榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第84話から第86話

第84話

 

 何たる不覚!最初の一口目の料理が結衣ちゃんの物でないなんて……慌てるな、正明。ヒントが有るだろう。

 確か桜岡さんは結衣ちゃんと太巻きを作ろうと言った。つまり太巻きの中で出来の良い方が結衣ちゃんの作った方だ。

 

「うん、先ずは太巻きを頂こうかな」

 

 箸を伸ばそうとすると

 

「私も初めて太巻きを作ったんです。良かったら食べて下さい」

 

 桜岡さんが不格好な方を薦めてきた。目がね、キラキラしてるんだよ。つまり食べて感想を言わないと駄目なんだ。

 

「ああ、頂きますね」

 

 ここで彼女を蔑ろにしては結衣ちゃんからの好感度が下がるのは目に見えている。笑顔で不格好な太巻きをパクリと一つ。

 モグモグと咀嚼する……見た目は不格好だが、具のチョイスは流石だ。

 

「ええ、美味しいですよ。最後に結衣ちゃんの作った方も……うん、こっちも美味しいね」

 

 空気の読める僕は桜岡さんのキラーパスを回避して、さり気なく結衣ちゃんの手料理をゲットだぜ!

 

「それは私が作ったのよ。気に入って貰えて良かったわ」

 

 ニヤリと笑う桜岡母。ナンダッテー?異議あり、異議ありだー!だって確かに結衣ちゃんと一緒に作ろうって……

 

「はははははっ。まさか桜岡さんのお母さんの手料理まで頂けるとは……」

 

 のっ残りは煮しめしかないが、明らかに不格好だから桜岡さんの手作りだ。つまり結衣ちゃんの手料理は?

 思わず彼女の方を向いてしまう。

 

「私は今回仕込みだけだったんです。すみません」

 

 申し訳なさそうに下を向いてしまった。なんてこった、殆どが桜岡母娘の手料理だったのか……

 

「榎本さんは沢山食べると聞いて、霞と頑張ったのよ。さぁさぁたんと召し上がれ」

 

「も、勿論頂きますよ。ああ、結衣ちゃんお茶お代わり」

 

 並々と注がれた熱めのお茶を一気飲みして、結衣ちゃんに湯呑みを渡す。せめて、せめてお茶だけでも……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結論から言えば、桜岡母の手料理は大変に美味しかったです。所謂お袋の味だ。

 特に煮しめ等は野菜の種類別に煮込み時間を変えている。味のしみ方が不揃いの野菜に均一に味がしみてるのは、手間を惜しまない料理だからだ。

 

「悔しいが完敗だ……大変美味しかったです」

 

 ソファーに座りながら頭を下げる。完食後に、これからの話をする為に応接間に移動した。

 結衣ちゃんは仕事の話だからと遠慮し、洗い物をしてくれている。本当に嫁に欲しい出来たロリだ。

 

「……?そう、料理の方は霞に仕込んでおくから安心なさいな」

 

「まぁ義母様ったら」

 

 ナニ、コノ会話?オカシクナイカナ?にこやかに会話をする桜岡母娘に、良く分からない危機感を感じながら話題を変える。

 

「あー仕事の件ですが、小原さんと神泉会の敵対は確実です。僅かな時間で渡した調書の裏を取った。油断ならない人物ですよ、彼は……」

 

 僅か一日も満たない間に調べられるのは、色んな情報網が有るんだ。

 

「そうね。敵の敵は味方、味方が有能なのは嬉しいわね。別に私達は彼と敵対するつもりも無いし。例え女癖が悪くても、ね」

 

 女癖の所で睨まれたが、何か僕に含みが有るのか?

 

「廃ホテルの除霊については、小原氏の協力が得られました。明日、伏見稲荷大社の方々が御霊を抜きにきます。僕も立ち会いますが、その後の除霊については……」

 

「待って、良く伏見稲荷大社が急な予定を組んだわね。普通は1ヵ月とか掛かるわよ」

 

 やはり京都にある御山から簡単には来ないのか。それだけ小原氏は力が有るのか、厄介だな。

 

「それだけ彼に力が有るのでしょう。桜岡さんには悪いと思ったけど、廃ホテルの方の除霊は亀宮さんとメリッサ様が共同で行う。

僕はサポートに廻るよ」

 

「あの小笠原って子は?それに何で共同で除霊なのに貴男がサポートなの?」

 

 共同と言っても罰みたいな物だし、理由も喧嘩の罰だとも言い辛いよな。

 

「小笠原さんは、元々母親の代理だし未成年だ。夜の除霊は無理だし力も弱い。だから今日帰ったよ。

亀宮さんとメリッサ様はアレです。仲良く無いんで喧嘩になり、罰として共同で除霊しろって事に。

僕は話を振った責任と廃ホテルについても責任が有るからサポートに。あの人達と一緒に除霊なんて、色々と面倒臭いじゃないですか!」

 

 女性の喧嘩に巻き込まれただけで大変なんです。分け前も貰うなんて共同除霊に参加したら……

 

