榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第87話から第89話

第87話

 

 夕食は正に宴会料理の定番だった。座敷に向かい合わせに席が配置してあり、一人一人に膳が用意されている。

 座布団に脇息。上座には舞台が有りカラオケセットも完備。

 料理は天麩羅・海鮮鍋・野菜の煮物・刺身・鰤の照り焼き・山菜のお浸し・茶碗蒸し。味噌汁は赤出汁だ!

 

 流石に誰もお酒は飲まない。

 

 これから仕事だから当たり前だね。亀宮さん達は全員浴衣に着替えている。

 浴衣の女性が7人も居れば壮観な眺めだ。皆さん標準以上に美人だし……でも何時の間に温泉に入ったのだろうか?

 食事中は、女将さんと娘さんが付きっ切りで給仕をしてくれる。娘さんが温かい料理を厨房から運び、皆に配る。

 見た目ハンサムボーイは女性陣に大人気だ。

 

 特にメリッサ様。良く言葉を掛けている。

 

 しかし、お酒もハンサムも大好きな聖職者ってどうなのよ?女将さんはご飯や味噌汁のお代わりに対応。

 下座に座る僕の脇にお櫃と鍋を置いて待機している。此方は僕の専属みたいな感じだ。

 

「あの……」

 

「はい、お代わりですね」

 

 お盆を差し出してくる。黙ってお茶碗をお盆に乗せる。てんこ盛りにご飯をよそって渡してくれます。特大の茶碗で……

 

「何故、僕のだけ茶碗が特大なんですか?」

 

 既に3杯目をそっと出した僕にニッコリ。

 

「お客さんの大きな手で普通の茶碗ですと、お猪口みたいでしょ?見た目から沢山お食べになるのは分かりますから」

 

 おほほほっ、とか笑われてしまった。

 

「はい、榎本さん。天麩羅追加、揚げたてだよ」

 

 そこへ娘さんが追加の天麩羅を持ってくる。海老のかき揚げにアスパラ、それと茄子とミョウガかな?

 

「ああ、有難う。熱々の料理は特別美味しいよね」

 

 天麩羅を置きながら、序でにコーラも注いでくれる。

 

「本当にコーラ好きだよね。炭酸は体に悪いんだよ」

 

 クルクルと動き回る彼女は働き者だ。

 

「良く出来た娘さんですね。この民宿も安泰かな?」

 

多少の社交辞令も兼ねて女将さん話を振ったのだが……

 

 偉い驚いた目で見られたぞ?

 

「あの……何か?」

 

「いえ、あの子を女性と見抜いた事と……お客さんに話し掛けて、まさか飲み物まで進んで注ぐ事に驚きまして。

あの子は、この仕事が余り好きではないのです。特に接客とかが……」

 

 ああ、お客さんだからと我慢してるんだろうな。セクハラとか……

 

「男として酔ってセクハラは許し難いですね。いや、申し訳ないです」

 

 娘さんの注いでくれたコーラを一気飲みする。確かにお客さんからのセクハラはパワハラも兼ねる。昔、エロい中国の人が言っていた。

 

「日本人、ミナ○ハル○ノ呪イ、カカテルネ!お客様は神様です、ネ!」

 

 そんな都市伝説が有る位、一般人のクレーマー化が進んでる。下手に対応すると、直ぐに口コミやらで有る事無い事書き込み捲るからな。

 

「ふふふ、お客さんは娘に相当気に入られたのね。名前で呼んでましたし、初めてですよ」

 

 ニコニコと微笑みかけられたら照れ臭いぞ。娘さんを見れば、他の女性陣にも料理を配っている。

 意外なのが亀宮さんとメリッサ様は、それぞれお供の方々と盛り上がってるけど高野さんがメリッサ様達と話し込んでいる事だ。

 確かメリッサ様は高野さんの紹介って聞いたけど、昔から交流が有るのかもね……

 

「本当にコーラ好きなんだね。はい、新しいの置いておくよ」

 

 料理を配り終えた娘さんが新しいコーラの瓶を2本、置いてくれる。良く世話を焼いてくれるのは嬉しいのだが、実の母親の前でやられると無性に恥ずかしい。

 何故か娘に彼氏が出来たみたいな目で見てるし……話題を変えよう。

 

「女将さん、お願いが有るのですが……」

 

「娘はあげませんよ。この民宿を継いでくれないと」これもセクハラだと思います。

 

「ははははは。彼女には、こんなオッサンより相応しい相手が居ますよ。出来れば夜食を用意して欲しいんです。

おにぎりを30個、それとポットに味噌汁を。寒い夜ですから休憩時間に温かい物を食べさせたいので」

 

 おにぎり30個はびっくりしたのかな?目を見開いたし。

 

「ウチの娘よりおにぎりですか?用意は出来ますが、おにぎりは冷えてしまいますよ」

 

「いえ、携帯コンロも鍋も有りますから。おにぎりをビニールに入れて湯煎します。だからおにぎりは個別にサランラップでくるんで下さい」

 

 サランラップにくるんだおにぎりをビニール袋に入れて鍋で沸かした湯に浸ける。所謂、湯煎だが結構温まるんだ。直火でなければビニール袋も溶けない。

 

「良く考えてますね。分かりました。用意しますので、お出掛けの時に声を掛けて下さい。お湯が沸かせるならお茶と急須、それに紙コップも用意しておきます」

 

 そうだ、飲み物も無かったんだ。女将さんのご好意に甘えていると、メリッサ様が娘さんを捕まえてカラオケを始めたぞ。

 

 曲名は「都会の天使たち」だ。

 

 娘さんの腕に絡みつきながら熱唱しております。娘さんは少し嫌そうに体を離しているが、同性だしまだマシ?

