榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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幕間第8話から第10話

幕間8

 

 「ヤバい、逃げるか!」

 

 古びた民家の窓から飛び出して逃げる。良かったぜ、窓が開いてなかったら逃げられなかった……一目散に草が茫々に生えた庭を横切り敷地の外へと逃げ出す。

 振り向けばヤツは窓の所に立っている。どうやら家からは出られないらしい。

 

「はぁ、失敗か……でも居るのは確認したから明日の夜に勝負だ」

 

 幾ら深夜の田舎道とは言え、人目に付かない様に急いで車迄戻る。深緑色のパジェロミニ、悟宗(ごそう)さんの形見の車だ。

 鍵を開けて運転席に乗り込む。エンジンをスタートさせて急発進。少々古い車だが、動かすだけなら問題無い。

 効き目の悪いエアコンに文句を言いながら竜雲寺(りゅううんじ)まで戻る。まだまだ深夜は冷え込が厳しい。

 中々暖まらない車内に業を煮やして、途中で見付けた自動販売機でホットなココアを飲んで胃袋から温める。

 

「さて、まだ1時間はドライブしなきゃな」

 

 飲み終えた空き缶をゴミ箱に放り込んで、運転席に戻る。少しだけ効いてきたエアコン。気分を変える為にCDを掛ける。このCDも悟宗さんの物だった。

 

 パフューム・東京事変・一青窈・大黒摩季……

 

 新旧の女性ボーカルが揃ってるが、趣味の方向性が分からないコレクションだよね。懐かしい大黒摩季の曲を聞きながら、暗い山道をひたすら走り続ける。

 1時間程走って、漸く目的地に到着した。真言宗泉涌寺派の竜雲寺。この古寺も悟宗さんから引き継いだ、遺産として継承した寺だ。

 鍵を開けて本堂に入り寝転がる……さて、色々有ったが今夜の敗因は何だ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 悟宗さんが亡くなってから遺産・遺品等の片付け、お墓の整備を終えて少しだけ自由に考え事の出来る時間が出来た頃……

 僕はヤツ等が心の底から憎いと思っていた。未だに肉親を苦しめ続ける「箱」もそうだが、悟宗さんを殺した餓鬼もそうだ。

 兎に角、怪奇現象に携わるモノ全てが憎かった。憎くて憎くて、それならどうするんだ?

 そう考えた時に思い付いたのが、在り来たりな復讐。兎に角、何でもかんでもヤツ等が憎い。

 

 ならば自らの手で滅ぼしてやる!

 

 だが、現実は甘くない。ヤツ等を探す手段が僕には無いんだ。だから悟宗さんから紹介された西崎さんに連絡をした。

 

「もしもし、西崎さんですか?榎本です。何でも良いから仕事を紹介して下さい。ええ、僕に頼めるレベルのから……」

 

 除霊の依頼を斡旋して欲しいと……

 

「いや、構わないけどさ。榎本君って実績も経験も無いよね?だから回せる仕事は本当に最低ランクだよ」

 

 気に入らない奴だが、力を借りるしか無く文句も言えない。

 

「何でも良いんだ。何でも良いから紹介して下さい!」

 

 そう頼み込んで初めて紹介された仕事が、今日の民家に出る老婆の霊の除霊だ……依頼人は老婆の家族からだった。

 三年前に出掛け先で倒れて救急病院に搬送、手当の甲斐なく心不全で死亡。葬儀も済ませて墓も建てて貰い、息子夫婦の家には仏壇も有る。

 だが、何故か最後に住んでいた田舎の家に必ず幽霊として現れるんだ。

 寝室として使っていた6畳和室の床に這う様に現れる祖母に対して、残された家族は困ってしまった。

 藁にも縋る思いで除霊を頼んで来たらしい。何故、近くの寺とかにお祓いを頼まないのか不思議なんだが……

 身内を祓うなら普通は怪しい拝み屋なんかに頼まないだろ?

 

 まぁ僕には、その辺の理由はどうでも良い。

 

 元々、西崎さんから貰った依頼書にも細かい事は書いてない。ただ経緯と鍵の入った封筒を渡されただけ。

 お祓いが成功すれば民家は取り壊すので、鍵の返却も不要と言われた。

 

 あの時……問題の部屋の隣で待機し、現れたら清めた塩とお札の二段構えで祓おうと思った。

 

 だが実際は、最初に現れた時に直ぐに清めた塩を撒いた。問答無用に撒いた。

 確かに効果は有ったみたいで、老婆は苦しみのた打ち捲った。トドメにとお札を貼ろうとしたが、老婆は立ち上がり此方に掴み掛かってきたんだ。

 それは恐ろしい表情で掴み掛かってきた。こりゃ無理と咄嗟に窓から逃げ出した。

 

 何故、窓を開けていたか……

 