「私達は不参加なのね?別に私が呼ばれた真意が分かれば良いのだけれど……霞はどうするの?」

 

 桜岡さんには悪いが、不参加でお願いしよう。最悪、胡蝶に頼る場合知り合いは少ない方が良い。

 亀宮さんやメリッサ様は今後の付き合いなんて分からないし。

 

「桜岡さんも家で待機して欲しい。出来れば母親と一緒に。君達母娘は狙われているから、現地に行くのは危険だからね」

 

「良いわ、私は霞とこの家で待機すれば良いのね」

 

「おっ義母様!それでは榎本さんの負担が……」

 

「貴女が付いて行ったら、榎本さんの負担が増えるでしょ?生霊専門の貴女では除霊のサポートは無理。

ならば安心して榎本さんが働ける様に家を守るのが貴女の勤めです」

 

 此処まで一緒に調べてきたのだから、最後でハブかれるのは嫌なんだろう。母親に諭される娘の図だな。

 でも正直、単独行動がしたい。レンタカーも置きっぱなしだし、色々と裏でやる事が多いんだよ。

 

「では僕は霊具の作成で部屋に籠もります。今夜は家に居ますが、明日は早い時間から現地に行きますのでお願いします」

 

 少なくとも清めの塩とお札の何枚かは作らないと。今日は遅くまで掛かるな……

 頭の中で作業手順を思い浮かべながら、今夜は日付が変わる迄は仕事だと溜め息が出る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「霞……妻は旦那様の留守に家を守るのが仕事なのよ。貴女は生霊を相手にするには強力だけど、悪霊の類は苦手でしょ?」

 

「でも……」

 

 全く困った義娘だわ。惚れた男の役に立ちたいのは分かるけど、男ってね。

 自分の仕事に口を出されたくない事も有るのよ。今回は大変な除霊作業になると考えたんでしょう。

 しかもサポートと言う主導権の無い、損な役回りだからね。霞を守って、序でに亀宮さんとかシスター達の面倒なんて見れないわ。

 でも小笠原って子……あっさり帰ったわね。

 

 榎本さんもダメ出ししてたし、心配は杞憂だったわ。流石はペド野郎だから、妙に色気の有る子は首尾範囲外だったのね。

 あとは義娘を宥めれば問題無いわ。

 

「榎本さんは、貴女が大切だから家に居てくれって言ったのよ。霊能力者が同業者に自分の拠点に居てくれって事が、どれだけ大変な事か分かるかしら?

彼も私も知られたくない事や物が有るのよ。それでも彼は霞の為に私にも居てくれって言ったの。それだけ霞が大切って事なんだから自信を持ちなさい」

 

 この件が片付いたら、例の呪いを掛けるわ。同棲までしてるんだし、手を出さないのが変なのよ。

 最初っから変態なのよ。対外的には、結婚は秒読みなのに……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 疲れた……アレから作業に没頭し、夕食もソコソコに何とか終わらせる事が出来た。

 時計を見れば深夜2時過ぎ……お札を書いていた筆を置いて、大きく体を仰け反らせる。

 バキバキと音が鳴るのが分かる。体が大きいから小さい文字とか書くのが苦手なんだよな。

 墨や筆をしまい、新しいお札を祭壇に祀る。新たなお札が20枚。清めた塩が5キロ。これで暫くは大丈夫だ。

 このまま布団にダイブしたいが、風呂と歯磨きに一階に降りる。途中、結衣ちゃんの部屋から明かりが漏れてるのを見付けて扉をノックする。

 

「結衣ちゃん?もう遅いのに起きてるのかい?」

 

 部屋の中から音がして扉を開けてくれた。椅子の回転する音だったから、勉強中だったのかな?

 

「今晩は、正明さん。今までお仕事してたんですか?」

 

 スエット上下にカーディガンを羽織った結衣ちゃんが僕を見上げている。部屋の奥を見れば机の上には参考書の様な本が。

 

「うん、結衣ちゃんも勉強中だったの?頑張るね」

 

 静願ちゃんの頭を撫でた様に、軽く彼女の髪の毛をクシャクシャっと撫でる。結衣ちゃんの髪の毛もサラサラだ。

 彼女は目を細めて見上げてくれる。

 

「こんなに頭を撫でてくれるの久し振りですね。今日はどうしたんですか?えへへ、榎本さんお夜食食べます?」

 

 夜食!勿論、食べますよ。

 

「うん、小腹が空いたけど何か有るのかい?」

 

「冷凍していたお正月の残りで鍋焼きうどんなら出来ます。伊達巻きに紅白蒲鉾だけですけど」

 

 寒い夜に美少女ロリが作る鍋焼きうどん!最高だ。

 

「うん、でもお願いして平気かい?」

 

「明日は日曜日ですから、朝食は8時ですよ。何時もより少し朝寝坊出来ますから」

 

 そう言ってキッチンへ向かう彼女の後を付いて行く。テーブルに座り、調理する彼女を見る。幸せだ……

 

「随分遅くまで勉強中だったけどテスト?」

 

 彼女は真面目に毎日勉強するから頭は良い。それが深夜までとなると、テストかな?

