場を支配するは緊張感。皆、麟さんの言葉を待っている。
俺自身、その場に居合わせていた為知っていた。
やはりこの事に対する言及。
「血女ぁ…どういうこったぁ!!?意味分かんねぇぞ!!?」
不死川は苛立ち怒声を麟さんに浴びせ掛ける。
「実弥静かに。彼女は説明するよ。」
お館様の言葉に直ぐさまぴたりと黙る。
「…………まぁ黙っていたつもりはないのだけれど。彼女を鬼化したのは認めるよ。そうしなきゃ死んでしまうような危うい状態であったから仕方なくね。」
「………そも、彼女が鬼化とは?鬼化出来るのは【鬼舞辻無惨】だけでは?」
不死川が疑問を上げる。そう一部しか知らない。
「私は【鬼】だよ」
その言葉に即座に不死川は抜刀。
彼女は正座したまま一瞥するだけ。
「鬼が人間面して何故ここにいる!!?血女!!?」
斬り掛かる不死川の前に彼女の足元からの血溜まりから【お雪さん】を形作る。
「…………麟様のお話中です。着席して下さい。不死川様。…………でなければ強制的にさせて頂きます」
冷気を纏うお雪。彼女の足元からピキピキッと凍結する。
「やってみろ!!」
「落ち着け。不死川。」
「……話を先に聞いてみてからだ。お館様のお許しを頂けるならば即座にこの鬼を処断出来る。」
俺と悲鳴嶼さんが不死川と雪のような少女の間に入る。俺と彼では逆のような心中だが。
「話を続けるね。さねみちゃん。…………事の発端は私の警戒区域内の山岳でとある家族が鬼に殺されていたの。まぁ残念だけどまぁよくあることだわ。…………襲った鬼というのが問題でね。」
淡々と珍しく感情を乗せず言う。普段無表情だが声は感情は豊かなのだが。
「…………【鬼舞辻無惨】の濃厚な気配が残っていたわ。……」
【鬼舞辻無惨】という名に皆驚愕する。ここ百年近く奴の足取りは掴めていなかった。
「【鬼舞辻】…だと……」
「そ。……まぁ1人生き残りがいたわけ。……死なせる訳にはいかないし。……まさか私に【鬼舞辻】と同じ力が宿るとは。まぁその子を鬼にしたらその力の残滓すら残らなかったけど。嘘じゃないよ。」
「………そこの少女とは違うわけかな?」
「【お雪】達は厳密には鬼じゃないよ。【血怪百鬼夜行】という私の【血鬼術】で死体に仮初めの命を与えてるだけだし。鬼のように誰かを喰らう必要は無いしね。まぁ私の口変わりになってる子は居るけど。基本的に【鬼】を食らうよ?」
「……てめぇ鬼はどこに匿っている?」
「……言うと思う?鬼殺しにくるでしょ?さねみちゃん。」
「あったり前だろうが…貴様の鬼だろうがどうせ【人】を喰っただろうが!!?てめぇもそいつも!!」
「私は生まれてから今まで【人】を喰らった事は無いよ。【鬼】が主食。……それにその子も鬼になってから食べてないよ。まぁ私みたいに【鬼喰らい】になるとは分からないけど」
「………はぁ?」
信用出来ねぇと言わんばかり。
「落ち着け。不死川。……お館様の御前だぞ。いい加減……」
「うるせぇ錆兎。てめぇは此奴の指南受けてたな?グルか?」
「麟さんの事何も知らない癖にがなるなよ。不死川。この場で騒ぎ立てるならお前を斬り捨てるぞ。」
いい加減目障りだと自分の中の血液が煮えたぎりそうな気持ちがあった。
「はいはい。若いなぁお二人さん。刀を収めなさい。お館様の前なんだから礼儀正しくね。お館様のご判断を聞かなきゃ」
胡蝶さんが間に入りのほほんとした感じに収めてくる。
「……構わないよ。カナエありがとう。……まぁ色々混乱はあるだろうから目をつぶるよ。けどこれ以上は分かるね?実弥」
「はい、お見苦しい所を申し訳ありません。」
「それで麟さん。貴女は……鬼殺隊に牙を剥くのかな?」
「ありえないよ。と言っても信用して貰えないよねぇ。……【鬼舞辻無惨】と同じ【鬼化】があったら皆不安でしょ。まぁもうないしするつもり無いのだけれど。まぁなんかあったら頸を切って死んであげるさ。けど……」
