榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第60話から第62話

第60話

 

 僕の素行調査をしていた斎藤さんに口止めをする為に、桜岡さんに内緒で打合せを設けた。しかし口止めする前に風俗談義で盛り上がってしまい、何故か桜岡さんと結衣ちゃんが目の前に居た。

 話を聞かれていたら彼女達に白い目で見られてしまう。きっと結衣ちゃんも、今後は洗濯物も僕と別々かも知れないしパンツは洗ってくれないかも……

 ドキドキしながら彼女達を見るが、僕に対しての態度は冷たく無い。でも高田さんや斎藤さんが居るからかも……

 

「ああ、お久し振りですね。霞お嬢様。

実は高田所長と先に打合せをしていたのですが、詳細を詰める為に榎本さんの事務所に押し掛けたんですよ。税理士の方は先程帰られましたが、霞お嬢様も用が有ったんですか?」

 

 なっナイスフォローです、斎藤さん!これで彼らが居るのは不自然じゃない。税理士と会うって嘘も大丈夫かも……

 

「いえ、私は税理士さんに用は無いのですが……榎本さんに差し入れと思いケーキを買って来ましたので、今お茶を入れますね。結衣ちゃんも手伝って下さいな」

 

 特に変な顔もせず、慣れた感じで結衣ちゃんとキッチンに向かった。大丈夫だったのかな?

 

「榎本さん、大丈夫です。彼女達は殆ど話を聞いてませんよ。最後の質の高いサービスを求めるべきだろ?

資本主義の犬め!と言い合ってる時に玄関から入って来ましたから」

 

 良く分からないが、流石は斎藤さんだ。ちゃんと状況を見ていたのか。なら安心だ。疑心暗鬼だと態度に不自然さが表れて、疑われる可能性が高いからね。

 取り敢えずは一安心だろう……

 

「お話は終わりましたか?どうぞ、珈琲です……」

 

 暫くして結衣ちゃんが、珈琲カップを配ってくれる。僕と違い缶コーヒーでなく、ちゃんとドリップした物だ。

 初めてみる二人に対して、少し緊張してるみたいだな。笑顔だが表情は固い。でも一時期よりは大分マシになってきた。

 

「はい、ケーキです。お二方は甘い物は大丈夫でしょうか?」

 

 高田所長は何時も通りに遠慮し、斎藤所長は甘い物は平気らしい。ケーキは甘さを抑えたガトーショコラだ。

 あの箱の大きさだと10個以上は有るから、彼女達は事務所で食べて行くつもりなんだろうな……両所長は桜岡さんを交えて今後の打合せをしてから帰って行った。

 桜岡さんと結衣ちゃんの突然の来訪で驚いたが、仕事の方の打合せは順調に終わった。生きている人間の調査については、彼らの方が頼りになるし確実だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 取り敢えず名刺交換をしたので、彼らが帰った後にパソコンで伝えられなかった事を打ち込む。特に斎藤所長については、桜岡さんや結衣ちゃんに風俗の件は一切合切秘密にして欲しいと頼んだ。

 返信メールには確約の旨が書いて有った。まぁあの気の利かせ方を見れば、うっかり話すなんて事は無いだろう。

 あの二人、意気投合して此から横浜の伊勢佐木町まで繰り出すみたいだ。所謂、親不孝通りと言う風俗店が連なる場所だが……それは別の話として、放っておく。

 カタカタと自分のデスクでメールを打っていたが、送信終了で一息。ソファーで寛ぐ彼女達に声を掛ける。

 

「えっと、家に居る筈の桜岡さん達が事務所に来た訳は何かな?問題でも有ったのかな?」

 

 訳も無く留守番の筈の彼女達が事務所に来るのは……何か有ったのかな?何故か二人並んでソファーでケーキをパクついているんだろう。

 まるで本当の姉妹みたいだ……

 結衣ちゃんはショートケーキだけだが、桜岡さんの前にはイチゴのムース・メロンジュレの杏仁豆腐・焼き林檎タルト・季節のフルーツロール他、山積みだけどね。

 勿論、同じ物が大皿に乗せられ僕の分として残されてはいるが……

 

「明日から調査で現地入りすると、暫くは結衣ちゃんが独りきりじゃないですか。だから今日は三人で夕飯を外で食べようかなって。駄目でしょうか?」

 

 鼻の頭にクリームを付けた桜岡さんが応える。そうだった。明日から八王子のホテルに滞在して、現地を再度調べる予定だ。

 取り敢えず二泊の予定だが、場合によっては延長も有り得るからな。結衣ちゃんに寂しい思いをさせてしまう……か。

 

「そうだね。結衣ちゃんは何が食べたい?和・洋・中何でも良いよ」

 

