榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第81話から第83話

第81話

 

「「「「カンパーイ!」」」」

 

 亀宮さんとメリッサ様の仲直りを目的とした宴会が始まりました。と言うが夕食後の二次会?

 小原氏は彼女達の乱痴気騒ぎに呆れて早々に退出。高野さんは最初から不参加だ。

 僕は今夜も襲ってくるか分からない悪霊対策で小原邸に居る筈なんだが……でも流石は金持ち!

 ホームバーとか有るんだぜ。カウンターに6席、ソファー席が8席。壁面にはガラス張りの棚が有り100本以上の洋酒が並んでいる。

 ウィスキーとかブランデーが多いから、小原氏は洋酒好きなんだな。

 

 妙に瓶が高級そうな物が並んでるけど、コニャックの……

 

「LOUIS XIII Rare Caskって確かプレミアムコニャックとか。怖くて触れないぞ」

 

 VSOPとかXOとかEXTRAとかの名前が付いてるのが精々だ。僕は麦酒専門なのだが、ちゃんと備え付けの冷蔵庫に世界の麦酒も入っている。

 小心者の僕は麦酒だけ飲んでいる。幾ら高級でも麦酒なら精々が2000円程度だから、後で請求されても大丈夫。

 でも麦酒は日本のスーパードライが最高だ!しかし本当に何故、護衛当番の僕まで居るんだろうか?

 カウンターに独りで座って麦酒をチビチビ飲む。摘みは生ハムにサラミだ。カウンター内には給仕さんがちゃんと待機して、色々世話を焼いてくれる。

 洒落たバーのマスターみたいだ。因みに頼めばカクテルも作れるそうだ。

 

「ちょっとー飲んでる?榎本さん、なに麦酒なんて安い酒のんじゃって!見なさいよ棚の洋酒を。ほらほら、何か分からないけど高級そう」

 

 僕が黄昏ていると、隣に座って絡んでくるアル中が居やがる。笑顔でメリッサ様が僕にグラスを持たせて、ダバダバとブランデーを注いでくれるのだが……

 その瓶の銘柄は「ジャン・フィユー レゼルヴ・ファミリアル」って書いて有るけど?僕は見た事無い銘柄だけど、そう言う飲み方するお酒なの?

 

「垂れてるし漏れてるから!コラ、注ぐのを止めんか!」

 

 既に呂律が怪しくなってるが、酒瓶は離さない。どんなにお酒好きなんだよ。

 

「えー、私のお酒が飲めないっての?なによ、自分はさっさと500万円も稼いじゃってさ!私達は折半なんて、榎本のバッキャロー!」

 

 完全な絡み酒だ。酒臭い息を吐き体ごとしな垂れながら絡んできやがる。修道服を来たシスターが酒瓶持ってベロベロってなんなんだよ?

 前髪が解れて修道服を着崩して妙な色気を振り撒くな。生々しい女性は苦手だな……

 

「まぁまぁホテルの除霊を成功させれば、少なくとも350万円は手に入りますよ。もしかしたらボーナス出るかもしれないし。

でも流石はメリッサ様!

あの当世最強と言われてる亀宮さんに一歩も引かないなんて凄いですよ。さぁさぁグッとコレも飲んで下さい」

 

 そう言って体を離し、僕に注いでくれたグラスを渡す。

 

「そう?ありがとね。でも何で私が亀頭野郎と仲良く一緒に仕事なんて……あーヤダヤダ」

 

 グラスに並々と注がれたお酒を一気飲みしたらカウンターに突っ伏して愚痴りだした。濡れた指でカウンターに文字を書きながら、完全に出来上がってる。

 書いてる文字は亀のバカだが、亀宮さんと因縁でも有るのかな?折角の美人なのに酒癖が悪いのはマイナスだぞ。

 お供の二人のシスターは、フローラ様とマリエン様だっけ?彼女達に面倒見て貰わないと。

 

 ソファー席の方を見れば、コッチも修羅場っていた。ソファーの上で胡座をかき、ブランデーの瓶をラッパ飲みする亀宮さん。

 彼女の持つ瓶の銘柄も「ジャン・フィユー レゼルヴ・ファミリアル」って書いて有るよ。なんでお揃いのお酒飲んでるの?仲良いの?

 ブランデーって度数が40%を越えてるよね?そんな飲み方は危険だよ!

 

 彼女に酔い潰されただろうお供の四人。フローラ様とマリエン様は抱き合いながら寝てる。此方も裾が捲り上がって百合百合しい抱き合い方だ。

 もしかして本物の百合か?鈴木さんはソファーに仰け反る様に座ってる。身なりは乱れてないが、だらんと垂らした腕が既に意識の無い事を示している。

 

 西原さんは?居ないから見回せば……居た!俯せで床に倒れてるよ。コレはヤバい状況だ。

 急性アルコール中毒と言う文字が頭の中に浮かぶ……給仕さんとアイコンタクトをする。頷く給仕さんは流石プロだ!

 

「榎本様、ご安心下さい。彼女達に供したブランデーは精々が1本20万円程度です。さて、私はお時間となりましたので私はこれで失礼致します」

 

 綺麗な一礼をしてカウンターの奥の扉から出て行く彼の背中を見て思った。僕はお金の心配をしていない、彼女達の体の心配をしてるんだ!