 

「奨学金制度を受けようと思って。もう高校の事も考えないと駄目ですし」

 

 奨学金制度って確か書類を学校から貰って来てたっけ?無利息の第一種奨学金だけど、本人の学力と世帯収入の確認で源泉徴収が必要だとか……

 でも僕の年収が実は多いから対象外なんだ。結衣ちゃんの成績の平均値は4.2、制度では3.0以上だから問題無いのに。

 市販の生うどんを湯がいてヌメリを取り、土鍋に調味料を入れていく。ひと煮立ちしたら、うどんと具材を並べていく。流石に手際が良い。

 

「奨学金制度?良く無い言い方だけど、結衣ちゃんはお金の心配は不要だ。もっと僕に頼ってくれた方が嬉しい。(既に僕の年収が多くて申請は不可能なんだ)」

 

 それに結衣ちゃんは僕のお嫁さんに……デヘデヘ。

 

「嬉しいです。でも出来る事はしたい。私は正明さんに頼りっきりですし……」

 

 レンゲで汁の味見をして、玉子を溶いて鍋の中へ。蓋をして蒸らせば完成だ。ミトンを嵌めて土鍋を掴んでテーブルへ運んでくる。

 僕は鍋敷きを自分の前へ用意する。

 

「有難う、美味しそうだ。一般的に美少女に手料理を作って貰うのに、世の男達がどれだけ散財するか知ってるかい?

結衣ちゃんの気持ちは嬉しいよ。でも今は無理はしないで、やりたい事を探す時期だよ」

 

 うどんをレンゲに乗せて、フゥフゥ冷ましてから食べる。うん、美味い!少し甘くした醤油ベースの汁が最高です。

 向かいに座った彼女がお茶を淹れてくれる。美少女と向かい合わせで、手作りの夜食を食べる。これだけで幸せだ。

 

「そうですね。私、私は何になりたいのかな?正明さんは私の異能を生かした仕事に就いた」

 

 彼女の言葉を途中で遮る。獣に変化出来る力は強力だが、それは彼女にとって幸せは何も無い。

 

「結衣ちゃんにヤクザな商売は向かないよ。確かに君の力は、君の一部だけど拘る必要は全く無い。

選択肢の幅は無限だよ。高校に進学して後に大学に進んでも良いんだ。何なら僕のお嫁さんでも良いよ」

 

 さり気なく勝負に出た!今までは男女の関係を匂わす発言はしなかったが、何故か僕の霊感が騒ぐんだ!早くしないとヤバいって。

 

「ふふふふっ、良いんですか?私にそんな事を言っちゃっても?大変ですよ」

 

 かわされた?いや嬉しそうだけど冗談と捉えられたか?

 

「うん、構わないよ。まぁ結衣ちゃんの将来は色んな道が有るんだ。協力は惜しまないさ」

 

 今はこれ位で良い。余裕無く急ぎ過ぎると、彼女的には危険だ。母親の情夫に狙われていたなんて過去を持つ子だ。イヤらしさを全面に出しちゃ駄目なんだ。

 

「御馳走様。洗い物はしておくよ。僕もお風呂に入ったら寝るから。じゃ結衣ちゃん、おやすみ」

 

「おやすみなさい、正明さん。…………もっと強く言ってくれないと信じられないよ」

 

 おやすみなさいの後が、良く聞き取れなかったけど?聞き返す前に彼女は行ってしまった。何を言ったんだろう?

 

 

第85話

 

 現地集合。

 

 僕は場所が分かるが皆は大丈夫なのかな?集合時間は2時だが、早めに行って荷物を積み替えてレンタカー屋に。

 料金の清算と助手席の破損を詫びて事務所の方に請求書を送る様に依頼。停めてある車までタクシーで行ってから、八王子の廃墟ホテルへ向かった。

 途中電話で執事さんと話したが、管理会社との契約は破棄したそうだ。建物自体を解体する事にしたからと。

 確かに放置し続ける限り問題は無くならない。心霊現象もだだっ広い空き地だと余り聞かないからね。

 予定時刻の15分前に到着したが、既に稲荷神社の周りに人集りが出来ている。近くまで歩いて行くと、亀宮さんに捕まった。

 

 今日は完全に仕事モードだな。

 

 動きやすいパンツタイプのスーツを着込み、腰に小さなポーチとトートバッグを肩から提げている。靴はスニーカーだ。

 ちゃんとフィールドワークに適した格好をしている。お供の二人も同様だ。

 

「ねぇ榎本さん。アレには何も居ないわよ。亀ちゃんも反応しないし……建物には居るみたい」

 

「凄いな。そんな事まで教えてくれるんだ?」

 

 亀の霊獣とある程度の意志の疎通が出来るみたいだ。僕は胡蝶と普通に会話出来るが、彼女が素直に教えてくれるとは限らないからな……

 

「何となく目線や警戒度合いで分かるのよ。因みに榎本さんには亀ちゃん、警戒MAXよ。私の前に立ち塞がる様にするなんて貴方が初めてだし。

少し怯えも入ってるわ。榎本さん、貴方も何かを憑かせてないかしら?」

 

 同類故に何となく分かるのだろうか?この前のベロベロに悪酔いした面影が全く無いぞ。

 

「僕の能力に関する事は秘密だよ。それに亀ちゃんが警戒してるのに、ほいほい僕に近付いちゃ駄目だろ?」

 

 何だろう、ニコニコ笑ってるけど?

