん…ま、任された!」

 

「及び腰じゃねぇか!大丈夫かよ嬢ちゃん!!」

 

 

車両内の死闘の一幕はかくして切って落とされた。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

竈門炭治郎は、家族の夢に溺れていた。

 

それは渇望して切望した幸せな光景だった。

 

あまりにも縋りたくなる幸せの夢。

 

竈門炭治郎が弱かったならば縋り溺れ堕ちていた。

 

 

大好きな家族と送れるはずだった日常を謳歌したかった。

 

 

けれど、現実の禰豆子を置いてはいけない。彼女の爆血の炎が思い出させてくれた。

 

夢へと縛り付けていた病床の青年と繋がっていた綱を幸運にも焼き切ってくれ夢の自分の頸を切り覚醒へと至る。

 

俺は禰豆子を人間に戻さないと行けない。だから…どんなに幸せな風景だとしても涙を堪えて前を進まなきゃ行けない。後ろ髪に引かれながらも振り切る。

 

家族を失ったのは、どうしようもない竈門炭治郎の現実だから。竈門炭治郎は妹を、救うため前に進まなければならないと覚悟をしている。

 

覚醒。

 

この催眠の地獄の鬼を鬼殺するために。

 

刀を抜き前を向く。

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