俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第十二話「ゴミ屋敷の先輩」

「おい、ソウジ。本当にここで間違いないのか?」

 

「だと思うけど」

 

 収容所の一件から五日後の朝の事。

 

 毒の後遺症もなく、全快した俺はソウジと共に街へ出て、元エイキュウカンパニー社員のトクヤマという男を探していた。

 

 近隣住民の話によると、その男がワルデットらしき連中と密会していたという。

 

 それが本当だとすると、一番こわいのは、エイキュウカンパニーの内部情報がワルデット側に渡ってしまう事だ。

 

 実際にそういう事例は過去にもあったらしく、とにかく手遅れにならないようにと探索は続いた。

 

 そして、行き着いた先は、何とゴミ屋敷。

 

 表札には、たしかにトクヤマと書かれているが、とても人が住んでいるとは思えないほどの荒れっぷりだ。

 

 とりあえず、中に入ってみるも、玄関を開けたとたんに悪臭とホコリが襲い掛かってきた。

 

「ごほ、ごほ! ったく、毒から解放されたと思ったら、これかよ」

 

「トクヤマさん、いませんか? エイキュウカンパニーの者なんですけど」

 

 俺たちがいくら呼びかけても返事はなく、ハエの飛ぶ音が聞こえるだけだった。

 

 かなり気は進まなかったが、とりあえず中を進んでみるしかなさそうだ。

 

「ショウちゃん、人の家だから、靴は一応脱いでね」

 

「マジかよ。せめて、スリッパ......なんてないよな」

 

 なんてやり取りをしていると、上の方から不気味な笑い声が聞こえてきた。

 

 そして、それに続くようにおっさんが二階からおりてきて、俺たちを出迎えた。

 

「どうも、社会のゴミです」

 

「何を楽しそうに言ってんだ。あんたがトクヤマさんか?」

 

「ああ。エイキュウカンパニーの者だっけか? まぁ、立ち話も何だから、奥へどうぞ」

 

 トクヤマは、俺とソウジをリビングへ案内してくれた。

 

 ここまでは、ワルデットに関するものは発見できなかったが、ゴミに埋もれている箇所が多すぎて、正確な判断ができにくい。

 

 かといって、この家をきれいにするとなると、一筋縄ではいかないだろう。

 

 まずは人を集めて、掃除するとこからはじめてもいいが、この中に何かを隠しているとしたら、始める前に隠ぺいされる可能性が高い。

 

 俺はここで電話をかけるふりをして、リビングを一旦はなれた。

 

 とりあえず、この家の中をザーッと見て、あやしい部屋などがないかチェックする事にしたのだ。

 

 しかし、開始一分ほどではやくも変色した梨を勢いよく踏んづけたうえ、汁を目にくらってしまった。

 

 これは、かなり難航しそうだ。

 

「さてと、ぐだくだ言ってもはじまらねぇし、まずは奴がさっきまでいた二階から探ってみるか。う」

 

 もちろん、階段も上から下までゴミまみれだ。

 

 床部分にはどす黒い汁のようなものがこぼれているし、進むのは気が引けたが、このままじっとしてても何も進展しない。

 

 俺は腕まくりをした後、ひどいにおいに耐えつつ、二階へ上がり始めた。

 

 すると、中間くらいまで上がったところで、二階部分に並ぶ部屋に違和感を覚えた。

 

 右三つの部屋はドアが開きっぱなしで、入り口付近にゴミが散乱しているというのに、一番左の部屋は鍵とチェーンで固く閉じられていた。

 

 チェーンは少し乱雑な感じで巻かれており、ここからトクヤマが慌てて出てきた姿が推測できる。

 

「奴は俺たちを出迎える寸前までこの部屋にいたのか。しかし、玄関に鍵はかかってなかったのに、なんでここだけ閉める必要あるんだ?」

 

 俺は疑惑を持ちながらも、トクヤマに怪しまれないためにリビングへと戻った。

 

 やはり、ここはコソコソ行動するよりも堂々とたのんでみた方がいいだろう。

 

「なぁ、トクヤマさん。さっき、二階にやけに厳重に閉めてる部屋を見つけたんだけど、あれは?」

 

「何? なんで、わざわざ二階へ行ったんだ! まさか、見たのか! 鍵を壊して、中を見たのか!」

 

 何と言うか、分かりやすいリアクションだ。

 

 今までの陽気なトクヤマは仮の姿で、ようやく本性が見えてきたというところだろう。

 

 奴はその後、貧乏ゆすりしたり歯ぎしりしたりと、落ち着きのない行動が目立ってきた。

 

「な、なぁ、そろそろ帰ってくれよ。そろそろ寝ないと、肌が荒れちまうからさ」

 

「ゴミ屋敷の住人が肌荒れ気にしてる場合じゃねぇだろ」

 

「まさか......ね」

 

「ん? ソウジ、どうした?」

 

「いや、さっきから気になるところがあってね」

 

 ソウジは、トクヤマの腕辺りを凝視していた。

 

 まぁ、そこで気になる点があるとすれば、着ている長袖部分が汗でじゅくじゅくになっている点ぐらいか。

 

「あんた、尋常じゃないくらい汗かいてるぜ。上着脱いだらどうだ?」

 

「い、いや、これは別にいいんだ。その、ダイエット中だから」

 

 トクヤマは少し焦ったような声色で笑っていたが、直後にソウジに腕を捻られ、上着をはぎ取られた。

 

