榎本心霊調査事務所(修正版)   作:Amber bird

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第154話から第156話

第154話

 

 素性の宜しくない連中が注目する中、亀宮さんは毅然として建物の方に歩いて行く。 

 車から建物までの距離は30m。無駄に広い駐車場は30台位が停められるが、既に7台程の高級外車が確認出来る。

 その駐車場に疎らに立ちながら、ニヤニヤと見ている連中にガンくれながら彼女の脇を歩く。

 因みに滝沢さんにも奴等は注目している。確かに美人がSPのコスプレしてるみたいだから、彼等的に需要が有るのだろう。

 そんな中で、建物の入口に、比較的品行方正な中年が二人立っている。

 此方は黒のスーツに蝶ネクタイだが、妙に似合ってはいる。

 

 彼等の目の前迄進むと「亀宮様ですね。お待ちしておりました。お連れの方々は待合室にてお待ち下さい」見事なお辞儀をした。

 

 それに見ただけで此方の素性が分かる程度には、訓練されているのだろう。

 慇懃無礼な態度は流石だが、如何せん亀宮さんの凶暴な胸をチラチラ見ては評価がガタ落ちだ。

 中年だが色欲は枯れてないのだろう……胸なんか飾りですよ、ロリコンさん以外はそれが分からんのです。

 昔、某赤い大佐に言った整備員の台詞が過ぎる。世の男達は巨乳に夢と希望を詰め過ぎているんだ。

 

 アレは脂肪の塊だぞ!

 

「私と滝沢、それと榎本が同行します。御手洗、貴方達は此方で待つ様に。では行きましょう」

 

 亀宮さんが的確な指示を出し、目で促す。僕を呼び捨てだが、対外的には正しい。僕は彼女を当主とした派閥の一員なのだから……

 しかし彼女は只の亀ちゃんに取り憑かれたお嬢様じゃないんだな。

 普段の天然ボケが見事に隠されているが、もしかしたら此方が本性なのか?ボケは計画的なご利用なのか?

 

 そんな彼女にチラチラとエロい目線を送る相手に、具現化して威嚇する亀ちゃん。

 マジ噛みしそうな程、口を開けて相手の頭を見る仕草は……完全な捕食者のソレだ。

 

「わ、わわわ……分かりました。どうぞ、此方へ……」

 

 恐怖に顔を引き吊らせながら、扉を開けて中に誘導する。過ぎたエロは身を滅ぼす、至言だな。

 

「行きましょう。亀ちゃん、ソレは美味しくないから止めなさい」

 

 亀宮さんも人が悪いな。前を通り過ぎる時に漏らした言葉に、相手は座り込んでしまう。

 そりゃマジで喰われそうになっていたのを知らされたんだ。腰も抜けるだろう……うーん、亀ちゃんも人間が喰えるんだな。

 それに冷徹な声で相手をソレ扱いするのは、普段の彼女からは想像出来ない。これが日本の霊能界の御三家の当主って奴か!

 

 建物の中はリノリウムの床にクロス貼りの壁、天井はPBに塗装仕上げか?色も白と薄い水色で統一されているし……

 照明も逆富士の剥き出し蛍光灯と、何か病院の廊下みたいな無機質な感じだな。非常誘導灯が、もの寂しさを助長している。

 同然、室内にも案内人が居て皆さんが集まっている部屋に誘導してくれる。

 此方の案内人も先程の遣り取りを聞いていた所為か、亀宮さんを見ようともしない。

 途中に幾つか鋼鉄製の扉が有ったが、暫く歩くと突き当たりに重厚な両開きの扉が見えた、行き止まりだ。

 

「此処から先は別の者が案内致します。どうぞ……」

 

 そう言って開けられた扉の内側は、今迄の無機質感はなく豪華の一言だ。内側には執事みたいな服装のイケメンが立っている。

 むぅ、イケメンは悉(ことごと)く酷い目に遭えば良いんだ。奴はニッコリと亀宮さんと滝沢さんに微笑んだ。

 僕には無視だが、微笑みかけられても困る。

 

「徳田と申します。此処からは私が案内をさせて頂きます、どうぞ此方へ」

 

「有難う、行きますよ」

 

 ボケっと見ていたら、亀宮さんから催促された。黙って頷き彼女の少し後ろ側を歩く。

 踝まで埋まる毛足の長い絨毯、妙に煌びやかなシャンデリア、壁紙も布製の織物みたいだ。

 所狭しと置いてある良く分からない美術品。こりゃ住む世界が違いすぎるな……

 

「此方になります。どうぞ……」

 

 呆然と豪華な内装を眺めていたら、目的地に着いてしまった……反省。

 

『正明!中には面白い連中が沢山居るぞ。しかも敵意が溢れてるな。既に幾つかの探査系の術を弾いている。

気を付けろよ、何か有れば構わず左手を使え。くっくっく……楽しくなりそうだよ』

 

