桐夜白兎は凡才だ。剣士としても鍛冶屋としてもどちらつかずの未熟者。父親のようにはなれなかった。
【柱】という天才を見てつくづく思う。俺が強ければ弱く無ければ失わずにはいかなかったのかもしれない。
もし、なら。たらればの話は意味は無い。失った現実が現実で俺の弱さなんだから。
いくら泥臭くても地面に這いつくばってでも妹を守る。
病にかかり弱り切っても俺はせめて外敵からは守り通してやる。
病で弱り切っているあいつに何をしたらいいか分からない。せめて安息に眠れるならば俺は道化を演じよう。
だから……この悪夢の鬼とやら。
殺してやる。
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鉄の呼吸・弐ノ型【鉄金・暮ノ鳥】
かたく鋭く呼吸を全身に巡らし鉄のように硬くする鉄の呼吸。攻防一体の岩の呼吸の派生。
極めればの話ではあるが。本来なら極めれば此方は傷つかず相手のみ傷付ける呼吸法ではあるが故自身を省みず傷付く技である全ての【型】
未熟者であるからこそ、自身にも返ってきていた。
自身が傷付こうとも怯まず臆せず俺は闘わなければならない。
白梅を返せ……!俺にはあの子しかいない……!
妄執が如き猛攻。
まるで鉄の鳥が啄むような突きを連続して突き刺す。
「……白兎!!」
錆兎の制止に構わず攻撃を繰り返す。
分断され錆兎と二人だ。血霞さんと真菰さんと分断された。恐らく空間ごと。
「逸る気持ちは分かるが……急いては白梅を助けられんぞ!!」
「分かってる……!けどあの子は末期の結核なんだいつまで持つか……!」
「尚更落ち着け、……救えるものも救えなくなるぞ。そんな状態では満足に呼吸も使えない。落ち着け」
錆兎の言葉に二の句を継げなくなる。
「俺もいる。…………助けるぞ白兎」
「ああ……」
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竈門少年と猪頭の少年が追い詰めこの無限列車と同化している鬼の勢いが弱まってきているのを感じる。
多少なりとも攻撃の頻度に余裕が出てきている。
それでも攻撃の手を止めれば乗客を喰らい回復されてしまう。
少年達への最大の支援は補給をさせないに尽きる。
信じている彼等を。
「む?」
車窓から先程まで異様な存在感を放っていたもう一つの無限列車の姿が見えないことに気付く。恐らく血霞殿がいるあるはずであろうもう一つの戦場。
「……信じるしかあるまい!」
手出しは出来ずこちらも手一杯。彼女のことも信じるしかない。
竈門少年も黄色い少年も猪頭の少年も鬼の妹も。
そして彼女も。信じる事も【柱】の度量というもの。
両断。両断。両断。両断。
繰り返す両断。四方八方よりの鬼の触手を両断する。
煉獄杏寿郎はただひたすらに斬っていく。
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血の呼吸・玖ノ型奥義【紅蓮ノ顎】
血鬼術と剣術の合わせ技。日輪刀【神血】は仕手の血液を吸い上げる鬼の麟だからこそ多用できる妖刀。日輪刀としては異様。鬼を断つ為の鬼の刀。
血液を貯めこめる領域展開型血鬼術とは実に相性は良い。
玖ノ型は拾ノ型に次いで【血の呼吸】の中で血液使用量が多い術理。
血液で龍を形作る。【大蛇ノ陣】に似て非なるもの。殺傷力は上。
真紅の龍の顎が攻撃を繰り出すが砂上の楼閣。蜃気楼を攻撃しているようで実体を捉えれない。
「……ち」
「麟さんだめ。攻撃を通さないもの……けどこれは私達を捕らえている牢獄だよ」
此方の攻撃を通さない癖に此方の動きを抑えつける実体のない悪夢の牢獄。
靄のかかった空間が四方八方にあり有耶無耶な空間が囲んでいた。
「真菰っちゃん。異変に気付いたらよろしくね」
「了解だよ」
二人は周囲を警戒し刀に手をかける。
《血霞麟。君をまず封じ込めることにしたよ》
空間に響く【夢ノ色彩】の声。不快感を催す声音にも後がないという凄みがあった。
《邪魔な君の連れを殺してからなぶり殺してあげるよ》
「………………やってみろよ。この世で一番惨たらしく殺してあげる」
《おー怖い怖い。相対していたらその殺意だけで躰が竦みそうだ。》
実体を持たないが故にこの殺意を受け流し飄々と笑う。
気配は消えた。
「麟さん、錆兎は強いよ。」
「……普通の鬼なら上弦相手でも心配はしてないよ。けど悪知恵の働く【色彩ノ鬼】だ。実直なあの子だもん。心配だよ」
真菰の言葉に顔をしかめ不安に駆られる。
「もう、いつまでも子供じゃないってば麟さん。信頼してあげて」
「う、うん……」
「まぁけどだからって行かないわけにはいかないけどね。」
「そだね……【領域展開】には【領域展開】……格の差を思い知らせてやる。」
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俺と錆兎は同期だった。最終選別で初めて彼を見た時は天才というものは居るんだなと痛感していた。
選別会場である藤襲山の試験用に放たれていた鬼は弱卒揃いとはいえ軒並み倒していたのを目を見張るものがあった。
そして冨岡義勇という少年も気の弱い所はあったがそれでも彼に劣らない天才だった。
俺は圧倒され卑屈にも彼等に嫉妬した。彼等のような才能があれば救えていたんじゃないかと。
その考えは直ぐさま改めてることになる。冨岡義勇が死んだ。
才能を持つものでも死ぬのだ。当たり前だ。
才能ないものはどうしたらいいのだろうか?
そんなの決まっている。
地べたをはいずりまわっても泥水を啜ってでも生き足掻く。
あの子が生きてて良かったと思える位に生きてて欲しい。
たとえ独善だとしても。
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悪夢の連鎖は偶発性で連続性を持ち不規則だった。
収まったと、おもって気を抜きそうになるとまた発生する。
その不規則な連続が気力と体力を奪う。
鉄の呼吸・肆ノ型【
鉄の震動のような打撃が膨れ上がった鬼を討ち滅ぼす。
水の呼吸・拾ノ型【生生流転】!!
水流が如き流れる連続攻撃がまるで水の竜に見え鬼を斬り捨てていく。
わらわらと沸いてくる悪夢の鬼。そして発現する悪夢の事象。
悪夢の事象は現実離れした現実を発現する。
首のない乗客が群れとなってさらに囲んでくる。
「はぁ……はぁ……」
「気後れするなよ白兎。これはまやかし。夢ノ残滓だ。」
「わかってる……!!けど……俺の家族もいる……!」
「……居ないのだろう。白兎。……」
「……当たり前の躊躇だと思うがなぁ。錆兎。誰でも弱点になる人物いると思うけど」
知っている声音。聞くはずのない声。
「義勇……?」
「久しぶりだね、錆兎」
少年の姿のかつての冨岡義勇が車両の接続部に立っていた。