 

「僕を見捨てやがったなー!」

 

 思わず叫んだ声に亀宮さんが反応してしまった!

 

「おい、榎本!コッチに来い、良いからグラス持って来い」

 

 亀宮さんにロックオンされたみたいだ……相変わらず胡座をかいているのでスカートが腰まで捲れ上がり、細い綺麗な足と神秘のゾーンが丸見えですよ。

 色白だろう太ももは、今は酔いで真っ赤になっているし顔も真っ赤だ。彼女のショーツは薄い青でした。

 

「亀宮さん、飲み過ぎですよ。そろそろ終わりにしましょうか?」

 

 にこやかにお開きを提案しながら向かい側のソファーに座る。古今東西、酔っ払いに理屈は通じない。

 

「鈴木さんも西原さんも今夜は限界みたいだし。亀宮さんみたいに強くないんですよ」

 

 ソファーで仰け反り、床に倒れる二人を見る。テーブルには高級そうな空の酒瓶が5本以上転がっている。

 酒代だけでも100万円以上は超えてるだろう。元は取れた筈だよね?

 

「そうね……皆さんだらしないわね」

 

 思ったよりも口調はシッカリしている。これなら大丈夫かな?

 

「亀宮さんが最強なんですよ。さぁさぁグッと飲みましょう」

 

 彼女から酒瓶を取り上げて、空いていたグラスに注いで渡す。

 

「ん、榎本さんは良い人ね。あのエロエロなシスターより分かってますわ」

 

 グラスを一気飲みしたぞ!口の端から少し零してるし、胸元が濡れて透けてますよ。そろそろ彼女もヤバいか?

 

「見事な飲みっ振り!流石は当世最強の亀宮さんだ。さぁさぁソロソロ今夜に備えて休まないと」

 

 空のグラスを受け取り、代わりに水割り用の氷を水を入れて渡す。

 

「はい、これを飲んで……立てますか?部屋に戻りましょうね」

 

 水はグラスを両手で持ち、コクコクとゆっくり飲んでいる。

 

「ふーっ、少し飲み過ぎたかしら?」

 

 ゆっくりと立ち上がるが……ストンと座ってしまった。酔いが足腰までキてるじゃんか?

 壁に備え付けの内線電話の受話器を取る。数回の呼び出し音の後で繋がった。

 

「はい、どうなされましたか?」

 

 この冷静な声は執事さんかな?

 

「ホームバーに泥酔客六人。部屋に送って下さい。僕は屋敷の警戒に回りますから」

 

 色んな意味で危ない彼女達に触るのは、僕の霊感がヤバいと訴えている。全く興味は無いのだが、世間体は大事だ。

 酔った女性を介護して部屋に連れ込むなんで、デンジャラス過ぎるネタだ.

 

「畏まりました。メイドを向かわせます」

 

 メイドさん?居るの?今迄、この屋敷で見た事なかったよ。暫くするとキッチリと正統派メイド服を来た女性陣が六人と執事さんが現れた。

 執事さんがテキパキと指示を出し、二人掛かりで宛てがわれた部屋へと運ばれていく妙齢の泥酔女達……

 

「普通ならお持ち帰りされるぞ。全く若い娘がはしたない」

 

「榎本様は本当に紳士でいらっしゃいます。我々では主の客人に無理は言えませんから。では、後はお任せ下さい」

 

 そう一礼して去って行った……壁掛けの時計を見れば22時を少し廻っている。警備室を覗いてから宿直室で仮眠しよう。

 僕は麦酒を4本しか飲んでいないから酔いは少ない。ホームバーを出ると静願ちゃんが廊下に立っていた。

 

「アレ?起きてたの?」

 

 彼女は寝間着かわりなのかTシャツにホットパンツ姿のラフな格好だ。着物と違い体のラインが丸分かりなのだが、かなりのスタイルの良さだ。

 長い脚はスラリと伸びているし、腰の括れも中々だ。胸もデカいな。

 結衣ちゃんで鍛えたエロくない目線で彼女を観察する。結衣ちゃんも意外な事に家ではラフな格好が多く、僕を喜ばせてくれた。

 

「部屋に居たら廊下が騒がしかった。だらしなく酔い潰れた女が運ばれてた。お父さんが酔い潰した?」

 

 客室は基本的に並んでいるから、廊下で騒げば気付くよね。

 

「ん?自滅したんだよ。僕は彼女達にお酒も薦めてないし触ってもいない。

妙齢の美人ばかりなのに、あれじゃ幻滅だよね。静願ちゃんはお酒を飲む時は気を付けるんだよ」

 

 髪の毛をクシャクシャと撫でる。本当に嬉しそうな顔だ。

 

「私、未成年だよ。それにお酒は嫌い、酔っ払いも嫌い」

 

 確か爺さんがアル中で早死にだっけ?だから彼女の前でベロベロに酔っ払うのはNGなんだな。

 

