第93話
朝食も終わり後は寝るだけだ……皆さんはね。僕は違うのよ。晶ちゃんの注いでくれたお茶を飲んで一息。
女性陣をぐるりと見回して確認するが、殆ど完食みたいだ。周りと雑談したりして、マッタリとしている。
「はい、注目!僕は9時になったら昨夜の事を小原さんに報告して指示を仰ぎます。場合によっては今晩は中止になるかも知れません」
美人8人に注目されるのは照れる。何故か晶ちゃんも僕を見てるし。女将さんは気を利かせて奥へ引っ込んだ。
「はーい!私達は相談に参加しないの?蚊帳の外は嫌なんだけど」
「榎本さん、また勝手に独りで解決しないでよね!私達が居る意味無いじゃん」
「あらあら、施主との交渉を独りで進めるのは駄目ですわ。殿方はグイグイ引っ張ってくれる位が良いですが、今回は駄目です」
上から順に、高野さん・メリッサ様・亀宮さんです。確かに協同作業だから抜け駆け前科持ちの僕は、怪しいんだろうな……
「うーん、秘守義務が有るから最初から全部は話せないよ。小原さんの了解を得ないと……
それに電話じゃ全員で話すのは無理だし。高野さん、小原さんの予定分かる?アポ取れるかな?」
専属なんだ、独自の直通連絡方法くらい有るだろ?彼女は見た目より、ずっと強かで腹黒い筈だよ。それに一応、お目付役だと思うんだ。
「そりゃ有るわよ。榎本さんは何処に連絡するつもりだったの?」
呆れ顔で言われたが、本来の貴女の仕事だろ!監視役が施主と直ぐに連絡が取れない訳が無いじゃん。
「屋敷に電話して執事さんに聞くか、最初の連絡先か……でも、お目付役の高野さんならホットラインが有ると思ってた。
君は見掛けによらず強かだ。僕等の監視も兼ねてるんだろ?」
「なっ?人聞きが悪いわね。確かにちゃんと仕事しているか報告する様に言われてるけどさ。
何よ強かって、か弱い結界師に向かって。榎本さんの方が、ずっと秘密主義で強かよ!」
やっぱり……護衛専門の彼女が行動を共にするのはね。信頼する人手が居ないか、お目付役として適任者かのどっちかだ。
彼女は何か隠し玉が有る筈だよ。防衛でなく攻撃に同行するんだから……あの時、ポケットから何か出そうとしてた。
アレが隠し玉かな?
「僕は事前に、あの廃墟については入念な調査をしてるからね。悪いが小原さんの対人関係から、過去の不審死を遂げた人達まで調べてる。
その情報に触れる部分は、今は小原さんに雇われている僕には……君達には教えられないんだ。基本契約書にも書いてあるんだよ」
ブーブーとブーイングの嵐だが、仕方無い。
「じゃ榎本さんが、小原さんと交渉して下さいな。それを私達に教えて下さい。勿論、小原さんの了解を得て下さいね」
亀宮さんが折衷案と言うか、現状ではこれしか無いだろう意見を言ってくれた。実際、小原さんに聞くしかないんだよ。
「じゃ高野さんが小原さんに連絡を取って、僕が交渉する。それで教えられる範囲を君達に教える、OK?」
「いいわ。私達は仮眠するから宜しくお願いね」
取り敢えず話は纏まった。亀宮さんが居てくれて本当に良かった。最初は不安だったが、今は本当に感謝しています。
いきなりメリッサ様と掴み合いの喧嘩をしたり、ベロベロに酔っ払って絡んで来たり……でも仕事に関しては肝が据わってるし理解も早い。
ただ亀ちゃん任せって訳じゃないのだろう。ただ、少し現実離れしてる気もするけど……まぁ良いか。
「じゃ高野さん、連絡宜しく!9時にフロントに集合ね。僕は風呂に入ってから少し寝るから……」
欠伸をしながら部屋に戻った。
◇◇◇◇◇◇
今朝の二の舞は踏まない。キッチリと目覚ましを掛けて起きる事が出来た。そう8時50分に起きたのだが、既に部屋に高野さんと亀宮さんが居た。
テーブルで向かい合って座布団に座っている。普通にお茶とか飲んでるんだけど?
「あら、おはようございます」
「起きたの?結構不用心なのね、冬眠のクマさんみたいよ」
普通に対応された、不法侵入者に普通に対応されたぞ!
