俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第十九話「完全に目覚めた力」

「はぁ、はぁ。ま、前からも土人形が来るぞ」

 

「多いね。ジャネンに近づいている証拠だ」

 

 カホと別れた後、俺とソウジは広場を抜け、西側の通路を走っていた。

 

 まっすぐ進めばいいだけかと思っていたが、構造はまるで迷路のようで、狭い部分もあるため、非常に厄介だった。

 

 土人形たちも容赦なく襲ってきたが、奴らがいる場所、追ってこれない場所からジャネンの居場所を特定できるはずだ。

 

「作戦はいいけどよ、逃げてばっかでいいのか? 少しは戦おうぜ」

 

「土人形たちは倒してもすぐに再生する。今は無駄な体力を使うべきじゃない」

 

「ちっ」

 

 俺たちはその後も土人形たちをあしらいながら走り続けた末、先に道のない荒れ地のような場所にたどり着いた。

 

 奥には土人形らしき連中が見えたが、何だか様子がおかしい。

 

 普通だったら、近づいてきた俺たちを攻撃してくるはずなのに、動いてすらいなかったのだ。

 

「どうなってんだ?」

 

「ショウちゃん、これは土人形じゃない。人間を土で固めたものだ」

 

「何! これ、人間なのか!」

 

「ほら、こっちはわずかに土が剥がれて下の皮膚が見えている」

 

「ああ、たしかに。こっちの奴は手を前に出している。命乞いしているところを殺されたんだろうな。ひでぇ事しやがる」

 

「ほっほっほ。ワシのコレクションはお気に召さなかったかな?」

 

「この声は、ジャネンか? どこにいやがる!」

 

「ほっほっほ」

 

 笑い声と共に僧侶のような姿をした大柄な男が地中から現れた。

 

 銀色のリングを首に装着しているし、ジャネンと見て間違いないようだ。

 

「へっ。ようやく、ご登場かよ」

 

「ほっほ。これまでのキミたちの活躍見せてもらったぞ。エイキュウカンパニーも侮れんな」

 

「え? ボクたちをずっと見ていたのか?」

 

「ほっほ。ワシは作り出した土人形に自分の意思を移し、奴らの見たもの、聞いたものを知る事が出来る。もちろん、範囲制限はあるがな」

 

「......そういう事かよ」

 

 今思えば、空き地での一件は土人形たちの仕業だったのだろう。

 

 これは、このまま野放しにすれば、そうとう厄介な能力であるといえる。

 

「これは確実にここで倒しておかねぇとな」

 

「ほっほっほ。さて、そっちの緑髪、芦川ソウジだったな。お前、ワシの仲間にならないか? 人間でありながら、ワルデットの能力を持っているとは珍しいからな」

 

「悪党に加担するつもりなんてないよ。それより、町民たちをさらった狙いは何なんだ?」

 

「ほっほっほ、決まってるじゃないか。ワシの力でホルタイカを支配するためさ。まずはこのデンバラにワシのアジトを作って、その偉大な第一歩とするのだ」

 

「え? キミはワルデットの組織を裏切ったのか?」

 

「裏切ってなどいない。元々、ナカガワのような人間の下につく気などなかった。作ってくれた事には感謝しているが、それだけだ。奴もいずれは始末するつもりでいる」

 

「それは、ボクたちエイキュウカンパニーとワルデットの組織を同時に敵に回す事を意味してるんだよ。キミ一人でそれができると思っているのか?」

 

「今すぐには無理だろう。だが、年月をかけて勢力を拡大していけば、無理ではないはずだ。さらにうまくいけば、お前らが戦い合ってうまい具合に戦力が激減しているだろうからな」

 

 非常に気が長い話のようにも思えるが、ワルデットは基本的に年をとらないというので、決して現実味のない話ではない。

 

 むしろ、これまでのデンバラの被害者総数から考えると、数年で成就できると思ってもいいだろう。

 

「そんな事をペラペラ喋って、俺らが黙っていると思うか?」

 

「ワシと戦う気か。やめておけ。そこの土固めされた連中と同様に惨めな敗北と最期が待っているだけだぞ」

 