 しかしメリッサ様は何歳なんだ?この曲の歌手って堀内孝雄と桂銀淑だっけ?

 刑事ドラマの主題歌だったと思うが20年は前の曲だから、取り敢えず歌いきった娘さんに拍手だ。

 ああ、次のデュエット待ちみたいになってるよ。娘さんも手を振って無理ってジェスチャーしてるけど、断りきれないっぽい。

 カラオケの予約操作も始めそうだし、仕方無いな。

 

「はいはい、皆さーん!今日はコレから仕事、あと2時間しかありませんよ!カラオケは中止、宿の方はコンパニオンじゃないんだからね」

 

 立ち上がりパンパンと手を叩いてカラオケ大会を中止にする。彼女はこれが嫌で男装してるのだろう。

 デュエットで歌う時って結構ベタベタ触られるしね。僕の言葉に娘さんも離れて厨房に戻った。

 

「榎本さん、横暴だー!なにさ不細工だからってヤキモチ、キモーイ!」

 

「良いじゃないカラオケくらい!つまんなーい」

 

 罵詈雑言を無視して、今日のスケジュールを最終確認をする。

 

「不細工結構!

僕等は仕事で来てるんだ、遊びじゃない。今夜はフロントに9時半集合だ。高野さんはバスの最終確認ね。

現地に着けば、皆さんのやり方で結構。僕は休憩所の設置と夜食の準備をする。一応サポートもするからギブアップなら申告して欲しい」

 

 既に夕食が始まって1時間は経ってるから、もうお開きでも構わないだろう。

 

「送迎バスは9時には来ます。現地で待機はしないので、帰りは30分前に連絡して呼びます」

 

 事前に確認していた高野さんが、淀みなく答えてくれる。確かに心霊現場に待機してくれる強者ドライバーは居ないだろうし、僕等もドライバーの安全確保をしなきゃならない。

 一旦帰ってくれる方が良いだろう……

 

「後は自由だけど集合時間に遅れない様にね。はい、連絡事項はお終い」

 

 席に座り残りの料理を片付けるべく茶碗を持つ。もう1杯は逝けるだろう。暫くして娘さんがデザートを運んでくれた。

 

「これはパパイヤかな?久し振りだよ、種の周りがエグいけど美味しいよね」

 

 小さな皿にパパイヤとキュウイの半分切り、それにホイップクリームがトッピングしてある。

 

「うん、パパイヤは癖が有るけど好きなんだ。さっきは有難う。榎本さん、本当に空気読める人だよね」

 

 最後にお礼をいわれてしまった。女将さんの温い笑みが怖いんだけど……

 

パクパクとフルーツを口の中に放り込み、コーラを一気飲み!

 

「ははははっ……良く礼儀を弁えたお嬢さんですね。さて、デザートも食べたし部屋に戻りますね」

 

 何とも居辛い宴会場から、早々に逃げ出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 9時ちょっと過ぎに送迎バスが到着。集合時間には早いが、夜食を積み込む。娘さんが積み込みを手伝ってくれた。

 

「おにぎりは33個作れたから全部持ってきたよ。丸が梅、三角が鮭で海苔が無いのがツナマヨだよ。コッチが味噌汁だけど、コンロが有るって聞いたから寸胴ごと持ってって。

コッチが日本茶のセットで、2リットルのミネラルウォーターが5本で足りるかな?これは榎本さん用のコーラだよ」

 

 僕の車には乗せきれず、送迎バスに積み込んだ。

 

「有難う。これで夜食は万全だよ」

 

 コーラだけは自分の車に乗せた。旅館らしくガラス瓶タイプのコーラを6本だ。彼女は積み込みが終わっても民宿に戻らない。

 僕の周りを一周歩いてから、腰に差した特殊警棒を抜き取る。

 

「榎本さん、格好良い服装だね。自衛隊みたいだし、コレって特殊警棒だろ?」

 

 ん、格好良い?自分のスタイルを確認するが……下からコンバットブーツ・ワークパンツ・腰にポーチと特殊警棒とマグライト。

 背中には大振りのナイフを隠している。合皮のジャケットにワンショルダーのバッグ。焦げ茶と黒で統一された何時もの仕事着だ。

 

「そうかい?暗いから当社比200%で格好良く見えるだけだよ」

 

 伸ばして遊ぶ彼女から特殊警棒を受け取る。

 