「男の部屋に無断で侵入して、普通にお茶を飲んでるってどうなの?」
布団から起き上がり身嗜みを確認する。うん、悪戯されてない。
「はい、どうぞ」
亀宮さんが、お茶を淹れてくれたのでテーブルに座る。
「何で居るのさ?おかしくない?てか、おかしいよね?」
文句を言っている部屋の主を前に、携帯を弄ったり温泉饅頭を食べるの止めて下さい。
いや、亀宮さん。温泉饅頭が欲しくて、貴女を見ていた訳じゃ……勿論、貰いますよ。コレ、フロントの売店で売ってた奴だな。
「はい……はい、そうです。はい……今代わります。はい、榎本さん。小原さんと繋がってますよ」
高野さんが携帯を渡してきた。僕が亀宮さんに温泉饅頭を箱ごと勧められた時に、ちゃんと仕事してたんだ。
女性らしい?某海賊王の仲間のご当地チョ○パーストラップがジャラジャラ付いたスマホを渡された。
君は女子高生か?しかもスマホ派かよ!
「もしもし、榎本です。すみませんが確認したい事が有りまして……」
「何かな、改まって?聞けば除霊は捗ってないそうだね?」
チクリて嫌みを言われてしまった。
「ええ、最後に廃墟のボスらしき霊と対峙しましたが……あれは小原愛子さんの霊でした。見違える筈はありません」
「小原……愛子だと?どう言う事だ、榎本君!君は何処まで知ってるんだ?」
動揺したな……死に別れた妻が自分の所有するホテルに化けて出るとなれば、平常心では居られまい。
「申し訳有りませんが、僕は調査の途中で彼女に辿り着き写真も見ています。昨晩ホテルに現れたのは、間違い無く彼女でした」
「そんな……馬鹿な……」
そう呟いてから会話が途絶える。小原氏が話すまで待とうと30秒は待ったが、反応は無い。
「それで僕達は一旦除霊作業を中止し、小原さんに判断を仰ぎたいのです」
結構重要な話をしているのに、周りを見れば高野さんと亀宮さんはお茶のお代わりを淹れていた……超無関心だ!
「榎本君……君ならどうする、どうしたい?私は、どうすれば良いんだ?」
確かにどうすれば良いなんて、普通じゃない状況だし判断なんて無理だろう。だが元とは言え夫婦だったんだ。
最後は看取って欲しい。それが霊であろうとも……
「出来ればですが、除霊現場に立ち会って頂きたい。ご自分の目で確認して頂くのが一番かと。安全には配慮します。
元々、僕と亀宮さんだけでも除霊は可能でした。ただ、お知らせもせずに祓うのが嫌だったんです」
「私が……会えるのか?話せるのか?」
ん?会える?話せる?だと?捨てた女に対する言葉じゃないよな。何か僕やオヤジさんの知らない事実が有るのか?
「話せるかどうかは……詳細は直接会ってからで。他の人達には話を伏せてます。高野さんと、最後まで残り一緒に彼女を見た亀宮さんだけが知っています」
「分かった。配慮、ありがとう。今晩6時には必ず宿の方に行く」
これで今晩にでもケリが付くだろう。小原さんにはレンタル業者から機材の手配が出来るか聞いたが、後で領収書で清算すると言われた。
これで照明についても解決だ。携帯電話を切って高野さんに返す。一瞬操作が分からなかったが、何とか出来た。
二人仲良く温泉饅頭を食べていたが、食べ方が対局だね。豪快に一口で食べる高野さん、両手で持って上品に食べる亀宮さん。
僕を食べようと鎌首を持ち上げる亀ちゃん?
亀ちゃん、いい加減に僕が危険人物じゃないって理解してよ。
「今晩の除霊作業に小原さんが立ち会います。6時には民宿に来るので、そこで詳細を話しましょう」
僕も温泉饅頭を一つ取り、包装紙を剥がして口に放り込む。さっぱりとした粒餡とモチモチの皮が美味だ!
「小原愛子って小原さんの前妻でしょ?死に別れたって聞いてるわよ」
「それで榎本さんは昨晩は私を止めたのね。確かに元妻を亀ちゃんが食べたら嫌だわ。私も後味が悪かったかも……」
後味か……胡蝶が食べた奴らは彼女に捕らわれるんだ。成仏なんてしないだろう。
じゃ霊獣亀ちゃんが食べた連中は、どうなるのかな?いや、怖くて聞けないよ。
「僕は午前中に地元のレンタル屋から発電機や投光器。延長コードとかを借りてくるけど君達は……休んでてね」
2トントラックに発電機その他を積んで、一旦民宿へ戻る。現地で受け取りなんて無理だろうし……
「榎本さんだけ働かせるのは悪いわ。私も手伝おうかしら?」
「えー肉体労働は筋肉の役目じゃない?だって、その為の筋肉でしょ?」
早く段取りして仮眠したいんだ。高野さんを無視して亀宮さんにお礼を言う。
「亀宮さん、ありがとう。多分亀宮さんには小原さんの護衛を頼むと思うから、早めに休んで欲しい。
高野さん、黙れ!それと結界用の水晶を一つ頂戴。今晩の仕込みで使うから。こう親指位の大きさの奴が良いな」
「私の扱いが酷くない?小笠原ちゃんといい亀宮さんといい、アレでしょ?