 ジャネンは背負っていたハンマーを手に取り、勢いよく振り下ろした。

 

 それにより、地面は大きく揺れ、土固めにされている者たちにまで衝撃が及んだ。

 

「この外道が!」

 

 ソウジは猛スピードで突っ込んでいくが、ジャネンは天井の土をとばして攻撃してきた。

 

 しかし、ソウジは難なくそれをかわしていく。

 

「ほう、超高速移動能力だな。人をすばやくさらうにはうってつけだ。ますます欲しくなった」

 

「そんな事のために使う気はさらさらない」

 

 再び向かってくるソウジに対し、ジャネンはは下から土をのばし捕縛しようとしてきた。

 

「ほっほっほ、どこまでよけきれるかな」

 

【挿絵表示】

 

 ジャネンはリングにツメを突き刺してドーピングし、周りの土を大量に飛ばしてきた。

 

 それは、後方で攻撃態勢をとっていた俺にも及び、避けても避けてもきりがなかった。

 

「ほっほ。ここは地中だぞ。攻撃に使う土なら腐るほどある」

 

「くっ。いくらなんでも、場所が悪すぎるだろうよ」

 

 必死に回避を続ける俺とソウジをあざわらうかのようにジャネンは攻撃を激化させてきた。

 

 それこそ鉄の傘でもささない限り防げないような大量の土の雨が、容赦なく俺たちに襲い掛かる。

 

「くっ、何て数だ。だが、避けられないなら打ち落とせばいいんだ」

 

 俺は勢いよく土の雨を殴りつけるが、大失敗。

 

 土の雨といっても実際は石のように硬く、おまけにとがっていたため、俺は拳を切り裂かれてしまった。

 

「いってぇ、何で土がこんなに硬いんだ」

 

「ほっほ、土の硬度を変える事など造作もない。ホラ、休むひまなどないぞ」

 

 腕をおさえてうずくまる俺に、さらに追い討ちをかけるジャネン。

 

 ソウジは俺の手を引くと、すぐにジャネンの目が届かないほど遠くへ移動した。

 

「ショウちゃん、大丈夫?」

 

「あ、ああ。ってオイ、下!」

 

 見ると、ソウジの足を土がぶよぶよと覆い始めていた。

 

 それはやがて俺の方にも侵食をしてきた。

 

「どこに逃げても無駄だ。土を通してお前らの位置は手に取るように分かる」

 

「この!」

 

 すぐに土を振り払って逃げる俺たちだったが、上からはまた土の雨が襲ってきた。

 

「動きを止めれば土に足をとられる。動けば土の雨の餌食になる。休むひまさえ与えないってわけだね」

 

「ホッホ、休めるときは死んだときだけだ。それともワシの仲間になるか? お前もあの小娘同様、利用価値のある者だ」

 

「あの娘って、カホさんの事?」

 

「そうだ。土人形を通してお前らを見ていたから、知っているのさ。あの幼さで高性能な道具を作ったという頭脳明晰ぶりをな。もしかしたら、ナカガワ以上の天才に成長し、ワシの右腕になりうるかもしれんしな」

 

「そうか。だから、カホさんを真っ先に狙ったわけか」

 

「ほっほ。さぁ、仲間になるのか、ならないのか。どっちだ!」

 

 ジャネンは手を構え、俺とソウジに迫った。

 

 奴が欲しがっているのはソウジとカホだけなので、俺には戦うという選択肢しか残ってないのは分かっている。

 

 だが、さっきの土攻撃のスピードに対抗するためには、今の状態では厳しいだろう。

 

「くそ、こんなときに短剣ムーブがあれば、ムーブ? え?」

 

 下を向くと、短剣ムーブ、鉄球デストン、拳銃フローズが置かれていた。

 

 ここに来る前、たしかに会社の倉庫にしまったはずなのに、どう考えても不可解だ。

 

「どうなってる......かは分からねぇが、今は考えてる場合じゃねぇな」

 

 俺は短剣ムーブを手に取り、ジャネンに向かって高速移動した。

 