「僕はコレでも僧侶の資格を持ってるんだよ、在家だけどね。今は調査事務所を構えているが、警備会社擬(もど)きの事もするんだ。

今回もそう。彼女達は所謂霊能力者って奴で、小原さんの所有してる潰れたホテルのお祓いをしに行くのさ」

 

 多分、宿泊の予約時に大体の事は聞いてるだろうから正直に話す。メリッサ様達なんて最初から修道服着てたし、普通ならコスプレかと思うだろう。

 

「榎本さん、お坊様なんだ!ムキムキだと少林寺の坊さんみたいだね。ふーん、霊能力者か……ゴメンね、胡散臭いや」

 

 正直な娘だな。胡散臭いと来たよ。

 

「ふふふ、正直だね。確かに僕も含めて胡散臭いだろ?堅気の君には世界が違うかもね」

 

 両手を挙げておどけて見せる。別に気にする事でもない。胡散臭いなんて慣れっこだし。

 

「ごっごめんなさい。そんなつもりじゃ……気を悪くした?」

 

 此方を見上げて胸の前で手を合わせて謝ってくれた。正直、素直に謝ってくれるとは意外な反応だ。

 

「気にしてないよ。慣れっこさ。悪気が無いのも分かってるから……さて準備は完了。

ボチボチ彼女達も集まって来たね。悪いが帰ったら呼び鈴を鳴らせば良いんだね」

 

 明け方になるが、起きて貰うしかない。施錠無しじゃ防犯上、心配だから。

 

「うーん、僕の部屋からだと少し遠いんだよね。呼び鈴が聞き難いんだ。そうだ!榎本さん、携帯貸して」

 

 携帯?胸ポケットから携帯を取り出して渡す。受け取った携帯を操作しているが……

 

「はい、僕の私用携帯の番号。帰ったら電話して。それと僕は晶、霧島晶(きりしまあきら)。晶って呼んでよ。じゃ頑張って!」

 

 渡された携帯を見れば、アドレス帳に登録されていた。手を振って走り去る彼女に、片手を挙げて応える。

 最近、若い子の携帯番号ゲット率が高いな。前はアドレス帳に登録した女性は、結衣ちゃんと桜岡さんだけだったな。

 静願ちゃんに晶ちゃんか……喜んで良いのか悪いのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アレから直ぐに全員が集まり、バスに乗り込み走る事30分。問題の廃ホテルに着いた……昼間と違い夜は不気味だ。

 幸い満月に近い所為も有り、月明かりが建物全体を照らしている。だが、建物の内部は真っ暗だ……

 

「さて、いよいよ本番だ。このホテルはデカい。本館・別館・従業員宿舎・プール等の野外施設も有る。高野さん、マスターキーを……」

 

 廃業中とは言え、管理会社に委託して維持していたんだ。全て施錠済みだから、鍵が無いと入れない。

 

「はい、3組しか無かったよ。客室・共用部分・野外施設と別々なんだって」

 

 渡されたマスターキーは3本3組だ。亀宮さんチーム・メリッサ様チーム、それと僕と高野さんで良いかな……

 

 

第88話

 

 いよいよ廃ホテルの除霊にまで持ち込んだ。長い道のりだった……

 僕はサポートだから今回は楽だ。胡蝶は周辺の浮遊霊が異常に集まっているから注意しろと言ってた。

 だが僕を含めて8人もの霊能力者が居るんだから、大丈夫だろう。思えば大人数での除霊作業なんて初めてだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 廃ホテルの入り口の前で最終ミーティングを行う。皆さん昼間と同じ格好だが、各々ライトを持っている。薄着だが寒くないの?

 ヒートテック重ね着とかカイロを仕込んでるとか?確かに着膨れすると動きが鈍くなるから、薄着で正しいのか?

 疑問は一旦忘れて、後ろの建物を振り返りながら説明する。

 

「見ての通り廃業してますが、管理会社に委託していた為に劣化は酷くないです。各扉は施錠されてますので、マスターキーを渡します。

無くさないで下さい。客室・共用部分・屋外施設と鍵が違います。注意して下さい」

 

 そう説明し、亀宮さんとメリッサ様に鍵の束を渡す。

 

「で、どうします?幾ら私達の自由で構わないと言われても、想像以上に広いから協力しないと効率が悪いわよ。」

 

「そうね。報酬は折半だし無理する必要は全く無いわ」

 

 やっと現実的な話になってきたぞ。ただ闇雲に除霊しても効率が悪い。順序を決めようかな。

 

「先ずは様子見で屋外施設を一緒に廻って除霊してみては?プールは霊の目撃情報も有る場所だ。

建物は1階から順番に廻るしか無いと思う。又は階層別に班分けして廻っても良いのかな?

僕は君達の除霊方法を知らないから分からないが、他に考えが有れば言って欲しい」

 

 亀宮さんは専守防衛タイプだから、攻めてくる奴らを亀ちゃんが食べるんだ。だから今回は歩き回って探さないと駄目な筈。

 メリッサ様は確か一部屋ずつ祓って行くらしい。つまり此方も全部屋を廻らなければならない。

 何処に霊が居るかなんて調べてないんだから……先ずは周りを祓って清めてから、建物内を順番に廻るしかないのか?