「酒を飲むなら飲まれるな。自制心は必要だ。でもね、どうしても飲みたい時も有るのが大人なんだよ。

それに楽しい飲み方も有る。静願ちゃんが成人したら楽しいお酒を教えてあげるよ。さぁ、もう遅いから寝なさい」

 

 彼女の背中に軽く手を当てて客室の方に誘導する。

 

「お父さんは?これから警備?」

 

 お酒の匂いが充満したホームバーを後にする。全く静願ちゃんの教育に悪いだろう。

 

「警備室を覗いたら宿直室で寝るよ。昨日の今日で、あれ程の使役霊は送れないよ。今夜は問題ないと思う」

 

 一旦静願ちゃんを客室に送る為に並んで歩く。本当に小原邸はビックリ箱だ。メイドさんまで居るなんて……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋に居たら廊下が騒がしかった。まさか又霊が来たのかと思い扉を開けたら……亀宮さんがメイドさん二人に抱えられて運ばれて居た。

 衣服をだらしなく着崩して、大人が恥ずかしくないのかな?亀宮さんだけでなく、他の人達も六人全員がベロベロだけど……

 

「何が有ったの?」

 

 付き添っていた執事の人に聞いてみた。普通じゃない事だから。

 

「亀宮様とメリッサ様の仲直りの為の飲み会を行っていたのですが……皆様、あの様に泥酔なされまして」

 

 確かに仲直りで皆さんで飲もうってホームバーへ行ってた。こんなに泥酔する程、お酒を飲むなんて!

 私達は除霊をする為に呼ばれた筈なのに……部屋に運び込まれる彼女達に呆れてしまう。

 

「おとっ……榎本さんは?」

 

 まさか、お父さんもベロベロに?泥酔してる姿なんか見たくない。でも本当に酔っていたら介抱しないと……

 

「榎本様から連絡が有りまして、この様になる前にお止めすべきでした。榎本様は本当に紳士でいらっしゃる。

これだけ周りが泥酔しても、シッカリとしていらっしゃいました。では小笠原様、お休みなさいませ」

 

 慇懃な一礼をしてメイドを従えて去って行く執事さん。リアルメイド、初めて見た。

 アレも小原さんの趣味なら最低。でもお父さんも飲んでた筈だわ?まさか、お爺ちゃんみたいに酷い酔っ払い方をしてないよね?

 執事さんはシッカリしていたと言ったが、心配でホームバー迄走って行く。入口から出て来るお父さんを見付けた。良かった、酔っ払ってない!

 

「アレ?起きてたの?」

 

 口調も乱れてないし、顔もそんなに赤くない。

 

「部屋に居たら廊下が騒がしかった。だらしなく酔い潰れた女が運ばれてた。お父さんが酔い潰した?」

 

 沢山の女の人をお父さんが酔い潰したの?

 

「ん?自滅したんだよ。僕は彼女達にお酒は薦めてないよ。妙齢の美人ばかりなのに、あれじゃ幻滅だよね。静願ちゃんはお酒を飲む時は気を付けるんだよ」

 

 そう言って頭をクシャクシャと撫でてくれた。これは凄く好き!良かった、お父さんも酔っ払いは嫌いなんだ。

 それに思わず寝間着で来ちゃったから体のラインが丸見えで恥ずかしかったけど、全然嫌らしい目で私を見ないの。女としては少しどうかな?って思うけど、榎本さんはお父さんで良いと言った。

 お父さんなら娘をエロい目で見ない。本当に心配してくれるのが分かる。ちゃんと部屋まで送ってくれるし、お父さん大好き!

 今度、一緒に寝て欲しいってお願いしてみよう。あの大きな体で抱き締めて貰えたら、きっと安心して寝れると思う。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 静願ちゃんを部屋に送り届けてから、警備室に顔を出しておいた。何か有れば呼んでくれと……

 宿直室に戻りシャワーを浴びて早く寝ようと脱衣所で服を脱いでバスルームへ。温度を確かめながら体を清めて行く。

 

「今日も疲れた……まさか娘が出来るとはな」

 

 筋肉を揉み解す様にマッサージをして疲れを癒していく。彼女の今後の育成計画は骨が折れそうだ……

 

「ナニをやっているんだ正明。アレだけ力有る女共が痴態を晒してるのに、ナニもしないとは!早く沢山の子を孕ませろと言った筈だぞ」

 

 左手首からズルリと出現した胡蝶さんが、正面から抱きついてきた。勿論、何時もの全裸スタイルだ!

 

「うわっ?胡蝶、さっき呼んだ時は……」

 

 彼女の目がね、肉食獣のソレで妖しい光を放ってるんだが……

 

「黙れ!今一度、女と言う生き物を教えてやる」

 

「ちょ、待ってくれ。アーッ……」

 

 

第82話

 

 宛がわれた部屋のベッドで爽やかな目覚めを迎えられた。カーテンの隙間から差し込む光を見て、今日は快晴なのが分かる。

 念の為に警備室には何か有ったら連絡をと言っておいたが何も無かったようだ。ベッドから上半身を起こして欠伸をする。

 

「うん、良く寝た」

 

 思えば八王子の廃ホテルに単独除霊してから小原邸でエム女を祓うまで、余り寝れなかったからな。ベッドから起き上がり、体を解す為に柔軟運動をする。

 

 しかし……

 

 昨日までの下半身のモヤモヤが嘘の様にスッキリしている。自称デレ期の胡蝶の巧みな攻撃に翻弄されっぱなしだ。だが見た目幼女に弄ばれるオッサンってどうなの?