 彼女はパスタやパンが大好きだから横須賀中心界隈だと……駅前のモアーズの中の鎌倉パスタか。又はステーキハウスだがパスタも美味しい一頭屋。パンならサンマルクかな。

 

「えっと、正明さん。私……和食が食べたいです」

 

 和食?確かに日本茶やお米は大好きだけど、外食で和食を強請るのは珍しいな。桜岡さんの鼻の頭のクリームをティッシュで拭きながら結衣ちゃんが提案してきた。

 うっかりの姉にしっかりの妹みたいだな……

 

「和食か……魚蘭亭か荒井辺りが、寿司・天麩羅とかがお薦めだな。今時期ならアンコウ鍋もやってるよ」

 

 机にしまってある横須賀周辺食べ歩きガイドを捲りながら考える。普段は余りおねだりをしない彼女の為だから、気張らないとね。

 ペラペラと捲る雑誌に気が付いたのか、桜岡さんが覗きに来た。雑誌を横にズラして彼女にも見える様にする。覗き込む彼女の顔は、相変わらず近い。

 

「あら、結構有るんですね。因みに榎本さんのお薦めはどの店かしら?」

 

 見開きの特集記事を指差す。横須賀中央駅界隈の特集ページだ。

 

「横須賀中央駅の近くなら魚蘭亭かな。生け簀から新鮮な魚介類を用意出来るし、和牛しゃぶしゃぶとか鍋も有るよ。

今なら筍のアンコウ鍋かイカ刺しとかお薦めかな……」

 

 此処のアンコウ鍋は、最初にアンキモを鍋底で炒めてからアンコウの身を絡める。そして特製の二種類の味噌で煮込むんだ。

 だからアンコウ独特の臭みが消えて、キモと身が絡み合い上手いんだ。〆はうどん。流石に濃い目の味噌出汁だから雑炊は風味がキツ過ぎるから……

 お店には半個室も有るし気楽に飲み食いも出来る。少しお値段は高いが美女と美少女と食事出来るなら安いもんだ。

 

「結衣ちゃん、此処にしましょう」

 

 どうやら決定みたいだな。お店の電話番号を検索、電話して予約をする。平日だけあり当日でも掘り炬燵の個室が取れた。

 壁掛けの時計を見れば五時を過ぎている。急いで僕の分のケーキを食べなければ!デスクの上を片付けてケーキを運んだ。我が家のエンゲル係数は鰻登りだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三畳程の狭い部屋の中央に掘り炬燵。カセットコンロの上には土鍋。意外と鍋奉行な三人だが、今回は結衣ちゃんが手慣れた様子でアンキモを炒める。

 アンキモがほぐれたら身を入れて絡める様に炒めていく。香ばしい匂いが鼻腔を擽る……

 ある程度火が通ったら出汁を入れてひと煮立ち。灰汁を取り味噌を溶いていく……

 最後に火の通り難い根野菜から鍋に入れて、ある程度煮えてから葉野菜を入れて蓋を閉じる。完璧な鍋奉行振りだ……

 

「結衣ちゃんは本当に料理が上手だわ。私も習っていますが、まだまだですわね」

 

 桜岡さんの手料理……練習したての頃は酷かった。定番の焦げた卵焼き・半生オムレツ・丸焦げの魚・お粥になったご飯。

 それが今では一寸料理を習った一人暮らしの男性程度まで腕を上げた。見た目イマイチだが、味は十分だ。鍋が煮える迄は一品料理を頼んだ。

 河豚の唐揚げ・イカ刺し・薩摩揚げ・走水産のマダコの刺身・松輪産の〆サバ等、地元で取れた物が多い。僕と桜岡さんは麦酒を結衣ちゃんにはオレンジジュースを。

 未成年にお酒は禁物だ。勿論、結衣ちゃんは普段もお酒は飲まない。だけど料理酒として普通の日本酒や焼酎を使う。

 曰わく料理酒とは塩分が高めだそうだ。オッサンな僕の健康は結衣ちゃんの日々の管理に依存していた……暫くは他愛の無い話で盛り上がる。

 最近知ったのだが、桜岡さんの所でバイトしている娘が結衣ちゃんの学校の先輩らしい。制服が同じだそうだ。

 もっともエスカレーター式の女子校の中学と高校の違いはあるけどね。結衣ちゃんは高校でも有名人らしい。

 何でも筋肉護衛団が居るので一目置かれているそうだ……僕が学園祭や体育祭には必ず皆を誘って参加するからか?

 

 鍋蓋から蒸気が吹き出したから煮えたようだ。

 

 取り分けは桜岡さんだ。彩り良く取り分けてくれる。彼女は熱い物も平気だが、結衣ちゃんは猫舌。いや狐憑きだから狐舌?