榎本さん、巨乳好きなんでしょ!きっとそうよ。
小笠原ちゃんはアレで着痩せするタイプだし、今朝風呂で見た亀宮さんも凶悪なブツぶら下げてるし。
本当にエロいわね。榎本さんのバカヤロー!」
プリプリと怒って部屋を出て行ってしまった。僕が巨乳好きだと?フザケルナ、僕はツルペタはにゃーんが大好きなんだよ!
「あの……私の胸が目当てなんでしょうか?桜岡さんも中々の大きさでしたし……」
亀ちゃんが具現化して胸の部分をスッポリ隠している。亀ちゃん、言葉が通じるんだな。
亀宮さんも困惑顔で胸を隠しているし、最悪な誤解だ!変な雰囲気になっちゃってるし、どうするんだよ?
「えっと……その……む、胸の件は誤解です。その、小笠原さんも亀宮さんも僕に親切に接してくれたからで他意は無いんです。
高野さんは、ああ言って楽しんでるだけですよ。さぁ亀宮さんは休んで下さい。後は僕がやっておきますから……」
立ち上がりお辞儀をして部屋を出る亀宮さんをほぼ甲羅で隠した亀ちゃん。違う意味でも誤解された……
こんな扱いを受けると、結衣ちゃんや桜岡さんの大切さが身に染みるな。帰ったら旅行にでも誘おう。
三人なら二部屋取って、結衣ちゃんと桜岡さんが同室なら変な疑いも掛けられないだろう。ああ、忘れてたけど静願ちゃんに電話しなくちゃ!
◇◇◇◇◇◇
晶ちゃんにタウンページを借りて、近くのレンタル屋を探す。ニッケン・アクティオ辺りが大手で品揃えも多い。
八王子支店に連絡をして在庫の確認をし2トントラックに積み込んで運んで貰う事にした。
勿論、発電機の燃料は満タンにして貰うのを忘れない。受け取りをしたら、やっと眠れるよ。
◇◇◇◇◇◇
「はい、確かに……私は直接見てませんが、確かに強力な霊でした。私の結界を抜いて扉を閉めたり、周囲を氷点下に下げたり出来るのです。
亀宮さんと二人で他の皆の脱出時間を稼いで……
そうですね、今の所彼に不審な所は有りません。何度か他の女性をけしかけたりもしましたが、特に何かする様子は有りません。
多分ですが、桜岡さんと付き合ってるみたいですし身持ちは固いかと。今回の件も彼女の身に降りかかった疫災を祓うのが主目的でしょう。
ええ、此方と敵対はしませんが引き込みに有効な手段も有りません。女・金、どちらも興味が薄い感じです。
不思議と女性から接近する場合も有りますが、男女の関係に発展させるつもりは無さそうかと……
ただ義理堅いので、このまま恩を売れば或いは……はい。引き続きその様に行動します」
定時報告を終えて考える。榎本、アレは危険だ。優しい巨漢、頼り甲斐の有る筋肉。
普段は危険な気配が全く無いから女性が寄っていくが、本性が酷いロリコンだ。どんな美女・美少女でもアレの好みから外れる相手には、エロい気配が全く無い。
ある程度の美人なら異性のイヤらしい目線に晒され慣れているから、彼の全くエロくない態度は新鮮だろう。
その癖、面倒見が良いから誤解に拍車が掛かる。だが、だが当世最強と言われた亀宮さんの霊獣が警戒する程に強力だ。
しかも私の隠し玉の水晶指弾を見抜いた。それを寄越せと言ったんだ。何処まで此方の事を調べてるのか不安だが……味方に引き込めば心強い。
芋づる式に亀宮さんも付いて来そうだし。弱みを見付けられれば、楽しい事になりそうね。
酷いロリコンと脅してみる?
無駄ね、証拠も無いし桜岡霞と言う妙齢の美女と付き合っているからデマと笑われる。しかし……
逆にアレだけのロリコン野郎を落とした彼女の手腕を知りたいわ。どんな手を使ったら、あんなペド野郎が言い成りになるのかしら?
ふふふ……うふふふふ……楽しくなって来たわね。
第94話
今夜の準備の為に照明器具の準備を終えた。後は秘密兵器の準備なんだけど、水晶を貰おうと思った高野さんは逃げた。
小原さんから結界の材料費もケチられてるから大変なのかな?むう、今の内に買い出しに行こう。だが、水晶って何処に売ってるんだ?
民宿の駐車場でレンタル機材の受け取りをしていたら、晶ちゃんが出て来た。2tonトラック山盛りの投光器や電工ドラム、それに三脚を見て驚いてる。
「凄いね、まるで何かの工事をするみたいだよ」
運んできた業者さんに、伝票にサインをして渡す。営業車と二台で来たから運賃が掛かるのね、トラックの運転手の足は必要だもんね。まぁ経費だから問題無い。
「ん、そうだね。廃墟の中って真っ暗でしょ。マグライトだけじゃ心許ないからね。それに今夜は小原さんも来るから」
ああ、あの女好きで有名な人でしょ?嫌いなんだよね、エロ親父ってさ。とか結構酷い事を言ってますよ。どれだけ地元で女好きの悪名が有名なんだろう?