 嗚呼、オートガード胡蝶様の素晴らしさ。妙に楽しそうな彼女は、八王子で喰った丹波の尾黒狐以来か。

 どうやら扉の内側は、魔窟って事だな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 扉を潜り中に入ると一斉に注目された。部屋も広い、100畳以上は有るんじゃないか?100人以上が立食パーティーが出来る程だ。

 

「亀宮様御一行が到着致しました」

 

 イケメンが紹介すると、沃(そそく)さと扉を閉めて部屋の外へ行ってしまったな。

 確かに此処はギスギスとして雰囲気が悪い。見回すと幾つも有るソファーセットの一つが空いている。

 

「亀宮様、彼方に」

 

 滝沢さんが彼女にソファーを勧めるのは流石だ。皆さんの視線を感じる中、ソファーへと移動すると途中で痩せこけて顔色の悪い男が進路を遮ってきた。

 見た目にも分かる高級なスーツを着てるが、誰だコイツ?

 

「邪魔だぞ……」

 

「よぅ、梢。そろそろ俺と付き合う気になったかよ?」

 

 人の静止を無視してニヤニヤと妙に亀宮さんに馴れ馴れしい男だな。それに梢って亀宮さんの本名だが……何故、その名前で呼べるんだ?

 亀宮さんは、奴を無視して僕の後ろに隠れたぞ?

 

「オイ、SPの分際でアレか?俺と梢の仲を邪魔するのかよ、ああ?」

 

「え?これ何て状況?」

 

 状況把握が出来ないまま、目の前の男からガンくれられてます。しかも微妙に相手の霊力が上がっているし……ヤバい、これは仕掛けられるのか?

 

「七郎、止めろ!加茂宮の名前を汚すな」

 

 奴の後ろに似た様な姿形の男が立っている。兄弟と言われても納得する程に似ている、いや似すぎている。

 

「五郎兄貴、だけど!」

 

 五郎と呼ばれた男が七郎の肩をガッチリと掴んでいる。

 

「全くお前は……二子姉さんが怒ってるぞ。コッチに来い」

 

 首根っこを掴まれてズルズルと引っ張られていった。ギャグみたいな展開だが、実際に大の男を引き摺るのは大変な力が要る。

 ツルツルで滑り易い場所なら簡単だが、こんな毛足の長い絨毯の上なら摩擦抵抗が大きくて大変だ。

 あの五郎と呼ばれた男。形(なり)は普通だが力は僕と同じ位有るかもしれない。

 加茂宮と言われた連中を警戒しながら、ソファーに座る。直ぐに紅茶セットが用意され芳醇な匂いが鼻腔を擽る。

 

 高そうな茶葉なんだろう。

 

 滝沢さんがカップに注いでくれて亀宮さん、僕そして自分の順番に配ってくれた。角砂糖を二つだけ入れて一口飲むが、やはり素人でも高級品と分かる味だ。

 紅茶を飲む事で余裕が出来たので、周りを見る。

 

 先ずは加茂宮だが……ソファーに三人座っている。五郎に七郎、それに二子と呼ばれた女性だ。まぁ何て言うか、うん。

 姉だけに年齢は30歳に近いかも知れない。ケバい美人と言えば適切な表現だろうか?茶髪でパーマをかけたロングに化粧はキツい。

 銀座とか高級な夜の店にいらっしゃる接待業の女性に大変良く似ている。僕が最も苦手とする類(たぐい)の女性だ。

 七郎は此方を睨んでいて、五郎は見向きもしない。二子と呼ばれた女性は、此方を見て笑っている。

 

 目が合ってしまった……良く見れば確かに美人だし、スタイルも良い女性が笑っているのは魅力的かもしれない。

 周りの男性陣もチラチラと見てるけどさ。但し良く無い類の笑みだ。アレは悪巧みを考えてる時の表情じゃないかな?

 まぁ彼女の魅力については、ロリコンの僕には1mmも理解出来ないけど……

 

「亀宮さん、あの連中が加茂宮なのかい?」

 

「そうです。一子・二子・三郎・四子・五郎・六郎・七郎・八郎・九子の九人姉弟です。

彼等は全員が加茂宮の当主です。勿論、名前の数が少ない者がより上位ですが……」

 

 子沢山なんだな、加茂宮の前当主夫妻って。それとも妾腹とかで腹違い異母兄弟か?

 

「名前の数が少ない方って、年の順番で?」

 

「いえ、彼等も前当主の子供達からの選りすぐりです。力有る者が上位の名前を名乗れるのです」

 

 何とも九人姉弟でも子沢山と思ったが、異母姉弟からの選りすぐりとはね。全く羨ましいんだか何だか……

 

『正明!お前が目指す形の一つがアレだぞ。産めよ増やせよ増産体制を調えよ。

奴等にも古き力有る者が取り憑いているな。だが、一人では耐え切れない為か力を分散させておる。

個別で来れば問題無いが、纏まっては面倒臭いだろう。隙を見て触れ!』

 

 ちょ、胡蝶さん?賀茂宮に喧嘩を売ったら駄目だって!