 エム属性は無いと思うが……それに胡蝶の言う子供を子孫を作れって話だけど……超訳有り過ぎる僕と結婚してくれる娘なんて今は居ないよな。

 

 桜岡さんはマブダチ。静願ちゃんは愛娘。

 

 二人共、美女と美少女だが好みと真逆な容姿だし、彼女達だって僕に恋愛感情なんて無いだろう。やはり結衣ちゃんを頑張って口説かないと無理だよな。

 だが流石に子作りは高校を卒業した後だろう。社会的に問題有るから。柔軟運動を終えて寝間着を脱いで着替える。

 寝間着と言ってもTシャツとパンツで寝てるから、Tシャツを脱ぐだけだ。先に靴下を履いてからチノパンを履く。

 

「お父さん、起きてる?そろそろ朝食だよ」

 

 ドアをノックする音と共に静願ちゃんの声がする。

 

「おはよう、起きてるよ」

 

 声を掛けると同時にドアが開くが、直ぐにパタンと閉められた。はて?

 Tシャツを着てから、ポロシャツを着る。そろそろ着替えも無くなるし、今日は絶対に帰ろう。完全に結衣ちゃん成分が不足気味なんだよ。

 

 そーっとドアが開き顔を覗かせる彼女。覗きか?

 

「覗いてないで……ああ、支度も出来たから食堂へ行こうか?」

 

「お父さん、娘に裸を見せ付けるの変態だよ」

 

 どうやら上半身裸を見せたのが駄目ならしい。

 

「む、年頃の娘は難しいと聞くがアレか?静願ちゃん反抗期?」

 

「違います」

 

 他愛の無い話を静願ちゃんとしながら食堂に入ると、亀宮さんとメリッサ様が既に居た。二人共、朝からキッチリとメイクを済ませている。

 顔の引っ掻き傷も目立ちませんね。二日酔いでは無さそうだ……

 

「お早う御座います」

 

「おはよう」

 

 部屋に入りながら挨拶をすると給仕さんが椅子を引いてくれる。静願ちゃんと並んで亀宮さんとメリッサ様と向かい合わせの配置。

 彼女達は犬猿の仲っぽいが、何故並んで座ってるのかが不思議だ?

 

「あら、おはよう。相変わらず仲が良いわね」

 

「お早よう御座いますわ。榎本さんも手が早いわね。桜岡さんとも親しげでしたのに」

 

 息の合った嫌みを言われたぞ!もしかして元々仲は悪くないんじゃないか?喧嘩友達みたいな。

 

「色恋沙汰じゃないさ。で、二日酔いは平気そうだが、他の人達は?」

 

 そう問い掛けると、ばつの悪そうな顔をして目を背けた。

 

「「今朝は具合が悪く部屋で休んでますわ」」

 

 申し訳なさそうな顔をしてるのは、昨夜の件を覚えているんだろう。悪いとは思っているのなら、常習犯だ。

 つまり酒を飲むと自制が効かなくなるタイプなのね?厄介な方々だ、本当に……

 

「お待たせ致しました。今朝は和食です。主は別件で席を外していますので、先にお食べください」

 

 そう言って高級旅館並みの和食膳が運ばれてきた。固形燃料を使った小さな鍋に味噌汁。

 具は豆腐とナメコ、焼き魚はエボ鯛・出汁巻き卵・山菜のお浸し・餡掛け豆腐に鮪・鯛・甘エビのお刺身。

 漬け物に焼き海苔か……旅館の朝食を思い出す日本人なら嬉しいメニューだ。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 直ぐにホカホカご飯と日本茶が運ばれてくる。でも旅館の茶碗って小さいから何杯もお代わりがしたく……

 給仕さんの置いてくれたお茶碗は、他のと比べると明らかにおかしい。

 

「あの、僕の茶碗だけ他の方と違い大きいのですが……サービス?」

 

 僕の茶碗だが、普通にうどんとかラーメンを食べる時に使う丼サイズ。しかもご飯が山盛り。

 

「榎本様は健啖家と聞いております。ご飯は勿論、料理の方もご用意がありますので遠慮なさらずお食べ下さい」

 

 ああ、多分高野さん辺りからインターのレストランで食べた話が行ってるな。やはり彼女は情報収集の為に同行したんだろう。

 当初考えていた女癖が悪く最低で利権の為に妻子を切り捨てた小原氏への評価は上方修正しないと駄目だ。

 最低男と侮っては危険な相手だと思う。そんな事を考えていると静願ちゃんが味噌汁のナメコを僕の方に一生懸命移していた。

 この子は意外と好き嫌いが多いのかな?

 

「静願ちゃん……嫌いな物を僕の方に入れない」

 

「ナメコとかヌメヌメしたの嫌い。あと山菜も独特な苦味がイヤ」

 

 山菜のお浸しの小鉢も此方に渡してくる。

 

「好き嫌いなく食べないと大きくなれないよ」

 

 まぁ僕も生のトマト食べれないし海鞘(ほや)とかなれ寿司とか食べれないから強くは言えないけど。お父さんとしては言わなければならない、と思う。

 

「榎本さんみたいに大きくならなくて良い」

 

 静願ちゃんがムキムキに?