「そうだ、晶ちゃん。この辺に水晶とかパワーストーンを売ってる店を知らないかな?」
晶ちゃんも女の子。貴金属店位は知ってるかな?
「水晶?うーん、何に使うんだい?僕はこんな形(なり)だから宝石や貴金属は……」
両手を広げて服装をアピールする。今朝はトレーナーにチノパン、それにマフラーを首に巻いている。少し薄着じゃないか?
「仕事でね、必要なんだけど……ああ、タウンページで調べれば良いかな。貴金属店だと高いから、パワーストーンとかを扱ってる店が良いんだけど」
宝石としてのカットとか透明度は、余り必要じゃないんだ。水晶は霊力を蓄えられるし、大きさと重さが適当なら良いんでね。
「そうだ!今夜も夜食お願いして良いかな?それと眠気覚ましに珈琲も用意して欲しいんだ。日本茶の他に頼んで良いかい?」
小原氏も増えるが、量は大して変わらないだろう。一緒に玄関に向かいながら、今夜の夜食をお願いする。
「任せてよ。榎本さん、車無いんだろ?ウチの車で送ってあげるよ。アレで買い物に出掛けるのは流石に嫌だろ?」
満載の2トントラックを指差す。何で事故って他に停めてる事を知ってるんだ?
「誰から聞いたの?高野さんだろ?」
「うん、まぁね……榎本さんがエロくて巨乳好きとか言ってたよ。勿論、僕は信じてないから平気だよ」
あのアマ……トコトン僕が嫌いなんだな。
「はははは……全く根も葉もない嘘ばかり言いやがって。車を出してくれるのは嬉しいけど迷惑じゃない?何ならタクシー使うから平気だよ」
どうせ経費で請求するし、大した金額でも無いし。彼女に迷惑かける位なら……
「勿体無いよ。それに買い出しも有るんだ。榎本さん、力持ちだから手伝ってよ。それでチャラだね」
ニカって笑う晶ちゃんの笑顔は……イケメンだ。時計を見れば既に10時過ぎ。昼前には寝たいから早くタウンページで調べなきゃ駄目だな。
◇◇◇◇◇◇
最初に近郊の農家に行って野菜の積み込みを手伝う。大根・白菜・人参・玉葱・馬鈴薯と結構多い。
次にお米屋で精米を60キロ買った。此方は業務用の20キロを3袋だ。3袋一緒に持ち上げたが、彼女は大喜びだった。
筋肉好きな晶ちゃんにとって、ムキムキは楽しいのだろうか?彼女の車はワンボックスで、宿泊客の送迎もするらしい。
後部座席は積んだ食材で山盛りだ。
「先に僕の用事を済ませてごめんね。えっと、榎本さんの目的の店は?」
運転まで晶ちゃんに任せてしまっている。荷物の積み込み位は当たり前だ。
「ああ、駅前通りの高橋ビルの3階に有る風水ショップだよ。近くのコインパーキングに停めて徒歩かな……」
事前に電話で確認して大体の場所は聞いた。晶ちゃんも知っている場所だった。もっともそんな店が有る事は知らなかったらしいが……
「風水ね……Dr.コパだっけ?アレって効果有るのかな?」
僕も非常識な存在だし、風水も普通じゃない効果が有るのは分かる。ただ人に勧めるかと言えば……
「どうだろうか?気の持ちようじゃないかな。信じる者は救われるみたいな?」
「駄目じゃん、それ!」
晶ちゃん的に笑いのツボだったらしい。楽しそうに笑う彼女は年相応な美人さんだ。惜しいな、あと5年若ければ好みなのに。
車をコインパーキングに停めて、商店街を歩く。ビル自体は彼女が知っていたので迷わずに目的の店に到着。
看板には「マダム道子の店」と書かれている。道子と導師をかけているのか?怪しい装飾の施された扉を開けて中に入ると、意外に繁盛していた。
「ふーん、結構広いし色んな物が有るね。水晶って……榎本さん、パワーストーンってこの棚だよ」
珍しい物が多い所為か、彼女がはしゃいでいる。客層は若い女性が多く、見た目ハンサムな晶ちゃんと筋肉なクマのコンビは人目を引くな。
「色んな石が有るね。水晶は、これか……」
プラスチックのケースに入った水晶を一つ一つ確認する。透明なのと紫色のを候補にあげた。どちらも大きさ・重さが手頃で、僕の霊力も注ぎ易そうだ。
「晶ちゃんなら、ドッチの色が良い?」
「僕?僕なら……透明な方かな。ゲッ、25000円もするよ。高くない?」
飾り気の無い彼女だから無色透明を選んだのかな?