 

『構うまい。奴等もやる気満々だぞ。あの七郎と言う餓鬼だが……仕掛けて来るつもりだな。

くっくっく、面白い。我を甘く見るならば、惨劇を持ってもてなそうぞ』

 

 完全にやる気満々な胡蝶さんだ……襲われたらバレない様に喰うしかないか?

 現実問題、僕では彼等に勝てないから胡蝶に頼るしかない。頼りの胡蝶が喰うと言えば止める術も無い。

 ならば僕の出来る事は隠蔽工作だけだ。つまり目撃者と証拠を残さない様にする。

 奴が、七郎が仕掛けて来たら本人と目撃者を消さねばならないのか?

 

 本気で胃の辺りがキリキリと痛み出した。何としても最悪は奴と二人切りの時に襲われないと駄目か……

 いや、逃げ回れば良いだけじゃん!最近、胡蝶と混じりだしてから考え方が物騒になってないか?

 

『ふん、甘い甘いぞ正明!我と正明は一心同体なのだ。刃向かう者には情けはいらぬ。

それに9人全員で襲われれば全盛時の我でも勝てるか分からぬ。単独で居る時に数を減らさねば駄目だ。先ずは七郎を喰うぞ』

 

 初めて胡蝶が勝てないかも知れない相手が出たか。それが御三家の賀茂宮ってだけでも大概なんだが……

 

『分かった、襲われたら躊躇はしない。だけど此方から襲うのは無しだぞ』

 

 正当防衛とか返り討ちとか言い訳が頭に浮かぶ。だが此方から襲うのだけは止めにしたい。それが僕に残った最後の良心だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫く待つと約束の時間となった。どうやら我々が最後だったが、定刻までは岩泉氏は来ないのだな。

 壁際に控えていた執事が、部屋の移動を申し出ていた。顔合わせは別の部屋なのか。

 待っている間に、亀宮さんから知ってる連中の事を教えて貰った。

 先ずは加茂宮一族の、二子・五郎・七郎。

 

 次に伊集院一族だが、頭巾を被り体の線が分からないローブみたいな服装の連中がそうだ。

 真ん中の小柄な奴が当主で、両隣の厳ついのとスラッとしたのが付き人だ。構成はウチと同じだな。

 

 他には僕でも知ってる古参の同業者がチラホラと……修験者の集団は熊野系密教団体だし、巫女さんの団体は関西巫女連合だ。

 彼方は桜岡母娘の所属だから敵対はしない。近状報告をした時に、話は聞いている。

 だから桜岡さんから関西巫女連合に申し入れをして貰っているんだ。

 出来れば協力を無理なら不可侵を……とね。

 

 後は新新興宗教団体の連中が何組か。

 新新興宗教団体とは誤字でなく、所謂新興宗教の代表である創価学会や天理教とは別に1970年代以降に現れた宗教団体の事だ。

 幸福の科学とかが有名だが、近年に一人の力有る者が教祖として突然現れるのも、この類だろう……

 そして力有る教祖が率いる団体は、規模こそ小さいが結束力は強い。妄信的な信者が厄介なんだよな。神泉会なんかが良い例だ。

 

 さて、そろそろ岩泉氏の居る部屋に到着だ。亀宮さんを先頭に部屋の中に入る。

 先程の部屋よりは狭いが全員が座るには十分なソファーが用意されている。

 そして正面には、小太りで小柄な中年が……僕でもテレビで見た事が有る現役国会議員が座っていた。

 

 

第155話

 

 現役国会議員の岩泉氏……小太りで小柄な中年だ。

 今回、彼の祖父が亡くなり遺産として相続した土地が大金が転がり込む宝の山に変わった。

 だが人に害なすナニかが潜む、厄介な山林も含んでいた。

 岩泉氏は何とか原因を解決する為にと我々を集めたが……金の力で解決しようとした為に、有象無象の連中まで呼び寄せてしまった。

 

 成功報酬は五億円!人生が買える金額だ。

 

 だが既にそのナニかは、先走って山林に入り込んだ連中に危害を加えている。

 さて、どんな説明をしてくれるんだ?岩泉さんは。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イケメン執事が岩泉氏を紹介した。注目する我々。

 岩泉氏は椅子から立ち上がり、此方をゆっくりと見回してから話し始めた。

 

「今日、此処に来て頂いた方々は日本でも有数の霊能力者だ。

私、岩泉は祖父から受け継いだこの土地に巣くう怪異に、非常に困らされている。

手段は問わない。早期に解決してくれ。細かい話は徳田に任せてあるので聞いてくれ。以上だ!」

 

 早いし、もう終わりか?そう言って部屋から出て行ってしまったよ。

 質疑応答も無しかよ?亀宮さんを見れば、目が合ってしまった。

 僕にニッコリ微笑む彼女。彼女の背後で僕を睨む七郎。

 その時、伊集院の当主が徳田と呼ばれたイケメン執事に話し掛けた。かん高い声だが、女性か子供なのかな?

