榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第285話

 八郎が仕掛けた罠、それは遺品を利用した反魂の外法。呼び出されたのは第二次世界大戦時に連合国軍に兵士として所属していた者達だ。

 彼らにとっては日本人は敵国の国民、問答無用で撃ち殺しに来る。既に猟犬の井上と本庄の二人が殺された、残りはサブリーダーの清須と下っ端のケリィだけだ。

 ケリィが敵の銃弾に晒されないのはハーフだからか?見た目は白人に近いから敵国の国民認定はされないのか、何となく不自然だった銃撃の謎が分かる気がする。

 

 胡蝶が八郎の仕掛けた反魂の外法の解読をしている、解除方法は核となる遺品の浄化だが探し出すのは厳しい。此処に隠された物を見付けたのは偶然だ。

 イタリア製の軍用ライフルのカルカノM1938と、アメリカ製の軍用ライフルM1カービン。それに古い多分だがアメリカ軍のカーキ色の軍服を胡蝶が吸い込み浄化した。

 残りは多分だが全部で五~六体だと思う、つまり後二箇所に隠された遺品を見付けて祓わねば奴等は倒せない。猿島は周囲約1.6km、東京湾唯一の無人島で小さいが探すとなると広い。

 

「取り敢えず此処に居ても無駄だ、隣の部屋に移ろう。外した扉は即席の盾として使おう」

 

「私達が交代で見張りをします。榎本さんは一子様を頼みます、最悪は僕等を見捨てて逃げて下さい」

 

「勝利条件は一子様の生存、もう猿島に八郎は居ないでしょう。僕等は罠に嵌められた。悔しいが厳しい状況です」

 

 猟犬の生き残り二人が悲壮な決意を語ったが、夜になれば彼等の力が増すだけだ。長期戦は不利、篭城して増援を待つにしても生き残れるか分からない。

 ライフル銃で武装した怨霊なんて聞いた事が無い、昼間も活動出来るし今の所弱点は核となる遺品の浄化のみ……厄介な相手だ。現代日本では霊能者は銃撃戦などしない、しかも物理攻撃が利かない怨霊。

 八郎め、猿島に隔離したのは街中で銃の発砲音が聞こえたえら警察沙汰の大騒ぎになるから陸地から2km以上も離れた無人島に誘い込んで情報封鎖したのか。

 

 だが八郎が既に猿島に居ない事は疑問だな、奴だって呪いの影響を受けている筈だ。このまま一子様が死んでしまっては力が吸収出来ない、それは当主争奪戦に負けると同義だ。

 つまり今此処で一子様を倒しても力を吸収しなければ、九子に食われる事になるんだぞ。駄目だな、思考が定まらないでブレブレだ。今は生き残る事を最優先にして、八郎が現れたら倒す方向で行動しよう。

 ん?一子様が左腕に抱き付いてグイグイと部屋の中に引っ張るが、僕との力の差で微動だにしない事に怒ったみたいで軽く腕を叩かれた。

 

「早く入りましょう。敵だって私達を見付ける為に動き回っている筈よ、呪術的な探査方法が無ければ目視で探すしかないわ」

 

 扉が無事な部屋に全員で入る、問題は片開きなので扉を開けても吊り元の反対側しか見れない事だ。顔を出せば見れるが相手に見付かる、それでは隠れている意味が無い。幸いだが逃げて来た方は見れるので追跡者が居れば分かる。

 取り敢えず隠れる事が出来た為か全員が床に座り込んだ、コンクリート製の冷たい床が気持ち良い。持ち出したミネラルウォーターを飲む、緊張していたのか500mlのペットボトルを一気飲みしてしまった。

 気が付けば清須が上着を脱いで、一子様が床に直座りしない様に気を配っていた。流石は猟犬だな、気遣いが違う。イケメンに世話をされる美女って、本当に女王様みたいだな。

 

 考えるには糖分が足りない、売店から無断で持ち出したチョコレート菓子を取り出して食べる。久し振りにキノコの山を食べたがタケノコの里と好みの意見が分かれる所だな、僕は両方好きだ。

 手持ちの武器を確認する、特殊警棒に背中に仕込んだ大振りのナイフ。売店から持ち出した包丁は怨霊相手には効果が無い、防犯用カラーボール発射装置も今は使えないだろう。

 バーベキュー用の着火剤は……怨霊相手に浄化の炎は有効だ、燃えやすいガラクタも有ったが量が少ないから焚き火程度しか出来ない。狭い場所での放火は自分も巻き込む事になるから却下だな。

 

『正明よ、奴が使った反魂の外法だが仕組みは大体分かった。山岳信仰は修験者が用いた反魂丹(はんごんたん)の悪用だな』

 

『え?反魂丹って有名な富山の薬売りが広めた食中りや腹痛に利く胃腸薬だよね?黄蓮(おうれん)とか甘草(かんぞう)とか熊胆(ゆうたん)とか、それっぽい霊薬を混ぜた的な?』

 

 反魂の術は平安時代後期の西行が、人恋しさに高野山で人骨から人間を造った話は有名だ。遺品と人骨、似ているがコッチは肉体の無い霊体。

 それにアレは創作なのが濃厚だ、同じ西行が書いた撰集抄(せんじゅうしょう)も近年に西行が書いたという体にして別人によって著されている事が分かったんだ。要は二次創作みたいなものか?