「値段も色も余り関係無いんだよ。要は使い易さ……かな」
水晶を持ってレジへ。レジにはマダム道子だろう中年の女性が居ますね。かなり背の高い細身の女性で、ひらひらした紫の不思議な服を着てる。
奇天烈な服だが、売ってるのか?
「あら、ありがとうございます。目が肥えてますわね。この店でも強い力の有る石を両方選ばれるなんて。最後に彼女に選ばせるなんて、大切にしてるのね」
おほほほっとか微笑むマダムに一万円札を三枚渡す。
「領収書、上様で。それと彼女はお世話になってる方の御息女ですよ。客をからかうのは良くないですよ」
張り付けた微笑みをピクリとも動かさないな。大した面の皮だね。
「大切になさってるのは変わりないでしょ?貴男、かなり力持ちですし、大切にして貰いなさい。はい、プレゼントにコレをあげるわ」
綺麗にラッピングした水晶の小箱の他に、小さなネックレスをくれた。大して高くはないだろう金メッキのチェーンに小さな石が付いている。
しかし……力持ちが霊力なのか筋力なのか分からないのが嫌な感じだ。
「えっ?良いよ、僕には似合わないって」
マダム道子から両方受け取り、ネックレスを晶ちゃんに渡す。遠慮してるが、マダム道子に返すのも変だろう。
強引に持たせて店を出る。マダム道子か……同業者かも知れないな。
僕は今まで単独行動派だったから、余り同業者の情報を知らないんだ。晶ちゃんを女性と見抜いてたし……霊感に引っ掛かるし調べてみるか。
◇◇◇◇◇◇
結局晶ちゃんはネックレスをポケットにしまって付けなかった。仕方無いだろう、オマケだし僕が持っていても無用だし。
でも綺麗な娘だから貴金属の一つ位は身に着けても良くないかな?
「晶ちゃんは装飾品とかに興味が無いのかい?」
運転中の彼女に何気ない振りで聞いてみる。
「んー僕には似合わないでしょ?男装してるのに指輪やネックレスしてたら変だよ。榎本さんは左手に数珠を幾つも着けてるけど、それは装飾品ってよりも仕事道具だろ?」
左手首に巻かれた数珠を見る。取り敢えず家に有った数珠を全部着けてみたんだ。胡蝶の力漏れ対策で。
水晶・芥子の実・黒檀製の数珠だが、永く祭壇で祀ってるから霊具としてソコソコだ。信号で止まった時に、水晶の数珠を外し晶ちゃんに渡す。
「ちょっと付けてみてよ」
「わぁデカいね。僕が付けると二重に巻けるよ。でも綺麗な水晶だね」
太陽にかざすとキラキラ光る数珠。本体だけでも50万円はする逸品だ。
「数珠なら付けてても可笑しくないね。それはプレゼントするよ。
古くて悪いけど10年以上祭壇で祀ってあるから、魔除けには最適だよ。坊主の僕が言うんだから間違い無いよ」
この仕事が終わったら新しく力を封じる数珠を用意するので、あげても構わない。僕は使わないから、晶ちゃんに使って貰った方が良いだろ。
「こっこんな高そうなの貰えないよ!」
遠慮する晶ちゃんに、信号が青に変わった事を教える。慌てて走り出す。
「榎本さん、駄目だよ。コレ高いんだろ?貰えないって」
昨今の男に貢がせる事やお金が大好きな女性に比べたら、なんて遠慮深いんだろう。見習え、メリッサ様!
「晶ちゃんには世話になってるからね。それはお礼だよ。魔除けとして貰ってよ。迷える子羊に贈り物だ……ってコレは宗派違いだったね」
「後で料金を請求されないよね?大丈夫だよね?」
冗談っぽく言ってるので、照れ隠しか何かだろう。
「勿論さ。僕は新しいのを用意するから大丈夫。それは純粋な贈り物だよ」
◇◇◇◇◇◇
物心ついてから、異性からのプレゼントなんて初めてだ。同性からのプレゼントは沢山贈られたが、受け取らなかったし。
榎本さん、不思議な人。最初は怪しい団体を取り纏めてる人だと思った。人当たりも悪くないし、嫌みの無い配慮が上手い人だ。
私なんかを女性として扱う変なムキムキの人。でも全くイヤらしい感じがしない。
あんなに美人に囲まれているのに、一度も鼻の下を伸ばさないんだ。三枚目みたいに情けない時も有るけど、あれは許容してるだけだと思う。
高野さんて人も、有る事無い事言い廻ってるが嘘ばっかりだよ。榎本さんが亀宮さんの胸ばかり見てるなんてさ。
もっと怒っても良い筈だ。それに、こんな高価そうな数珠をポンとくれるなんて……
最初は霊感商法かと疑ったけど、違うみたいだ。
何より、この数珠って悪い気がしない。身に着けてると温かい気持ちになれるんだ。祭壇で祀った物って、実は貴重なんじゃないか?