 避難通路の確保なんて格好良い理由じゃない。単に部屋が埃臭くて換気の為に開けたんだが、建付けが悪くて閉まらなくなったダケだった……

 あのまましがみ付かれたら取り殺されただろう。悟宗さんも餓鬼に纏わり憑かれて内蔵から腐らされられたんだ。

 

 老婆に清めた塩は効いた……

 

 だが、祓う迄にならなかったのは効果が薄いから?僕の力では、あれ以上の効果を発揮するだけの霊力は籠められない。

 護摩焚きだって手順通りに行って用意した清めた塩なんだ。自分の力の限界を初めての除霊で思い知らされるとは、屈辱以外の何物でも無いな……

 

「ははは……所詮、僕は駆け出しのぺーぺー霊能力者だよ!力も経験も無い最低レベルの男なんだ」

 

 だが腐ってもしょうがない。力が弱ければ工夫すれば良いんだよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 準備に時間が掛かりリベンジは二日後になってしまった……問題の家は隣家も疎らな田舎に有る。

 緊張しながらハンドルを握り安全運転を心掛ける。緊張で事故りそうだ、手に汗ベッタリだしハンドルもヌルヌルしてきた。

 漸く現場に到着、時刻を確認すれば23時過ぎだ。用意した荷物を持って玄関から中に入る。

 当然だが電気は止められている。前回は懐中電灯だけだったが、今回は電池式のランタンを幾つか用意した。

 これで両手をフリーに出来る。問題の和室に到着、隣の部屋にもランタンをセットし照明を確保。

 

「うん、今回は準備万端だ。早く出て来いよババァ!」

 

 悪態を付くと畳の部分がモヤモヤと……うずくまった老婆の形を成していく。

 呼べば応える霊なんてテレビ局が放っておかないだろうに……完全に実体化するのを待つ。

 1分もせずに完全な老婆になった。良く霊は生前の最後の衣装を着てると思われるが、この婆さんは浴衣を来ていた。何故?

 

「婆さん、今回は負けないぜ」

 

 呼び掛けに此方を睨み付けてきた婆さんに……用意したバケツ一杯の清めた塩をブチマケル!

 

「ウギャー!」

 

 10キロの清めた塩、これが僕の考えた方法だ。

 

「戦いは物量だよ兄貴って名言を思い出してね。

アニメだと馬鹿にしてたけど、某宇宙世紀の独裁者の親族の中将がさ、デコな総帥に言った台詞なんだよ。婆さん、聞いてるかい?」

 

 のた打ち回る婆さんに話し掛ける。どうやら聞いてない?聞こえない?

 

「まり……え……まりえ……まりえー」

 

 マリエ?誰だ?婆さんは畳の縁(へり)をガリガリと引っ掻きながらマリエと連呼している。

 

「早くあの世に逝って成仏しろよな」

 

 そう言ってトドメのお札を婆さんに貼り付ける。断末魔の叫び声を上げながら、婆さんは消えていった。

 

「成功したかな……しかし畳の縁を引っ掻き回してたけど何か有るのかな?それにマリエって誰なんだろう?」

 

 気になったので塩だらけの畳を調べる。良く見ると、何度か畳を捲った様な痕跡が有る。

 

「ふむ、畳の下に何か有るのかな?」

 

 畳をひっくり返すのは専用の器具がいる。曲がった爪みたいな金具で引っ掛けるけど、そんな物は無い。

 色々さがして十特ナイフのコルク抜きで代用する事にした。畳の端にコルク抜きをクルクル回しながら突き刺す。

 そしてゆっくりと畳を持ち上げると、下に封筒が入っていた。

 

「封筒?中身は写真と、預金通帳か……」

 

 畳の上に胡座をかいて座りランタンの灯りで写真を見ると……あの老婆の生前の姿だろうか?

 品の良い老婆の膝の上に小学生位の女の子が座っていた、孫娘かな?

 

 写真を裏返すと「真理恵と共に実家にて」と書かれていた。

 

 もう一度良く見れば、縁側に座る老婆と孫娘。確かに、この家の庭に面した縁側みたいだ。

 貯金通帳の方を確認すれば、婆さんの蓄えみたいだ。預金残高は3500万円以上有るな。

 つまり婆さんの心残りは、孫娘に自分の蓄えを渡したかったのか……だから必死に訴えていたんだな。

 この写真と預金通帳は、西崎さんを通じて遺族に渡して貰おう。

 

「婆さん、悪かったな。だけど遺産は孫娘にはいかないと思うよ。この預金通帳はさ、公共料金の引き落としとかも利用してるだろ。

つまり存在がバレてる預金通帳なんだ。人は死ぬとさ、銀行は当人名義の口座を凍結するんだ。

だけど死亡届と戸籍謄本と相続人全員の同意書が有れば預金をおろせるんだ。つまり婆さんの子供が貰ってる筈だ。孫娘にはいかないんだよ」

 

 あれだけ孫娘に遺産を譲ろう・教えようと頑張ったけど、実際はとっくに婆さんの子供達が分けちゃってるんだよ。

 