 しかし、すでに消耗していたために長続きせず、開始十秒ほどでジャネンの土の腕に足をつかまれた上、土の雨の連撃をくらって倒れた。

 

「う、が。体が」

 

「ショウちゃん!」

 

「最後の警告だ。ワシの仲間になれ。ここでその虫けら小僧と死ぬよりはいいだろう」

 

「ショウちゃんは虫けらじゃない! ボクの友達をバカにするな!」

 

 ソウジはドーピングすると、ジャネンめがけて突進した。

 

「無駄な事だ。多少力をあげたくらいでワシには勝てん」

 

 しかし、次の瞬間、ジャネンの前方からソウジの姿がフッと消えた。

 

「な、何だ。奴はどこへ?」

 

 ジャネンが動揺しながらあたりを見回していると、真下からソウジがフッと現れ、アッパーをくりだしてきた。

 

「ぐおぉぉぉ!」

 

 上へ吹き飛ぶジャネンにソウジはさらにかかと落とし、続いて連続パンチのラッシュをあびせた。

 

 ジャネンは圧倒され、能力を発動するスキもなかった。

 

「な、何て速さだ。目で追いきれない」

 

「今の体力じゃ長くはもたないが、とにかく倒れるまでやるんだ。反撃のスキを与えたら終わりだ」

 

 しかし、ジャネンは打たれ強く、なかなか倒れない。

 

 そして、ソウジがジャネンの腹めがけて蹴りを入れようとしたその時だった。

 

 体力の限界からか、ソウジの体がふらつき、動きを一瞬止めてしまう。

 

 思わぬスキを作ってしまったソウジに対し、ジャネンはすかさず土の手で攻撃して足を封じた。

 

「ほっほ、おしかったな。足さえ封じてしまえば、もう自慢の高速移動はできまい」

 

「やるだけやった、悔いはない。ひと思いに殺せ」

 

「フン、おもしろくないな。泣き叫んで命乞いでもすればいいものを」

 

 ジャネンはなぜかソウジを素通りすると、後ろで倒れている俺の元へ歩み寄った。

 

「ほっほ」

 

「お、おい。何する気だ!」

 

「なぁに、冥土の土産に地獄を見せてやろうと思ってな。大切な仲間が目の前で殺される地獄をな」

 

「やめろ、ショウちゃんに手を出すな!」

 

「おかしな事を言うな。自分の命乞いはしないのに、他人の命乞いはするのか。心配するな、すぐにあの世で会える」

 

「くっ、この土さえ、この土さえはずせれば!」

 

 必死に土の手から逃れようとするソウジをよそに、ジャネンは俺を持ち上げ地面にたたきつけた。

 

 そして、俺に馬乗りになると、ボコボコに殴り始めた。

 

「ほっほ」

 

「やめろ、たのむからやめてくれ!」

 

「ほっほ、苦しめ、苦しめ。殺される苦しみと仲間が死ぬ苦しみ、どちらが上だろうなぁ」

 

 うすら笑いをうかべながら、ジャネンは動けない俺を痛ぶり続けた。

 

 そして、数分間にわたる暴行の末についにツメをふりかざした。

 

「死ね、虫けら」

 

「ぐ、ぐ、おおおおおおおお!」

 

 俺は突然起き上がり、ツメでジャネンの右肩を突き刺した。

 

 さっきまで指一本動かせなかったはずなのに、体が勝手に動いてるような感じだった。

 

「ぐおお」

 

「くっ、この小僧」

 

 すぐにジャネンは土の手で俺の動きを封じようとしたが、無駄だった。

 

 俺はジャネンを突き刺していた手を抜くと同時に、奴の腹部をツメで滅多切りにした。

 

 だが、これはさっきと同じで俺の意思によるものではない。

 

 つまり、この前のジュセン戦の時と同じで暴走状態に陥ったという事だろう。

 

「ぐぐ、フー、フー」

 

「小僧が。な、何がどうなっているんだ」

 

「フー、フー、ウウウウウ」

 

 俺は息を荒げながら、傷ついたジャネンにせまる。

 

 即座に土の雨で迎撃するジャネンだったが、俺はツメでいとも簡単に土の雨を打ち落としてしまった。

 