僕の手首だと二重に巻けるから、数珠と言うよりブレスレットみたいだし。うーん、異性として好きって感じじゃないけど……
友達になってくれたら嬉しいかも。神奈川に住んでるらしいし遠い訳じゃない。
明日には仕事が終わるらしいし、後で話してみようかな。何もしないでサヨナラは惜しい人だよね……
◇◇◇◇◇◇
好みじゃない女性には好感度をバンバン上げる筋肉は、やっと寝れるとばかりに布団に大の字になっていた。
部屋の扉には鍵をかけ、窓も施錠しカーテンも閉めた。念の為に携帯電話は枕元に置いて、万全の体制だ。
「やっと寝れる……もう12時廻ってるし5時45分に起きれば平気だろう。おやすみなさい……って静願ちゃんに連絡するの忘れたよ!」
ヤバい昨晩メール貰って放置しちゃったよ。起き上がり布団に胡座をかいて携帯電話を持つ。
アドレス帳から検索しダイアルすると、ディスプレイに彼女の画像が……こんな機能が有ったのか。
数回の呼び出し音の後に、久し振りの彼女の声が聞こえた。
「お父さん、遅いよ。連絡待ってた」いきなり怒られた。
「ごめんね。八王子の件で昼夜逆転生活だし、廃墟は携帯圏外でさ。連絡遅れたんだ」
「むう、お仕事優先は仕方無いね。お母さんが一度話したいって。八王子の仕事が落ち着いたらで良いから、土日か平日の夜に電話が欲しい」
静願ちゃん同席と言うか、彼女の携帯で会話するからね。確かにその時間なら、お互いの仕事や学業に負担が無い。
「分かった。事前に電話かメールで日にちと時間を決めよう。こっちも後2〜3日で片付くと思うし……」
「無理言ってごめんなさい」
後は少し世間話をして電話を切った。ああ、コッチに引っ越すって話は怖くて聞けなかったな。
嬉しそうに「宜しくお願いします!」って言われそうだから……
第95話
万全な体制で仮眠を貪ってた筈だ。施錠は万全、カーテンも閉めた。後は目覚まし時計が起こしてくれる筈だったんだ。
「おはよう、榎本さん」
晶ちゃんが、がわざわざ内線で起こしてくれた。嬉しいのだが、過剰サービスじゃないかな?
「うん、おはよう……僕、モーニングコール頼んだかな?ごめん、曖昧な記憶しかないや。呆けたかな?」
時計を見れば5時ちょうど。予定では45分に目覚まし時計をセットしたよね?
「小原さん、来たよ。取り敢えずフロントのソファーに座って貰ってる。
榎本さんを呼んでくれって……仮眠してるって言ったんだけど、駄目だった」
約束より1時間も早く来るって事は、そうとう気に掛けてるのかな?
「ありがとう、直ぐ行くよ!目覚ましの珈琲頼んで良いかな?小原さんの分も」
お好みのホットを持ってくよ。そう言ってくれた。洗面所で冷たい水で顔を洗いシャッキリする。
フロントに行くと小原氏が1人でソファーに座っていた。此方に気付いて手を上げてくれる。仕事から直ぐに来たのかスーツ姿だ。
「すまない、予定より早く来てしまった」
「いえ、お気になさらずに……」
本当は眠いのだが、社交辞令ってヤツだ。向かい側のソファーに座ると、晶ちゃんがコーヒーを持って来てくれる。
僕のカップだけデカい、巨大マグカップだ……
「はい。暫く離れてるから、用が有れば呼んで。夕食は小原さんの分も用意してますから」
そう言って一礼し去って行く。巨大なマグカップには既にミルクも砂糖もタップリだ……
確かに車で移動中の雑談でカフェオレが好きと言ったけど、直ぐに対応してくれるのは嬉しい。一口飲むと、僕好みの甘い味が広がる。
「さて、急で悪いが話をしてくれ」
小原氏が自分用の珈琲に砂糖とミルクを入れてかき混ぜている。うむ、僕には晶ちゃんの愛情カフェオレ。彼はフロントでも頼める、ルームサービスの350円珈琲……
勝ったな、僕は勝ち組だ!
「昨晩からホテルの除霊作業を行いました。最初は屋外施設から……不思議なのは事前調査では、プールで不審な死を遂げた女性。
地下室で自殺した男性。だが、僕等の前に現れたのは小さな女の子ばかり……」
「事前調査と食い違うと言う訳か。だが、何故……愛子が現れたんだ?」
鷺沼で入水自殺した彼女が、ホテルに化けて出る。不思議に思うだろう。
「事前調査と違う霊が現れるのは、良く有ります。本体だと思って祓えば、次が出てくる。
その辺は不思議とは思いませんでした。ただ、最初に僕が祓った霊は……」
「何だ?特殊だったのか?」
一旦言葉を切ったのは、話ながら考えを纏める為だ。丹波の尾黒狐が支配下に置いていた霊達。しかし丹波の尾黒狐は胡蝶が喰った。
神泉会が東京の小原邸に差し向けた(と思わせてる)エム女。ラスボスは小原愛子さん。話の辻褄を合わせなければならない。
「ええ、特殊でした。彼女は近藤好美ちゃん。調書に載っていた女の子です」
「ああ、コックリさんだとか同級生も行方不明のアレだな。それが何故だ?」
良く調書を読んでいる。中々手強いぞ。普通は分厚い調書の中に載っている名前なんて、うろ覚えの筈だろ?
