架純華は基本的に面倒見の、よい女性だった。
ただどうしようもなく生活能力が著しく低かった。
鬼殺隊に入隊する以前の孤児院を経営する時もお手伝いさんに頼る始末で孤児の少女達にすら劣っていた。
「ごめんねぇ……」
「適材適所でしょ華姉、私は華姉の役に立ちたいもの」
「うぅ可愛いやつめ。嫁に貰ってやるからね」
「華姉が嫁に行くんでしょ。いつ行くのさ」
「うぐっ」
華姉は男所帯で育ったらしい。武家の息女で男の子に恵まれず架純家の跡継ぎとして武芸を叩き込まれたらしい。だからか花嫁修業的なことをせず現在に至るらしい。何故孤児院を経営してたかは当時の私も知らなかった。
彼女の気質からして家事には向かないのは見て取れた。
だからか役割ができたようで嬉しかった。
拾われて幾何か経ち15歳の少女まで成長した。珍しい真紅の瞳に真紅の髪だからか目立っていた私は外に馴染めずに居た。
友達等居なかったし架純邸に引き籠もることが多かった。
それに日の光が何故か苦手だった。皮膚の疾患なのかは分からない。長時間日に晒されると肌が爛れてしまう。
それ以外は健康体で体力は普通以上にあった。
それでも華姉という絶対的存在があれば私にとっては些事に過ぎなかった。
「りん?」
「うん?」
「りんは出掛けたくないの?…一度お医者さんによく見て貰ったらどうかな?」
本当に私を心配してくれていることが分かる真摯な表情だ。凛々しくて長身で私の理想だった。
艶のある黒髪につり目の切れ目のある瞳だ。スタイルもいい。
背が伸びずちんちくりんの私からしたら羨ましかった。
「……大丈夫だよ、華姉。私外より中のが好きだし。ね?」
特に気にした様子のない笑う私に軽く嘆息はするが二度は言ってこなかった。
それでいい。私は外の世界には興味はなかったのだ。
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「瑠偉様、【血霞童子】夢に陥りました。…………
「そう。意外と厄介ね【百鬼夜行】というやつは」
「く、くそ」
「戦闘向きじゃないようね鴉。所詮は鎹鴉でしょう。」
踏み潰すと【八咫烏】が血霞へと霧散する。
「無様に眠り腐って居るようね【血霞】このまま殺してはつまらないわ。けど……その腕もう片方も切り落としてあげるわ」
刀を抜く。透明な刀。無色で水晶のような摩訶不思議な鋼の色をした日輪刀を抜刀する。 反射によっては刀身は見えない刀だった。
隻腕の奴の残された左腕を切り捨てるべく刀を振り下ろす。
【
血刃が、自動反射で瑠偉の攻撃を阻む。
瑠偉の腕より出血。
「タダでは眠らないってわけ?」
ペロリと舐めると直ぐさま再生する。
瑠偉は不快そうに眉をひそめる。血液が夥しい数の瞳を見開き睨めつけてくる。
「良いわ。漣。夢の中で殺してあげなさい。」
「はっ!!」
女学生の恰好した女は仰々しく返事をする。
【新月】の座を与えられた鬼は鬼を自分の部下へと塗り替える【権能】を与えられる。
【見えざる月】にて参謀の役割を持つ【新月の灰羅】の【血鬼術】の一端ではあるが。
【見えざる月】は【新月の純白】だけではなく灰色の女も中枢として機能している。
「まぁどうでも良いけど」
瑠偉はただただ【血霞童子】を殺したいだけ。
狂わした理由すら忘れているけど関係はなかった。
誰か愛しい人物の顔を忘れているけれど。
ただ純然たる殺意のみで今【色彩ノ鬼】として存在している。涙はとうに、枯れていた。
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雪の呼吸・壱ノ型【雪月花】!!
我流剣【雨月切り】!!
濁流が付随する剣閃を【雪月花】で凍らす。
目の前の鬼の侍の【血鬼術】なのでしょうか。
周りにいる眠る乗客はすべて人質。……汽車内で溺死という摩訶不思議な結果になってしまう。
「某の剣についてこれるとは見た目に違い熟練のよう。生前は辻斬りでならしたのだがな」
「…………こう見えて江戸の生まれですので」
「なるほど。少女に見えて同輩という訳か。……某も江戸の生まれよ。……くく、辻斬りに堕ちた身としてこう斬りがいがあるものと相まみえれるとは僥倖。」
「私程度で満足出来るなら先はありませんね。…鬼殺隊には私以上の剣士は腐るほどいますよ」
「それは楽しみだ。貴殿を殺してつまみ食いといこうじゃないか」
雨円は噛み殺した笑みを浮かべる刀をさらに構える。
異形の刀。刀の腹にさらに刀身が生えた刀。
その生えた刀身が濁流を付随する。濁流如き斬撃が応報する。喰らい喰らう。その濁流を喰らう前に凍てつかせる。
(
いれば、あればのもしもの話は戦闘には不要と頭を振る。
雪の呼吸・壱ノ型崩し【狂い咲き雪月花】
凍気を纏う連撃を放ち濁流如き斬撃を砕き粉々にする。
私は麟様をお守りするだけ。霜を撒き散らす刀を構える。
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【百鬼夜行】としての初陣。それが正面衝突のしかも明らかのパワータイプの巨漢の破戒僧。格上。【下弦】相当かそれ以上。
いつも格上相手には逃走し生き延びてきた臆病者。それが私、零余子。
それは先日までの私。【鬼舞辻無惨】という恐怖に怯え生きてきた。
新たな主【血霞麟】様は【鬼舞辻無惨】とは真逆で私を家族として扱ってくれた。
報わねばその一心で恐怖を振り払い対峙する。
「良いねぇ、恐怖を振り払い頑張ってますという小動物感。可愛がりがいがあるというものよ」
波浄という坊主に相応しくない言動の巨漢は舌なめずりをする。ゾゾゾという悪寒が走る。
「五月蠅い喋るな変態」
「おっと酷い言われようだ」
「変態以外の何者じゃないじゃない」
「そうか、ならおねだりできるまで調教し無ければ…なぁ!!」
巨漢とは思えぬ俊敏さで距離を詰める波浄。岩のような拳が、私の身体を穿つ。
血鬼術【増減操作・威力】
威力を最低値まで軽減させるが…!!?…
「あっつぅ!!?」
身を焼くような熱さが我が身を苛む。
「熱湯を纏う拳だぁ!珍妙な血鬼術のようだなぁ!!?」
増減出来る対象は複数指定できない。拳の衝撃と熱湯の熱さは別だ。
これが私の血鬼術の、使いにくさ。
それでも戦いようはある。百鬼夜行として【血怪】として相応しいように。
血鬼術【増減操作・
精一杯のしたり顔をしてやる。気勢だけは負けてはいけない。私はもう【百鬼夜行】だから。