「ウウウウウ」

 

「くっ、これならどうだ!」

 

 ジャネンは背後から十本もの土の手を出現させ、俺の体を縛り上げた。

 

「ぐがぁぁぁ!」

 

「ハァハァ、手足さえ封じてしまえば何もできまい。さぁ、今度こそトドメだ」

 

「ぐ、ぐがぁぁぁぁ!」

 

 俺は油断して近づいてきたジャネンの頭にガブリと噛み付き、右目の周りに致命傷を与えた。

 

 全身と顔に致命傷を負ったジャネンは、その場に倒れこんだ。

 

 同時に土の手は解け、俺とソウジは解放された。

 

 ジャネンは何とか立ち上がろうとしているようだったが、力尽き、首からリングが外れた。

 

「はぁ、はぁ」

 

「ぐ、ひひひひひひひ」

 

 勝利した俺だったが、まだ終わりではなかった。

 

 絶命しようとしているジャネンの頭を何度も踏みつけ、地面へぐりぐりとおしつけはじめた。

 

「待って、ショウちゃん。ジャネンは悪いやつだったが、もう動けない。必要以上に傷つける事はないだろ?」

 

「フー、ひひひ」

 

「ショウちゃん、たのむから、元に戻って!」

 

 ソウジは俺の体にしがみつき、激しい抵抗を受けて血まみれになりながらも、必死に訴えた。

 

 しかし、その思いは届かない。

 

 いくら俺がやめようと思っても、暴走は止まらず、やがて本気の殴り合いに発展した。

 

「ぐうううう」

 

「ショウちゃん、ごめん!」

 

 ソウジは涙ながらに俺の腹を思いっきり殴りつけた。

 

 それは本当に苦渋の決断だったはずだ。

 

 俺はふがいない自分を恥じながら意識を失っていった。

 

 

 

 

「う、うう。はっ!」

 

 気がつくと、俺はデンバラの町長宅にいた。

 

 ジャネンのアジトで暴走した後、ソウジに気絶させられ、ここに運ばれてきたのだろう。

 

 何とも因果応報な事だ。

 

「しっかり覚えている。俺はこの手で......」

 

 下をうつ向いていると、ソウジが食事を持って奥の部屋からやってきた。

 

 平静を装っているようだが、その体には俺がつけたと思われる傷痕が鮮明に残っていた。

 

「ぐっ」

 

「ショウちゃん、気がついたんだね」

 

「ソウジ、スマン! 許してくれ!」

 

「え? いや、そんなに謝らなくても。ほら、傷もそんなに深くないし」

 

「それだけじゃない。今までの......」

 

 俺は、今まで内緒にしていた戦闘中に起こった異常の事をソウジにすべて打ち明けた。

 

 トクヤマとの戦いで起こった一時的なパワーアップ、ジュセンとの戦いで起こった暴走、短剣ムーブらが倉庫から戻ってきたこと。

 

 話すのが遅すぎた事は分かっていたが、今はただ頭を下げ続けるしかなかった。

 

「スマン。本当に」

 

「ショウちゃん、顔を上げて。実はさっきのジャネン戦でキミはただ暴走していたわけじゃない。目の色が赤く、手には赤いツメ、口には赤いキバが生えていた」

 

「それって......ドーピングじゃねぇか!」

 

「そうだよ。おそらく、短剣ムーブ、鉄球デストン、拳銃フローズはそういう武器だったんだ。使用を繰り返すと、使用者の意思と関係なしにワルデットの力を発動させてしまう。トクヤマ戦とジュセン戦で起こったことはその前兆に過ぎなかったんだ」

 

「俺にワルデットの力が?」

 

「あの武器はもう使わない方がいいよ。そうすれば、二度とあんなことは起こらないはずだ」

 

「ああ、その通りだな」

 

 俺はバカな自分を蔑みつつ、短剣ムーブ、鉄球デストン、拳銃フローズをソウジに渡した。

 

 本当に間抜けで自分勝手で軽率だったと後悔するばかりだ。

 

 ただ一つ、あの力で人間を殺さずに済んだことが救いになっている状態だった。

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