 

「そうね。それじゃ先ずは野外施設から廻りましょうか?メリッサさん、行きますよ」

 

「あら、亀宮さん。主導権を握らないで下さい。私達は平等な筈よ」

 

 互いに牽制してるが、能力は確かだから問題無いだろう、と思いたい。

 

「じゃ僕は此処に休憩所を作って夜食を温めてるから。高野さんは亀宮さん達と同行してよね」

 

 入り口の近くにテントを張って簡易的な釜を作ろう。後は結界を張って……色々忙しいぞ。

 

「あら、榎本さんは一緒に廻らないの?」

 

 高野さんに不思議そうな顔で見られたぞ。

 

「僕はサポート、除霊に参加したら報酬が減るよ。君は小原さんに除霊が完了したかの報告の義務が有る。

僕が請け負えばアフターで一週間は確認で残るけど、彼女達はどうかな?君が同行して確認しないと駄目じゃない?」

 

 メリッサ様を見ながら説明する。彼女が一週間も滞在するとは思えない。

 

「高野さん、行きますよ。私達の除霊作業を小原さんに報告しなさい!」

 

 メリッサ様に首根っこを掴まれ引き摺られていく。器用に涙を流して此方に手を差し伸べているが……僕は拝んで見送った。

 

「榎本さんって、結構厳しいわね。私は貴方と一緒に除霊したいわ。亀ちゃんも、そう思ってるわよ」

 

 一人残った亀宮さんがトンでもない提案をしたが、基本的に胡蝶は秘密だ。うっすらと具現化した亀ちゃんが鎌首を此方に向けて威嚇している。

 シャーとか威嚇音が聞こえそうだよ?嗚呼、鎮まれ僕の左腕!アレは食べちゃ駄目だ、食べちゃ駄目だ、食べちゃ駄目なんだ……

 熱を帯びた左手首を押さえる。アレはとても美味しい、早く喰わせろ。そう胡蝶の心の声が聞こえる、いや幻聴だよ頑張れ俺、耐えろ俺!

 

「亀ちゃんに、めっさ警戒されてますよ。今回は亀宮さんに譲りますよ。何か有れば手伝いますから……って亀宮さん、ライトは?」

 

 昼間はトートバッグを持っていた筈だが、今は手ぶらだよ。

 

「あら?鈴木さん達に渡してしまったわ。あらあら、どうしましょう?」

 

 月明かりでボンヤリと見通せるが、先発隊は結構先に進んでいる。

 

「はい、休憩の時に返して下さいね」

 

 腰に差した予備のマグライトを渡す。

 僕は基本的にマグライトは2つ以上、発煙筒もケミカルライトも用意してる。

 

「ありがとう。あら、これは発煙筒ね。救難信号用かしら?」

 

 運転免許所持者なら見慣れた赤い筒を指差している。

 

「ライトが不調な時の予備、火はそれだけで魔を祓う力が有るからね。強い霊はライトに干渉する場合もある。ここは廃墟だから火災の心配は少ない。

でも普段はこっちのケミカルライトを使う。まさか悪霊も化学反応まで干渉は出来ない。一本ずつあげるから早く行きなさい」

 

 ケミカルライトと発炎筒を受け取ると可愛いクシャミをクチュンとする彼女。何故、冬の夜にコートも着ないんだ?車から予備のパーカーを出して渡す。

 

「風邪をひくから着てくと良いよ。ちゃんとクリーニングしてるから汚れてないし、大きいけど袖を捲れば平気でしょ?」

 

 文句を言わず素直に着るが、ミニワンピみたいだ。袖を捲れば一応は動き易いだろう。

 

「おっきいわね。でも暖かいわ……ありがとうございます」

 

 ペコリとお辞儀をする彼女は、何処か普通とは感性がズレているのかも知れない。確かに強大な力を持つ亀ちゃんと共生してるんだ。

 彼女の彼氏は大変なんだろうな……ナニする時も見られてるんだぜ?

 

 アレ、それは僕も一緒じゃか!子作りを推奨されてるんだし、人事じゃなかったよ。

 

 遠くから、メリッサ様が早く来いって騒いでるのが聞こえる。

 

「お互い頑張りましょうね、本当に……」

 

「……?ええ、お留守番宜しくね」

 

 笑顔の亀宮さんと威嚇中の亀ちゃんを手を振って送り出す。彼女は僕と違い絶大な力押しで今までやってきたんだろう。

 僕みたいな小細工は必要無かったんだろうな。キラキラと尊敬する目線が痛かったんだ。

 同レベルの霊能力者達なら、同じ様な事は結構してるのにね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 休憩所の設置。

 

 先ずは敷地の入口付近に4畳程のテントを張る。風もないし雨も降ってないが、三方をシートで覆うと暖かい。

 次に周辺に清めた塩で小皿に盛り塩を作り、四方に配置する。テント内にパイプ椅子を並べて休憩所は完成だ。

 次は夜食の仕込みだ。多分2〜3時間は除霊してるだろう。温めるのは未だだが、コンロを二台セット。一つは味噌汁の寸胴、もう一つには湯煎用の大鍋を置いた。

 車から一斗缶をだして、焚き火の準備をする。山の中だから周りを見回すだけで結構な薪になりそうな枝とかが落ちているので集める。

 新聞紙を一斗缶の中に入れて火をつけたら細い枝を入れて火力を強く。ある程度強くなったら太い枝を何本かくべる。

 