 

「何を持って成功と判断されるのだ?肉体の無い相手かも知れないぞ。

それに誰が仕留めたと確認するのだ?私達の除霊に立ち会われるのか?」

 

 少女の様な声だが、言ってる事は僕も疑問だった。

 共同除霊なんて誰かが除霊に成功しても、俺がやった・私も手伝ったとか言い出したら切りがない。

 御三家もプライドをかけてるからな。最悪順番を争い一斉攻撃とかで全員参加とか笑えないぞ。

 

「私達は除霊には参加いたしません。それは貴方様方で決めて下さい」

 

 無責任に言い放つイケメン執事。一瞬、言葉の詰まる伊集院の当主。ヤレヤレと首を振って座ってしまったよ。

 両隣に座る連中とボソボソ喋り始めたが、話にならないと諦めたのかな?

 

 うむ、イケメン執事に殺意が湧いた!イケメンは悉(ことごと)く滅ぶがよい。

 

 だけど確認しておく事は有るんだよな。向かいに座る亀宮さんに聞く。

 

「亀宮様(対外的な配慮で人前では様付)幾つか確認したいのですが発言は宜しいですか?」

 

「構いません。すみません、私達からも幾つか宜しいですか?」

 

 亀宮さんが立ち上がり、イケメン執事に話し掛ける。僕達に周りの注目が集まる。

 

「亀宮様。何か質問が有りましたらお願い致します」

 

 イケメン執事に軽く頷いてから、僕を見る。

 

「榎本、代わりに話しなさい」

 

 上手い振りだ。これなら僕達の共通認識を代理で質問する事と周りは受け取るだろう。

 

「分かりました、亀宮様」

 

 立ち上がり彼女に頭を下げる。僕は彼女を当主と仰ぐ派閥の一員だからね。

 しかし普段の炬燵で寛いで蜜柑を食べながら、水曜どうでしょう?を見ている彼女からは想像出来ないや。

 この仕事モードの亀宮さんは……でも八王子の時は、そうでも無かったのは何故だ?

 いや、今は仕事中と思い出して気持ちを切り替える。

 

「先ずは其方で把握している情報を全て頂きたい」

 

「全て、と言いますと?」

 

 首を傾げながら聞き返す姿が様になっていてヤダな。美女・美少女がやると嬉しいが、イケメンがやると駄目だ……

 

「僕達よりも前に挑み散っていった霊能力者が調べた事。それと彼等の末路。

先代当主と問題の山林の情報。今回の件に関する全ての事を教えて頂きたい」

 

 どうするイケメン?既に死傷者が増えてる事も知ってるんだぞ。

 

「除霊に失敗した方々の事は知りません。岩泉一族についての事は秘守義務が有り話せません。山林についても同様です」

 

 おぃおぃ、それはないだろ?だが気落ちする前に必要な事は聞かないとな。

 

「除霊中の我々の日常の世話はお願い出来るのですか?」

 

「勿論です。この山荘を御自由に使って頂いて構いません。滞在用のお部屋も用意しています。食事も提供させて頂きます」

 

 これは当たり前だ、分かっていて聞いたんだ。

 

「割り振られた部屋にインターネット環境は?」

 

「御座います。宜しければパソコンも御用意いたします」

 

 さて、これからが本題だな。

 

「我々への依頼内容は山林の怪異の調査と解決ですよね?」

 

「そうです」

 

 何を言ってるんだ的な目で此方を見ているイケメン。

 

「ならば、この山荘で働く方々の護衛は無用。建物その他を破損しても責任は無しで宜しいですね?

仮に山荘に潜むヤツが攻めてきたとしても、優先順位は除霊する事。

その他の事には我々は責任が取れないので、徳田さんの方で対処をお願いします」

 

 そう言って頭を下げる。協力しないなら此方も助けたりはしない。それに誰かを守りながら戦うのは大変だ。

 イケメンや脛に傷持つ連中ばかりだから良心も咎めないし……守りたくない相手だから尚更だよね。

 

「ふふふ、そうね。非協力的な相手を守る義務は無いわね。この山荘が安全なんて保証ないしさ。

貴方、亀宮の嬢ちゃんが引き抜いた男でしょ?すっかり尻に敷かれてるわね。

だらしないわよ、男ならグイグイ引っ張りなさい」

 

 二子と呼ばれている加茂宮の当主が此方を見て笑っている。立ち上がり腕を組んで、ソコソコの乳を盛り上げて笑顔を浮かべている。

 しかも僕の事は調査済みなのか……甘く見過ぎていたんだな、御三家って奴の力を。

 

「有名な加茂宮の二子様に同意して頂けるのは幸いです。最近ですが亀宮の派閥の末席に入れて貰いまして……ちゃんとした雇用契約の元で働いています」

 

 二子さんに向かって頭を下げる。彼等を刺激しては駄目だ。喰う時は一瞬で終わらせなければ駄目なんだ。

 