「安心しなよ、婆さん。アンタの思いは遺族に伝えて貰うよ」

 

 後味の悪い結果になったが成功は成功だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、西崎さんに連絡し成功報告と渡したい物が有ると伝えた。詳細を聞きたいと言われたので、指定されたファミレスに向かう。

 因みに料金は手渡しで序でに受け取る事にした。今後は振込にしたいのだが、西崎さんは手渡しに拘っている。

 つまりお金の流れが記録されるのが嫌なんだな。

 

 全く面倒臭いな……

 

 指定された時間は午後3時、この時間は比較的空いている。ファミレスに到着し店内を見回すと、奥の方で手を上げている彼を見付けた。

 向かい側に座り、取り敢えずドリンクバーを注文。先にコーラとメロン+カルピスソーダをテーブルに置く。

 

「で?どうだった?」

 

 どうやら西崎さんは、せっかちらしい。直ぐに結果を聞いてきた。

 

「成功ですよ。これが老婆の霊が守っていた物です」

 

 そう言って封筒をテーブルに置く。

 

「ほぅ?原因まで突き止めるとは中々やるね。どれどれ……これは結構な預金額じゃないか!」

 

 封筒から写真と預金通帳を取り出して、先ずは残高確認をする。まぁ普通はそうだよな。

 

「婆さんは孫娘に遺産を渡したかった。だから畳の下に隠していた預金通帳と写真を守ってたんですよ。

もっとも遺産は既に遺族に分配されてるでしょう。預金通帳が無くても手続きすれば平気ですからね」

 

 なんだよ、もう無いのかい?そう言って興味の失せた預金通帳を置いて写真を見る。

 

「真理恵ちゃんね……やっぱり孫娘は可愛いってか?」

 

「それは遺族に渡して下さい。それと預かっていた合い鍵も返します」

 

 借りていた合い鍵も返えす。もう、あの民家に行く事はないだろう。

 

「分かった、渡して伝えておくよ。はい、成功報酬」

 

 そう言って封筒を差し出してきた。

 

「どうも」

 

 封筒を受け取り、中を確認せずに内ポケットに入れる。この仕事は金儲けの為にしてる訳じゃないから。

 

「西崎さん、他に紹介出来る依頼無いですか?」

 

 奴らをあの世に送る為にしてるんだ!

 

「おぃおぃ、取り敢えず休まないと体が壊れるぜ」

 

 大して心配して無さそうな顔で言われてもな。

 

「大丈夫ですよ。それで、僕に紹介出来る依頼って無いですかね?」

 

「うーん、近場だと……ああ、コレなんてどうかな?潰れたコンビニに現れる幽霊を祓って欲しいらしい。成功報酬は20万円」

 

 ペラペラと手帳を捲っていたが、あるページを指差してきた。市内のコンビニか……

 

「分かりました。これでお願いします」

 

「じゃ帰ったら資料を送るよ。それと此処は奢りだから何か食ってけよ」

 

 そう言ってテーブルに5000円札を置いて西崎さんは出て行った……早速依頼人に報告にでも行くんだろう。

 折角のご好意に甘えて呼び出しボタンを押す。

 

「お待たせしました。ご注文を伺います」

 

 学生バイトかな?高校生位の女の子が注文を取りに来た。

 

「チキン竜田定食と稲庭うどんのセットを一つ」

 

 腹が減っては戦は出来ぬ!先ずは腹拵えをして次に備えよう。

 

 僕の復讐は始まったばかりなのだから……

 

 

 

幕間9

 

「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」

 

 本堂の祭壇を前にして護摩焚きを行う。どうやら僕の作る清めた塩やお札は、当たり前だが普通の物より効力が弱い。

 ならば質より量で攻めるしか無い。物量で押し潰す……戦いは数だよ兄貴的な意見を採用だ。

 一日の内、午前中は護摩焚きを行い清めた塩を量産する。午後は休憩、寝る前にお札を作る。

 基本的に僕は霊力が少ないから、多目な休憩を入れて回復しないとお札が作れないんだ。

 しかもお札作成の成功率は6割程度だから、1日に2枚作れれば良い方だ。

 こうして西崎さんからの資料を待っていた三日間は、準備期間として霊具の作成に当てていた。

 

 成果は清めた塩が10キロ、お札が4枚だ。

 

 西崎さんからの資料は郵送で来る。この竜雲寺には写真とかの資料を受け取るのは郵送しか出来ない。

 携帯は圏外だしFAXは旧型だから写真は良く分からないドット絵みたいだ。

 インターネットなどは無い……お茶の間の卓袱台の上に資料を広げる。

 

 市内某所に有る潰れたコンビニ。立地条件が商売に向かないのだろうか?