 これで完成、僕の仕事も一段落だ。

 

 後は彼女達の帰ってくる時間を見計らい湯を沸かせば良い。パイプ椅子を焚き火の近くに置いて座り、暖をとる……

 パチパチと燃える炎を見ていると、時の経つのを忘れるね。暫くボーっと焚き火を見続けた……

 

「うん、暇だ。向こうからは楽しそうな声が聞こえるけどさ。なぁ、君もそう思うだろ?」

 

 結界の外に佇む影に話し掛ける。ユラユラと蠢く影は人の形をしているが、酷く不安定だ。

 

「わた……わたし……何故……こ……此処に……」

 

 自我が残っているのか言葉を発するが、何故ここに呼ばれたかが分からないらしい。

 

「此処は君の居るには辛い場所だよ。さぁ成仏しようか……

おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」

 

 愛染明王の真言を唱えて、軽く清めの塩を振り撒く。

 

「ああ……私……明るい……方……に……行く……」

 

 影しか残せなかった方だから、現世に思いも少ないのだろう。揺らぎながら消えていった……ふっと時間を確認する為に携帯電話を見る。

 当然、圏外だが……着メール表示が!開いて読むと静願ちゃんからだ。

 

「お父さん。私は無事に自宅に戻りました。

お母さんにお父さんの事を話したら、是非一度お話ししたいそうです。勿論、お父さんになってくれたとは言わずに師事させてくれたと言ってあります。

お父さんの予定の良い時に連絡を下さい。早々に其方に引っ越ししそうな勢いです。では八王子のホテルの除霊、頑張って下さい。

貴方の愛娘、静願より」

 

 

 着メール時間は21時49分。添付写真に静願ちゃんのセーラー服姿の全景を写した画像が。グレーのセーラー服って珍しいよね。

 野暮ったいデザインだが、彼女が着てると良く似合ってる。美少女は何を着ても美少女なんだな。

 

 だがしかし……

 

 コッチに引っ越すなんて聞いてないんだが?暫く携帯電話の画面を見ながら固まってしまった。これは一悶着有るだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 除霊を初めて2時間が経過した。そろそろ休憩に戻ってくるだろう。先ずは両方の鍋に水を張り湯を沸かす。

 大鍋だから時間が掛かるが仕方ない。明日は大きめの魔法瓶を用意して、お茶のお湯は沸かしたら保温しておくか……

 大鍋のお湯が煮たったら火を止めてビニールに入れたおにぎりを湯煎し、蓋をして保温効果を高める。

 次に味噌汁の寸胴をコンロで温める。美味しそうな匂いが周囲に漂い始めた……

 

「あー寒いし疲れたし面倒臭いわ!全く350万円じゃ安くないかしら?」

 

「確かに探しながら除霊ですから。誰か探索系の方が居れば楽なんでしょうけど……」

 

 愚痴が聞こえるよ、近くから?周りを見渡せば除霊組が近付いてくるのが見えた。

 

「お疲れ様様!コッチが暖かいですよ」

 

 一度沸かした湯が少し冷えたみたいなので再度沸かし直す。おにぎりの方は程良く温まったみたいだ。

 

「榎本さん、聞いてよ!散々歩き回ってプールに現れた女性の霊が1体だけですよ。

テニスコートとかパターゴルフ場とか全部歩いたの。クラブハウスの中も全部見たけど、異常は無し!」

 

 プールに女性の霊か……事前情報通りだな。

 焚き火の周りに集まる女性陣の為に、テントからパイプ椅子を運び円形に並べる。一斗缶に何本か薪をくべて火力を高める。

 

「幸先良いじゃないですか!今夜は野外施設を終えて、ホテルの1階位は見回りたいですね。

ホテル内に拠点が構えられれば楽ですし……さて、お腹すいた?」

 

 高野さんが皆にお茶を淹れてくれてるので、味噌汁の蓋を開けて温まり具合を確認する。大丈夫そうだな。

 

「お腹空きましたわ。本当に歩き回るから疲れます」

 

 亀宮さんもぐったりとパイプ椅子に座り込んでいる。皆に紙の皿を渡してから、湯煎したおにぎりを2個ずつ。紙コップに味噌汁を入れて渡す。

 女将さんが沢庵と糠漬けをタッパーに入れてくれたので、それも出す。暖が取れて、お腹も膨れれば眠くなる?30分位は休ませてあげたい。

 まだ時刻は0時を回ったばかりだから、1時に除霊再開で良いかな?焚き火が弱くならない様に薪をくべながら火の番に専念、残りのおにぎりを食べる。

 やはり梅干しが一番好きだ!