 

「貴方、良い人でしょ?だから平気なの」

 

 鼻先に指を指されながら宣言されましたが?

 

「良い人?僕が?何処が?」

 

 散々、エロい人とか欲張りとか抜け駆け野郎とか言われましたよ。しかも喧嘩した後は彼女達を怒ったし……

 

「人見知りっぽい小笠原さんが懐いてたしね。私が酔っ払った時も、嫌な顔せずに対応してくれたでしょ?

私、覚えてますわよ。一瞬だけ私のショーツを見たけど、その後ずっと視線をそらして……普通はベロベロに酔っ払ってるなら遠慮なく見るでしょ。

女好きって噂も当てにならないわね。だって純情なクマさんなんですもの。だから大丈夫なの……」

 

 魅力的な笑顔で言ってくれましたが、趣味の違いで興味が無かった事を考えると大変心苦しい。

 でも、あの時の記憶が有るの?てか気付いてたならスカート直せよ。恥じらいが無いのか?

 

「どうやら御霊抜きが終わったみたいだ。アレは問題が無かった。つまり本命はホテルの方……今夜が勝負。亀宮さんの頑張り次第だね」

 

「ええ、任されましたわ。でもサポートはしてくれるんでしょ?」

 

 当世最強と言われた亀宮さんと亀ちゃんなら平気だろう。果たして僕のサポートが必要かも分からないが……

 

「あら?榎本さんは私には期待してないと?あらあら私をあんなに嫌らしい目で見ていたのに」

 

 馴れ馴れしく腕を組んできたぞ、聖職者の筈だろシスター・メリッサ!

 

「アンタは本当に全然記憶無いだろ?勝手に捏造しやがって!」

 

 肉感的シスターズに取り囲まれてしまった。彼女達はやはり修道服に身を包み、十字架のペンダントを付けて聖書を持っている。

 お付きの二人はショルダーバッグを肩から提げている。カチャカチャとガラスの当たる音がするから、聖水が入ってるのかな?

 清めた塩と違い重いし大変だよね。

 

「大体、お供の二人は百合百合しく抱き合って酔いつぶれてただろ。メリッサ様はカウンターで愚痴ってたろ。

何処に僕の嫌らしさが有るんだよ。ちゃんと人を呼んで部屋にも運んであげたのに!」

 

 ナニその思案顔?首に人差し指を当てて考え込む仕草なんかして。ちょっと幼い感じがグッドです!

 

「貴方が私を部屋に運んだんじゃないの?ホームバーには私達と貴方しか居なかったじゃない?てっきり部屋で下着で寝てたから、悪戯されたかと……」

 

「してない!人をサラッと性犯罪者に仕立て上げるな!ちゃんと執事さんに連絡して女性のお手伝いさんを呼んで運んで貰った。小笠原さんも見ていたから聞いてみろ」

 

 あらあら、エロいとか言われてるのに意気地なしなのね。とか笑いながら去っていったぞ。

 

「僕の築き上げたイメージがガタガタだ。何だよエロいとか意気地なしとか!襲った方が良かったのか?彼女達のプライドを傷付けたのか?嫌だけど……」

 

 大地に両膝を付いてガックリとうなだれる。この調子だと今夜もからかわれて終わりそうだ。

 

「おっきい筋肉がうずくまってると邪魔ですよ。大分彼女達と仲良くなったみたいですね?」

 

 声を掛けられて見上げれば高野さんが居た。珍しく私服だが、怪我の具合は大分良いみたいだ。包帯も少なくなり代わりにバンドエイドを貼っている。

 

「どこが?絶対彼女達と酒は呑まない。碌な事にならない。

確かメリッサ様は高野さんの紹介でしたよね?彼女達から力は感じますが、有名なんですか?」

 

 何だろう?面倒なタイプの笑みを浮かべたぞ。

 

「榎本さん、彼女達が気になるの?でもそうよね。同業者との仕事を殆どしなかった貴方が今回は複数の霊能力者と仕事をしているもんね。

勿論、最初の日みたいに勝手に一人で仕事しちゃうけど、今回はサポートだし。結構取り纏めも上手なのに何故単独を好むの?」

 

 今、色々とヤバい情報が有ったぞ。立ち上がって膝に付いた埃を払い、冷静に彼女を見る。

 人畜無害な笑みを浮かべているが、彼女は僕の過去の除霊スタイルを知っている。

 胡蝶絡みで目立たない様に暮らしていた僕の情報を……

 

「複数で挑む案件は大抵が巨大な敵だ。僕は身に余る仕事はしない主義だからね。必然的に一人で出来るし料金もソコソコの仕事を選ぶからだよ。今回は特別だ」

 

「小原さんは貴方を気に入ったわよ。彼には敵が多いし、私の身に余る連中も現れた。私は貴方に協力して欲しいの……」

 

 高野さんは小原氏から僕の引き抜きを依頼されているのか?だが胡蝶の件も有るし、お抱え霊能力者になるのは無理だ。

 

「僕はこう見えても自由気ままな生き方が好きなんだ。単発仕事なら考えるけど、誰かのお抱えは嫌だな」

 

 少し距離を取り、正面を向いてポケットに手を入れたな。何を取り出すつもりだ?