 

 本屋→リサイクルショップ→マッサージ屋→コンビニと短いサイクルで入れ替わり、そして半年位で潰れていく。

 T字路の交差付近に有る為か、車を停める事は出来ず専用駐車場は1台分。駅やバス停からも10分程度歩かねばならず、周囲は住宅街だ。

 こりゃ潰れるわな。しかし幽霊騒ぎは最後のコンビニから噂になった。

 田舎故に24時間営業でなく本当に7時から23時までしか営業していない。何でも深夜に信号待ちをしていて、何気なく照明の消えた店舗内を見ると……

 若い女が中に立っているらしい。

 騒ぎを聞きつけた店側がガラス窓全てにカーテンを付けて閉店時間中は外から見えない様にしたが、一度広まった噂は止まらない。

 近所のお寺にお祓いを頼んだが、効果無し。念の為に監視カメラを確認したがバッチリ写ってたそうだ。

 同封されていた写真を見る。粗い画素数の白黒写真だが、確かに女が雑誌コーナーの前に立っている。

 もう一枚は冷蔵ケースの前だ。つまり店内を動き回ってるんだな……

 体型から女とわかるが、真っ白な踝(くるぶし)まで有るシーツに穴を開けて頭を通しただけの、ワンピースかドレスなのか分からない物を着て俯いている。

 長い黒髪が顔に掛かっていて表情は分からない。しかも裸足だ。

 

 何故、これで若い女と断定出来るんだ?しかし典型的なアメリカ版の女幽霊だな。

 普通は生前に、こんな変な服なんて着ないだろ?ガセネタじゃないのか?

 直接的な被害は無いが、噂を抑えないと次のテナントが入らないので祓って欲しいそうだ。

 建物のオーナー直々の依頼らしく、中に入る時には鍵とセコムの解除カードを借りにいかないと駄目なのか……

 

「除霊なんて怪しい職業だけど、テナントビルの場合は常駐警備員に何て言えば良いのかな?

まさか受付で入館手続きをする時に、テナントから頼まれたんで除霊に来ました!とか言っても無理じゃね?完全に不審者扱いだと思うな」

 

 今後、依頼を請ける場合は確かめなきゃ駄目だ。建物に入れず除霊失敗とかあり得そうで嫌だな。資料と言っても此だけだ。

 

「まぁ良いさ。行けば分かるだろうし……」

 

 霊具の用意も出来たし、乗り込んで出て来た所を祓えば良いさ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アレから仮眠をして体調を整えてから、オーナー宅へ鍵とカードを借りに向かった。パジェロミニを走らせながら今夜の段取りを思い浮かべる。

 先ずは用意した物だが……数珠・清めた塩・お札・ランタン・懐中電灯だ。前回の失敗を踏まえてランタンは4台用意した。

 やはり灯りと逃走経路は必要だ、僕は弱いから特に逃走経路は大切だ。地図を頼りにオーナー宅へ来たが、良く有る木造二階建ての和風建築だ。

 金持ちには見えないが停めてある車がBMWだから、それなりなんだろう。呼び鈴を押すとインターホンから声が聞こえた。

 

「はい、どなた?」

 

 中年の女性の声だが、オーナーの奥さんかな?

 

「榎本と申します。西崎さんから依頼を請けた者です」

 

「……お待ちください」

 

 少し間が有ったし、声質が固かった様な……やっぱり胡散臭い商売だよな。

 

 霊能力者……

 

 テレビや漫画・小説とかだと皆さん協力的だし社会に認知されてるっぽいけど、実際は詐欺師と変わらない待遇だ。

 暫く待つと50歳前後の痩せたオッサンが出て来た。

 

「アンタが依頼を請けた霊能力者か?」

 

 随分と横柄なオッサンだな。

 

「はい、そうです」

 

 依頼人だし、一応丁寧な言葉使いで答える。値踏みをする様な目で僕を爪先から頭の天辺まで見るオッサン……

 

「若いな、本当に大丈夫なのか?店の中で逆にやられて死んでるとかお断りだぞ!その時は不法侵入されたと警察に言うからな!」

 

 仕事を貰う立場とは言え、随分と一方的な条件を突き付けるな。鍵とカードは借りてるのに、不法侵入って何だよ?

 まぁ僕はヤツ等に復讐出来れば良いけどさ。

 

「大丈夫です。僕も僧侶の端くれですから、それなりの力が有ります」

 

「ふん!近所の住職に頼んで駄目なのを若い坊主が何とか出来るのか?

まぁ良い……ほら、鍵とカードだ。終わったらポストに入れておいてくれ。頼んだぞ!」

 

 鍵とカードを押し付けられて、一方的に条件を言われ扉を閉められた。まだまだ駆け出しだから無理だが、ある程度名前が売れたらちゃんと契約を結ばないと良い様に使われるな。

 世知辛い世の中だ事。兎に角、中に入る事は出来るから頑張るか。

 パジェロミニに乗り込み、問題のコンビニを通過して少し先のコインパーキングに駐車する。

 時刻は未だ21時過ぎだし、前を通った時に中を確認したが幽霊は居なかった。何故かカーテンは半分近く開いていたな。

 見られちゃ困るなら閉めるのが普通じゃないか?