 

「くっくっく……違うよ、筋肉じゃなくて女性らしい体つきにならないって事さ。ああ、朝からセクハラ発言だな。ごめんなさい」

 

 若い子と話す機会なんて少ないからオヤジ発言が……反省せねば駄目だ。

 

「榎本さんは、胸が大きい方が好き?それともお尻が安産型な方が好き?私、結構自信有るよ」

 

 今朝も着物姿だけど、昨夜のラフな格好で彼女のデンジャラスボディは確認した。まさに僕の求めているモノとは真逆なスタイル。

 顔がロリロリならロリムチでもご馳走なんだが……

 

「そう言うオヤジギャグに真面目な回答しないで。お父さん反省するから……あっお代わり下さい」

 

 静願ちゃんは天然なんだか真面目過ぎるのか判断が難しい。

 

「榎本さんって最低。未成年に朝からエロトークかますかと思えば、昨夜は私達に何も反応しないし。

何かしら?私は小笠原さんより魅力が無い訳かしら?」

 

「そうそう。折角仲良くしましょうってお酒を飲んだのに、大して飲まなかったし。私とお酒飲むより、未成年にセクハラする方が楽しいんだ?」

 

 仲が悪いどころかタッグを組んで責めてくるじゃないか!ちょ、確かに僕はロリコンだが自分基準の好みが有るんだ。

 静願ちゃんは確かに未成年だが、容姿的・体型的に守備範囲外なんだ!因みにお二方は全部無理!

 生々しい淫靡さとか肉感的なアレとかは苦手なの。

 

「いや、朝からエロい話は謝るけどね。僕達は小原邸に遊びに来てる訳じゃない。仕事なんだし節度を守った行動をね……あっ静願ちゃん、僕の出汁巻き卵は取らないで」

 

 亀宮さんとメリッサ様に口撃され、しどろもどろな時にヒョイと出汁巻き卵に手を出す静願ちゃん。出汁巻き卵は大好物なんだから駄目だよ!

 

「代わりにお刺身あげる。朝からこんなに無理」

 

 そう言って手を着けてないお刺身を皿ごと寄越してきた。

 

「はいはい、ご馳走様。随分と懐いたわね」

 

「あの狂犬がクマになって未成年の女の子にタジタジだとはね。当時の触れたら切れる位の覇気が無くなったわよ。飼い慣らされた男には魅力ないわよ」

 

 偉い言われ様だ。狂犬なんて僕の恥ずかしい黒歴史なんだぞ!

 

「それだけ大人になったんですよ。反抗するだけじゃ物事の本質は見付けられない。いや、もう人生の目標の半分以上は達成したし良いのかもね……」

 

 料理を完食し、日本茶を一気飲みして一息つく。何の話か分からないと不審顔な二人。

 確かに肉親の魂が解放された事など知らないから、たかが30代で人生の目標の殆どが達成なんて理解出来ないだろう。

 僕は世間的に人生の大成功者でも何でもないのだから……

 

「ああ、榎本さん。おはよう」

 

 そろそろ食堂を後にしようと思った時に、小原氏が入ってきた。手には僕の渡した調書を持っているが、まさかもう裏が取れたのか?

 上座に座る小原氏を見ながら、彼の情報収集能力に舌を巻く思いだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 小原氏は食事は採らずに珈琲だけだ。後ろに執事さんが控えている。

 

「榎本さんから頂いた調書を元に調べましたが、確かに管理会社は神泉会と繋がっていましたよ」

 

 何だって?僅か1日足らずで調べられるのか?

 

「早かったですね……」

 

「ええ、管理会社の登記簿からと融資先の銀行から色々と……金の流れは誤魔化しがきかないですからね。

それこそ海外経由でもしないと。その点、神泉会は宗教団体だが宗教法人でも何でもない。そこから調べれば簡単だ」

 

 成る程、そんな調べ方が有るのか。僕等じゃ絶対に不可能な手口だな。

 

「流石と言うしかありませんね。僅か1日で其処まで調べられるなんて」

 

「そうでもないよ。榎本さんに言われる迄、私は知りもしなかった。まさか、そんな連中に狙われていようとは。

八王子のホテルの件、宜しくお願いします。稲荷神社は伏見稲荷の方へ手配しました。明日の午後、御霊を抜いて貰える手筈です」

 

 良かった、これで廃ホテルの件は見通しが立ったぞ。しかし、伏見稲荷大社が急な御霊抜きに応じるなんて……

 圧力を掛けたんだな。いや、掛けれる力が有るのか……

 

「稲荷神社の御霊抜きについては、我々も同席致しましょう。引き続き夜に除霊をする訳ですし、下見として昼間行くのは丁度良いですから……

亀宮さんもメリッサ様も宜しいですよね?」

 

 蚊帳の外みたいにモソモソと食事をしている彼女達に話をする。何故か私達関係有りません的な態度なんですけど?