 それによって露出した奴の肩には気味の悪いケロイドのようなものがあり、ドクドクと心臓のように動いていた。

 

「ボクの肩にもそれと同じものがある。ワルデットの細胞を移植したという証のね」

 

「ちっ、どこから気がついた?」

 

「あなたが二階から降りて来た時です。こんな暑い家の中なのに、わざわざ上着を羽織りながら出てくるなんて変でしょ」

 

「ふーっ、ばれちまったもんはしょうがねぇな」

 

 トクヤマはソウジをふり払い、下シャツを脱ぎ捨て、唸り始めた。

 

【挿絵表示】

 

 すると、奴の上半身はバッキバキの筋肉質になり、目つきも鋭くなった。

 

 下半身だけはなぜかそのままだったが、相手を威圧するには十分すぎる迫力だ。

 

「はははは、圧倒されて声も出ないか」

 

「ソウジ、どうなってる? 改造ワルデットは三人だけじゃなかったのか?」

 

「うん。おそらく、彼は自分で研究した末にワルデットの細胞を移植したんだろう」

 

「その通りだ。実に長かったよ。ワルデット連中に資料をもらっては実験を繰り返し、力を手に入れるためににここまでやってきたんだ」

 

「なるほど。研究だけに没頭し続けた結果がこのゴミ屋敷か。哀れだな」

 

「何が哀れなんだ。あんなに素晴らしいワルデットの力を何が何でも手に入れたいと思うのは当然だろう!」

 

 熱く語るトクヤマの目は狂気に満ちていた。

 

 聞いた話によると、奴は上級ワルデットに敗北した後にエイキュウカンパニーを去ったというが、それは恐怖や自信の喪失によるものではないようだ。

 

 おそらくは、上級ワルデットの強すぎる力に魅せられ、憧れのような感情を抱いてしまったのだろう。

 

「バカな野郎だ」

 

「フン、改造はまだ完ぺきではないが、こうなっては仕方ない。お前らの口を封じさせてもらうぞ」

 

 トクヤマは腕を振り上げながら、襲いかかってきた。

 

 とりあえず、こんなゴミ山の中では戦いにくい。

 

 俺はガラスを蹴破って庭へ飛び出し、奴を迎え撃つことにした。

 

「へへ、じ、うお!」

 

 すでにトクヤマは俺の背後に迫っていた。

 

 ただの筋肉バカというわけではなく、俊敏さも兼ね備えているようだ。

 

 攻撃と回避にしても、単純ではなく、動きが非常に読みにくい。

 

 まぁ、元エイキュウカンパニーの社員で、さらにワルデットの力をまで得ているのだから当たり前かもしれないが。

 

「ぐぅ。やるじゃねぇかよ、トクヤマさんよぉ」

 

「よいしょしても、見逃さないぞ。死ねぇ!」

 

 トクヤマは強烈なパンチの連打を繰り出してきた。

 

 俺は腕でガードするも、吹き飛ばされ、外壁に叩き付けられた。

 

 そして、態勢を整えるヒマもなく追撃されかけるも、ソウジが間に入ったことで難を逃れた。

 

「ごめん。ボクも一緒に戦うよ」

 

「バカヤロウ、よけいな事すんな。俺がやられるとでも思ってんのか」

 

「フフ、一人でも二人でも同じだ。まとめて地獄へ送ってやる」

 

 トクヤマは近くにあった木を引っこ抜き、振り回して攻撃してきた。

 

 ソウジはそれを受け止めると、押されながらも攻撃に移ろうとはしなかった。

 

「トクヤマさん、今ならまだ間に合います。罪を償ってください」

 

「上から目線はやめろ、小僧が!」

 

 トクヤマは聞く耳を持たず、攻撃をさらに激化させた。

 

 対するソウジはしばらく防御を続けた後に後退し、高速移動を始めた。

 

 どうやら、トクヤマを倒す決心がついたようだ。

 

「しかたない」

 

「高速移動か。それがお前の持つワルデットの力か、小僧」

 

「ええ。できれば、戦いたくなかったけれど、ここからは全力でいかせてもらいますよ」

 

 ソウジはさらに高速移動のスピードを上げ、トクヤマを翻弄した。

 

 そして、その状態のまま、ヒットアンドアウェイを繰り返し、奴を追い詰めていった。

 

「ぐ、ぐわ」

 

「いくら奴が俊敏でも、素早さでソウジに勝てるはずがない。この勝負、あったな」

 

「ちょこまかと、いいかげんにしろ!」

 

 トクヤマは白目になりながら、木を振り回し、それで自分の頭を強打して倒れた。

 

 その後はまったく動かずにいたが、ソウジが俺の方を向くと、急に立ち上がってきた。

 

「はあああああああああ!」

 

「ぐっ!」

 

「はぁ、はぁ。このときを待ってたんだ」

 

 トクヤマはソウジを羽交い絞めにし、何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 

 しかし、別に何かが起こる様子はないうえ、奴の背後は今ガラアキになっている。

 

 俺はすぐに短剣ムーブを装備し、ソウジの援護へ向かった。

 

「ソウジ!」

 

「はははははははは!」

 

「何がおかしいんだ、トクヤマぁ!」

 

「今に分かる」

 

 トクヤマは余裕の表情を浮かべていた。

 

 そして、俺のパンチを回避しようとする様子もなく、その身にくらった。

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