俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第二十九話「変態下品野郎」

「ったく、ホントにとんだ無駄足だったぜ」

 

「ショウスケさん、ちょっと待ってくださいよ」

 

「帰るんだ! あのままあそこにいたら、俺は奴を半殺しにしてしまいそうだ」

 

 俺はカホの手を引き、八木の家から遠ざかっていた。

 

 ジミーさんや他の社員たちが言った事は正しかった。

 

 あの八木と言う男、本当にどうしようもないほどのクズ野郎だったのだ。

 

「くそ! リンチされてた時、俺も加勢しときゃよかったぜ」

 

「ショウスケさん、本気で言ってるんですか?」

 

「当然だ。お前はあの話を聞いて、奴を信用できるってのか?」

 

 ついさっき、八木は自分の過去を俺たちに話した。

 

 それは、俺が予想していた以上の吐き気を催すものであり、今まで抱いていたエイキュウカンパニーの良き先輩というイメージは一気に崩れた。

 

 過去、八木がひそかに持っていた趣味は、気に入った幼い少女を盗撮して写真を鑑賞する事。

 

 毎日、巡回に行くふりをしては、ターゲットたちのスキを見て、行為に及んでいたという。

 

 以前、幼女の写真とキスしたり、ほおずりしていたやばい社員の噂を聞いたことがあったが、おそらくは八木の事なのだろう。

 

 しかし、それはまだ序の口だったといえる。

 

 とうとう、八木は一軒家に忍び込んだ挙句、少女に無理やり抱きながら顔を押さえつけ、ニオイをかいでいたところを発見されたそうだ。

 

 駆け付けた社員たちは、そのときの八木を見て怒りよりもショックが大きかったらしく、がっくりと腰を落としていたという。

 

 この後、エイキュウカンパニーの評判がガタ落ちしたのは言うまでもない。

 

 だというのに、八木は拘束後も罪を素直に認めず、駆け付けた社員たちに罪を着せようとするなど、見苦しく悪あがきしたそうだ。

 

 そして、結果的に奴の部屋から証拠となる盗撮写真が大量に出てきたことで有罪が確定。

 

 エイキュウカンパニー管轄の特別収容所で懲役三年の刑となったという。

 

 だが、話はこれで終わりではなかった。

 

 その後、八木がいた第六支社には苦情や中傷の電話が殺到し、中でも直属の上司だったジミーさんにもっとも大きなしわ寄せがきたそうだ。

 

 これはあくまで俺の推測だが、ジミーさんはこの事件の責任をとる形で社長職を退いたのかもしれない。

 

 もはや、部下に恵まれなかったなんてものじゃない。

 

 俺は、ジミーさんが頭を下げながら被害者とその家族に土下座している姿を想像し、とても黙ってはいられなかった。

 

「俺がジミーさんや被害者の立場だったら、奴を一生許さねぇよ。いっそ、死刑になりゃよかったんだ」

 

「でも、八木さんはすでに罪を償われて出所されてるんですよ」

 

「フン、人間の腐った心ってのはそう簡単にきれいにはならねぇよ」

 

 現在、八木はいろいろな会社に面接に行っては追い返される日々を送っているそうだが、無駄なあがきだ。

 

 おそらくは、顔を見た瞬間に門前払いされるのがオチだ。

 

「あいつは誰からも相手にされず、くたばっていくんだろうよ。因果応報だ」

 

「......ごめんなさい、ショウスケさん。私、やっぱり」

 

 カホは急に俺の手をはなすと、八木の家へと引き返し始めた。

 

 あんな変態のところに五歳の少女が一人で行くなど、鴨が葱を背負って行くようなもの。

 

 俺は何とか止めようとするも、カホは聞き入れようとはしなかった。

 

「行かせてください」

 

「カホ、あんな変態野郎にかかわっちゃダメだ。汚されたらどうすんだ」

 

「彼の話がワルデットのアジト発見につながるかもしれないんです。お話だけでも聞いてあげるべきです」

 

 結局、八木の家の前まで戻ってきてしまった。

 

 その後は、騒ぎを聞きつけて出てきた八木と三人で話をすることになった。

 

「何をもめてたんすか?」

 

「てめぇのせいだ、変態野郎が。このお人よしの聖女様がな、てめぇと話をしたいって聞かねぇんだ」

 

「オラと? まだ......そんな人がいたんすね」

 

 八木は泣き始めてしまった。

 

 そして、カホは予想通り感情移入モードに入ってしまい、ますます止めづらくなってしまった。

 

「......ショウスケさん」

 

「あー、分かった、分かった。俺の負けだよ」

 

「あ、あんたも信じてくれるんすね?」

 

「話を聞くだけだぞ」

 

 俺とカホは八木を連れ、帰社した。

 

 もちろん、廊下を移動中にすれ違った社員たちはゴミを見るような目をしており、殺気のようなものも混じっている感じだった。

 

「うう、大丈夫なんすか? オラ、ここを出禁になってんすけど」

 

「あんな汚い家の中じゃ、落ち着いて話せるわけねぇだろ」

 

「とりあえずは、私のお部屋でお話ししましょうね」

 

「はぁ、しかたねぇな」

 

 俺は引き続き、二人に付き合う事にした。

 

 カホはおそらく自分の魅力に鈍感なタイプだし、俺なしだと嫌な予感しかしないからだ。

 

「ったく、いいカモじゃねぇかよ」

 

「着きました。ここです」

 

「失礼しまっす。うわぁぁぁ、何てきれいな部屋。それにめっちゃいいニオイっすね。くんくん、ふわわわわ」

 

【挿絵表示】

 