 ふぅふぅ息を吹きかけて具材を冷ます姿が可愛らしい……嗚呼、彼女に「はい、正明さんアーン」をして欲しいんだが。

 僕のささやかな野望は実らず夕食は楽しく過ぎていった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 外食を終えてタクシーにて帰宅した。何と桜岡さんと結衣ちゃんは一緒にお風呂に入っている。

 何時の間に、それ程仲良くなったのか?

 結衣ちゃんは自傷の跡を気にしてるので、温泉に行っても貸切風呂しか入らないんだが……本当の姉妹の様に仲良くなったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 体の大きい正明さんが足を延ばしても浴槽に浸かれる様にと、普通よりも大きめな造りにしたので女性二人でも余裕の広さです。浴槽に私が浸かり霞さんが洗い場で髪を梳いている。

 

「霞さんの髪の毛って艶やかで羨ましいです。胸も大きいし……私なんてペッタンコです」

 

 シャンプーを終えてリンスを馴染ませている霞さんを見て思う。屈んでいると胸が重力によって凄い事になっている。

 手首と太ももの自傷の跡が気になり人に素肌を晒すのが嫌だったけど、霞さんは平気。最初は遠慮が有ったけど、一緒に家事をしたりテレビを観たりやゲームをしたり……

 たまに一緒に寝る様になってからは、急速に気持ちが繋がった気がする。まだ内緒だけど霞さんは正明さんと結婚するそうです。

 それを機に私を桜岡家の養女にしてくれるそうです。正明さんは里親制度によりお世話になっているので、養子縁組みとは違う。

 何時かは別れる事になる……でも桜岡家の養女となり、正明さんと霞さんが結婚したら一緒に住むって。

 びっくりサプライズだから正明さんには絶対内緒なんです。でも正明さんが霞さんと結婚するなんて……わっ私もエッチな目で見ていたのに、やっぱり霞さんみたいなオッパイの大きい人が好きなんだ。

 私にもチャンスは有ると思っていたのにな。ブルブル揺れてるし、霞さんってサイズ幾つなんだろう?思わず自分の薄い胸板に手を当てる。

 ムニムニと揉めるから少しは有るわよね?

 

「結衣ちゃん?いきなり自分の胸を揉みだしたりして……どうしたの?」

 

「いえ、男の人って胸が大きい方が良いんでしょうか?霞さんみたいに……」

 

 微乳は美乳、需要は有ると思うのだけど。

 

「んー結衣ちゃんはスラッとしてバランスが良いから気にしなくても……それにマダマダ成長期だし」

 

 そのブルブル揺れてる胸で言われても……思わず霞さんの胸を掴む。ムギュっと擬音が出そうな位のボリューム!

 

「うひゃ?ゆっ結衣ちゃん?」

 

 ムギュムギュと胸を揉みながらお腹やお尻も見る。あんなに食べるのに食べ物は何処に言ってるのかな?

 

「霞さんってあんなに食べるのにウエストは細いしヒップも形が良いし……何か秘密が有るんですか?」

 

「やっ、ちょ、揉まないで!結衣ちゃん?お姉ちゃんに悪戯するなら仕返ししちゃいますよ」

 

 今度は逆に霞さんが私の胸を揉んできた。力では適わないから良い様に揉まれてしまう。胸と一緒に脇腹もさすられるから擽ったくて我慢が出来ない。

 

「ごっごめんなさい。だから、もう揉まないで……お願い、します」

 

 本当のお姉ちゃんって霞さんみたいな人なのかな?天涯孤独だと諦めていたけど、新しいお姉ちゃんとお兄ちゃんとは仲良くやっていけそう……

 

 

第61話

 

 桜岡さんと結衣ちゃんと楽しく夕飯を食べた。帰ってから彼女達に先にお風呂を薦めたが、なんと一緒に入ってしまった。

 正直羨ましい……勿論、桜岡さんが羨ましい。結衣ちゃんと混浴出来るなんて!

 何時の間にか仲良くなった二人は、現在進行形で浴室内でハシャいでいる。さっきから楽しそうな笑い声が聞こえてる。

 なにやら胸を揉むとか揉まないでとか?大きいとか……

 正直覗きたいが、それは紳士な僕には無理な行動だ。それに桜岡さんを覗いたとか言われたら、誤解をされて大変だろう。

 責任とか既成事実とか、嫌な単語しか思い浮かばないや……でも声の聞こえる範囲から遠ざかる事が出来ないのは、男の性だよね?