 

「はっきり拒絶するわね。でも単発なら良いって言質を取れたから良いわ。あの亀宮さんが警戒する程の霊能力者を野放しには出来ないもの……」

 

 邪魔するなら排除するってか?流石は小原氏の専属霊能力者だけの事は有る。今までの情けない感じはフェイクかよ。

 人を値踏みする様な冷たい目は修羅場を潜った連中の目だ。つまり犯罪ギリギリなラインで生きる連中か……

 無意識に背中に隠した特殊警棒に手が伸びる。

 

「貴方の目……躊躇無く人殺しが出来る目だわ。優しいクマさん、情けない結界専門の霊能力者。

どちらも私達の表の顔。では裏に廻ればどうなのかしらね?貴方、本当は何者?」

 

 この女、僕の正体には気が付いてないのか?正体?僕の?

 

「くっくっく……」

 

 思わず笑いが込み上げてしまう。

 

「何よ?何が可笑しいのよ?」

 

 後ろ手に廻して特殊警棒を握っていた手を離して万歳をする。

 

「いや、別に……君達と敵対する必要なんて全く無いのにね。神泉会は桜岡さんにとっても厄介な相手だ。共闘してくれる小原さんに協力は惜しまないよ。敵の敵は味方だからね」

 

「そうか……貴方の楔は桜岡さんなのね。でも確かに共通の敵だから、協力して行きましょう」

 

 彼女もポケットから手を出してくれた。あの距離なら何を取り出しても特殊警棒で払う事が出来たと思うけど……油断がならない相手だよな。

 

「一つ教えてくれる?君は小原さんの愛人かい?其処まで彼を心配するなんてね」

 

 目を見開いて……あれ、怒ってる?

 

「私が?アレと?それは無い、絶対に無いわ!ただ、お得意様には変わりないからね。給料分の仕事はするわ。只でさえ自慢の結界を抜かれたんだから悔しいのよ!」

 

 私のプライドがズタズタなのよ。結界は今も正常に機能してるのに、中に現れるなんてさ……ブツブツと独り言を言い出したぞ。

 確かに結界は機能してた。でも、あの夜と同じ様に中に入ってきたんだよな。

 

「あの女の霊だけど、多分強引に結界に入り込んだと思う。足とか結界の影響で爛れてたけど、気にせず歩いていたし。

高野さんの結界の穴じゃなくて根性で侵入したんだよ。またはマゾな悪霊?でも結構弱ってたから、結界自体は効果が有ったと思うよ」

 

 前に僕が清めの塩で祓った時の傷も、そのままだったからダメージ蓄積型だと思う。

 

「根性?性癖?そんな精神論かエッチな趣向で私の結界は破られたの?」

 

 凄い嫌な顔だ。本来の彼女は結構毒舌家なのかもね。

 

「君の結界は凄いよ。僕は簡易的なのしか学んでないからね。そもそも仏教でガッツリ結界張るなら、体中にお経を書かなきゃ」

 

 清めの塩がお札、床に墨で経文を書く結界も有るけど僕には無理だ。

 

「耳無し芳一なんてね。ふふふっ、お互い上手く付き合って行きましょう」

 

 手を差し出して来たので軽く握手をする。冗談が通じる位には信用してくれたみたいだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 亀宮さん・メリッサ様・高野さんと女性陣全てと会話してから一旦お開きとなった。小原氏の手配でベースとなる民宿を貸し切って居る。

 女性陣はホテルで無い事に不満タラタラだが、現場の近くで如何にも怪しい連中を泊めてくれるホテルは無いだろう。

 僕も現物を見るまでは、そう思っていました。

 

「岱明館(たいめいかん)か……昭和の香りが漂う純和風な民宿だね。一応温泉が出てるみたいだよ」

 

 案内された民宿を見上げて無難な感想を言う。木造二階建て、外壁は漆喰塗り。屋根全体が瓦葺きか……

 

「ねぇ小原さん、宿泊費ケチったのかな?」

 

「私に聞かれても……地図は間違い無いわよ。名前も合ってるし」

 

 高野さんと二人、入口で呆然とする。僕等の後ろでは、亀宮さんとメリッサ様達が凄い勢いで文句を言い始めた。彼女達の対応を真面目にしたくは無い。

 

「僕も文句を言う方に回って良いよね?高野さんは専属霊能力者だから施主側だ!