 

「まぁ良いや。23時過ぎまで仮眠してから行くか。幽霊だから早い時間には現れないだろ?」

 

 シートを倒し携帯電話の目覚ましをセットして目を瞑る。エンジンを切っているから少しだけ肌寒いが寝れない訳じゃない……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 予定より少しだけ寝坊して日付が変わる直前に、問題の店舗に到着した。コインパーキングから徒歩で来たが、寒空の中を10分以上歩いた。

 移動用に折り畳み式自転車でも買おうか?建物の裏側に周り鉄製の扉の鍵を開ける。

 中に入ると壁にセキュリティーカードを通す装置が有り、赤いライトが点滅している。カードをスリットに通す。

 

 ピッと言う電子音の後に「警戒を解除しました」と抑揚の無い女性の声が流れた時には、正直ビビった……

 

「脅かすなよな……さて、電気を点けるか」

 

 用意した懐中電灯で辺りを照らすと、少し離れた場所にスイッチが有る。

 

「あれ?点かないぞ?あれ、あれれ……」

 

 カチカチとスイッチを入り切りするが、肝心の照明が点かない。センサーは生きてるんだし、電気は来てる筈だ。

 懐中電灯で周りを調べると分電盤が!さてはブレーカーを落としたな。分電盤を開けて中を確認する。

 電灯盤と動力盤の両方を兼ね備えた分電盤は、主ブレーカーの他にサブのブレーカーが沢山有る。

 

「どれが照明関係のブレーカーだろう?良いや、全部入れよう」

 

 上から順番にブレーカーを入れて行く途中で、声を掛けられた?

 

「ねぇ?何してるの?」

 

 女性の声で耳元で囁く様に聞こえたぞ?

 

「……?誰だ?」

 

 未だ照明のブレーカーは上げてないから懐中電灯の灯りしか頼れない。周りを見回しても誰も居ない。

 

「くっ、急げよ!」

 

 慌てて全てのブレーカーを上げると、漸く天井の蛍光灯に灯(あか)りが灯(とも)る。

 直ぐに周りを見回すが、言葉を発したモノは居ない。明るくなって初めて分かったが、此処は事務所スペースだ。まだ事務机やロッカーが置いてある。

 左側がストックヤード、正面が店舗内になるのだろう……幽霊騒ぎで慌てていたのか、商品は持ち出しても備品類は残してある。

 

「さて、幽霊退治と行きますかね……」

 

 既に先制攻撃で声を掛けられてる。つまり相手は思考力が残っており、僕の侵入した事を知っている。

 僕の武器は、胸ポケットに入れたお札と左手に持った数珠。それに前回同様バケツに入れた清めた塩だ。

 用意したバケツは二つ、それぞれ5キロの清めた塩を入れてある。

 

 見付けてブチ撒ける!

 

 シンプルだが分かり易い方法だと思う。バケツの一つを事務所スペースに置いて、先ずはストックヤードに移動する。

 ゆっくりとストックヤードに入ると、スチール棚が整然と並んでいるが空っぽだ……奥に進むと冷蔵ケースの裏側に来た。

 ジュースとかの商品は裏側から補充出来る、つまり店舗内が見渡せる訳で……ガラスの前に此方を覗き込む女が居た!

 

「ちょ、お前……」

 

 此方を覗き込んでいるので、嫌でも目が合う。若い……まだ10代後半か20代前半だろう。

 血走った目に痩せこけた頬、青白い肌にひび割れた唇が何かを伝えている。声は聞こえないが口の動きで何となく分かった。

 

「死・ん・で・く・れ・る?」

 

 某ペルソナなアリス的セリフを理解した時、後ろのスチール棚が僕に向かって飛んできた。

 

「がはっ?なっ何だ?」

 

 倒れた棚から這い出す……口の中が切れたのか鉄の味が広がり、鼻からも嫌な臭いがする。下を向くと鼻血がポタポタと垂れる。

 

 チクショウ、やりやがったな!

 

 口に溜まった血を吐き出しなが、何とか体を起こす。左右を見回しヤツを探すが、居ない。

 

「誰を探してるの?」

 

 聞こえた方を向けば、倒れたスチール棚に座る女。どうやら、コイツは会話が可能な霊なんだな。しかもポルターガイストまで可能かよ。

 

「お前、何でこの場所に化けて出るんだよ?迷惑してるんだぜ」

 

 膝に力を入れて立ち上がる。バケツを探すがスチール棚に阻まれて見えない。どの道、清めた塩も床に散乱してるだろう……

 

「私?知らない?気が付いたら居たの。寂しいから悪戯するけど、人が居ないの。だから……アナタ死んでくれる?」

 

 そう言うと倒れていたスチール棚が浮かび上がる。問答無用で悪戯と言う名の殺戮をする女。

 

「嫌なこった!」

 

 悪態をついて横に飛ぶ。滅茶苦茶な軌道で飛んでくるスチール棚。

 一旦見上げるが、ヤツはカラカラ笑いながら残りのスチール棚を持ち上げる。ヤバい、狭いストックヤードじゃ逃げ場が無い。

 周りを見回しても避けるスペースも無い。怪我を承知で事務所まで走り込むしかないか?

