俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第十五話「はじめての体験」

「うーん。さて、どうするかな」

 

 少女脱走騒ぎから二日目の夜の事。

 

 俺は夕食をとった後、医務室に向かっていた。

 

 どうしても、あの少女の事が気になったからだ。

 

「まぁ、さすがにもう脱走はしないと思うが......」

 

 俺が医務室をのぞき込むと、少女が泣きながら飛び出してきた。

 

 彼女は哺乳瓶を強くくわえており、イマイチ状況が飲み込めなかった。

 

「どうした? 何を泣いてやがる?」

 

「うっ、うっ。夜に一人でいると、お父様とお母様を思い出して。寂しくて、恋しくて」

 

「そうか。そうだよな。お前くらいの子供が夜に一人でってのはきついよな。気持ちは分かる」

 

「う、うわぁぁぁん」

 

 少女は俺の足に飛びつき、その後しばらく離れようとしなかった。

 

 おそらくは、ずっと押さえこんでいた気持ちが爆発したのだろう。

 

 俺はこの後の訓練の時間を削り、少女に付き合う事にした。

 

「お前くらいの子供はよけいな気なんて使わなくていいんだ。今日は眠れるまで俺がそばにいてやるからよ」

 

「ほ、本当ですか。それは心強いです」

 

「とりあえずは......そうだな」

 

 俺はベッドの横に重ねてあった本をとり、少女に読んであげることにした。

 

【挿絵表示】

 

 しかし、どれも日本語でも英語でもない難しい言語で書かれているものばかりだった。

 

「......この一番上の本、何の本だ?」

 

「それは、二十年前にこの世界に来たロシア人の方が書かれた冒険記です」

 

「ロシア語か。お前、なんでこんなのが読めるんだ?」

 

「三歳の時からお父様に一般教養や礼儀作法を厳しく教えられましたから。私が大きくなった時に困らないようにと」

 

 そういえば、ここの社員たちが話していた。

 

 この少女の父親は優れた物理学者で、少年時代から超がつくほどの勉強好きだったと。

 

 この世界に来たのも、中学時代に本を歩き読みしていて、うっかり引き込まれたというから筋金入りだ。

 

 この点は、俺が訓練に夢中になり過ぎるのと似ているから、何となく共感できる。

 

「ん? てことはお前の母ちゃんはこの世界の生まれなのか?」

 

「ええ。だから、お父様が勉強に夢中にならなければ、私は生まれなかった。今の私があるのは勉強のおかげですね」

 

 五歳児のくせに大人びた発言をするもんだ。

 

 俺はつい圧倒され、硬直してしまった。

 

「うーん」

 

「あの......」

 

「あ。お、おう。何だ?」

 

「あなたは地球の、日本の出身なんですよね? ヤナガワってところに行った事ありますか?」

 

「ヤナガワ? ああ、ある。川下りで有名なとこだな」

 

「ええ。そこ、お父様の故郷なんです。どんなとこでした? 生の声をぜひ聞いてみたいです」

 

 少女の目はキラキラ輝いており、何かスイッチが入っている感じだ。

 

 しかし、俺にとって、ヤナガワはあまりいい思い出があるとは言えない。

 

 何しろ、来たとたんに不審者と間違われて警官に追い回されたり、ウナギがいないかと川を泳いでいたら、川下りのおっちゃんにどやされるし、散々だったからだ。

 

 最後にウナギ屋の看板を名残惜しそうに見ながら立ち去ったのを今でも鮮明に覚えてる。

 

「まぁ、平和なところではあったな。ワルデットのような連中はいないし、戦争もないし」

 

「そうですか。私も行ってみたいです」

 

「そうだな。後は......」

 

 その後、話の続きを三時間ほど聞かせたところで、少女は持っていた哺乳瓶をまたくわえはじめた。

 

 まぁ、ぱっと見変な感じはしないので突っ込まなかったが、クセなのだろうか?

 

「ああ、おいしい」

 

「そ、そうか。お、もう早朝じゃねぇか。つい話し過ぎちまったな」

 

「フフ、楽しい時間ってあっという間なんですね」

 

「朝が来たんなら、俺はもうお役御免だな。じゃあ、えーと、そういや、お前の名前って何だっけ?」

 

「松山(まつやま)カホです。カホって呼んでください」

 

「え! いきなり下の名前で呼ぶのか」

 

「ええ。というか、今まで下の名前でしか呼ばれた事ないですし」

 

「あ、ああ。そうなのか」

 

 実を言うと、俺は今まで異性を名前で呼んだことがない上、人をいきなり下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいと思っていたので、少し戸惑っていた。

 

 しかし、今回は本人がいいと言ってるんだし、幼子を苗字で呼ぶというのもあれなので問題ないのかもしれない。

 

「じゃあな。か、カホ」

 

「はい。あの、今夜も......また来てくれますよね?」

 

「はぁ、ずるいな。そんな目で見つめられたら、嫌とは言えねぇだろうが」

 

 俺はカホと指切りした後、医務室を出ていった。

 

 この時点で、すでにいつも朝食をとる時間の三十分前。

 

 そうとうな時間をカホのために使ってしまったが、別に後悔とかはなかった。

 

「さてと、これからしっかり支えてやんねぇとな」

 

 俺がカホの事をここまで気にかけるのは、同情してるからとか、そんなんじゃない。

 

 昔の弱くて孤独だった自分を見ているようで、放っておけなかったからだ。

 

 第九支社の社長が、人間っていうのは自分と似通った者を助けたくなるものだと言っていたが、今ならそれがよくわかる気がした。

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