僕はちゃんと基本契約書に与えられた施設・設備についての項目が有る。これは霊的防御以前に対人防御も難しい。改善を要求出来る、と思う……」

 

 絶望的な眼差しで僕を見詰める彼女が気の毒になり、最後で妥協した。

 

「榎本さん、二人で頑張るって約束したじゃない。熱い握手も交わしたのに、いきなりの裏切り?」

 

 この女、僕を巻き込むつもりだな?後ろの連中に聞こえる様に大声で言いやがった!

 

「頑張る以前の問題だ!じゃ僕は此処で良いから、亀宮さん達の宿泊場所を確保してよ。

うら若き女性には辛い宿泊施設だ!僕は文句は言わない」

 

 レトロな民宿だが、僕は平気だ。後ろの女性陣を説得するのが嫌なんだ。

 

「きっ汚いわ!私だって此処で良いわよ。亀宮さん達は自分で小原さんに文句言ってよ!夜10時の現地集合に間に合えば文句は言わないわ」

 

 二人で騒ぎながらフロントまで歩いて行く。横目で互いを見るがニヤニヤしていた。だって僕等は言い争いながら彼女達から逃げ出したんだ。

 

「こんにちはー!小原で予約してるんですがー」

 

 無人のフロントには呼び鈴も無いので、暖簾の奥に声を掛ける。

 

「はーい!」

 

 奥から出て来た女将さんは、50歳位の品の良い小柄な方でした。

 

「今日からお世話になります、榎本です。小原さんから何か聞いてますか?」

 

「ええ、榎本さんと高野さんと言う方が幹事だから、希望は聞く様に伺ってます」

 

 思わず高野さんと顔を見合わせる。やられた、小原氏には現状がお見通しみたいだ。つまり……

 

「「僕等が彼女達の面倒見るの?」」

 

 

第86話

 

 小原氏が用意してくれた宿泊施設は、昭和レトロな民宿だった。僕は気にしないが、女性陣には大不評!

 しかし宥めるのも説得も僕の仕事じゃない。一緒に文句を言おうと思ったが、高野さんの絶望的な顔を見て諦めた。

 

 僕は此処で良い!

 

 そう言ってフロントに向かう。高野さんも便乗して嫌なら自分で探せと僕に付いて来る。

 作戦は上手くいったが、女将さんが居るのに後ろで文句を垂れる連中に赤面だ……

 

「えっと、後ろの連中は気にせずに……僕等は四組です。三人が二組、後は一人ずつ二組。後ろの連中が三人組なので一番広い部屋を」

 

 女将さんは苦笑いだ。

 

「二階に12畳和室の大部屋が三部屋有ります。一階は6畳和室が四部屋と宴会場・大浴場が有ります。トイレは共同です」

 

 見事な田舎の民宿だ。バス・トイレ共同だと!

 

「女性陣を二階へ、僕は大浴場から一番遠い部屋で。二階の割り振りは高野さんに任せます。

夕食は6時から、僕等は9時半に出掛けます。帰りは明け方になると思いますが、戸締まりはどうしますか?」

 

 決め事だけ全員の前で話しておかないと、聞いてないとか言われそうだ。

 

「夜間外出は聞いております。呼び鈴を鳴らして頂ければ鍵は開けます。朝食はどうされますか?普通だと8時からです」

 

 大体5時に帰るとして、風呂に入ってから食事。そして仮眠したいな……

 

「食事は7時に出来ますか?出来れば帰ってから直ぐにお風呂にも入りたい」

 

「大浴場は清掃時間の1時から5時が入れません。ですが、お出掛け後に直ぐに清掃いたしますから大丈夫です。食事は6時位から食べれる様に準備しておきます」

 

 大分対応が良い。これは建物は古いが当たりだと思う。取り敢えず、まだ後ろでブツブツ言う連中に説明する。

 

「女将さんのご好意で仕事がやり易くなりました。女性陣の部屋は二階、僕は一階。夕食は6時、出発は9時半。

帰りは5時予定で朝食は6時以降は大丈夫。朝風呂も入れます。以上で質問は?」

 

 女子会の引率みたいだぞ。メリッサ様が手を上げた。

 

「はい、シスター・メリッサ」

 

「夕食時にお酒飲める?現地迄の移動は?車は榎本さんのしかないわよ」

 

 そう言えば引率のバスは帰ったぞ。僕は荷物が有るから車で来たけど……

 

「高野さん、何か聞いてる?」

 

 本来の引率係に聞いてみる。

 

「確かマイクロバスを用意してる筈よ。迎えに来るって言ってたから。後で確認するけど、9時半に此処に呼べば良いのね?」

 

 ああ、運転手付きのレンタカーでも手配してるのか。

 

「構わない。車の手配は高野さんの責任で、お願いね。僕は自分の車で行くよ。道具積んでるし。お酒については自己責任で……」

 

 メリッサ様の目が輝いている。

 

「お互い大人ですから、自己の責任において飲みなさいって事ね。てっきり駄目って言われると思ったわ」

 