 覚悟を決めてお札を両手に持ち、ヤツに吶喊(とっかん)する。

 

「やられる前にやってやるぜ!」

 

 正面から飛んでくるスチール棚を両手をクロスさせて防ぐ。当然負けてよろけるが、お札をヤツに投げ捨てて横をすり抜けて事務所まで逃げ切った。

 

「あはははははは……往生際が悪過ぎだよ?」

 

 瞬間移動でも出来るのか?ヤツは店舗の入口に立ってニヤニヤと笑っていやがる。

 

「勝手に笑ってろよ。これを喰らいな!」

 

 置いてあったバケツを掴み中身をヤツにブチ撒ける!

 

「ミギャー!何、何コレ?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」

 

 よろけながら店舗内に逃げ込むヤツに、残ったお札を両手に構えて追って行く。

 

「おん まからぎゃ ばぞろ しゅにしゃ ばざら さとば じゃく うん ばん こく」

 

 霊力をお札に込めて、這いずるヤツの背中に貼り付ける。

 

「ちょ、おま……お前!女の子に何するのよ?痛いじゃない、チクショウチクショウチクショウ……」

 

 土下座の様な格好で呻いていたが、段々と薄くなり消えていった……

 

「どうやら退治出来たみたいだな。畜生はコッチが言いたいよ、体中が痛いんだから」

 

 倒せた事で気が緩んだか、僕もその場で仰向けに倒れてしまった。鼻血ダラダラで服の胸の辺りは真っ赤だし口の中も痛い。

 両手も痣が出来てるし、右足の太股もジンジンと疼いてきた。満身創痍って奴か、嫌になる位に僕は全然弱いんだな……

 

 

幕間10

 

 どれ位時間が過ぎただろうか?あの女幽霊を祓ってから気を失ってしまった。

 外を見れば未だ位から夜なのは分かる……

 

「……ん?外を見る?ヤバい、外から丸見えじゃないか?」

 

 痛む体に鞭を打ち、何とか立ち上がってカーテンを閉める。閉める前に外を確認したが、特に騒いでいる人は居なかった。

 取り敢えず少しは安心?でも覗き込み防止で付けたカーテンが、何故開いていたのか?

 あの女幽霊が悪戯で開けたのか?謎は残るが、今はそんな事を気にする必要は無い。

 先ずは片付けが必要だよね?床にブチ撒けられた大量の塩、倒れたスチール棚。

 見回すだけでも、グチャグチャだ。幸い?な事にストックヤード以外は荒らされてない。

 

「はぁ、片付けるか。でも先ずは顔を洗ってうがいをするかな……」

 

 事務所スペースには壁付けの手洗い器が有った。鼻をかみ口を濯いで体中の怪我を確認する。

 歯が抜けたり折れたりはしていないが、右頬の内側が切れていた。全身くまなく痛いが痣で済む程度の打撲だ。

 直ぐに医者に行かなきゃ駄目なレベルじゃない。血だらけのシャツを脱いでジャンパーの前を閉める。

 これなら注意して見なければ、怪我はバレない。

 引っ越しの途中なのか放棄されたのか分からないが、掃除用具入れロッカーが残っていたので中を見ると箒と塵取りを発見。

 時間を掛けてスチール棚を並べ直し、清めた塩を掃いて集め手洗い器に突っ込み水で流す。

 スチール棚の幾つかは凹んでしまったが、仕方無いよね?直せる範囲で、曲がった棚を真っ直ぐにした。

 カードをスリットに通し、セキュリティーを掛け直して施錠し外に出る。満身創痍だが、除霊は成功した。

 

 あの女……

 

 理由が退屈だからと、僕を殺そうとしやがった。自分の我が儘や欲望で人に害なす存在だったんだ。

 全然足りない、もっと、もっとだ!僕の復讐は全然達成してない……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全ての片付けを終えてコインパーキングに戻れたのは、3時45分。車の時計を確認して2時間位は気を失っていたんだと思う。

 もし誰かに見られていたら、即通報レベルの状態だったな。血だらけの男が気を失い、床に大の字で倒れていたんだから事件性有り有りだよね……

 エンジンを掛けて暖気をしてからオーナー宅に向かう。眠そうなのを窓を開けて冷気を直接浴びる事で何とか耐える。

 約束通りにポストに鍵とカードを入れて、手帳に除霊は完了しましたと書いたページを破り一緒に入れる。朝になったら西崎さんに完了の連絡を入れよう。

 ジクジクと痛む体に鞭を打ち、何とか竜雲寺に辿り着いた時には太陽が山間から顔を出していた。

 

