榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第247話

 亀宮本家を訪れた、魅鈴さんの為に清浄な祭壇を使わせて貰う為に……

 だが幾つか収穫は有った、式神に犬飼一族との諍いで一時期支配下に置いた子達の魂を引き寄せたのだ。

 赤目と灰髪、元は雑種と甲斐犬だが式神化した事により力強く変身した。

 

 後は竹内さんの件は、魅鈴さんも驚いていたが降ろす事が出来なかった。

 何らかの方法で彼女の魂が捕らえられているのだろう……だが、残念ながら死亡は確定だ。

 

 赤目と灰髪については東海林さんから五十嵐一族の中でも凄腕の式神使いに話を聞ける事になった、恩が重なって怖いが僕等には一番必要だ。

 あの子達の安全を踏まえて力を十全に使い熟すには僕等は未熟なのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後、魅鈴さんの回復を待って亀宮さん達と昼食を共にしてお開きとなった。

 あの亀宮さんが特に絡む事も無く半日で亀宮本家から帰るのを認めた、何やら魅鈴さんとアイコンタクトをしていたみたいだが……

 

 その魅鈴さんは愛車キューブの助手席に乗り寝息を立てている、余程竹内さんの霊を降ろすのに霊力を使ったのだろう。

 因みに後部座席には赤目と灰髪がチョコンと座っていて各々が左右の窓から景色を見ている、ヤバい悪食もそうだが式神に癒されるってどうなんだ?

 

「お前達、フェリーには乗れないからアクアライン経由で帰るが大人しくしていろよ」

 

「「わふ!」」

 

 魅鈴さんが転寝(うたたね)してる為にか、小声で吠える優しさと気遣いがこの子達には有る。

 一旦式神札に戻すと次に同じ様に具現化出来るか分からないので、この子達はこのままだ。

 犬嫌いの結衣ちゃんには申し訳ないが駄目なら三浦の隠れ家にでも連れて行く予定、横須賀中央の事務所はペット不可だから。

 

 千葉県内の道路は空いている、街と街を結ぶ道路周辺は自然豊かな環境だ、ドライブには最適な緑のトンネルを走り抜けていく。

 

「ん……あふぅ、あら?私寝てました?」

 

「ええ、疲れてたんですね、ぐっすりでしたよ」

 

 魅鈴さんが起きたが既に千葉県を抜けアクアラインを通過して首都高速道路を走っている時だった。

 

「すみません、運転を任せ切りで寝てしまって……」

 

 手櫛で髪を整えたり乱れてない衣服を引っ張ったりと忙しい。

 

「珈琲買っておきましたよ、エメマンで良かったかな?」

 

 僕も眠気覚ましに同じエメマンだ、余り効果は無いが眠そうになると赤目と灰髪が前脚で肩を押してくれるので助かる。

 

「はい、有り難う御座います。もう都内を抜けそうですね」

 

 標識を見たのだろう、首都高速道路を乗り継ぎ横浜横須賀道路に入った。

 

「もう横浜市内ですよ、佐原まで一時間位かな?途中で休憩を入れましょう」

 

 缶コーヒーは既に空だ、やはりコーラが飲みたい。

 

「あの、今回の件ですが……竹内さんの魂ですが……突拍子も無い話なんですが、所謂霊界には居るんです、居ると感じるのですが、引き寄せる事が出来なくて……」

 

「霊界から呼び出せない?すると何かに捕われていない?」

 

 魂が霊界に居るなら誰かに捕われてはいない、最終的な行き先に居る者に干渉させない力か……

 

「そうです、魂は見付けて最初の呼び掛けには反応して近寄って来ました。

ですが、いきなり止められた様な、世界が違う様な……ごめんなさい、分かり辛いですわよね?」

 

 どういう事だ?

 

 魂は霊界で自由にしているのに呼び寄せ様とすると妨害される、霊界に干渉出来る程の存在が居るのか?

 

「兎に角気を付けます、敵には霊界にまで干渉する力が有る奴が居る。

それが分かっただけでも有難いですよって、横須賀パーキングエリアですね。休憩しましょうか?」

 

 結構話し込んでしまったみたいだ、カーナビからも合成音声で『運転時間が二時間経過したから休みましょう』と警告されたし……

 

「可愛らしいナビの声ですね?」とか言われてしまった、最近流行のボーカロイドの声だったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 運転して固くなった体を解す為に車から降りてラジオ体操擬きをする、赤目と灰髪が両側に座って大人しくしている。一見普通の犬だが、触ると違いが分かる。

 この子達は軽くて毛並みはサラサラ、知性の有る目をしているし……牙と爪が鋭い。雰囲気は猟犬か闘犬だろう。

 子供連れの家族が興味深く見て行ったが触れる程の勇気は無かったみたいだ、首輪してないからヤバいか?