 

「構いませんわ。但し、失敗したら私達が対応するのね?」

 

「稲荷神、つまりは悪霊化した霊獣なんでしょ?そんな大物なら成功報酬は2000万円は頂かないと駄目よね?」

 

 お日様の様な笑顔で2000万円とかふっかけたぞ。美人シスターが慈愛満点の笑顔で報酬の話かよ!本当に彼女はお金大好きなんだな。

 小原さんの顔は引きつっているが亀宮さんは頷いている。それが彼女達の相場なのかな?

 

「確かに神様に喧嘩を売るのと等しい行為ですし。小原さん、もし稲荷神が邪悪化していたら別途費用は考えて下さい」

 

 勿論、丹波の尾黒狐は居ないのを知ってるから気は楽だが。

 

「分かった。但し、もしもの時は大丈夫なんだろうな?その……神を相手にって倒せるのか?」

 

「私の亀ちゃんは負けませんわ!」

 

「2000万円の依頼、死んでも頂きますわ」

 

 小原氏の心配事を見惚れる笑顔で笑い飛ばす彼女達。でもメリッサ様の死んでもって……駄目だろ?

 

「神泉会については、どうするんですか?」

 

 これが僕等の本命なんだ。廃ホテルの怪奇現象より桜岡さんに纏わり付く奴らを何とかしたいんだ!

 

「うん、彼等についてはこれからだ。勿論、私に喧嘩を売ってきたからには買うよ。でも私は宗教家ではない。だから私なりの方法でね」

 

 そう言う彼の顔は暗い笑みを浮かべていた。悪霊は使わないが、法に触れるか触れないかのグレーな方法なのだろう。

 

「小原さん、僕は今日は家に帰らせて頂きます。明日に備える為に、霊具の作成とかしなければならないので。

出来れば明日、八王子の方に直接行きたいのですが宜しいですか?」

 

 思案顔の小原氏。やはり守りが居ないのは駄目なのか?

 

「亀宮さんとメリッサ様は待機で良いですよね?高野さんの結界もしっかりしているし、監視体制も強化したので問題無いかと……」

 

 駄目押しに言ってみる。

 

「良いでしょう。後で集合場所と時間をお知らせします。では皆さん、宜しくお願いしますよ」

 

 これで結衣ちゃんに会える。暫く会ってないから結衣ちゃん成分が0に近いんだよ。やっと補給出来る!

 

 

第83話

 

 あれから食堂を出て宿直室に戻り荷物を纏めながら考えも纏める。小原氏を神泉会と対立させる事に成功した。

 元々関東進出の足掛かりとして狙われていたんだ。僕が唆した訳じゃない。

 多分、彼も桜岡さんと奴らの因縁も調べてるだろう。でも取り敢えず奴らの関東進出が防げれば良い。

 だが、桜岡さんのマンションを襲った少女の霊がエム女の手先か神泉会の使役霊かが分からない。呪詛を込めた品物を贈れるのは人間だけ。

 だから別々に狙われたと思う……

 確かエム女は寝取った女に桜岡さんが似てると言った。彼女を襲った理由まで奴らが用意出来るとは思えないんだよな。

 もし神泉会が其処まで調べてエム女を廃ホテルに仕込んだなら、彼女の死にも何らかの関係が有った筈だ。

 其処まで負うリスクも時間的余裕も考えられない。

 

「お父さん、お父さん?」

 

「あれ?静願ちゃん?」

 

 呼ばれる迄気が付かなかったよ。彼女は無視されてたと感じたのか、少しむくれている?

 

「ああ、ごめんね。考え事をしてたら気が付かなくて……で、何だい?」

 

「今日の昼前の新幹線の切符を取って貰った。私も帰るから、携帯貸して欲しい」

 

 携帯?胸ポケットに入れておいた携帯を渡す。巷ではスマホが主流らしいが、まだ普通のスライド携帯だ。

 

「はい、どうするの?」

 

「私の携帯番号とアドレスを入れるから」

 

 やはり彼女も今時の女子高生だな。携帯の操作もテキパキと行って、赤外線通信でデータを送るみたいだけど……

 

「何故、僕の携帯カメラで自分を写すの?」

 

「この携帯はアドレスに登録した人の写真もプロフィールに掲載出来るから」

 

 なる程、そんな機能も有ったんだ。全く知らなかったよ。

 

「静願ちゃん、新幹線は何時?品川駅発なら送ってくよ」

 

 バッグに着替えを詰め込み終わった。男一人の荷物なんてバッグ一つでお終いだよね。

 

「はい、フォルダに私の画像も入れた。あと私からの電話とメールの時は画像が映るから」

 

 渡された携帯を受け取り胸ポケットへ。良く分からないが、色々設定してくれたらしい。でも、何故隣に並んで顔を寄せてくるの?