 普通、除霊当日まで飲むか?そんなにお酒が好きなの?でも民宿じゃ麦酒・焼酎・日本酒が精々だよ。ワインとかウィスキーとかハイカラな物は無いんだよ。

 

「僕は引率でも責任者でもないですから。その辺は自己判断にお任せします。他に質問は無いですか?」

 

 他は特に無さそうだ……

 

「女将さん、部屋の案内を女性陣からお願いします。僕は其処のソファーに座って待ってますから」

 

 女将さんは壁に掛かっている鍵を取って、皆を案内しながら二階へ登って行った。僕はソファーに仰け反る様に座ると、両手で顔を擦る。

 

「疲れた……最初から疲れたよ。こんなんで今晩の除霊を乗り切れるのか?」

 

 前途多難だ……

 

「お客さん、部屋に案内します」

 

 声を掛けられた方を見れば、20歳位の髪をショートカットにした……宝塚みたいなハンサムが居た。 雄♂牝♀どっちだ?服装はパーカーにGパン、それにエプロンだが……

 

「民宿の人?えーと、女将さんの……」

 

「ええ、家は家族経営ですから。荷物持ちますよ」

 

 カマを掛けたが変な答えだ。普通なら、息子です・娘ですなのに家族経営?よく見れば喋る時に喉仏が無いな。

 

「いや女性に荷物を持たせられないよ。重いしね」

 

 そう言ってソファーを立ち上がる。

 

「どうして僕が女って分かった?見た目も言葉使いも男と変わらない筈なのに」

 

 自分の喉仏を差して「喋る時に喉仏無かったし、あの質問に家族経営って少し変だよ。普通は息子です・娘です、でしょ?」と言ってニカっと男臭い笑みを浮かべる。

 

「流石は女子会の引率者だね。女ばっかりの中に男一人だから、どんなエロ野郎かと思えば、彼女達と階も分けるし大浴場から一番離れた部屋とかさ。

凄い気を使ってるね。女癖が悪いと評判の、小原さんの知り合いとは思えないよ。さて、部屋に案内するね」

 

 そう言って先に歩いて案内を始めた。フロントを抜けて宴会場の向かい側に木製の引き戸が並んでおり、これが6畳の部屋なのか。突き当たりが大浴場みたいだ。

 直ぐ手前の部屋の引き戸を開けて、中に入る様に勧められる。部屋の中に入れば……比較的新しい畳が敷いて有り、真ん中にコタツがセットされている。

 14インチの薄型テレビの下に昔懐かしい金庫。押入と並んで備え付けの箪笥。その脇に三面鏡が置いてある。

 

「えっと、浴衣は特大を持ってくるね。部屋に冷蔵庫は無いからフロントの自販機か内線で注文出来るよ。お風呂はもう入れるから。

男女の入れ替えは清掃後だよ。それと一応ご案内しないと駄目なんだ。避難通路は大浴場の脇に有るから確認しておいて下さい」

 

 最近は泊まり客に避難通路の説明をしないと駄目らしい。

 

「浴衣は必要無いよ。自前のを持ってきてる。しかし、なんで男装なんかしてるんだい?」

 

 もしかして女性の方が好きな方かな?わざわざお茶を淹れてくれている彼女に聞いてみる。まぁ会話が無いから振ったネタなんだが……

 

「民宿なんて宴会する客が多いでしょ。酔っ払いのセクハラが凄いんだよ。だから、男装してる。見破ったのはお客さんが初めてだよ」

 

 ハイって湯飲みを渡してくれる。女性と理解して良く見れば美人の部類だ。でもロリ道を貫く僕には首尾範囲外だけどね。

 

「そうだね……酔っ払いは大変だよね。うん、上の女性陣。酒好きで泥酔上等な絡む系だから気を付けてね。僕も偉い目に有ったから……」

 

 ははははっ気を付けるよ。そう爽やかに笑いながら部屋を出て行った。取り敢えず、出されたお茶を飲んで一休み。

 

 さて、これからどうするか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やはり大浴場に行くしか有るまい。民宿自体が貸切なら、男湯も貸切だ!

 

 着替えを持って脱衣場に向かえば、懐かしい時計みたいな体重計とマッサージ機。竹の網籠が置いてある脱衣棚。まさにレトロな銭湯の雰囲気だ!

 浴室に入れば、内湯のみだが浴槽は6畳程の広さが有り洗い場は8つ有る。先ずは簡単に体を洗い流し浴槽へ……

 

「ふぃー生き返るね。やはり日本人は温泉だよ……」

 

 両手足を伸ばして体をリラックスさせる。湯の温度も41℃と僕的には適温だ。

 

「ああ、良い風呂だな……風呂は心の洗濯らしいぞ」

 

「なっ?胡蝶さん、何で居るの?」

 

 普通に胡蝶が浴槽で体育座りをしている。

 

「騒ぐな正明。あの廃ホテルには滓(かす)しか残ってない。我の欲する物は無い。ならば温泉位楽しませろ」

 

 体育座りから大の字になり、湯船に仰向けに浮かぶ胡蝶……真っ白な肌が微かに朱を帯びていて、長い髪の毛が放射線状に広がっている。

 しかも大事な所が丸見えだ!

