俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第十四話「悲劇の少女」

「はぁ。今日も何もなしか」

 

 黒人間を取り逃がしてから今日で一カ月。

 

 あれから特に変わったことはなく、俺は訓練や任務をこなしながら、過ごしていた。

 

 それは良い事のように思えるが、実際のところは不安で不安でしょうがなかった。

 

 あの黒人間が言ったセリフが、前以上に頭にからみつき、ちらつくからだった。

 

「あの後、前と同じように何事もなかったかのように夢から覚めた。でも、あれは本当に夢なのか。それに、力と引き換えに人間じゃなくなるってどういう意味なんだ。ああ、くそ」

 

 俺は考えながら会社の中をうろうろし、一階に着いたところでソウジに呼び止められた。

 

「よう、どうした?」

 

「いや、これから夕食なんだけど、一緒にどうかと思って。ん? うーん」

 

「な、何だよ?」

 

「ショウちゃん、ボクに何か隠してない? 最近、そんな気がしてしょうがないんだけど」

 

 やはり、一緒にいるのが長いだけあって、ソウジは感づき始めたようだ。

 

 ここは正直に悩みを打ち明け、楽になるべきだろうか?

 

 しかし、ソウジは過度に心配性すぎるところがあるし、隠していた方が無難ともいえる。

 

「別に何もねぇよ。お前の気のせいだ」

 

「そうかなぁ。あ! ちょっと待って」

 

 どうやら、ワルデット出現の連絡が入ったようだ。

 

 俺はそれに便乗するような形で、急いで外へと足を勧めた。

 

「フー。さて、仕事仕事」

 

「ショウちゃん、待ってよ、場所もまだ言ってないでしょ」

 

「あ、ああ、そうだったな。どこなんだ?」

 

「三丁目の松山(まつやま)さんの家だって。急いだ方がいいかもね。尋常じゃない様子だそうだから」

 

 ソウジの話によると、連絡してきたのは幼い少女のようで、震えるような声で助けを求めてきたという。

 

 これは本当に急いだほうがよさそうだ。

 

 俺は短剣ムーブを装備し、ソウジと共に高速移動で現場へ向かった。

 

「ソウジ、かすかだが血のニオイがしないか?」

 

「そうだね。あ......ああ!」

 

 俺たちが現場に着くと、家の玄関は全開になっており、かすかに血痕もあった。

 

 おそらくは、何者かが慌てて出ていったと思われる。

 

 俺とソウジは、戦闘態勢をとりながら、家の中へ入った。

 

 そして、注意深く奥へ進んでいき、リビングで若い男女が倒れているを発見した。

 

「う、これはひどい」

 

「ソウジ、すぐに医務課の連中を呼べ」

 

 二人は刃物のようなもので刺されたようであり、男の方はすでに息絶えていたが、女の方はまだ息があるようだった。

 

「はぁ、はぁ。ごほ」

 

「ダメだ。急所を何か所もやられてる。これじゃあ、もう」

 

「おい、あんた! 誰にやられたんだ! おい!」

 

「おね、がいします。か、ほちゃんを助けて。あの子、だけは......」

 

「え? あんたらの他にも誰かいるのか!」

 

「か、ほちゃん。あ、いして......」

 

 女は涙ながらに何かを言いかけたところで倒れ、息絶えた。

 

 この世界ではワルデットが人間を殺すのは珍しくないが、ここまで生々しい殺人現場を見たのははじめてだ。

 

 しかし、今はショックを受けている場合じゃない。

 

 俺は駆け付けた医務課の連中にこの場を任せ、生存者の探索をはじめた。

 

 そして、二階へ上がったところで、浴室のドアの後ろでうずくまっている茶髪の幼い少女を発見した。

 

「連絡をくれたのはお前だな。俺はエイキュウカンパニーの者だ。こわがらなくていい。お前を助けに来たんだ」

 

 俺がいくら呼びかけても少女はブルブル震えて動かなかったため、抱きかかえて連れていくことにした。

 

 この脅えようからすると、リビングで起きた惨劇を直に見たのかもしれないが、今は聞けるような状態ではないだろう。

 

「見たところ、外傷はないようだが、精神的なダメージは相当なもんだろうな。呼吸も苦しそうだ」

 

「かわいそうに。まだこんなに小さいのに」

 

 ソウジによると、殺害されたのはこの家に住む夫婦で、保護した少女の両親だったことが判明した。

 

 二人は、まだ二十三歳という若さで、家も三カ月前に建てたばかりだったという。

 

 まだこれからだというのに、幼い娘を残して逝かなければならなかった無念さは、相当なものだっただろう。

 

 俺は拳を強く握りしめながら、事件現場を後にした。

 

 

 

 

「はぁ、早いもんだな」

 

 三丁目で起こった夫婦殺人事件から今日で一週間。

 

 犯人は捕まらないままだし、保護した少女は泣いてばかりいた。

 

 かわいそうだとは思うが、そろそろ現実と向き合わせないと、何も進展しないのは確かだろう。

 

「よけいなお世話かもしれないが、医務課の連中に言っておくかな」

 