麟さんは調子を変わらずそう言う。
「その鬼にした子にお兄ちゃんがいてね。妹を人間に戻すなんて言ってるんだよ?可愛くてねぇ…かなえてあげたいじゃん?」
「……」
「その子、もし妹が人を喰ったら妹を殺して詫びて自死するってさ」
「だから鬼殺したいなら私を殺してから行けよ?若造共」
先程までの優しい声はなく圧倒的な威圧感が【柱】達を襲い掛かる。
【柱】達は麟さんの威圧に固唾を飲む。
(麟さん格好いい…あんな女性になりたいわぁ)
なんかキュンキュンしている甘露寺さんは捨て置こううん。
各々【柱】達は思うところがあるだろうが俺みたく好意的に思う人間は少ないだろう。
お館様は現状は不問としてくださったがその鬼が何かしたら麟さんは責任を取らざる得ないだろう。
不和。【鬼】であることが露見した。歴代【柱】達とも【鬼】であることが露見したことがあるらしいが…詳しくは聞いていない。
鬼嫌いのはっきりしている不死川を筆頭に皆【鬼】を当たり前に好ましく思っていない。
幼少より彼女と接していた俺や真菰とは違う。
…彼女の立場を顧みると心苦しい。
「錆兎。」
帰り道。麟さんが俺に声をかけて来る。やっと軽い調子で。
「麟さん…すいません何も出来なくて」
「良いよ良いよ。錆兎の立場もあるし。だけどまぁ怒っちゃ駄目だよ。お姉さん嬉しいけどさ」
軽く微笑む。無表情からの多少の差異だが俺にはようやく分かってきた。真菰はよく分かるらしいが。
「…………炭治郎と禰豆子のこと気にかけてあげてね。錆兎」
「了解」
「ふふっありがとう。錆兎。」
▽▽▽▽▽▽▽▽
幸せが壊れた時はいつだって血の匂いがする。
血の匂いは慣れた筈のものだ。
血は私の力であり源泉。
【人間】の血はもはや私には甘美なものではなかった。
腸が煮えくりかえるような怒りと泣き叫びたくなる衝動を私に襲い掛かる。
目の前の惨状を前に私は感情の嵐を抑えるのに必死だった。
【領域】に反応があった。
濃厚な腐臭。百年近く振りの奴の気配。
「…………あそこは…」
炭焼きの家族がいたはずだ。私の理想を具現化したかのような家族。
熱心な働き者の長男を筆頭に見たことがある。仲が良く自然と目に入っていた。羨ましかったんかな。
駆ける。駆ける。駆ける。
真冬の冷え込む山を駆ける。鬼の膂力に任せた走力にて駆ける。
「…………!!?」
小さな家。そして惨状。食い荒らしたあと。母親らしき死体は我が子を守らんと抱き締める。
凄惨に撒き散らした血液。凄惨に過ぎる惨状に腸が煮えくりかえる。
「麟様………」
「…鬼舞辻……無惨…!!」
濃厚な気配の残滓。奴もしくは濃厚に力を持つ鬼の仕業。
「こんなものの同類なのか私は……!!」
【鬼喰らい】とはいえ鬼は鬼。自身にも嫌悪感で腸が煮えくりかえる。
強い既視感。頭痛がする。鬼になってから無いような痛み。まるで欠けたものが無理矢理訴えてくる。
『お姉ちゃん、痛いよぅ…………助けてよぅ……』
なんだ、この記憶は。分からない。……糞っ!!
「うぅ……………お兄ちゃん…………」
微かな声。気付かなかった。足元に幼い弟を抱き締める血だらけの少女。
生きてる。
「……死なせてなるものか……………………【鬼舞辻】」
少女を優しく抱き締める。
知らない力の鼓動を感じた。死なせたくない。
「ど……な……た……?……みんな………死んじゃった………おに……ぃちゃん…………に…」
少女のかほそい声が更に小さくなっていく。
「こうするしかないのよ……ごめんね。……」
少女に自身の血を飲ませる。
それがどれだけ罪深いことか知りつつも。独善的と糾弾されても目の前の命が失われてしまうことを怖れて。
いつも私達は間に合わない。拾えなかった命の数を知っているから。
「許さなくて良いから。…………せめて…………生きて」
少女を抱き締める。
幸せを壊すのは血の匂いで私もまた幸せを壊してしまうのだろうか?
禰豆子の鬼化について改変。