俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第二十六話「ゴールへ向かって」

「はぁ、はぁ。くそ、また失敗した」

 

「まだ続ける?」

 

「当たり前だ。このままじゃ、悔しくて休むもうにも休めねぇ」

 

 ドーピングコントロールの訓練をはじめてから今日で一カ月。

 

 俺はヒメの付き添いの元、ぶっ続けで寝ずの訓練を続けていた。

 

 あいかわらずの失敗続きだったが、エネルギーのコントロール自体は上達したし、あとはドーピング発同時に何割を体に残し、何割を体外に出すかを体に教え込むだけとなっていた。

 

 苦い薬を飲み、寒さと疲労に耐えながら続けていれば当然の結果ともいえるが、もう一つの理由としては、ヒメがやや協力的になってくれたことだろう。

 

 初期の頃は菓子を食べながら漫画を読んだり、ふざけて寝転がったりしていたが、最近では言われなくても暴走を止めてくれるし、拳銃フローズの使い方をアドバイスしてくれたりする。

 

 たまに悪ふざけやいたずらしたりはするものの、ソウジから聞いていた通り、根はやさしい少女であるように思えてきた。

 

「ま、あいつの知り合いに悪い奴なんているわけねぇか」

 

「あ、もうこんな時間。ごはんにしよう。はい、ショウスケちゃんはいつもの丸薬ね」

 

「何にやにやしてんだよ?」

 

「ふ、ふふ。いや、前に飲んだ時の顔芸の事思い出しちゃって。ふふ」

 

「人が苦くてくるしんでるのを顔芸って! 見てろ、今回はすんなり飲んでやるから!」

 

 と言ったものの、五十錠ほど飲んだところで体が拒絶反応を起こし、それ以上の飲めなくなった。

 

 さすがにこんな苦いものを一日何回も飲み続けていたら当然だろうし、ここは一時休憩するしかなさそうだ。

 

「うっぷ。あの強烈な苦みは眠気対策になるとか前向きに思っていたが、やっぱ、味に慣れることはねぇな。うっぷ」

 

「大丈夫? あたしのジュースあげよっか?」

 

「気持ちだけでいい。間接キスの趣味はねぇんでな。しかし、お前、ほんとにいろいろと変わったよな。最近何かあったのか?」

 

「ほら、キミと一緒に来たきれいな子いるでしょ? あの子に、ショウスケちゃんをお願いしますってたのまれたの」

 

「えっ、カホが?」

 

「あの子もあたしと一緒で、家族をワルデットに殺されたって聞いたから。何ていうか、ほっとけなくってね」

 

「そうか、お前も。ん? そういえば、お前、いいとこの生まれだって聞いたけど、どっかのお嬢様だったのか?」

 

「王族よ。北の方にあるオッシツ国って聞いた事ない?」

 

 そういえば、前にチラッと聞いたことがある。

 

 今から十年前、エイキュウカンパニー第一支社があるオッシツ国にワルデットの大軍が攻め込み、壊滅。

 

 第一支社の社長、幹部たち、オッシツ家の国王夫妻、十五人いた王子、王女たちが犠牲になり、被害は甚大だったという。

 

 唯一、赤子だった第八王女だけが生き延びたと聞くが、まさか改造ワルデットにされていたとは思いもしなかった。

 

「苦労したんだな」

 

「そう? あたし、後悔なんてしてないよ。改造されたおかげで大好きなソウジちゃんと出会えたわけだし、ここの暮らしだってけっこう楽しいしさ」

 

「ったく、前向きな事言いやがって。そんなん聞いちまったら、俺もへこたれるわけにはいかねぇだろうが」

 

 俺は立ち上がり、再び丸薬を飲み始めた。

 

 ここからはソウジやヒメが命を懸けてワルデットの力を手に入れたように、俺もそれくらいしないとダメだ。

 

「ぐう、うっぷ。もぶ」

 

「あの、ショウスケちゃん。もう百二十錠こえてると思うんだけど」

 