 話が逸れたが名古屋での不老不死の件とは違う、あれは多分だが神話級の相手だった。今回は外法、それも修験者が用いた反魂丹の悪用?

 

『表向きに広めるモノと裏向きに広めないモノが有る、奴は裏向きなモノに伝手が有ったんだな。だが西洋の怨霊を引き込むとは、呆れて良いのか応用が有ると褒めるべきか……』

 

『少なくとも敵対してるんだし現状追い込まれているので褒めたくはない。富山県には霊山である立山連峰も有るし、真言密教で有名な大岩山日石寺も有る。可能性は有ったのか?でも八郎との繋がりが分からない』

 

『今から他の罠を探しても無駄だな、勝利条件は一子の生死。奴が死ねば正明の負け、生き残れば正明の勝ちだ。それには此方も同様の兵士を呼び出せば良い』

 

『同様の兵士?旧日本軍の兵士達を呼び出すのか?』

 

 胡蝶の提案を考えてみる。第二次大戦中に実際に戦争を経験した怨霊に立ち向かえるのは、同じ様に戦争に従軍した旧日本軍兵士なのは分かる。

 敵側が日本人を敵国と捕らえて民間人でも平気で銃撃する様な連中だ、今の戦力では勝つのは厳しい。僕だけなら生き残れるかも知れないが、一子様が死んだらゲームオーバーだな。

 加茂宮一族は九子が当主となり、全ての霊能力者の敵となる。それは避けなければならない未来予想図。だから胡蝶の提案に乗るしかない。

 

『でもどうする?確か途中に資料館が有ったな。あそこなら遺品と言うか、この島で見付かった当時の水筒や薬莢、シャベルやヘルメットも展示されているだろう』

 

『当時の物だからな。持ち主は戦死していなくても寿命で亡くなっているだろう。死者に鞭打つみたいだが、現状では手段を選んではいられぬ』

 

 方針は決めた。第二次大戦中の敵国の怨霊には、旧日本軍の英霊に対処して貰うしかない。安寧な死後の世界から現世に呼び出し過去の大戦の相手と戦わせる。

 自分で決めた割には酷い。だが選べる手段は少なく、効果を考えれば一番良い方法だと思ってしまう。終わったら鎮魂の読経を行いますので協力をお願いするしかないか……

 一子様と目を合わせる、方針は決めたが彼女を納得させないと駄目だ。折角の安全圏を確保したのに僕が資料館に移動しなければならない。此処に残すか、一緒に移動するか?

 

 一子様と生き残りの連中を見れば長距離を走った為に息が乱れているので整えている、戦意は失ってないし体力的にも未だ大丈夫だろう。

 怪しい八郎の動きの意味を考えるのは後回しにして今を生き抜く事をするしかない。幸いだが対抗手段は胡蝶が見付けてくれた。八郎と同じ事をするのが少し不本意だが贅沢を言える状況じゃない。

 行動を移す前に、一子様に説明は必要だ。何でも秘密主義で独断専行は集団行動の中では不和を招きかねない。それは避けるべき問題だ、一子様至上主義の猟犬達も納得しないだろう。

 

「一子様、時間が無いから手短に説明する。八郎が仕掛けた反魂の外法だけど理解出来る、敵は核となる遺品を使い第二次大戦中の連合国兵士を呼び出した。対抗するには此方も旧日本軍の兵士を呼び出すしかない。

幸いと言って良いかは疑問だが途中に有った資料館には当時の遺品が展示されている」

 

「榎本さん、それは死者への冒涜じゃないかしら?」

 

 真面目な顔と口調で返された。彼女は既に安らかな眠りについている英霊達を再び現世に呼び寄せて戦わせる事に嫌悪感が有るのか?自分が生きるか死ぬかの時に偽善じゃなく意見を言える。

 流石は加茂宮の後継者で一の名前を継げるだけの事は有る、霊能力者は心霊関連について色々な考え方が有る。使役霊を良しとしないか、だが他に効果的な手段が無いのも実情。このままだとジリ貧だぞ。

 此処は僕が泥を被って話を進めるしかないな、彼女は拒絶したが僕が強行した。この流れなら一子様の評価が落ちる事は無いが、僕との協力関係は微妙になるかな?でも綺麗事は嫌いじゃない。特に自身の命を賭けている時は本音だろう。

 

「そう思って貰って構わない。だが……」

 

「榎本さん、その方法を実行して下さい。責任は護衛として存在している自分達の不甲斐無さ、足を引っ張る事しか出来無い自分達の所為です。お二方には不本意でしょうが、お願い致します」

 

「ケリィ、清須。貴方達、私に意見するの?」

 

 む?無表情で言葉にも抑揚が無かったが、感じからして相当怒っている。自分の意見に反発した事か?それとも配下に泥を被せる事を嫌ったか?