「僕の仮説を聞いて下さい。あのホテルの怪異は、東京の屋敷に現れた女の怨霊だった。だが、彼女は使役され僕が祓った。此処までは宜しいですか?」
小原氏は黙って頷いた。これは共通認識として、神泉会がエム女を差し向けたと言う事だ。
「僕が調べた所では、随分前から小原愛子さんは霊として周辺に現れていた。これは鷺沼で女の子が女性の霊に呼び掛けられた事。
近藤好美ちゃんが直前にホテルか鷺沼に遊びに行った事。
愛子さんのお父さんも、彼女が彷徨っていると言っている事から信憑性は有ると思います」
「君は、あの集落にまで調査の手を伸ばしたのか?」黙って頷く。
「ええ、彼女の墓前でお経も唱えました。しかし墓は空虚でした……」
辛そうな顔だな。捨てた妻子の親族にまで会われちゃ、やるせないか?
「最近です、あの廃ホテルに霊が集まり始めたのは。あの怨霊が呼び寄せていたのでしょう。だから沢山の霊が集まってます。
それとは別に小原愛子さんは自分の娘を探していたんだと思います。怨霊が集めた霊の中で、自分の娘と近い年類の子供達の霊を集めた。
そして彼女は力を付けてしまった。霊の力の根源は思いから。強い思いが少女達の霊を彼女の周りに留めています。
僕は近藤好美ちゃんの霊から話を聞きました。ママが皆を集めている、と……」
小原氏の表情を確認しながら話しているが、特に異常は無いと思う。此処までは互いに同じ認識を持せただろう。
カフェオレを飲んで喉を湿らす。まだ会話を始めて15分だ。
「霊と話したと言うが、それは霊能力者だからか?普通でも話せるか?」
「会話は可能ですよ。勿論、相手の状態にもよります。一方的に話し続けるのも居れば、ちょっとした受け答えをするのも居ます」
「私は……愛子と話せるか?話せる可能性は有るのか?」
うーん、昨晩の彼女の表情は穏やかだった。しかし周りに集められた霊体は、混ざり合って苦しそうだったな。
これは難しい……
彼女は娘の代わりを沢山集めてる、鬼子母神と同じだ。そこへ憎むべき相手が現れたら?
「彼女は、小原愛子さんは穏やかな表情でした。ただ彼女に集められた霊達は、混じり合い苦悶の表情だった。
これは僕の推測の域を出ませんから……違っていたらお詫びします。
その、彼女が貴方を恨んでいたら話すのは逆効果だと思います。最悪の場合は襲われます」
「私が愛子にした仕打ちを思えば、そう考えるのも仕方無いでしょうな。アレは私を恨んでるでしょう……
それでも榎本さんは除霊に立ち会えと言う。ただ見てるだけは、辛いのだぞ!」
普通の反応だ……
怒るのは、辛いと言うのは後悔の念が有るんだ。つまり彼女を自殺に追いやった事を悔やんでるのか……調査では浮気が原因と聞いている。
そんな事が有っても女癖の悪さは治ってない。さて、どうするかな?
「此処からは小原愛子さんを成仏させる為の提案です。彼女は娘さんを探しています。
しかし……多分、娘さんは既に成仏してるのでしょう。
だから愛子さんの願いは叶う事は無い。ですが、身代わり札と言う物が有ります。これを娘さんに見立てて愛子さんに渡します。
彼女の願いは叶い、成仏する事が出来ると思います。勿論、強制的に祓う事も可能です。僕でも亀宮さんでも……どちらにしますか?」
一見二択だが、選択の余地は無いだろう意地の悪い提案だ。普通なら強制的に祓うよりは成仏を願う筈だ。
彼自身は小原愛子を憎んでいない。少なくとも悪いとは思ってる筈だから……
身代わり札は小原氏のも七海ちゃんのも、前に用意したのが残ってる。
「七海の身代わり札を使い、愛子を成仏させてくれ……」
本当に辛そうな顔をしているな。やはり妻子には彼なりの愛情が有ったんだな。
二人の身代わり札は用意してあるが、許可を貰ったので作成した事にしないと不自然だ。彼女の詳細について聞かないと駄目だね。
「有難う御座います。これで彼女達も救われるでしょう。では身代わり札の作成に必要な事を教えて下さい。先ずは……」
手帳を取り出し、生年月日・没年月日等を聞いていく。だが、没年月日が違うぞ。
「小原さん、無理心中と聞いていますが没年月日が違いませんか?自殺の当日が没年月日ですよ。これは1日早い……」
「榎本さん。愛子は……
愛子は、七海を先に首を絞めて殺した。そして私に電話で知らせて、七海の亡骸と共に入水自殺を遂げたんです。
当時は私も色々有りましたから……妻が娘を殺して後追い自殺は不味かった。だから無理心中にしたんだ。
これは内緒にして下さい。榎本さんだから、お話したのです」
何だって?だからか?