 

 因みに魅鈴さんはトイレと買い物に行ったので売店で待って合流し、何かお土産でも買うつもりだ。

 

「赤目、灰髪、車の中で待っててくれ」

 

「「わふ!」」

 

 あろう事か自分でドアを開けて後部座席に乗り込んでしまった、肉球の有る前脚で器用にだ……

 しかもパワーウィンドウを操作し少しガラスを下げたんだけど、知能が高くなってるよな?

 

「お前達、頼むからやり過ぎるな。程々で頼む」

 

「「わふ?」」

 

 首をかしげて見返して来るが危なかった、動画を撮影されてたら天才犬として有名になる所だった。

 

 トイレから出て来た魅鈴さんと合流し一緒に売店を物色する、地元特産品が並ぶが気になる物は少ない。

 棚に平積みされている海軍カレーシリーズが横須賀土産のイチオシ?

 

「何か気になる物は有りましたか?」

 

 キョロキョロと物珍しそうに商品を見比べている彼女に話し掛ける、幾つかの商品は手に取って確かめているし……

 

「三崎名物サザエ飯、炊き込みご飯のレトルトが気になります。後は田浦梅園の梅ワインかしら?」

 

「うん、梅ワインは甘口で飲みやすかったですよ」

 

 この梅ワインは葡萄と違い酸味は強いが渋味は少なく甘いのが特徴だ、結衣ちゃんもアルコール分を飛ばしてゼリーやジュレを作ってくれたな。

 

「ビール党の榎本さんが勧めるなら美味しいのでしょうね、ではこの二つをお土産に買いま……あの?」

 

 彼女の手から商品を取り上げる。

 

「ここは僕が払います、お礼を兼ねてです」

 

 今回の依頼報酬は三十万円、彼女は大体二十万円前後で一般から請け負っているが能力を考えたら三十万円は払わないと駄目だ。

 多分だが彼女は日本でも五指に入る霊媒師、胡蝶のドーピングで何とかしている僕より余程貴重な存在だろう。

 

「もう、頼りきりは嫌なんですよ」

 

 文句を言いつつ僕の後ろを歩いている彼女は、異性で同世代の唯一の友人だ……あれ?僕の友好関係って狭くない?

 

 因みに赤目と灰髪を結衣ちゃんは受け入れてくれた、リアル犬と違い式神犬には嫌悪感を抱かないみたいだ。

 赤目達も結衣ちゃんには懐いたと言うか僕の親しい人間と認識し、桜岡さん共々護衛対象と思っている節が有る。

 だが女性陣と一緒に風呂に入るのはやり過ぎだと思うな、悪食が現れて覗きますか?的に見上げて来た……ウチの式神達は出来過ぎていて困る。

 その誘惑を断るのに十秒以上掛かってしまったぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日の夜、事態は急変、メリッサ様から緊急の連絡が入ったのだ。

 

 もう寝ようと思って布団に寝転んだ途端に枕元に置いてあった携帯電話がマナーモードで震えた、ディスプレイの時刻は23時19分で相手はメリッサ様。

 

『榎本さん、夜分に済みませんが急いでお知らせしたい事が……』

 

 通話ボタンを押すと名乗らずに話し出したけど……

 

「落ち着いて、何ですか?」

 

 物凄い早口で喋っているが、大分問題なんだな。もしかして柳の婆さん失敗したのか?

 

『あの高梨さんが殺されたんです、勿論私達じゃないですよ!教会の方に連絡が有り、美羽音さんに伝えるべきか悩んでしまって……』

 

 内容が物騒だ、布団から起き上がり机に座る、メモ用紙とペンを用意する。

 

「奴が殺された?つまり他殺って事ですよね。勿論僕も何もしてません、ですが美羽音さんを匿っているのも不味い状況だ、他殺の疑い有りで親族が行方を眩ましていては……」

 

 美羽音さんとマリオ君は隠れている訳にはいかない、少なくとも実家には連絡を入れるか顔を見せなければ両親が心配する。勿論、警察も調べ始めるだろう。

 