 

「お父さんと二人の写真も撮る。もっと顔を近付けて……」

 

 携帯を片手で前に突き出して此方に向けているけど、二人並んで写すの?かなり恥ずかしいが、別に周りに広まる訳でもないから大丈夫かな。

 身長の違いで高さが合わず、僕が椅子に座り膝の上に彼女が座って顔を寄せて撮る事になった。見せてもらった写真は頬がくっ付く位に顔を寄せてるから、恥ずかしくて表情がぎこちない。

 

 彼女は自然な微笑みだったが……

 

「ありがとう。大事にする……」

 

そう自分の携帯を胸の前で抱き締めながら笑った。

 

 胸の底から湧き上がるコレが父性愛?それとも保護欲?不思議な気持ちが湧いてくるなぁ……

 結衣ちゃんは愛情だから静願ちゃんのコレとは違う。そうだ、携帯には電話番号とアドレスしか登録してなかった。

 

「はい、これ僕の名刺だよ。事務所の電話と仕事用のアドレスも載ってるから」

 

 財布から名刺を取り出し、一枚渡す。

 

「名刺……有るんだ」

 

 渡した名刺をマジマジと見てるけど、仕事をしてるなら名刺位有るでしょ?

 

「静願ちゃんは名刺無いの?仕事を請ける時、自己紹介とかどうするの?」

 

 連絡先とか一々メモを取るのかな?

 

「霊媒師は家の方に客が来るから……でも私も名刺、必要かな?」

 

 そうだ、霊媒師の場合は道場とかに客が来るんだ。除霊を行うとなると、現場だけでなく事務や運営方法まで教えないと駄目だぞ。

 

「覚える事が沢山有るな。現場だけでなく運営や事務とかも必要だ。個人事務所だから全て一人でやらなきゃ駄目だし。静願ちゃんのお母さんにも聞いてみないとね」

 

 ワシャワシャと頭を撫でる。サラサラの髪の毛を触るのも暫くお預けだ。

 

「個人事務所、経営者って事。うん、お母さんに聞いてみる。確定申告はしてたよ」

 

 ちゃんと確定申告はしてるのか。でも必要経費の扱いとか、ちゃんと記載してるのかな?

 意外と申告漏れで多めに税金取られるんだよね。経営についてもそれなりに教えないと駄目かな?

 でも霊能力者とは言え、業態変更は大変だよ。インドアからアウトドアに変更だからね。

 

「そろそろ出掛けるけど、新幹線何時だっけ?時間に余裕が有るなら、何処か寄ってくかい?」

 

 そんなにゆっくりもしていられない。明日の昼迄に除霊道具を作らないと駄目なんだ。

 

「11時にはJR品川駅には居ないと間に合わない」

 

 時計を確認すれば9時45分か……

 

「じゃそろそろ小原さんに挨拶してから行こうか?お土産買った?」

 

 1時間ちょっとじゃ観光は無理だな。

 

「まだ何も買ってない」

 

 JR品川駅構内ならお土産屋が有った筈だ。東京土産で良いんだよな。小原氏に挨拶をしてから、新幹線の改札まで静願ちゃんを送っていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 定刻通り、新幹線に乗れた。行きも帰りもグリーン車だった。初めての時は嬉しくてソワソワしてしまったが、2回目だから平気。

 広いシートを少しリクライニングさせて目を瞑って考える。今回の除霊、何故小原さんが私の母さんに声を掛けたのかが分からない。

 確かにお母さんは美人だ。榎本さんは女性の霊能力者限定で呼んだ事に呆れていたけど……

 

 でも私が代理で東京に来て良かった。榎本さん、お父さんと呼んで良いって。

 

 まだ33歳なので、お父さんと呼ばれる事に抵抗が有るみたいだけど了承してくれた。頼り甲斐が有り力も強く優しい人。

 私が、この業界で一人前になる為には彼の近くで学ばなければ駄目。

 会う前に調べただけでも個人事務所としてしっかりしているし、不動産・警備会社関係から絶大な信頼が有る。

 私の目指す理想の業務体系だし、安定性も有る。何より依頼者がまともなのが良い。変な個人依頼主とか勘弁して欲しい。

 霊を喚んだのにお金が無いとかインチキだとか騒ぐ奴が多い。一緒に仕事をして教えてくれると言ってくれたけど、それは現場での事だ。

 先程の会話の中でも事務とか運営の話も出た。一朝一夕に身に付く話ではない。

 私は榎本さんに弟子入りと言うか、事務所で雇われながら一緒に居て学んだ方が絶対に良いと思う。

 勿論、未成年の時に夜の除霊には参加しないし給料だって要らない。逆に授業料を払うべきだ。帰ったら、お母さんに相談しよう。

 

 地元の学校に未練など無いから早く横浜か横須賀の学校に転校するべき。お母さんは現役だし仕事が有るから別居になるけど、早目に引っ越してくる方が良い。

 榎本さんは基本的に優しいから、ちゃんと話してお願いすれば大丈夫。迷惑を掛けるけど、一生懸命働いて返せば良い。

 あと、榎本さんの携帯に私のデータを入れる時に少し見てしまった。アドレスの中で女性の名前は二人だけ。

 

 桜岡霞と細波結衣。

 

 細波結衣とは里子として面倒を見ている娘。きっと実の娘として大切に育てているのだろう。羨ましい……でも幾つなのかな?