「うっぷ。いやな、倍の二百四十錠飲んだら、効果が上がるんじゃないかと思ってよ」

 

「え、でも、お薬ってちゃんと用量を守らないと。あ、ちょっと!」

 

 俺は体中に痙攣を起こし、意識が朦朧としながらも丸薬を飲み続けた。

 

 そして、最終的には、血管が切れて流血しながら、二百四十錠の丸薬を飲み終えた。

 

 これにはヒメも絶句し、固まりながらドン引きしていた。

 

【挿絵表示】

 

「顔がめっちゃ真っ青なんだけど」

 

「うっぷ。だろうな。だが、この感じなら、いける!」

 

 俺は拳銃フローズを手に取り、ドーピングを開始した。

 

 丸薬を多めに飲んだ効果は絶大だったようで、体の中に漂うエネルギーが前以上に緻密にイメージできた。

 

「......ここだ! ぐうううう」

 

「え? ショウスケちゃん、どうなったの?」

 

「ツメは赤くなっているし、ドーピングはしたようだ。でも、これは......」

 

 体は自由に動かせるし、声も普通に出せる。

 

 これは間違いなく、暴走なしのドーピングに成功したという事だ。

 

 暴走していた頃はよく分からなかったが、体中にすごい力がみなぎっているのが分かった。

 

「こいつはすげぇな。ドーピングしてるってこんな感じだったんだな」

 

「肉体は銃で二、三発撃たれても死なないくらい強化されているはずよ。もちろん、腕力と体力もね。ちょっと試してみたら?」

 

「そうだな。じゃあ、まずは鉄球デストンを使ってみるか」

 

 鉄球デストンは、通常時だと重すぎて両手で何とか振り回すのがやっとだった。

 

 しかし、ドーピングした状態で持ってみると、何と木刀なみに軽い。

 

 ヒメの言うとおり、ドーピングの効果で腕力が格段に上がっている結果だ。

 

 俺は片手で鉄球デストンを軽く振り回すと、地面を叩き付けて大きくへこませた。

 

 次に使用した短剣ムーブも結果は同じだった。

 

 体力もかなり強化されているので、高速移動も難なく持続させる事ができた。

 

「ハハ、どんだけ走ってもきつくねぇ。何て爽快な気分だ」

 

「へぇ、やるわね。思った以上だわ」

 

「よし、これならあれもいけるな」

 

 最後は拳銃フローズを使って、ヒメと技の撃ち合いをする事にした。

 

 俺が拳銃フローズの引き金を引くと、通常時とは比べ物にならないほどの巨大な冷気の塊が発射された。

 

 ヒメが手の平から同様の冷気の塊を発射して防ぐと、間には天井まで届くくらいの巨大な氷塊ができた。

 

「なるほど。今までにかかえていた武器たちの問題点はほぼ解消されているな」

 

 おそらく、短剣ムーブ、鉄球デストン、拳銃フローズはドーピングして使う事を前提にして作られたものなのだろう。

 

 一見すると鬼畜仕様のように見えるが、よく考えて作られているともいえる。

 

「作った奴に感謝しねぇとな。へへ、こりゃ、実戦に出ていろいろやってみたくなったな」

 

 テンションマックスではしゃいでいると、ジミーさんがやってきた。

 

 彼は、俺がここまで早くドーピングをマスターできると思ってなかったらしく、驚きと共に賞賛してくれた。

 

 それと同時に、過度な使用は絶対にしないようにとの忠告もしてきた。

 

 まぁ、ドーピングは上級ワルデットや改造ワルデットでさえ、肉体に大きな負担がかかるもの。

 

 改造すらしていない生身の人間が使ったらどうなるかは、言うまでもないだろう。

 

「あくまで、最後の切り札という事を忘れないように。それとな、訓練はまだ終わったわけじゃないぞ」

 

「え、どういう意味だ?」

 

「お前、さっきドーピングするとき、発動までどれくらい時間がかかった?」

 