 俺は、屋上グラウンドへ行く前に医務室に立ち寄ることにした。

 

 しかし、その途中、ソウジと社員たちが慌ただしく走っているのを見たため、ついていってみた。

 

「おーい。お前ら」

 

「あ、ショウちゃん。大変なんだ。あの女の子が医務室からいなくなってるんだ」

 

「何! まさか、誘拐か」

 

「それはないと思うけど、とにかく探さないと。ショウちゃんも協力してくれる?」

 

「マジかよ。バカな事考えてなきゃいいが」

 

 社内はすでに探し終えたというので、俺は医務室に行き、少女が使っていたベッドの匂いをかぎ始めた。

 

「めっちゃいい匂いがする。あ、いやいや、何やってんだ。警察犬じゃあるまいし、匂いで追えるけねぇだろ」

 

 これは、手掛かりなしで社外を探さなければならない感じだ。

 

 だが、子供の足だという事を考えると、そんなに遠くには行っていないはずだ。

 

「となると、この近辺であの子が行きそうなところか。ん? 待てよ」

 

 もしかしたらと思い、俺は少女の両親が殺された三丁目の家に行ってみた。

 

 そこには誰もいなかったが、少し離れた場所の道に一人で歩く少女の姿があった。

 

「ったく。おい、ここで何してんだ」

 

「きゃ! いやー」

 

「うわ、おい」

 

 俺は暴れ出した少女を諫めながら、何とか路地裏に連れ込んだ。

 

 どうやら、俺は不審者と間違われていたようだ。

 

「はぁ、はぁ。よく見ろ。俺はエイキュウカンパニーの者だ。あの事件の時に会ってんだろ」

 

「......ごめんなさい。てっきり、わいせつな事されると思って」

 

「しねぇよ! そんな鬼畜じゃねぇから。で、あそこで何してたんだ」

 

「家に帰れば、少しは気持ちが楽になると思ったんです。でも、ダメでした。もっと辛くなるだけでした。う、うう」

 

 少女は大きく泣き崩れた。

 

 まぁ、当然といえば、当然だ。

 

 両親を一度に失うなんて、言葉にできないほどの悲しみのはず。

 

 ましてや、こんな幼子に耐えきれるはずはないだろうから。

 

【挿絵表示】

 

「うっ、うう。お父様、お母様。私、一人でなんて生きていけない。どうしたら......」

 

「泣いて、泣いて、泣きまくって乗り越えろ。それしかない」

 

「無理です。どれだけ泣いても、乗り越えられません」

 

「それでも乗り越えるんだ。いいか、間違っても自殺しようなんて考えてんじゃねぇぞ」

 

「え? どうして、分かるんですか?」

 

「分かるよ。俺も昔、親同然だった人を失ったから。でも、その人が最後に言ったんだ。自分の分も生きてくれって。だから、こうして生きてる」

 

「自分の分も?」

 

「ああ。お前の母ちゃんも息を引き取る前にお前の事を心配してたぞ。もし、自殺なんてしたら、母ちゃんの気持ちを踏みにじることになるんじゃねぇのか?」

 

 さすがに子供相手に厳しすぎただろうか。

 

 しかし、少女は急に泣くのをやめ、きょとんとしながら、俺を見つめ始めた。

 

「分かって......くれたのか?」

 

「......うわぁぁぁん、お母様ぁ!」

 

「また泣くのかよ!」

 

 とりあえず、ここでやり取りするのは、周りに誤解されやすい。

 

 俺は少女の手を引き、移動を始めた。

 

「さてと、帰る前に一仕事だな。おい、出てこい」

 

 俺が近くのゴミ箱を蹴ると、二人のワルデットが出てきた。

 

 奴らの視線を見る限り、狙いは少女の方だと思われる。

 

「気配にはうすうす気づいてたんだが。なぜ、この子を狙うんだ?」

 

「へへへ。なーに、それくらいのガキはアジトでうさはらしの道具にするにはぴったりだからよ。壊れやすくて、使いまわせないのが玉に傷だが」

 

「う、うう」

 

「くぅぅ、その恐怖に満ちた顔、かわいすぎるぜ。もう我慢できねぇ。こっちに来い」

 

 このとき、俺の怒りは頂点に達し、少女に襲い掛かったワルデットをタコ殴りにしてしまった。

 

 子供の見ている前で手荒なことはしたくなかったが、どうしても許せなかったのだ。

 

「フー、フー。俺が世の中で一番嫌いなものを教えてやろうか。それはな、ガキや年寄りに平気で手をあげるクズ野郎だ!」

 

 俺は残ったもう一人のワルデットの顔面に蹴りを入れ、壁に叩き付けて倒した。

 

 そして、すぐに少女を抱え、路地裏を脱出した。

 

「こわいもん見せちまったな。でも、これで外の世界が危険だってのも分かっただろ」

 

「......かっこいい」

 

「え? 何がだ?」

 

「あ、いえ」

 

 なぜか、少女は顔を赤くして慌てふためいていた。

 

 俺は首をかしげながら、会社へと戻っていった。

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