 

「ねぇ、榎本さん……」

 

「ん?休まないと後半辛いよ。で、何だい?」

 

 隣に座っていた高野さんがボソボソと話し掛けてきた。

 

「後半代わって下さい」

 

「嫌だ!」

 

 僕には休憩所を守る使命が有るんだ!

 

「短か!しかも即答?なによ、亀宮さんにはエロエロしてあげてるのに。私には冷たくない?」

 

 なっ?エロエロって誤解を招くだろ!僕は潔白だぞ。

 

「ふざけるな、エロエロってなんだよ?」

 

「なにさイヤらしい!自分の服とか着せちゃってさ!」

 

 段々言い合う声が大きくなる。

 

「「「「ウルサイ!」」」」

 

 ほら、休んでる連中から叱られたじゃないか……

 

 

第89話

 

「それでは屋外施設の残りを廻ってきますわ。榎本さん、お留守番宜しくお願いしますね」

 

「榎本さんの裏切り者!後で泣かせてやるから覚えてろー!」

 

「あらあら、榎本さんは女泣かせね。屋外施設が終わったら一旦戻るわね」

 

 上から亀宮さん・高野さん・メリッサ様だ。高野さんは一回〆ないと駄目だ……でも彼女達の中では、一番裏に精通している。

 だから見た目と態度に騙されちゃ駄目なんだよな……夜食と僅かな休憩を挟み、1時に再度除霊に向かう美女7人。

 それを見送る筋肉1人。沢山用意した夜食も殆ど完食だ。後はお茶とコーラしか無い。

 明日は眠気覚ましの珈琲も用意しよう。彼女達の装備を見れば、照明関係はマグライトくらいだ。

 室内に入る場合、自分の周囲しか照らす事が出来ない……せめて足元と言うか避難導線は明るくしてあげたい。

 

 手持ちのランタンは30個。

 

 これじゃ全く足りないな。発電機と投光器、それに延長コードが欲しい。小原さんに連絡して手配して貰おう。

 月明かりに聳(そび)え立つ異様な廃ホテルを見上げながら思う。今までとは参加人数も建物の規模も最大!

 

 予定では初日に屋外施設と本館1階を除霊。

 二日目は亀宮組・メリッサ組で偶数階と奇数階と別れて客室を除霊。

 最終日に共用部分や機械室等の地下階を除霊。

 

 こんな考えだが、問題有るかな?ただ、二日目は高野さんと別れて僕もどちらかの班に同行しないと駄目だな。

 面倒臭いが仕方ない。戻って来たら、皆で相談しよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時過ぎの午前2時半過ぎに除霊部隊が戻ってきた。

 

「冷え込んできたわ。明け方はもっと寒いのかしら?」

 

 両手を擦りながら息を吐きかける亀宮さん。実は女性陣で一番暖かそうな格好だ。すっかり僕のパーカーが気に入ったみたいで、フードも被っている。

 

「貴女は良いじゃない。暖かそうなパーカー着ててさ。私達は修道服なんです。寒いんです」

 

 やはり持っていたカイロを両手で擦りながら焚き火の前に陣取るメリッサ様。首もとを覗けばタートルネックタイプのヒートテックが見える。

 黒のストッキングかと思えば、そちらもヒートテックのタイツみたいだ。でも全体的に薄着に見えるから寒そうだな。

 

「うー、早く焚き火に当たらないと風邪ひきます」

 

 高野さんは野外での除霊に不慣れな感じだ。結界師は基本的に拠点防御だから、暑さ・寒さ対策がイマイチなんだろう。

 だが彼女はいつの間にか、ちゃんとダッフルコートを着ている。修道服だけのメリッサ様達やビジネススーツの鈴木さん達よりマシだよ。

 僕はずっと焚き火番をしていたから暖かかったが、皆は大変だったろう。

 

「はい、お疲れ様です。お茶でも飲んで温まって下さいね。成果は有りましたか?」

 

 紙コップに熱いお茶を淹れて皆に配る。両手で受け取りフーフー冷ましながら飲む亀宮さんは随分幼い感じがする。

 たしか20歳は越えている筈だが、見た目は10代半ばくらいだね。ブカブカなパーカーも幼さを醸し出している。

 凶悪に主張する双子山が無ければ、結構タイプかも知れない。

 

「全然ダメだわ。庭園の方に廻ったけど池の畔に靄(もや)みたいな霊が2体居ただけ。ただホテルを見上げた時に2階で人影を見たの。やはりホテル内が問題かしら?」

 

「靄(もや)みたいな……僕も影みたいな霊体を一体祓いましたが、周辺の浮遊霊でも集まってるのかな?

今の所、全部で4体は決して少なくは無いからね。効果は確実に有る」

 

 あのエム女もホテルの中から桜岡さんを射抜いたんだ。やはり本命は建物内か……

 

「榎本さん、パーカーの予備無いかしら?亀宮さんだけヌクヌクって腹立たしいったら無いわ!」

 

 予備の服は……

 

「うーん、後は雨合羽とブランケット位ですよ。雨合羽は使用済みだから、お薦めしませんが……」

 

 雨合羽って使用済みは変な匂いしない?ちゃんと洗ってるけど微妙なんだよな。

 

「ブランケット!貸して下さらない?」

 

 まぁ減るもんじゃないから良いけど。どうせ量販店で買ったフリースタイプの安物だし。車からブランケットを出してメリッサ様に渡す。

 

「茶色……榎本さん、センス無いわよ熊さんじゃない茶色なんて。あら、でもコレって結構大きいわね。私が羽織ると膝下まで届くわ。

結構暖かいわね……ありがとう、お借りしますわ」

 

 ブランケットを体に巻き付けて、何故クンクン嗅ぐの?