 

「なぁ胡蝶……お前の事を気付いている連中が居る。まぁ亀宮さんだが、左手首に何か憑いているって聞かれたんだ。何時かは人前に、お前を出さないと駄目かも知れないが……その……」

 

 プカプカと浮かびながら器用に体を此方に向ける。

 

「何だ、言い澱んで……我に頼みが有るのか?この容姿はお前好みだが、変えても良いぞ」

 

 そう言うと髪の毛が短くなり体が伸びて、静願ちゃんとそっくりになった。胸も腰も尻も足も彼女と同じだ……

 

「違う、見た目じゃない!服を着て欲しいんだ。真っ裸は問題が有るんだよ」

 

 スルスルと縮んで元の幼女の姿に戻ると、僕の膝の上に座る。

 

「なんだ、服か?うむ、お前が我の裸体を他の者に見せたくないのは分かった。もし人前に出る事が有れば、擬態しようぞ。アレか?

セーラー服・バニー・バドガール・ナースどれが良いんだ?何ならネコミミ和風メイド尻尾付きでも良いぞ」

 

 完全に遊ばれている。人の膝の上でニヤニヤしやがって!これが彼女的デレ期か?だが幼女に似合う服装だと……

 

「巫女服なんてどうだ?古き力有る存在だし、巫女服なら善玉に見えるし」

 

 ナースやメイドなんて論外だ!

 

「ふむ、巫女服か……分かった分かった。人前に出る時が有れば、巫女服を着てやるよ。

正明、雑魚ばかりだが注意しろよ。何故か近隣から浮遊霊が集まっている。数だけは厄介だ……」

 

 そう言って左手首の中に入っていった。少し前とは一転して、良く気を使ってくれるな。

 本当に前は罰と称して肉親を殺した癖に……だが既に、それを受け入れてる自分が居るのも確かだ。

 

「胡蝶か……全く不条理で不思議な存在だよ……」

 

 お湯を掬ってバシャバシャと顔を洗う。サッパリしたし、そろそれ出るかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 基本的に浴衣は肩幅が広くて似合わない。だから旅行では部屋着兼寝間着は持参だ。ゆったりとしたTシャツに半ズボンを着て脱衣場を出る。

 途中で女将さんの娘さんと会った。二階から空のビール瓶を何本か持って降りてくる。

 

「お風呂どうだった?今日は男湯は貸切だからのんびり出来たろ?」

 

 既に8本の空瓶を持っているが、上は既に宴会か?

 

「ああ、気持ちよかったよ。日本人は温泉が一番だ!夕飯まで1時間位か……部屋で休むかな」

 

 何故か階段に空瓶を置く彼女?僕を頭から爪先まで、じっくりと眺めている。オッサンを見て楽しいのかな?

 

「お客さん、凄い筋肉だね。腕とか僕の胴回りと同じ位の太さだし。太股もムキムキだね。ねぇ、腹筋見せてくれよ」

 

 ムキムキ?腹筋?変な物に興味が有るんだな、筋肉フェチか?

 

「ほら、これで良いの?」

 

 Tシャツを胸まで捲る。

 

「ああ、凄い……ゴツゴツだ。それに古傷も有るんだね。ねぇ、触って良いかな?」

 

 減るものでもないし、黙って頷く。ソロソロと手を伸ばしてくるので、触る直前に力を入れる。

 ムキムキっと割れる腹筋!ビクッと一旦手を止めるが、ゆっくりと撫で回し始めた。

 

 少しくすぐったい。

 

「凄い、カチカチだね……それにゴツゴツしてるし。お客さん、有難う。やっぱり鍛えてる男は良いよね。僕なんて全然筋肉付かなくて、ほら見てよ」

 

 そう言ってパーカーを捲って腹を見せる。真っ白なお腹には、傷一つないが筋肉の割れもない。

 滑らかできめの細かい肌だ。一瞬釣られて見るが、直ぐに視線を逸らす。

 

「無闇に肌を見せちゃ駄目だろ。コーラ有る?2〜3本、部屋に持ってきてよ」

 

 照れ臭いのと面倒臭いので彼女に持ってくる様に頼む。冬の時期なら室温でも拘らずに飲めるから、冷えてなくても良いんだ。

 

「ふふ、お客さんだけだよ。僕を女の子として扱うのはさ。僕のお腹なんか見てもつまらないだろ?

胸もペタンコだし。でも今度また筋肉触らせてよ。じゃ持ってくから部屋でまっててね」

 

 そう言って空瓶を持って奥へ走って行った。筋肉好きとは良い趣味だ!でも僕は女性のムキムキは嫌いなんだ。

 

 ペタンペタンが好きなんだ!

 

 自分と同じムキムキよりも軟らかい方が良い、断然良い!しかし、誰かに見られてたら大変な誤解を生む台詞も沢山有ったな。気を付けないと大変だ!

 


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