「へー貴方が噂の……雇用契約って事は条件次第でもウチに来るのかな?好待遇を約束する」

 

 気が付けば直ぐ近く迄、伊集院の当主が来るのが分からなかった。フードを深く被っているが、近くに来れば隙間から覗けるから分かる。

 伊集院一族の当主は10代後半の少女だ。残念ながら体型は分からないが、その見えた目元だけでも美少女だと分かる。

 長い黒髪を無造作にポニーテールで纏めているが、腰よりも長い。食い付いて来たけど、勧誘が本気じゃないのが分かる。

 揺さぶりを掛けて来たんだろうな。此処で迷えば、僕の亀宮一族での立場が悪くなる。強かな連中だよ、全くさ。

 

「いえ、お誘いは嬉しいのですが他に行く心算は有りませんので……」

 

 彼女の目を見てキッパリと断る。真のロリコンとしては、彼女の希望を叶えてあげたいが状況的に無理だ。

 

「正明、あの伊集院の連中だが獣憑きだな。上手く隠しているが、近くに来て漸く分かったぞ。

ふむ、当主に憑くのは大蛇(おろち)かよ。後ろの二人は羆(ひぐま)と犬か……」

 

 アレ?確か伊集院一族は仏教系じゃなかったか?獣憑きとは初耳だぞ、亀宮さんも謎の多い一族って言ってた筈だ。

 しかし大蛇(おろち)と羆(ひぐま)とは凄いな。犬は一見ショボいが、嗅覚強化が出来るなら凄い。

 結衣ちゃんも獣化すると嗅覚も強くなるって言っていたな。しかし蛇少女・熊男?・犬男?か。

 変化出来るとなると、下半身が蛇になるのかな?

 

「あっさり断るわね。良いのかしら?結衣ちゃんでしたか……我々と同族かもしれませんよ」

 

 僕以外には聞こえない様な小さな声での爆弾発言に、思わずギョッとしてしまう。

 彼女の目は笑っているが、お前の周囲の情報は握ってるんだぞって事か……

 

「さて、何の事でしょうか?哺乳類と爬虫類では違うと思いますよ」

 

 そう顔を近付けて小さな声で言う。鋭い目で睨まれたが、何も言わずに離れていった。

 あの目は爬虫類の目だ……マイエンジェル結衣ちゃんと比べるなよな。

 狐っ娘と蛇少女じゃ、萌えヒロインとホラー主人公位の開きが有るんだ。

 

「あの……お話しは済んでませんが……」

 

 イケメン執事が困った風に此方を見ているが気にしない。御三家が絡んだ会話だからな、突っ込む事も難しいか?

 

「亀宮様、衣食住は問題有りませんが自力で解決しなければ無理ですね。まぁ周りを気にせず我々だけで行動するしか有りませんね」

 

 立場上、僕には決定権が無いので当主たる亀宮さんに確認する。まぁ優しい彼女の事だから、何かしらの妥協案を出すだろう。

 

 飴×鞭って奴だ。

 

「そうですね。この山荘に居る方々には悪いですが、お互い仕事ですから自己責任ですね。徳田さん、お部屋に案内をお願いします」

 

 いや、バッサリ切ったぞ、鞭×鞭だぞ。そう言って立ち上がる彼女。

 

「お待ち下さい!今までの除霊で集まった情報はお渡しします」

 

 慌てて情報を小出しにしてきたな。イケメン執事を見る周りの表情も冷ややかだ。

 しかし……亀宮さん、こんな交渉術も出来るんだ。立ち止まりニッコリとイケメン執事を見ている。

 何も言わないのは、まだ情報を引き出すか条件を吊り上げるかなんだな。

 

「その……岩泉様の事は先代様の書斎にご案内しますので、ご自分でお調べ下さい」

 

 先代の書斎?もしかしなくても、この山荘って先代が山林でナニかしていた時の拠点か?ならば調べる価値は有る。

 

「私達が近くに居る時は、山荘の方々もお守りしましょう。では書斎に案内して下さいな」

 

「待てよ。情報の独り占めは良くないんじゃないか?」

 

「私達も調べたいですわ」

 

 今まで空気だった密教系団体と関西巫女連合の方々から抗議が来たぞ。

 どう見ても武蔵坊弁慶みたいなオッサンと30歳前後の色っぽい巫女さんが代表みたいだ。

 

「最初に調べる権利は私達に有ります。貴方達は、その後になります。それが嫌なら最初から条件を出すべきです。お下がりなさい」

 

 亀宮さん無双でバッサバッサ切り捲りだな。日本の最大勢力の一角の当主だから強気な態度は当たり前だな。

 うん、僕に対しては大分譲歩してたんだ……

 

「書斎と言う位ですし、多人数で押し掛けても逆に調べ辛いでしょう。最初は交渉で条件を引き出した我々が調べます。

そうですね……明日の朝には我々は引き上げますから、宜しいか?」

 