 

「あの……何で嗅ぐんですか?まだ未使用ですが」

 

「ほら、変な匂いがしてたら私に移るじゃない?神に操を捧げた私としては、男性の体臭を纏わせていては駄目なのよ」

 

 変な匂いって!

 

 仮に使用済みで僕の匂いが残っていたら、僕の体臭は変な匂い確定なんですね?でも神に操を捧げてるって、夕食の時に思いっ切り晶ちゃんに絡み付いてなかったっけ?

 実は女同士だから問題無いが、メリッサ様は晶ちゃんがイケメンだと思ってたよね?

 

「何ですか?その目線は……私達は神に嫁いだ修道女ですから、一般の男性には肌は見せませんよ。胸元や足元を覗いても駄目です」

 

 呆れた目線が獣の目線に脳内変換された!

 

「人を変態に仕立て上げるなー!見てないわ、胸なんか。いや誤解を招くから説明するが、胸が嫌いなんじゃないよ。

ただシスターがエクソシストだから珍しいのでメリッサ様を見てたけど、断じて変な所を見てはいないしイヤらしい目線も送ってないからね!」

 

 ヤバかった。

 

 最近、女性との関わりが増えたからNGな言葉が何となく分かる。今の胸なんかって台詞は駄目だ。

 女性の魅力的な部位を貶める様な台詞は危険でしか無い。私の胸なんて興味が無いのね?魅力が無いのね?とか逆ギレされかねない。

 

「ふーん、私が気になるのね?そうね、除霊を無償で手伝ってくれたら見せてあげても良いわよ?」

 

 ハラリと体に巻いたブランケットを解く。腕を組んで胸を強調しているが、亀宮さんほど凶悪なブツじゃない。

 

「エクソシストとしての除霊テクニックが見たいんです!」

 

 この手の質問には素早く切り返さないと、僕がメリッサ様の胸を見たいと思われてしまう。断言しよう、君の裸体には全く興味は無い!

 胡蝶に搾り取られてスッキリ期間が持続中の僕に、大人の色仕掛けは無意味だ。ロリを持って来い、考えてあげるから!

 

「あら、つまらないわね。大抵の男共は修道服の中身が気になる筈なのに……榎本さんってインポ?それともホモ?」

 

 毎朝元気にオッキするし特定の条件の女性が大好きなんですよ、僕はね!

 

「仕事仲間の女性をエロい目で見たり欲望の対象にしては駄目だろ!僕だって僧侶の端くれだ。自制心は鍛えている」

 

 あくまでも仕事仲間だから自制していると思わせる。自分だって一般的にロリコンが、社会に受け入れられて無い事は理解している。

 

「「「「「えっ僧侶?お坊さんなのに筋肉?」」」」」

 

 世間では僧侶と筋肉は両立しないのか?大抵、僕が僧侶と言うと驚かれる。副業プロレスラーとか言ったら納得されそうだ。

 

「そんなに驚く事か?最初の除霊で愛染明王の真言を唱えていた筈だし、途中でも教えた様な……」

 

 てっきり気付いてると思ってたぞ。確かに除霊なのに法衣も着てないし、モグリの密教系と思われたかな?

 

「くっくっく……やっぱり彼女持ちは身持ちが固いわね。日本人男性はウブが多いけど警戒心が強いから、からかい甲斐が無いわ」

 

 彼女持ち?からかい甲斐?こいつ等、実は悪魔信仰なんじゃないか?

 

 リリスみたいに男を誑かす悪女集団!

 いやリリスはアダムの最初の妻(と言う説も有る)で、エッチの体位の上下で夫婦喧嘩をしてエデンから飛び出したんだ。

 正常か騎乗かで人類発の離婚が成立した……だからリリスが悪女って訳じゃない。アダムが正常に拘り過ぎたんだ。

 その後に神とアダムが彼女が強烈な女と決め付けたんだ。彼女は悪魔とできちゃった結婚を繰り返して勢力を伸ばした……らしい。

 日本なんて48手も有るのに西洋は夜の文化が未熟……いや全然関係無い思考をしてしまった。

 

「やはり桜岡さんね?全く魅力的な女性と一緒なのに彼女に操をたててるなんて、筋肉の癖に彼女持ちなんて生意気よ!」

 

 桜岡さんが、僕の彼女?メリッサ様と高野さんが勘違いしてるぞ!僕と桜岡さんは彼女でも何でも無い、ただの親友だぞ!