 息を潜めてヤモリの如く壁にピッタリと貼り付いていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから美女と美少女の残り湯を堪能しながら入浴した!何とかエキスが滲み出ている様で素晴らしい。本当に体が芯から温まった感じがする。

 風呂上がりのコーラを飲みながら布団の真ん中にドッカリと座り、明日からの事を考える……八王子に拠点を構えて僕らも調査を開始する予定だ。

 だが、それは建て前だ。本来なら興信所に頼んだ調査が終わらなければ、建物に乗り込んだりはしない。

 護りの固い自宅を拠点にした方が安全だし、結衣ちゃんを1人自宅に残す意味も無い。だが「箱」が問題の廃ホテルに早く行きたいと命令したんだ。

 桜岡さんが同居しているから不用意に実体化はして欲しくないのだが、毎回躊躇無く全裸で現れやがる。バレたらトンでもない事になるんだから、自重して欲しいんだが……

 アレは昨夜の事だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何時もの様に三人で夕飯を食べて、居間で一緒にテレビを観て他愛のない話をする。バラエティーが殆どで、クイズ番組や旅行物を良く見ながらワイワイと騒ぐ。

 理想的な家族の団欒だろう。口数の少ない結衣ちゃんだが、桜岡さんが女性ならではの話題を振り会話が弾む。

 お洒落関係が殆どだが、メイクとか全く会話に参加出来ないのが寂しい。9時位まで一緒に居て、後は各々の自室に引き揚げる。

 桜岡さんは一階の客間の和室に居て貰っている。勿論、炬燵完備だ!

 たまに酒を飲んで炬燵でうたた寝とかも有ったらしく、結衣ちゃんが寝る前に訪ねてチェックしている。風邪をひいたら大変だからね。

 何故かは知らないが、二人で仲良く一緒に寝る事も有るそうだ。是非ご一緒したいね、無理だけどさ。

 家族を短期間で亡くした僕に、今の擬似家族は嬉しくもあり侘びしくもある……この日は珍しく僕が先にお風呂に入り、早めに床に付いた。

 湯冷めしない様に早めに布団に入る。馴れた布団は眠りを誘うのも早い。

 羽毛布団は軽くて暖かいからお薦めさ!横になり五分もしない内に眠りに落ちた……

 

 

 

 

「おい、起きろ。起きろよ、正明よ……」

 

 頭を何か冷たく柔らかいモノで揺すられる。

 

「起きろ正明、ほら起きんか……」

 

 何度か揺すられ為に意識が覚醒した。部屋の中は真っ暗だが、ボンヤリと枕元が明るくなっている……目を凝らして見れば何時もと同様に全裸幼女姿に擬態した「箱」が、僕の頭を足で踏んでいた。

 暗闇でも分かるのは体全体が淡く発光してるからか?やはり淡く光る体の中で、陰りある太ももの付け根に目がいってしまう。

 男の性とは本当に所構わず発動するよな……困ったもんだ。

 

「何だ?まだ贄を捧げる時期じゃないだろ?」

 

 前回、二人の霊能力者とストーカー化した怨霊を喰わせた筈だ。まだ1ヶ月と少し。贄の催促には早いだろう……

 

「正明。廃ホテルに連れて行け。アレには面白いモノが居るぞ」

 

 面白いモノだと?前は僕の推理を近くて遠いと言った。それは放置された稲荷神の仕業だと思ったが、神泉会が絡んでいて奴らが黒幕かと思ったんだけど……違うのか?

 でも「箱」が面白いって事は生きている人間の仕業じゃないモノが居るのか?基本的に「箱」は人外のモノを喰らうのを好む。やはり鷺沼絡みの怨霊か稲荷神崩れの動物霊か?

 

「一体何だよ?何が面白いモノなんだ?」

 

 ククククッと薄ら笑いを浮かべる幼女は、答えてはくれなかった。

 

「正明が知る必要は無いな。だが、アレは旨そうに変化しておる。良いな?近いうちに現地に連れて行け。夜にだぞ……」

 

 薄い胸板を反らせて腰に両手を当てて命令するドS全裸幼女め!

 

「調査の終わっていないゴーストホテルに夜間突撃だと?毎回無理を言うな!立地上日帰りは無理なんだぞ」

 

 反論しても既に「箱」は居ない。いや「箱」は布団の上に転がっているが、実体化はしていない。言いたい放題言って居なくなりやがった。

 だが「箱」に逆らう事は出来ない……それに「箱」は榎本一族最後の僕に死なれては困る筈だ。だから無理は言うが、何だかんだと外敵から護ってはくれる。

 祟り神だか怨霊だかは知らないが、強力なナニかは間違い無いからな。榎本一族と「箱」の関係が分かれば、爺ちゃんや両親の魂を解放出来る筈なのに……

 未だに手掛かりの一つも無い。僕は「箱」の為に子孫を残す種馬扱いだ。でも何時か、何時かは爺ちゃんと両親の魂を解放してやる!