『そうなんです、私もこれ以上匿うのは無理だと思います。私達の伝手で調べた所、後ろから背中を何ヶ所か刺されたらしいのです』

 

「杜撰だな、竹内さんと同一犯とは思えない」

 

『えっ?竹内さんは失踪じゃ?』

 

 そうだった、魅鈴さんの件は伝えてなかったんだ。

 

「今日、亀宮本家で霊媒師である魅鈴さんが、竹内さんの魂を降ろそうとした。結果は霊界で竹内さんの魂と接触は出来たが、降ろそうとしたら妨害が入ったんだ。

敵は竹内さんの死体を隠し通しているし霊界にまで干渉出来るのかもしれない、そんな連中が刺殺?しかも死体が発見された。杜撰なんてモンじゃないだろ?」

 

『そうなんですか、竹内さんはもう……でも何で榎本さんは、そこまで調べてくれるのですか?この件は私達セントクレア教会の』

 

「関わったのに知らんぷりは出来ない、善意じゃない柵(しがらみ)や面子なんかも絡み合ってるからね。僕は最初に感じた通り洋館が怪しいと思っているが、ソッチはピェール氏だろ?」

 

 若宮のご隠居からも依頼を請けているし、彼女達を見捨てるつもりも無い。だが二回も警察沙汰になってはピェール氏との接触は難しい……

 

「まさか、敵は美羽音さんを炙り出す為に高梨修を分かる様に殺した?」

 

『そんな、そこまでするものですか?』

 

「だが上手く隠れていた美羽音さんは表舞台に出されてしまった。

ピェール氏が美羽音さんに接触するのは確実だろう、色々と聞かれるから口裏を合わせてから解放するんだぞ。特に美羽音さんのご両親とは念入りにだよ」

 

『ええ、お婆様と相談します。榎本さんも気を付けて下さい、また連絡しますわ』

 

 そう言って電話が切れた、特に相談とかじゃなく連絡だけだった。だけど高梨修を殺したのは誰なんだ?

 手口は在り来たり、怨恨の線とも取れるし通り魔とも考えられる、警察は両方調べるがセントクレア教会と僕は容疑者リストの上位だろうな。

 

 携帯電話を閉じて布団に横になる、目を閉じて考えを纏めるが……

 

『胡蝶さん、受け身で居たら状況は悪化するばかりだよ』

 

『ふむ、確かに現状は良くは無いな。関係者が立て続けに死んでいくが我らは相手を特定出来ていない』

 

 ピェール氏と彼に取り憑いた悪霊が本命と思っているが知恵が回るし力も強過ぎる気がする。

 何故、美羽音さんとマリオ君を狙うのだろうか?彼女を見付ける為に危険を承知で高梨修を刺し殺した?

 

『あの男は他にも恨みを買っていて怨恨で殺されたとも考えられるな。だが霊媒女を使っても結果は同じだろう』

 

『そうだね、僕等が睨んだ本命なら呼び出せず怨恨なら呼び出せる。やる意味は薄いか……』

 

 他の可能性を潰し残るは洋館の扉を調べるだけなのに、僕等が洋館に忍び込み難くされている。これが偶然だと言うのか?

 

『賢しい真似をしてくれる相手だな、もはや直接対決で良いだろう。取り憑いている奴を吸い込めば解決だな、その後で洋館を調べて原因を追及すれば良い』

 

 直接対決か……柳の婆さんの結果次第と思ったが、接触し辛いだろう。容疑者候補が被害者と人気の無い場所で会うのは難しい。

 

『セントクレア教会の動きは完全に潰されたな、だけど僕等は違う。

前回は扉に驚いて引き返してしまったけど、奴が一人で洋館に居る時に胡蝶を差し向ける事は出来る。直接対決は可能だし不意討ちも可能だ』

 

『そうだな、色情霊などゲテモノ過ぎて本来ならお断りだが仕方有るまい。早々にヤルか?』

 

 早い方が良い、後手後手だと又何かされかねない。ピェール氏自体には危害を加えない無いが記憶を共有してる場合、胡蝶の事がバレない細工は必要だな。

 

『ああ、赤目達の事が落ち着く一週間後の晩に決行しよう』

 

 話が決まったら急に睡魔が……

 

「お前達も一緒に寝たいのか?」

 

「「わふ!」」

 

 タイミング良く赤目達が部屋に入って来たので布団を持ち上げて招き入れた……温いな。




今日で毎日連載は終了、次回は8月25日(月)になります。

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