 不満そうに腕を組んでいるが、感じからして後者だな。不甲斐無い自分に配下が気を遣う事に対して反発した、そんな感じだ。人身掌握術に長けた彼女の事だから、配下に泥は被せない。

 責任を下に押し付ける連中は人望を集められない。瞳術だけでない、猟犬連中は自分の命より、一子様を重要視している。責任転嫁などする者に心酔などしないよな。

 

「一子様、考えている暇は無さそうだ。悪いが君を勝たせる為に、自分が生き残る為に強行させて貰うよ。先ずは核となる物を手に入れる為に資料館に向かう」

 

「榎本さんまで……分かりました。でもこの方法を実行させる判断を下したのは私よ。貴方達じゃない、全て私が決めて私が実行させるの。そこは勘違いしないでね」

 

「一子様……」

 

 ケリィ達が感動で目を潤ませている、確かに上司としては良い部類だろう。中々自分の責任だと言い切れる者は居ないからな。まぁ彼女の一番の強みは瞳術よりも配下との絆や結束かも知れない。

 あのファンクラブと言う名目の狂信者達の集団は怖すぎる。洗脳に近いが、能力使ってなくて普通に美貌で虜にしているし。一般人でも数が多ければ脅威となる、特に情報収集は数の利点は大きい。

 結局の所、一子様に全ての責任を負わせる形になってしまった。ならば確実に勝たねばならない。例え外道と言われても、今は勝ち抜く事を考えよう。

 

「方針は纏まった。では行動に移す。先ずは核となる品物の確保の為に、資料館に向かう。あそこの展示品が使えるけれど、侵入するには奴等に気付かれずに行動するしかない」

 

「発電機棟の先の建物ね。少し距離があるけれど、全員で行くわよ」

 

 確かに戦力を分散させる意味は無い。ケリィを一子様に貼り付けておけば一応狙撃は安全だが一方向しか効果は無い。正面は僕で後ろはケリィ、一子様を挟めば安全率は上がる。

 清須を三番目にすれば更に安全率が上がる。だが左右からの攻撃には無防備、そこは僕の(胡蝶)の索敵能力に頼るしかないか。遠距離からの狙撃に対応する、かなり厳しい。

 最悪は僕が肉の壁として的になり守るしかない。ケリィや清須では一発で致命傷だが、僕ならばダメージは負うが即死は防げる。生きてさえいれば、胡蝶が傷を治してくれる。

 

 

「良し。包囲網が敷かれる前に移動しよう。先頭は僕、次が一子様。次が清須で最後尾はケリィだ。左右の警戒をして、敵が居たら教えてくれ」

 

「急ぎましょう。幸い敵の怨霊は移動は遅いし索敵能力も低そうだから、此処を凌げば十分勝機は有るわよ」

 

「「はい、一子様!」」

 

 一子様の建設的な意見に、清須とケリィのヤル気が増したみたいだな。移動力も索敵能力も未知数なのだが、水を差すのも士気が下がるし余計なお世話だ。

 強力な怨霊の移動能力は正直な所、分からない事が多い。瞬間移動紛いの事も出来るし、空中を飛んで移動する事も出来る。常識では測れない摩訶不思議な連中だ。

 幸いと言うか、今回の怨霊は飛び抜けた異常な能力は無いが、実際に戦争を体験した兵士達だ。平和ボケした僕等が想定するより強いだろう、それが徴兵された一般人でもだ。

 

「外した扉は盾として持って行く、強度的には銃弾は防げないが視界を遮る事位は出来る。じゃ行くぞ!」

 

 直接撃たれればダメージはキツイが鉄製の扉を貫通した後なら威力は下がる筈だ。それに視界を塞げばピンポイントで頭を狙うとかも無理だ。

 狙撃は頭部か心臓を狙って一発で戦闘不能にするか即死させるか、凄腕の狙撃手はそうするらしい。まぁゴルゴな13クラスが居るとも思えないが念の為にだ。

 四人一列で小走りに目的地に向かう、今の所は胡蝶の索敵に引っ掛からない。奴等の移動は徒歩程度とみても良いかも知れないな。ならば勝機は有る。

 

 奴等を倒し、何処かで監視している八郎を見つけ出して倒す。逃げてばかりの奴が直接的な罠を仕掛けて来たならば……

 近くに潜んでいて僕等を始末した後で、一子様を食おうとするだろう。この兄弟姉妹を争わせる蟲毒の呪いに掛かっていれば、絶対に食いたくて我慢出来ない筈だ。

 九子との最終決戦の為にも、自分の能力を高めたい。ならば一子様を食うしかない。最後まで逃げていた八郎の思惑は分からないが、怨霊を嗾けて倒して終わりは無いだろう。

 

 さて、奴は何処に居るのか?何処から監視しているのか?今は感じないが、そろそろ動くだろう。九子が乱入してくる前に何としても倒したいんだ。

 




次話は来週7日から毎週月曜日連載となります。
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