 

「あら、榎本さん彼女が居るの?私、結構狙ってましたわ。霊能力者の恋人や旦那様は、理解有る殿方じゃないと苦労するのよ。

その点、榎本さんなら亀ちゃんの妨害も問題なさそうだし。私もそろそろ子供が欲しいけど、言い寄る男が全て病院直行って噂が広がって……ねぇ、皆さんも彼氏居ますの?」

 

 えっ?霊獣亀ちゃんは亀宮さんに言い寄る男を片っ端から病院送り?そりゃ幾ら美人でも御遠慮したい。お茶に誘っただけで入院とか笑えない。

 

「確かに頼り甲斐も有って強力な霊能力者ですけど……キン肉ムキムキマンはビジュアルが無理です」

 

「ボディーガードなら兎も角、彼氏はちょっと……ねぇ?」

 

「筋肉の塊の旦那様は無いわー、無理無理絶対無理だわ」

 

「うーん、確かにお買い得かも知れませんわね。これでハンサムなら……いえいえ、悪気は有りませんわ」

 

 完全モブだと思っていた、お供の四人にダメ出しされた!しかも良く考えてから、しみじみと言われたぞ。アレは間違い無く本心からの言葉だ!

 

「畜生、集団でダメ出ししやがって……もう世話しない。自分でやれば良いじゃん。車で泣いてるから、終わったら呼びに来てよ。じゃ……」

 

 朝になったら静願ちゃんに電話してメールの件を話そう。コッチに来るなら大歓迎だ。

 結衣ちゃんにも電話しよう。お土産に何が欲しいとか、他愛ない話をしよう。

 桜岡さんを誘ってフードバトルも良いよね!

 

 そうだ、昼間だけ家に帰るかな。全然通える範囲だし、宿泊する必要無いじゃん。

 

 いや、晶ちゃんに悪いか……アレ?僕は結構理解有る美女・美少女に囲まれてるよ。あんなモブ女の嫌みなんて平気じゃん!気にする必要すら無いじゃん!

 

「ははははは!僕は勝ち組なんだよ、全然気にする必要なんて無いんだ!序でに麓まで降りてファミレスでも行くか……」

 

 月に向かって大笑いをする。かなりスッキリしたぞ!足取りも軽く愛車に向かうが、強烈な締め付けが僕を襲う。特に両肩が痛いが、筋肉に力を入れて対抗する。

 

「フン!何者だ!」

 

 マッスルパワーで掴んでいたナニかを弾き飛ばす。獣化した結衣ちゃんのマジ噛みをも弾いた、僕の自慢の筋肉だ!簡単にはやられないぞ!

 

「ちょ固いわよ!何者も何も私達しか居ないじゃない」

 

「そうよ!大人気ないわよ。少し弄られた位でマジ切れして引き籠もりなんて……」

 

 どうやらメリッサ様と高野さんらしい。悟りを開いたブッダ様の様に、既に気持ちの整理はついている。

 

「何だい君達。大丈夫、気にしてないから。君達は君達のやる事をやりなさい。僕は僕の役目を終えた。

後は待機だし、何処に居ても良いでしょ?ちゃんと火の始末はしておくから大丈夫。さぁ安心してホテル本体の除霊に取り掛かって下さい」

 

 サポートたる僕の仕事は大体終わった。

 

「あちゃー、本気でへそを曲げてるよ!どうするのよ?」

 

「でも理屈じゃ間違ってないから手に負えないわ。メリッサさん、責任取ってオッパイ見せなさいよ。ご機嫌取らないと大変だわ」

 

「えー無料(ただ)で見せるのは嫌よ。高野っちが見せれば良いのよ。

小振りだけど、それが良いって男は多いわよ。ああ、駄目だわ、桜岡さんデカかったし榎本さん巨乳大好きよ」

 

 メリッサ様と高野さんの下らない相談が丸聞こえだ……何時の間にか僕が巨乳大好き人間になってるし。

 

「榎本さん、皆さんに悪気は無いのよ。良かったら私のオッパイを触っても良いわよ」

 

 天然なのか?知らない内に隣に居る亀宮さんから爆弾発言が来た。しかも実体化した亀ちゃんが本気で威嚇行動してるし……

 お詫びにオッパイ触って良いと言う亀宮さんだが、めっさ亀ちゃんが牙を剥いて今にも噛み付きそうだ。あのマシュマロを揉んだ瞬間、僕の手は喰い千切られるだろう。

 

「ごめんね、亀宮さん。気を使わせて……もう大丈夫だから、男にホイホイ乳を触っても良いなんて言わないで下さい。

ああ、高野さんもメリッサ様もお気になさらずに……」

 

 あのまま拗ねたら僕が悪人になっちゃうよ。亀宮さんって天然なんだか計算高いのか分からない人だな。

 隣でダブダブのパーカーを羽織り、ニコニコと此方を見上げる彼女を見て思う。亀ちゃんが居る限り、亀宮さんは間違い無く聖女に違いない。

 彼女の方が余程大変だなぁ……

 

「あの……何か?」

 

「いえ、力になれる事はしますから……頑張って下さいね」

 

 早く彼氏が出来ると良いですよね。

 




新年明けましておめでとう御座います。今年も宜しくお願いします。

年始は忙しいので投稿ペースは落ちそうです。

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