 

 さて「箱」の命令だが……

 

 自宅から八王子迄、夜に結衣ちゃんや桜岡さんにバレない様に行って帰ってくるのは時間的に無理だ。やはり現地にホテルか何かを借りて拠点を構え、部屋を別々にして抜け出すしか桜岡さんを出し抜く事は難しい。

 ホテルなら個室を二つ取っておけば、仮に隣の部屋でも居なくても分からないだろう。年頃のお嬢様だし、夜中に異性の部屋を訪ねたりはしない。

 最悪バレたら独りで寝酒を飲みに居酒屋へ行ったで押し通そう。正直に話せる内容じゃないし、ボカシながら話しても同行するって引かないだろう……

 僕だって「箱」と言う保険が有るから無理をする。同行者に内緒で「箱」無しでの探索は無理だ。それに対人関係に「箱」は殆ど関与しない。

 つまり神泉会やオーナー一族対策は、僕が準備しとかないと駄目なんだよな。彼女は本物の霊能力者だが、荒事は苦手だ。

 つまり夜間突撃には、お留守番をして貰うしかないんだ。彼女に対して不誠実だとは思うが、危険な目に合わせる位なら嘘吐きで良い……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 八王子の拠点となるホテルへ出発する日を迎えた。駅前のビジネスホテルを借りた。此処は大浴場も有るし、レストランも併設している。

 駐車場も専用地下駐車場が有るし、連泊の場合は24時間出入り可能なのが良い。先ずは道具の準備だ。移動は僕の車を使う。

 勿論、ホテルの駐車場に停める。桜岡さんと移動する時は乗るが、単独行動の時はレンタカーを使う。

 既に長期で借りてホテル近くの駐車場に停めている。これはホテルで部屋に居ない事がバレた時にフロントに鍵とかを借りに行った時、車も無いなんて事になれば居酒屋に行ったと言う嘘がバレる。

 飲む前提で運転なんかしないからね。後は単純に神泉会とかに僕の存在がバレてれば、使用してる車も調べて知ってるだろうから。

 レンタカーなら暫くは誤魔化せる筈だ。さて、持ち込む道具だが……祭壇に祀り大量生産した清めの塩。

 これを500のペットボトルに詰めた物が10本。350のペットボトルに詰めた物も10本。愛染明王の御札を30枚。それと長期間祭壇に祀った数珠を2つ。忘れちゃならない「箱」。

 

 これが対霊装備の全てだから心許ない。

 

 次は照明関係だが400ルーメンのLEDライトを6本。1500ルーメンのLEDライトを2本。使い捨てのケミカルライトを30本と発煙筒を5本。御札を仕込んだランタンも10個用意した。

 

 対人関係だが……

 

 最悪不法侵入で取り押さえられた時に、刃物はマズい。だから多機能10徳ナイフを1本に、伸縮式の警棒を1本だけ持って行く。その他としての小道具だが……

 

 麻のロープを30m。

 

 最近はナイロン製のロープが主流だが、麻は丈夫で滑らないから便利だ。釣り糸を200m巻きを3本。太い糸はそれだけで丈夫だから物を縛ったり色々な使い道が有る。

 勿論、迷子にならない様に道標としても利用する。自作ドアストッパーを多数。廃墟を探検する時に建付の悪い扉が結構有る。

 部屋に入ったら扉が閉まり開かないなんて事も……僕は使い捨て用に自作の木製の小さな楔型のストッパーを用意し、扉の下に挟んで閉まらない様にしている。

 あと意外と役立つのが方位磁石だ。建物の中を徘徊すると自分の位置が分からなくなる時も有る。窓が無かったり、有っても景色で方向が分からない場合も有る。

 グルグル回るのは体力と時間の無駄だ。結構役立つ布ガムテープ!

 色んな物を固定出来るし、タオルや棒と組み合わせれば止血や骨折の応急処置と万能だ。後は医療品一式とウエットティッシュにペットボトルの水。

 水は傷を洗ったりうがいをしたりと必需品だ。マスクと軍手、タオルも多めに用意する。これらを両方の車に積んでおいて、必要に応じて持ち出すんだ。

 コレだけでトランクは一杯になるだろう。そして持ち運び用のリュック、ポケットが沢山有る服。特にカーゴパンツは両太股部分に大きめなポケットが有り便利だ。

 後は現地で拾ったと言い張れる1m程度の棒。棍棒にしたり蜘蛛の巣を払ったり色々使えるし、最後は捨ててくれば良い。廃墟系のゴーストハウスに突入する時の道具は以上だ。

 山のような道具を愛車キューブに積み込む。後部座席まで占領して何とか積み込む事が出来た。さて、出発だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝食を結衣ちゃんと桜岡さんと三人で食べた。卵とベーコンを焼いた物とレタスとキュウリだけのサラダ。目玉焼きは僕と結衣ちゃんは半熟、桜岡さんは両面をきっちり焼いた。

 所謂ターンオーバーだ。食パンは山崎製パンのダブルソフト。結衣ちゃんは一枚だが、僕らは各々一斤は食べる。

 

「正明さんと霞さんは今日から八王子に泊まり込みで調査ですね。頑張って下さいね」

 