「そうだな。拳銃フローズからエネルギーをもらって......多分十秒くらいだったかな」

 

「そうか。じゃあ実際に実戦に出たとして、敵が十秒も待ってくれると思うか?」

 

「いや、それは......」

 

「まぁ、時間の事はいいさ。仲間にサポートしてもらうなり、一度戦線離脱するなり、方法はあるじゃろう。じゃが、こわいのはあせる事でさらに発動が遅れたり、失敗したりする事じゃ」

 

「あせりか。たしかに今までは安全な場所でやったから十秒でいけたが、周りが敵だらけだと話は別だろうな」

 

「ついてこい」

 

 ジミーさんは俺を訓練場のさらに地下にある屋内ジャングルへ連れて行った。

 

 このジャングルは本物のジャングルをそのまま再現したかのように木や草が設置されており、野生動物も放し飼いにされていた。

 

 その野生動物たちはジミーさんに戦闘術を教え込まれており、武器を使う個体までいるそうだ。

 

 ちなみに成績の悪い社員は罰としてこのジャングルに放り込まれ、二日間出してもらえないという。

 

「ここに入れってか?」

 

「ああ。ここの動物たちは入った者を区別なく襲うように訓練してある。この危険な環境であせる事なくドーピングする事が今回の課題だ」

 

「なるほど、そういう事か」

 

 俺はさっそく短剣ムーブを手に取り、ドーピングを開始した。

 

 しかし、それから三秒もしない内に、背後からサルがとびかかってきた。

 

 すぐに振り払ったものの、集中力が途切れ、ドーピングには失敗してしまった。

 

「くそ、少し止まった隙にこれかよ。この!」

 

 俺がいかくすると、サルたちは一旦は姿を消したが、再びドーピングしようとすると、今度は仲間を引き連れてやってきて、踊りながらのどんちゃん騒ぎをはじめた。

 

 完全に遊ばれているようだ。

 

「何で増えてんだよ。くそ、あっちいけ」

 

 十秒という時間がこんなに長いとは思いもしなかった。

 

 結局、同じやり取りがしばらく続き、一度としてドーピングを成功させる事はできなかった。

 

「ううう」

 

「まったく見ちゃおれんかったな。これがワルデット相手だったら、お前は死んでいるぞ」

 

「んな事言ったってよ。かしこすぎだろ、このサル共」

 

「そうじゃな。お前よりもよっぽど出来がいいかもな」

 

「な、何を!」

 

「ホラ、カッカするな。怒りは大きな隙を生むと言ったじゃろ」

 

 ジミーさんは丸薬だけを置いて立ち去り、入れかわるようにヒメがやってきた。

 

 それと同時に俺はサルたちに飛びかかられ、完全に下敷きになってしまった。

 

 服を破かれ、噛みつかれ、舐めまわされ、もう散々だった。

 

「うぐ、はぁ、はぁ。サル共め」

 

「ショウスケちゃん、ひょっとして......少し気持ち良かったりする?」

 

「しばくぞ! そんな危ない趣味はねぇよ! あ......あう。時間切れのようだ」

 

「ごはんにしよーっと。はい、ショウスケちゃん」

 

「ああ。しかたねぇわな」

 

 無情にも、また丸薬を飲む時がやってきた。

 

 何だか、前に二百四十錠飲んだのが、ついさっきのような気がしてきた。

 

「うっぷ、おぇぇぇ。うううう。いかん、涙出てきた」

 

「えーっと。ねぇ、ショウスケちゃん。ステーキセットとハンバーグセットのどっちがいいと思う?」

 

「人がクソまずい薬飲もうとしてるときに! 知るか! てめぇで考えろ!」

 

「ま、いっか。二ついっぺんに頼めばすむ話だし」

 

「......二ついっぺん? 待てよ、それだ!」

 

 俺は急いで丸薬を飲み始めた。

 

 まだ確証はないが、この訓練をクリアするための近道を見つけたからだ。

 

 見えなかったゴールが少しずつ見え始めた気がした。

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