 私立の女子校に転校させる位だから中学以上だと思う。

 

 桜岡霞……

 

 物腰が上品でお嬢様みたいだが、私同様に母娘で霊能力者。梓巫女らしい。彼女は榎本さんに気が有る、絶対に。

 榎本さん程立派な男性が独り者なのも不思議。でも彼女が榎本さんの隣に居ると、何故か胸がムカムカする。お父さんを盗られたくないって事かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 東京名物と言えば舟和本舗の芋羊羹・グレープストーンの東京ばな奈・うさぎやのどら焼き・常盤堂の雷おこし・亀屋万年堂のナボナと色々詰め合わせで買って静願ちゃんに持たせた。

 年頃の女の子のお土産に食べ物ばかりはどうかと思うが……彼女と別れてから首都高に乗り、横浜横須賀道路に乗り継いだ。

 あと15分も走れば家に着くのだが、連絡を入れるのを忘れてしまった。慌ただしかったからな。

 

 途中のインターでトイレ休憩を兼ねて車を停める。先ずは連絡と思い自宅に電話をする。数回の呼び出し音の後で繋がった。

 

「はい、榎本で御座います」

 

「ああ、桜岡さん。ごめん連絡が遅くて……いま横須賀インターで休憩、あと15分位で帰るから」

 

「お疲れ様ですわ。細かい話は帰ってから聞きますから」

 

「えっと昼だけどご飯どうする?」

 

「お昼は私と結衣ちゃんで準備してますわ。それと昨日は義母様を断りもなくお泊めしてしまいすみません」

 

「いや客間が空いてるから平気だよ。まだお母さん居るの?」

 

「ええ、榎本さんから結果を聞くまでは帰らないと……では気を付けて帰ってきて下さい」

 

 桜岡さんのお母さん……摩耶山のヤンキー巫女が、僕の家に居るのか。結衣ちゃんに悪影響を与えてなければ良いけど。

 でも、彼女は小原氏に仕事を依頼されたのに無頓着だよな。僕も桜岡母娘は居ない者として話を進めたし……

 八王子での夜のサポートは同行して貰うか、僕だけ行くか?取り敢えずトイレを済ませてから帰りますか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ほぼ一週間振りの我が家に到着した。ガレージに車を停めて、お土産で買った苺を持つ。

 インター地場産業の野菜や果物が有り、大粒で美味そうな苺を2パック買った。女性のご機嫌取りに食べ物しか思い浮かばないとは……

 ストックして有る清めの塩を自分と愛車に軽く撒いてから玄関に廻る。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい、榎本さん。お疲れ様でしたわ」

 

 家に入ると桜岡さんが出迎えてくれて、手に持っていたバッグを受け取る。

 

「ああ、それ洗濯物だから……」

 

「ええ、洗いますから。先に手を洗ってキッチンへ。昼食の支度が出来てますわ」

 

 そう言ってバッグを持って奥へと行ってしまった。何だろう、この会話は?暫し玄関で立ち尽くしていると、結衣ちゃんが出て来てくれた。

 セーターに短めのスカート、そしてエプロン。大きめのスリッパでパタパタ走ってくる仕草。その華奢で幼い容姿に家庭的なエプロン姿!

 ああ、やはり女性はこうでないと!最近バインバインな女性ばかり見てきたから、結衣ちゃんを見るとホッとする。

 

「ただいま、結衣ちゃん。変わりは無かったかい?」

 

 目の前まで来てくれた結衣ちゃんの頭を軽く撫でて、結衣ちゃん成分を補給する。目を細めて微笑んでくれる彼女に癒される。

 

「お帰りなさい、正明さん。大丈夫でしたよ。桜岡のお母様が楽しい話を聞かせてくれて……

正明さんの昔話とか。お昼は手巻き寿司にしました。沢山用意してます」

 

 何だって?僕の昔話をする程、アンタ僕を知らないだろ?

 

「どっどんな?」

 

「鮪・イクラ・ウニ・卵焼き……」

 

 指折りながら、手巻き寿司の具を説明してくれるけど聞きたいのは昔話の方なんだよ。

 

「あら、まだ玄関に居ますの?早く手洗いをしてキッチンに来て下さいね。結衣ちゃん、太巻き作りましょうか?」

 

 はーい、と返事をして桜岡さんとキッチンに戻ってしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 手を洗いキッチンへ向かうと豪華な料理が待っていた。太巻きと手巻き寿司のセット。

 手巻き寿司の具は、各種お刺身に卵焼き・キュウリ・カンピョウ・味付け椎茸等色々だ。

 他に鳥の唐揚げ・煮しめが大皿に盛られている。流石に僕と桜岡さんでもキツいかも知れない。

 だが、結衣ちゃんの手料理となれば完食を目指す!席に座ると結衣ちゃんが日本茶を淹れてくれた。

 普段より大きめな湯呑みは寿司屋で買った魚の名前の漢字が一覧で彫り込まれた奴だ。

 何でも昔は大きな湯呑みにタップリのお茶を最初に出して、お店の人の手間を省いたらしい。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 早速、鳥の唐揚げをパクリ。

 

「む、コレは……結衣ちゃん味付け変えた?」

 

「いえ、それは桜岡のお母様が……」

 

 桜岡のお母様?何だろう、呼び名が変じゃないかな?

 

 


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