 独り残されて寂しい筈だが、明るく送りだそうとしてくれる。

 

「結衣ちゃんも留守を頼みますわ。私達は大丈夫です。まだ危険な事はしませんから」

 

 桜岡さんはバターをタップリ塗った食パンに苺ジャムを更に塗っている。僕は基本的にバターだけだが……

 

「取り敢えず三日間程、駅前のホテルを予約してあるんだ。ホテルの連絡先は冷蔵庫の扉に貼ってある。緊急の時は松尾の爺さんに頼んで有るからね」

 

 有事の際には松尾の爺さんに頼んで有るし護衛の件も説明した。彼女は遠慮したが万が一の事も有るし、厳つい護衛達を紹介しておかないと……最悪、奴らがストーカーだと思われるからね。

 女子中学生を付け回す変態だと通報されたら大変だから、護衛対象の結衣ちゃんは知っておくべきだ。

 

「はい、任せて下さい。正明さんも霞さんを宜しくお願いします」

 

 ん?嗚呼、桜岡さんって案外ドジだしオッチョコチョイだから結衣ちゃんに心配されているんだな……

 

「勿論、大丈夫さ!」

 

「そうですわ。私達は大丈夫、だから安心して下さいね」

 

 何か各々を心配してるって、家族みたいでくすぐったい感覚だよね。楽しい朝食を終えて、結衣ちゃんを学校に送り出したら出発だ!

 

 

第62話

 

 自宅を10時過ぎにのんびりと出発した。ホテルのチェックインは15時からだ。

 高速道路の横浜横須賀線、佐原インターに向かい県道を法廷速度で走る。50キロだ……

 通勤が一段落した為か、走っている車は少ない。信号にも捕まらず順調に走行する。15分程走ると佐原インターの入口が見えた。

 

「榎本さん、お昼前には八王子に着きますわね。今日の行動予定は?」

 

 丁度料金所を通過する時に桜岡さんが聞いてきた。勿論、愛車にはETCを搭載してるから走りながら通過だ。

 料金所を抜けて緩やかな坂を加速しながら本線に合流する。50キロから80キロへ。ファミリーカー故にアクセルをベタ踏みでも緩やかな加速……

 

「今日の予定は……先日訪ねた佐々木さんのお宅にお邪魔するよ。何でも鷺沼の伝説を老人会で色々聞いてくれたらしい。

お昼前に来てくれって言われた。奥さんが自慢の料理を作ってくれているそうだ。この前の食べっ振りが気に入ったそうだ。桜岡さんのね」

 

 佐々木さんにはちゃんとしたお礼をしないと駄目だな。頂いたメールの内容には、鷺沼には伝説の悲劇の他にもう一つの悲劇が有るらしい……

 遊女の怨霊以外にもナニかが居るんだな。

 

「まぁ酷いですわ。あの時は榎本さんの方が沢山お食べになった筈です」

 

 いやスピードの差で僕の方が食べた量は少ない筈ですよ……

 

「ほら、僕は見た目通りに食べるけど桜岡さんはインパクトが有ったんじゃないかな?」

 

 お米が足りずに早炊きまでしてくれたんだよな。珈琲が好きだと聞いていたので、お土産に珈琲豆を幾つか用意した。

 正直、珈琲の味はイマイチ分からないからグラムの高いのから三種類を200グラムずつ買った。誰でも知ってるブルーマウンテン・モカそれと店のオリジナルブレンドだ。

 オリジナルブレンドについては店長の蘊蓄(うんちく)も聞いている。話のネタになるだろう。

 それと日持ちする「とらや」の高級羊羹セットも買った。小さな羊羹が8本入って5000円だよ!珈琲と合うかは分からないけど、ブラックで飲むから甘い物が食べたくなる筈だ……

 走行車線を80キロで走っていても、結構な頻度で追い抜かされる。軽自動車にも抜かされるって、皆さんどんだけスピード狂なの?

 

「スポーツカーに乗ってる桜岡さんにはファミリーカーは遅いでしょ?」

 

 何となく話を振ってみた。

 

「自分で運転しないからかも知れませんが、全然気になりませんわ。榎本さんが安全運転なのは私の事を思っての事だと分かってますから……」

 

 ニッコリ微笑まれたよ?確かに同乗者の安全も考えてますが、彼女の為だけでは……まぁ言わぬが華かな?はははっと笑って誤魔化した。

 順調に高速道路を走り八王子に着いたのは12時少し前だった。佐々木さんの自宅近くの有料駐車場に停めて、携帯電話で近くまで来た旨を伝える。

 歩いて5分位だろうか?一週間振りの訪問だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 呼び鈴を押すと夫人に車椅子を押してもらった佐々木さんが出迎えてくれた。

 

「お久し振りです」

 

「いやいや、相変わらず仲が良さそうですな」

 