 此処でゴネても不協和音を生むだけだ。なに、調べるだけなら一晩でも平気だし怪しい資料は持ち出せば良い。

 引き上げるとは言ったが、持ち出さないとは言ってない。

 

「む、なら良いだろう。だがSP風情が調べられるのか?」

 

「厳杖(げんじょう)さん、榎本さんは調査のスペシャリストなんですよ、ねぇ?霞さんから聞いてますよ。

私は彼女の姉弟子の高槻(たかつき)と申します。宜しくお願い致しますわ」

 

 綺麗な笑顔でお辞儀をされちゃったよ。改造巫女服を着て独特な化粧をしているが、結構な美人さんだ。

 関西巫女連合なら当然、僕の情報は知ってる。亀宮さんと同行してる事も桜岡さんには話してるからな。

 厳杖と呼ばれた似非弁慶は納得いかない感じだが、僕が自分と同じ脳筋だと思うなよ。

 しかし、この騒ぎの中で加茂宮と伊集院は静観するだけだ。余程の自信が有るのだろう。

 

 逆に徳田と言うイケメン執事だが、能力的に低くないか?

 

 交渉下手だし、とても現役国会議員の……嗚呼、そうか。危険な場所に送り込まれた連中だ。

 飛び抜けて有能か、失っても痛くない連中か……駐車場に屯(たむろ)していた連中と同様に後者なんだろう。

 岩泉氏は僕達に隠している事が多過ぎるな。上手く立ち回らないと足元を掬われるかもしれない。

 

 加茂宮に伊集院、密教系団体と関西巫女連合。

 

 それに会話には加わらなかった連中も癖の有りそうな感じだ。

 僕の情報も駄々漏れだったのは驚きだが、亀宮さんの影響力を甘く見た事が失敗した。

 隣でニコニコしながら僕を見る彼女は、実は霊能力者達から見ればトンでもない御方なんだな。

 

 ヤレヤレだぜ……

 

 

第156話

 

 岩泉氏に呼ばれて、やって来た山荘。直接岩泉氏からお言葉を頂いたが、超放任主義だ。

 だから徳田と呼ばれるイケメン執事とも話したが、彼は見てくれだけで中身はスカスカだった。

 危険を承知で山荘に用意された人材は、岩泉氏的に失っても惜しくない連中なんだろう。

 彼等の庇護を条件に、先代の書斎へ案内して貰った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イケメン執事を急かせて案内させた先代の書斎。既に場所からして怪しいと言うか普通じゃない。

 問題の書斎は一階の真ん中に有ったんだ。四方を壁に囲まれている部屋だが、広さは30畳近く有るだろう。

 普通は最上階の南側とか環境の良い場所に配する筈だ。だが窓は無いが空調は完備されているし暖炉まで有る。

 

 密室で直火を使うなんて危険極まりないのだが……一酸化炭素中毒なんて即死亡だよ。

 

 重厚なマホガニーの机に革張りの椅子。四方の壁にミッチリと高そうな背表紙の本が並んでいる。

 まさに金持ちの書斎で有り、僕みたいな一般人には映画でしか見た事無い造りをしている。

 

「凄いですね……本が沢山有りますが、全てを読むのは一晩では無理ですよ。それに此だけ広ければ皆さんを呼んでも大丈夫だったのでは?」

 

 一番手前の本棚を見上げながら、亀宮さんが溜め息をついている。

 

「そうだな。御手洗達を呼んで手分けをしても、この本棚一つ読めれば良い方だぞ」

 

 何故か女性陣は全ての蔵書を読む気なのか?見渡すだけでも本棚は20以上は有る。納められた蔵書も1000冊は下らないだろう。

 だが全てを読むつもりは無い。

 だって亀宮さん達が見ている本棚には、国会議員全集とか国語とか英和とかの辞典シリーズとか岩泉氏本人だって読んだか怪しい本がミッチリ詰まってるし……

 ダミーの可能性も有るが、先ずは書斎の中でも執務机の周りの本棚を見る。

 

 人間、必要な物は身近に集める筈だ。

 

「日本書紀・古代の神々・四国古事記・神の国の歩き方・高天原神話・風土記・神道用語集・国生みと神生み……先代の岩泉氏は、日本の古代神に興味が有ったみたいだな」

 

 適当に本棚から一冊を引き抜いて見るが、汚れ方からかなり読んでいたと思われる。パラパラと捲れば、所々にマーカーが引かれてるし……

 

「なになに?神仏は実在するのか……」

 

「随分と話が飛躍しましたね。我々は心霊を相手にするのであって、神や仏を相手にするのは無理ですよ」

 

 一節を読み上げると、亀宮さんから突っ込みが入った。勿論、胡蝶や亀ちゃんでも神仏に勝てる保障は無い。

 いや無理だろ、太古の神々なんて祟り神とかとはレベルが違うぞ。

 

「そりゃ神仏と敵対なんて笑えない。だけど岩泉氏は古代の神々に興味津々だったんだね。何故だ、何故神世の時代に興味が有る?