 長い夜だった……

 

 悟宗さんも結構怪我が多かったので、お寺の救急箱の中身は充実している。痣になった部分は湿布を貼り、擦り傷切り傷は消毒して絆創膏を貼る。

 鼻にはティッシュを丸めて詰めたが、鼻血は殆ど止まったみたいだ。素人治療を終えたら歯を磨いて口を濯いで、敷きっ放しの布団に倒れ込んだ。

 西崎さんへの報告は起きてからで良いや。

 

 兎に角、眠くて死にそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 遠くで何か電子音がなっている。どうやら家の電話が鳴っているらしい……枕元に置いてある携帯電話のディスプレイを見て時刻を確認する。

 14時38分か、随分と寝てしまったな。それにお腹も空いたな……半分惚けた頭を振りながら電話の所まで歩いて行く。

 

 まだ鳴り止まない電話機の受話器を取る。

 

「はい、もしもし……」

 

「ああ、榎本君かい?もしかして寝てた?」

 

 寝てたも何も寝てましたよ。電話の音で起こされました。頭をガリガリと掻く。

 髪の毛を乾かさずに寝たからか、凄い寝癖になっている。スーパーな野菜人みたいだ……

 

「ええ、明け方に帰って来たので寝てました」

 

「ごめんごめん。先方からさ、除霊が終わったって連絡が有ってさ。

何でも店内を写していた防犯カメラに、君の除霊する姿が写ってたそうだよ。先方も確実に除霊が終わったと喜んでたよ。

今回の報酬は少し色をつけるよ。じゃ、今日はゆっくり休んで明日にでも会おうか」

 

 そう一方的に話して電話を切った。

 

 しかし……防犯カメラで監視されてたのか。

 

 無様な姿や気を失ってる所、後片付けをしてる所とか見られてたのは恥ずかしいな。

 でもやっと二体目だ。まだまだ全然足りない。明日、西崎さんに有ったら仕事を斡旋して貰うか。

 すっかり目が覚めたが、体の痛みは酷くなってきたみたいだ。

 

 今日は大人しく寝てよう。

 

 だが、その前に何かお腹に入れよう。台所を漁るとカップ麺と魚肉ソーセージ、それにダイエットペプシを見つけた。

 

「今日はこれで良いや……」

 

 簡単に食事を済ませて、二度寝をする為に布団に戻った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 前回同様のファミレスで待ち合わせをした。田舎だが駅前と言う立地状況と近くに公立高校が有る為か、平日の午後だが八割方の混みようだ。

 特に学生や主婦層が目に付く。待ち合わせ時間より10分程早く向かったが、やはり西崎さんは先に来て珈琲を飲んでいた。

 同じ様に店員を呼んでドリンクバーを注文し、オリジナルブレンドをニ杯入れて西崎さんの向かい側に座る。

 

 僕のメロンソーダ+カルピスとダイエットペプシを見て「榎本君はアレかい?炭酸好きなの?」と、少し呆れた感じで言われた。

 

 僕は自他共に認める炭酸中毒だ!

 

「ええ、炭酸飲料が大好きですよ」

 

 当たり前だろ的に答える。

 

「まぁ良いや。はい、今回の報酬だよ。立て続けに二件、それも短期で終わらせてるからね。色を付けといたよ」

 

 テーブルの上に置かれた封筒の中身も見ずに内ポケットにしまう。そんな態度に不審気な顔で僕を見る。

 

「傷だらけだけど平気なのかい?無理をしないで少し休んでみたらどうだい?」

 

 アレから打撲の部分は黒ずんで、擦り傷切り傷は腫れてきた。幸い鼻と口の中は悪化しなかったけどね。

 

「いえ、平気ですから……次の仕事を紹介して下さい」

 

 折角の申し出だが、僕は復讐の為に除霊してるんだ。休んでる時間が惜しい。

 西崎さんは珈琲を一口飲んで溜め息をついた……懐から手帳を取り出してページを捲っている。

 

「はぁ……早死にするぞ。そんな仕事振りじゃ。県内で君に頼める仕事はコレしかない。だが、少しランクが高いんだ……どうする?」

 

 手帳を此方に差し出し、探る様な目で僕を見る。差し出された手帳のページを見ると、某テナントビル多発する飛び込み自殺の原因を探る事……そう書かれていた。

 

「飛び込み自殺の防止ですか?心霊って範疇じゃなくて進入禁止柵とか作った方が早くないですか?」

 

 自殺防止って相手は生きてる人間だろ?死んだ後に幽霊となり化けて出るなら相手になるが、自殺志願者を止めるのは霊能力者の仕事じゃない。

 

「最初は進入防止の柵とか色々したそうだ。だが、そのビルで働く人やお客さんが突然窓から地上へダイブするらしい。

まるで何かに取り憑かれた様にね。I Can fly?」

 