 社交辞令から入りお土産を渡す。夫人が嬉しそうに珈琲を受け取ると、キッチンへ案内された。最初からキッチンに通されるって、余程大食いだと思われてるんだな。

 既にテーブルには所狭しと料理が並んでいる。

 

「家内が朝から張り切って作ってな。先ずは食事にしようか」

 

 四人掛けのテーブルに佐々木夫妻と向かい合ってすわる。

 

「はい、どうぞ。沢山食べて下さいね。今日は一升炊きでご飯を用意しましたよ」

 

 そう言って山盛りにご飯をよそった茶碗を渡される。一升炊きって10合だよ。どれだけ期待されているんだろう?気を落ち着けてテーブルの料理を見る。

 金目鯛の煮付け・山菜の天麩羅・蕗の煮物・肉豆腐・出汁巻き卵・車麩と大根の煮物・山菜のお浸し・米なすの田楽・玉ねぎのスライスサラダ・胡瓜と蕪の糠漬け・具沢山味噌汁……

 金目鯛は一人前が半身とボリューム満点だ。天麩羅も揚げ立てだろう。珍しい蕗の薹や独活の天麩羅も見える。

 中年独身男性には堪らないメニューだ。思わず「お母ちゃん!」と叫びたい程に!

 

「「頂きます(わ)」」

 

 期待に応える為にも早いペースで完食を目指す。先ずは金目鯛だが、箸を入れるとスッと身が解れる。一口食べれば濃厚なタレと柔らかい身が合わさって上手い。

 結衣ちゃんも魚の煮付けを作ってくれるが、鯖味噌くらいだ。

 

「この金目鯛を煮込んでいるタレは……凄い濃厚ですが自家製ですか?」

 

 佐々木夫人に尋ねる。夫人は自分は箸を付けずにニコニコこちらを見ているだけだ。

 

「ええ、何年も調味料を足しながら煮ているんですよ。醤油・砂糖・お酒・みりん、それに臭み消しに生姜を入れるだけだけど、煮込んだ魚の旨味が出てるでしょ?」

 

 確かに一朝一夕に出来る味じゃないな……

 

「この山菜はシャキシャキと新鮮ですが、市販品なのですか?」

 

「朝市で買ってきたの。朝採りらしいわ。因みに蕗は庭に勝手に生えるのよ」

 

 ほう!この蕗の太さだと結構大きい筈だが、自家栽培とは羨ましい。

 

「「お代わり(下さい)」」

 

「ほほほほほ、沢山食べて下さいね。まだまだ有りますから」

 

 それはフードファイターな二人を満足させるお持て成しでした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まっまさかの完食!榎本さん……テレビの大食い企画に推薦して宜しいか?」

 

 山盛りの料理も、既に皿しか無い。食後のお茶を楽しんでいると、心底驚いた様な佐々木夫妻に言われた。

 

「僕等程度じゃテレビで活躍するフードファイターには適いませんよ」

 

 基本路線は目立ちたくないので、やんわりと断る。某テレビのチャンピオンに出演しても、三回戦位までなら勝ち抜く自信は有るけどね。

 

「私も女性として、大食い選手権は遠慮したいです。勿論、勝つ自信は有りますけど……」

 

 桜岡さんは優勝する自信が有るのか?幾らなんでも連戦で勝ち抜くのは無理じゃないかな……

 

「ペア選手権なら優勝しそうじゃな。しかし大食いとは見ていて気持ち悪い場合も有るが、アンタらは清々しい食べっ振りだな。途中で箸を止めて魅入ってしまったぞ」

 

 確かにスピード感が有るのに不思議と上品な桜岡さんは、フードファイターとして人気が出そうだ。僕は……それこそ大食いクマさんか?

 

「毎回ご飯を頂いては申し訳ないです。暫く八王子に滞在するので、夕食でもご一緒しませんか?」

 

「私達、駅前のホテルに暫く滞在しますから」

 

 八王子駅周辺は10分も車で走れば田舎なこの辺としては開けている。それなりに有名なレストランも多い。勿論、車椅子な佐々木さんの為にテーブル席を利用するつもりだ。

 

「お二方と夕飯では、お酒も楽しむのじゃろ?会計が怖いな」

 

 はははっと笑っているが、勿論支払いは僕持ちだ。

 

「創作和洋のレストランを知ってまして。基本的に和の食材をペースにしてるので、お口に合うかと。日本酒も各地の地酒が有りますし、お世話になってますからご招待させて下さい」

 

 僕らが滞在中に一度お誘いをしよう。佐々木夫妻の人柄を考えると、金銭的なお礼よりは良いだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 キッチンから応接間に移動し、漸く本題に入る。佐々木夫人がお土産に渡した珈琲を煎れてくれた。勿論、ブラックで飲みますよ。

 桜岡さんは角砂糖を二つ入れてたけど、僕は我慢してブラックだ!