独学じゃ無理な世界だから、本格的に調べてるなら誰か協力者が居る筈だ。それこそ国学者とか、この蔵書の著者とかも考えられるか?」

 

 事前に調べたり風巻姉妹からの資料には、先代の岩泉氏が太古の神々に興味が有るとは無かった。

 これだけの事をして、周りが誰も知らないとか有り得るのか?つまり、外には秘密で調べていた事が有るんだ。

 

 机の引き出しを開けて中身を確認する。幸い鍵は掛かってなく全ての引き出しを開ける事が出来た。

 高そうな文具類に数冊のノート、それに漫画日本書紀と漫画日本神話だと?机の上にノートと漫画を並べる。

 

「取り敢えずノートの中身を確認しよう。それと漫画版の日本書紀と日本神話が有ったが……」

 

 何の変哲も無い学研とかで出版してそうな漫画版の日本書紀と日本神話。

 パラパラ捲れば、イザナギとイザナミの話に付箋紙が貼ってある。

 

「イザナギとイザナミか……どう思う?」

 

 机の周りにソファーを運び込み、熱心にノートを捲る女性陣に質問する。

 

「私は……余り詳しくないんだ、その……」

 

 まぁ滝沢さんは肉体派だからな、知恵熱出す前に止めておくか。彼女に難しい話は無理だろ。

 

「なっ?何だ、その生暖かい目線は!別に普通はタイトル位しか知らんだろ、日本書記とか古事記とか?」

 

 真っ赤になってワタワタ手を振る彼女は、実年齢より幼く見える。

 まぁ事実、周りの連中に日本書紀とか日本神話って内容知ってますか?って聞いても正確には答えられる人は少ないだろう、専門的に学んでなければ。

 

「はいはい、滝沢さんは肉体派だからね。大丈夫、大丈夫だからね。亀宮さんは知ってる事が有るかい?」

 

 滝沢さん弄りはこの辺にして、本命の亀宮さんに話を振る。彼女は滝沢さんが僕に弄られていても平気だった。

 同じく知らないなら、話が振らないか心配そうにする筈だ。

 

「そうね……日本神話の神々のほぼ全てはイザナギとイザナミから生まれてるわね。

つまり古代神達の始まりの夫婦ね。岩泉さんは、何故古代の神々に興味が有るのかしら。

もしかして今回の原因は神話に出てくる神々と関係してる?」

 

 おぃおぃ、そんな連中が相手なら逃げるぞ。割と真面目な顔でトンでもない事をおっしゃる。

 神々の本体か関係者なんか出てきたら、この辺一帯が更地になってるって……

 

「何だ、榎本さんは考えが違うのか?曖昧な顔をしてるぞ」

 

 少し嫌な事を想像してたら、滝沢さんから突っ込みを貰った。

 

「曖昧な顔って……イザナギとイザナミは日本の大八島を造った神として古事記に載ってる。

日本書記でも同様な事が書かれているよね。

さて……

この本が編纂された時期は、大和朝廷の時代だよ。つまり時の権力者に有利な話になってる、有利に作ってる。

近代だって戦勝国が勝手に歴史を捏造するのと同じだよ。具体的に言うと神々の頂点に天照大神を祀り、その子孫が神武天皇だ。

有力豪族が祀る氏神様とかを枝葉の神々に据えた。この話を広める事により大和朝廷は、制圧した地方の豪族達や民を抑える事が出来ると思ったんじゃないかな。

神々の信仰が今では考えられない位に強かった時代だからね。スサノヲでさえ、出雲・須佐地方の神でしかない。スサノヲの子孫である大国主命も出雲の神様だ。

あの時代、出雲の豪族達は強い勢力を持っていた。だから大和朝廷は、せめて崇める神々だけでも親戚にして彼等との外交に使ったんじゃないかな?

まぁ俗説だし、今となっては確認のしようも無い。って、何でそんな顔で見るかな?」

 

 ボケッと僕を見詰める女性陣に声を掛ける。信じられないモノを見る様な目は止めて欲しい。

 この説は割とポピュラーな話だろ?記紀神話を読めば、それ位の知識は……

 

「最も脳筋な榎本さんが知的な事を?似合わない、全く似合わない。

オレ、オマエ丸カジリとか言われた方がマシだ。または、ダマレ、犯スゾ雌豚とか?

知的な肉達磨とか違和感が有り捲りだぞ!」

 

 滝沢さんの隠された性癖を垣間見たぞ。この娘、ドエムかよ?

 八王子の怨霊も怪我を厭わないドエムだったが、嫌な趣味じゃないか。

 僕には全く理解が出来ないが、美人のドエムって需要は有るんだろうな……残念な美人の滝沢さんに心の中で溜め息をつく。

 

「私は榎本さんが知的な事は知ってましたよ。

お坊様なのに神道系の神々にまで詳しいのにはビックリしました。桜岡さんの影響かしらね?」

 

 此方は、何やら含みの有る言い方で睨んできた。僕が日本神話とかを調べたのは、仕事で同様な事が有ったからなんだけど……

 

「僕はドエスだけど滝沢さんの気持ちには応えられない。放置プレイ推奨で。別に霊能力者として日本書紀や古事記とかを調べるのは普通だろ?