 うーん、イマイチ心霊っぽく無いし原因追究とか面倒臭い気がするな。もっと単純な方が良い。

 

「ちょっと嫌です。県外でも良いので、僕のレベルに合った仕事はないですか?」

 

「そうだな……これは少し難しいよな。そうだな。

今扱ってる物件だと県外は……愛知県のラブホテルの一室に出る男女の幽霊。

後は静岡県のアパートに出る赤ん坊の幽霊だ。最初の方は浮気された妻が、旦那が愛人とシッポリ楽しんでた所に乱入して二人共刺し殺した。

次のは……アレだ。幼児虐待だな。若いバツイチの母親が子供を残して遊び歩いてたら、衰弱死だ」

 

 どっちも碌な事件じゃないな……でも子供の幽霊は原因を考えると仕方無いよな。

 

「それじゃ愛知県のラブホの方をお願いします」

 

 浮気で制裁の方が気が楽なので、其方にした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 愛知県で有名なのは名古屋コーチン・味噌カツ・外郎(ういろう)・喫茶店のモーニングが盛大!

 名古屋城・明治村位しか知らない。新幹線を降りると平日昼間の所為か、ホームは比較的空いている。

 今回は市街地のラブホに現れる殺された浮気カップルの霊だ。オーナーの連絡先は聞いているか、問題のラブホには居ない。

 開かずの間として閉鎖し営業してるから、話を通して貰わないと部屋にも入れて貰えないだろう……新幹線内で食べた駅弁の屑をゴミ箱に入れて改札に向かう。

 どちらにしても一泊は覚悟しなきゃならない。先ずはホテルを確保してから連絡しよう。

 駅前に有る周辺地図を見て幾つかホテルをピックアップする。名古屋プリンス、グランドホテル名古屋……高そうだな。

 

 おっ東横インが有るぞ。

 

「決めた!東横インにしよう」

 

 大体の道順を覚えてホテルに向かう。時刻は3時を過ぎているから、部屋に空きが有ればチェックイン出来るだろう。

 重たい荷物を持ってコートを着てると汗が出てくる。もう春も近いんだな、昼間は大分暖かくなってきた。やはり清めた塩が10キロは重かった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 東横インは問題無くチェックインした。一泊5800円で朝食付きは安い。念の為に三泊予約した。

 今夜で終わらなければ、明日の夜まで除霊をするからな。流石に除霊を終えて朝方に帰るのは辛過ぎる。翌日一泊してから帰りたい。

 ホテルの部屋に入り持ってきた荷物を置いてベッドにダイブする。僕は布団派だが、偶にはベッドも良いかな……

 30分程仮眠をし、スッキリしてから備え付けの机に座り携帯電話からラブホのオーナーに電話をする。

 長い……8コール目でやっと繋がった。

 

「……はい」

 

 不機嫌そうな中年の声だな。

 

「もしもし、西崎さんより依頼された榎本です」

 

「ああ、拝み屋さんか?で、何時やるんだ?」

 

 拝み屋?霊能力者にはそんな呼び名も有るのか?

 

「出来れば今夜からでも行いたいです。フロントの方に連絡を入れて貰って良いですか?」

 

「あー分かった分かった。伝えておくから宜しくな」

 

 そう言って電話を切られた……いや時間とか条件とか良いのかよ?詳細を打ち合わせする前に切られたぞ。

 西崎さんが探してくる連中って、基本的に僕等を胡散臭い連中と思ってないか?対応が悪いって言うかさ。

 仕事は頼まれてるけど、一応困ってるアンタ等を助ける為に体を張ってるんだけど?まぁ僕は自分の復讐の為なんだけどさ……

 さて夕飯食って仮眠してから行こうかな。

 ラブホだから独りで行くと、デリヘルとかホテトルとか呼ぶとか思われたりして?それともダミーで女性を同伴させないとダメ?

 

 しかし……僕は彼女なんて居ない。

 

 高校生時代から付き合っていた彼女とは最近になり別れた。多分、「箱」との鮮烈な初体験が僕の女性観をぶち壊してしまったからだ。

 

 何故、「箱」は幼女の姿で現れたのか?

 

 何故、僕はソレを受け入れてしまったのか?

 

 何故、気立ての良かった彼女に別れ話を切り出したのか……それは彼女が成長し過ぎたからだ!

 きっと僕には「箱」の呪いで酷いロリコンになってしまったんだ。僕は悪くない「箱」が悪いんだ。

 

 ひとしきりベッドの上で悶え……いや、青年の悩みを発露してから我に帰る。

 

 悩んでも僕がロリコンに目覚めたのは仕方無いのだ。

 

「認めたくないものだな。若い女性とばかり、エッチな過ちを行いたいとは……」

 

 某仮面な赤い人を真似したが、虚しいので止める。

 

「さて、飯でも食って仮眠するか……」

 

 駅前に有った餃子の王将で、ラーメン+餃子+ライス大の定食を食べに向かう事にした。

 


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