小原七海の身代わり札を鷺沼で使っても効果が無かったのは、正しく作られてなかったんだ。無理心中も後追い自殺も変わりないと思うが、僕に理解出来ない理由が有るのかね?
娘を殺して1日余裕が有ったのに、妻の自殺を止められなかったから?いや、施主のプライベートに踏み込み過ぎは不味い。
「分かりました。僕には秘守義務が有ります。誰にも言いません。さて、時間も6時に近い。夕食を食べながら、今夜の打ち合わせをしましょう」
時計を確認すれば、既に5時50分を過ぎた。そろそろ上から女性陣が降りてくるだろう。
◇◇◇◇◇◇
「「「「いただきます」」」」
夕食が始まった。上座に小原氏、両隣に亀宮さんとメリッサ様。左右に対照的にお供の方々。下座に向かい合わせで僕と高野さん。コの字の配置で配膳されてます。
流石は晶ちゃん。一番偉い小原氏の意図を正確に把握している。
今夜の献立は……スキヤキです、ええ一人鍋スキヤキ!お肉は結構良さそうな霜降り肉。野菜も山盛り。
他には刺身盛り・茹で蟹・酢の物・ぶり大根・フキと白身魚の餡掛けです。それだけでも、お腹一杯な品揃え!
「はい、榎本さん。君だけ特別なんだ」
他の皆さんは固形燃料の一人鍋だが、僕だけカセットコンロで普通の鍋だ。
「えっと、嬉しいけど依怙贔屓?」
「お客さんは健啖家ですから、普通では足りないでしょ?勿論、他の方々にはお代わりで対応しますわ」
おほほほほ!って笑いながら、女将さん自らがスキヤキを準備してくれる。
肉を焼いてから鍋に出汁を少量入れて味を付ける。どうやら肉を先に食べてから野菜みたいだ……
「はっはっは!流石は榎本さんだな。何時でも何処ででも料理人から大絶賛だ。ウチのコックも喜んでいたよ。では乾杯!」
「「「「かんぱーい!」」」」
酒盛りが始まった……まぁ亀宮さんと僕が行動出来れば、今夜の除霊は問題無い。
要は小原愛子が現れたら周りの霊を祓い、七海ちゃんの身代わり札を渡せば良いんだ。最悪は胡蝶デビューだが、お金大好きメリッサ様が黙ってはいまい。
小原氏の前だ。必ず小原愛子の周りの霊達は、彼女達が祓うだろう。
彼女を祓えば、後は簡単だ。殆どの霊は彼女に捕らわれているから、自然と散るだろう……
「はい、榎本さんコーラ」
目の前に瓶コーラを構えた晶ちゃんが居るので、コップを空けて差し出す。その左手首にはプレゼントした数珠が巻いてある。
うん、ちゃんと付けてくれてるんだ。
「ああ、ありがとう。配膳大変だね」
彼女は皆さんの鍋の状況を見ながら、肉や野菜を足している。忙しい合間に、わざわざ僕にコーラを注ぎに来てくれるんだ。
「商売繁盛さ!」
くるくると忙しく働く彼女を見てると、女将さんが咳払いをした。いや、イヤらしい目で見てませんから……
「お客さん、沢山食べて下さい。お肉、足しますか?」
「ええ、お願いします。わざわざすみません」
既に丁度良い加減の肉が取り皿に山盛りだ。一切れ摘み溶き卵に潜らせてからパクリ。
「うん、美味しいです。肉もそうですが、卵が……濃厚ですね」
〆に卵かけご飯が食べたいな。
「契約農家から仕入れてます。自然に近い形で飼育した鶏なんですよ」
この民宿、見かけによらず料理は美味い。誰が料理をしてるのかな?家族経営らしいけど……
「毎回料理が美味しいのですが……料理長は旦那さんですか?」
まだ見ぬ女将さんの旦那さんなんだろうか?
「ええ、主人ですわ。この辺りでは、ウチは料理自慢の民宿として有名なんですよ」
へぇ料理自慢か……もしかして宿の選定って、小原氏は大食いな僕に気を使ってくれたのかな?
「主人もお客さんとお話ししたいと申しておりました。一度、お部屋の方に伺いたいと……」
笑顔の女将さんだが、毎回目が笑ってないのは何故でしょう?