僕も昔だけど廃れた神社に良くないモノが取り憑いたって依頼を請けた。原因を追求する為に主祭神とかを調べ始めたのが切欠だよ。

勿論、主祭神が悪さをしていた訳じゃない。人間と神々の解釈の違いだな。彼等は人間界のルールは適用されない。

時には理不尽とも思える仕打ちをするんだ」

 

 胡蝶だって先祖が崇めないからって、説明せずに一族を殺し続けた。だが理由を理解し崇めれば、とても協力的だ。

 何でも人間が一番なんて勘違いも甚だしいんだよ。

 

「私はドエムじゃない!」

 

「その依頼はどうなったんですか?榎本さんは神々と対峙した事が有るんですね」

 

 一人は真っ赤になってワタワタと、一人は純粋な尊敬の目を向けてくる。そんなに大した事はしてないんだけど……

 

「対峙って戦ったら負けは確定してるんだ。その神社は後継者問題で廃れたんだよ。だから地権者に説明して、住み込みで神社を継ぐ方を募集・斡旋したんだ。

その上で上位神を祀る神社から御札を貰い、廃れた神社を掃き清めて謝ったんだよ」

 

 アレ?これって胡蝶の時と同じだ。僕は正解を知っていながら学習能力が欠落してたのか……

 

「なっ、何で跪いてるんですか?ドエムの件は怒ってないから大丈夫ですよ」

 

「流石です!はなから勝てないモノは相手にしない。その上で手打ちを取り纏めてくれる上位者を探し出すなんて。民事調停みたいです」

 

 微妙な御意見を頂きました。うん、流石はドエムだ。此方が困れば直ぐに謝ってくる。

 基本的にエム属性の方って優しいのだろうか?亀宮さん、確かこの案件は危うく死にそうになったんだ。

 

 民事調停って、御近所の諍いレベルまで墜落したぞ。

 

「いや、大丈夫だよ。少し過去の自分を叱りたくなってさ。

もう大丈夫だ、解決した話だし被害も食い止めたんだ。大丈夫、僕は大丈夫だから……」

 

「正明、あの時もヒントは言ったぞ。我が身に置き換えてみろ、と……」

 

 胡蝶さんからも駄目出しが来ました。そう言えば、そんな事も聞いたな。余裕の無い時期だったから、深く考えなかったんだ。

 

「それと、この部屋には餓鬼の気配が残ってる。数は多いが不味い奴等のな。

ふむ、暖炉の辺りが濃厚だぞ。それと机から禍々しい気配が有る。まだ秘密が有りそうだな」

 

 餓鬼?禍々しい気配?机?何だろう、机の中は全て調べたけど……胡蝶に言われた通りにマホガニーの机を調べ直す。

 引き出しを全て取り出し、天板や側面の板も叩いてみた。

 

 机の下に潜って裏側を調べている時に、呆れ顔の滝沢さんが「榎本さん、何をやってるんですか?」って聞いてきたが、まさか胡蝶に言われてナニかを探してますとも答え辛い。

 

「うん、その机からね。良くない気配がするので調べているんだ。この机、まだ秘密が有りそうだよ」

 

「ひっくり返しましょうか?」

 

 そう言うと亀宮さんが机の上の物を片付け始めた。

 

「ほら、反対側持って!」

 

 マホガニー製の机だから50キロ超えなんだが、引き出しの有る右側を僕が左側を女性陣が持ってひっくり返した。

 

「机の下は結構汚れてますね……あら、何かしら?」

 

 絨毯の上に置いている家具だから、頻繁には動かさない。だから隙間には埃が溜まっているのは仕方ないだろう。

 だが、埃の他に……

 

「古銭かしら?うーん、古くて分からないけど日本かしら中国かしら?」

 

「それと古い手帳ね……」

 

 机を退かすと古銭と手帳が見つかった。あの手帳が胡蝶の感じた禍々しい気配を発してるのか?

 拾おうとする亀宮さんの細い手を掴んで止める。

 

「待って、亀宮さん。この手帳だけど、禍々しい気配がしないかい?僕は素手で触るのは嫌だぞ」

 

 彼女はキョトンとしていたが、手帳をマジマジと見て何かを感じたみたいだ。

 

「うーん、確かに嫌な気配がするわ……待って、祓いましょう」

 

「亀宮さんって物に憑いたヤツを祓えるの?」

 

 僕の拙い霊能力の霊視では、核心的な事は分からない。少し嫌な感じがする古い手帳としか……

 

「榎本さん?何時までも亀宮様の手を握ってないで離せ!全く私の前でイチャイチャは許しません」

 

 滝沢さんの指摘に気付いて、慌てて握っていた亀宮さんの手を放す。別にイヤらしい気持ちで握ってた訳じゃないぞ!

 


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