 

「ふむ……このオリジナルブレンドは中々飲みやすいですな。自家焙煎の店は、オリジナルブレンドに特徴が現れる」

 

「ええ、この店の……葉山に有る個人喫茶店なんですが、マスターの拘りブレンドです」

 

 如何にもな通っぽく香りを楽しんでから一口飲む。確かに旨いが、ミルクと砂糖がタップリのTully'sやスターバックスの方が好きだ。

 一頻り珈琲を楽しんでから本題に入った……

 

「榎本さんが調べている鷺沼だがな……嫌な噂を聞いたんじゃよ。確かに遊女お鷺の悲劇は伝わっておる。

だが26年程前に、あの沼で入水自殺が有った。遺書も有ったから公には知られてないが、娘を道ずれに母親が無理心中をした。

母親の名前は、小原愛子(おばらあいこ)。娘は七海(ななみ)。あの廃ホテルのオーナーの妻子だ……」

 

 オーナー一族の関係者が自殺だって?思わず桜岡さんと顔を見合わせる。彼女は何とも言えない顔をしているな。

 

「その……自殺の動機は何だったんですか?倒産して金銭的に苦しくなる前ですよね」

 

 佐々木さんが嫌な顔をしたな。良くない理由かな?でも自殺となると対人関係か金銭関係、又は健康問題位だと思うんだ……

 娘を道ずれになんて、将来を悲観したのか?

 

「浮気だよ。旦那の小原拓真(おばらたくま)は遊び人で有名だ。随分苦労していたみたいだな」

 

 佐々木さんは苦々しく珈琲を飲み干してカップを机に置く。その手は震えていた。

 浮気か……バブル真っ盛りの時期だし、地元の名士じゃ遊びも派手だったんだな。高田所長も言っていたな。

 浮気調査ばかりだと……

 

「それで彼女達は手厚く葬られたのですか?」

 

 幾ら浮気を苦に自殺とは言え、対外的には立派な葬儀を……

 

「入水自殺時に目撃者が居たそうだ。地元自警団や警察に連絡し、直ぐに救出・捜索したそうだが母親しか見付かって無いそうだ。

娘は未だに行方不明。だが遺書も目撃者も居たので死亡扱いとなった……」

 

 あの沼に無くなった少女が未だ沈んでいる?それは調べても出てこなかったが、人が二人も死んだ事を秘密に出来るものなのか?

 

「僕が調べた限りでは母娘の無理心中は分からなかった。あの沼で不審死した少女が居た事は分かりましたが……捜索隊とか当時は騒ぎになったのでは?」

 

 行方不明で捜索中に、あの沼で見付かった近藤好美ちゃんの時はネットでも調べられた。自殺と事件では違うとは言え、今の日本の情報社会で隠し切れるのかな?

 

「地元の名士だし遺書も有る自殺だ。早々に捜索は打ち切られたよ。その後、地元議員の娘と再婚したそうだ。

悪い噂では、側近にこう漏らしたらしい。再婚に邪魔な彼女達が亡くなって清々したと……」

 

 段々オーナー一族の構図と現当主の性格が見えてきたな。自分の権力強化の為に地元議員の娘と結婚。

 その為に妻と娘が自殺しても悲しまない。金・権力・名誉に貪欲で冷酷な性格か……友達にはなりたくない相手だな。

 

「その議員も、そんな薄情な浮気者に自分の娘を嫁がせるなんて……」

 

「酷いわ。家族の死を清々したなんて……何て卑劣な男なんでしょう」

 

 幾ら地元の名士とはいえ聞けば聞く程に酷い男だが、そんな男に娘を嫁がせても平気なのかな?

 

「議員もだな、票を取り纏められる奴と繋がりを持ちたかったんだと専らの噂だよ。それに娘は別居状態で実家に戻っているらしいな」

 

 愛想を尽かしたが、別れずに別居か……何とも言えない結末だな。

 

「それは……何とも言えない事件ですね。僧侶として墓前で読経し弔いたいと思います」

 

 夫に父親に必要と去れなかった母娘か……辛い話だな。

 

「小原家の墓には入れてもらえず、実家の方で引き取られたとか。彼女は榎本さんが前に見せてくれた地図の集落の出身者らしい。

勿論、噂話だから確証は無いし確認も取っていない。当時を知る老人達から聞いた話だからな。暗い話ですまん……」

 

 佐々木さんから聞いた話は、結構重要な感じがする。あの鷺沼には悲惨な話が多すぎる。

 でも何かが引っ掛かるんだ……母娘無理心中、でも娘は見付かって無い。

 その沼で見付かった水死体、でも近藤好美ちゃんじゃない使役霊。その使役霊が見付かってない娘の可能性は?

 

 まだまだ調べる事が沢山有りそうだな……

 


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