「何をにやけてんだ、変態がぁぁぁ! しめるぞ、コラ!」

 

「ショウスケさん、急にどうしたんですか? 怒るようなとこじゃないですよ」

 

 どうしても、八木の言動が必要以上にいやらしく聞こえてしまう。

 

 まぁ、変態にとっては女の子の部屋なんて楽園みたいなものだろうし、本音を隠しきれるはずもないのだが。

 

「う、つい、何ていうかその、ごめんなさいっす」

 

「次にキモイ発言したらゴミ袋に入れて屋上から突き落とすからな。さっさと話せ」

 

「あ、うっす。あれは、オラがいつものように仕事の試験に落ちて、帰っている最中でした。通りかかった路地裏でワルデット達が何やらヒソヒソと話してたんすよ」

 

「その内容が、カロシュにアジトがあるって話だったんですね?」

 

「そうっす。遠かったので聞き取れなかった部分もあるんすけど、計画がどうとか、ステルスがどうとか、言ってたみたいで」

 

「......ステルス? あ! ショウスケさん、前にそんなワルデットがいたって言ってませんでした?」

 

「ん? ああ、ドキュメント映像で見た気がするな」

 

 たしか、上級ワルデットの一人で、名前はシェラゴ。

 

 奴は自分が触れたものを「存在しないもの」と認識させ、確実に隠すステルス能力を有していた。

 

 要するに、どんなデカブツやうるさいものであっても、その能力を使われれば、存在に気づかれなくなってしまうという驚異的な能力だった。

 

 おそらく、ワルデットのアジトを周囲に気づかれなくすることも容易なはず。

 

 今までアジト探索が十分に行われたにもかかわらず、発見に至っていないのも、シェラゴの能力で隠していたと考えるなら、つじつまは合う。

 

「でもよ、シェラゴはすでにたおされて、リングも回収されたって聞いたぞ。そしたら、能力は解除されるんじゃねぇのか?」

 

「そうとは限らないです。能力者本人が死んでも、使われた能力そのものは残留思念のような形で残るという都市伝説もあるみたいですよ」

 

「なるほど。ワルデットによって違うってわけか」

 

「ええ。ちょうど今、私が作っているワルデットの能力を無効化する道具が完成すれば、調査は可能なはずです。これは急いだ方がよさそうですね」

 

 カホはそう言うと、机に向かい、やりかけていた作業を再開した。

 

 俺は八木と共に音を立てないように退室し、大広間へと移動した。

 

「さてと、ここで訓練といくかな」

 

「あ、じゃあ、オラはこれで」

 

「ちょっと待て。さっきの話が俺らを罠にハメるためのうそだって可能性もある。真相が明らかになるまで、ここにいてもらうぞ」

 

 これに対し、八木は少し曇った表情を見せた後、力なく承諾した。

 

 やはり何か企んでいるのか、それとも他の社員たちの嫌がらせをおそれているのかは定かではないが、とにかく警戒は怠らない方がよさそうだ。

 

「逃げようとしたら半殺しだからな。ん? そうだ、ちょうどいいから、訓練に付き合えよ」

 

「い、いや、ちょっとその前にトイレに」

 

「本当は?」

 

「かわいいカホちゃんともっとお話ししに。えへへ、オラの匂いが一生消えなくなるくらいキスしまくってやりたい。うへへへへへへ」

 

「......お前、殺す」

 

「ああ、いやいやいやいやいや、じょ、冗談っすよ。ああ、訓練。訓練やりましょ」

 

 八木は所持品の中から古い刀を取り出した。

 

 前に見たドキュメントによると、奴は二刀流の剣の達人のはず。

 

 まずは手合せして、その実力の程度を確かめてみることにした。

 

「さてと、どっからでもかかってこいよ」

 

「うっす」

 

 八木は二本の刀をかまえ、しばらく様子見をした後、斬りかかってきた。

 

 俺もそれと同時に前進し、連続パンチを繰り出して応戦した。

 

「おらぁぁぁぁ!」

 

「ぐふぅぅぅ」

 

「は?」

 

 何と、八木は俺の何の変哲もないストレート一発をくらっただけでダウンしてしまった。

 

 自分で言うのも何だが、ある程度の戦闘力を持った者なら、造作もなくよけられるはずだ。

 

 不意をついたつもりもないし、わけが分からなかった。

 

「お前、ふざけてないよな?」

 

「う、ぐ。す、少し油断してたみたいっす」

 

 八木は立ち上がって再び向かって来るも、俺に腹を連続で殴られ、すぐにまたダウンした。

 

 そして、その後はしばらく体をぴくぴく震わせた後、部屋の片隅に行って激しく嘔吐した。

 

「おぇぇぇぇぇ!」

 

「......何て突っ込んだらいいんだ、オイ。いや、待てよ」

 

 よく考えれば分かる事だったが、八木の実力は以前よりはるかに劣っていた。

 

 おそらく、その新入社員に毛が生えた程度といったところだろう。

 

「不規則な生活でたるんだ体に、長いブランク。まぁ、当然っていえば、当然か」

 

「はぁ、はぁ。ぐ、おぇぇぇぇ!」

 

「汚い。もうそれに尽きる」

 

 せめて、この惨劇がカホの部屋で起きなかっただけよしとするべきか。

 

 なんて考えていたら、八木の汚物のニオイが部屋中に広がり始めた。

 

「ぐぅ、ファンシーなカホの部屋にいた後でこのニオイはきつすぎるな。ん? おいおい」

 

 八木は自分の汚物のニオイにたえきれなかったのか、がっくりと気絶していた。

 

 まったく、とんだ奴を拾ってきてしまったもんだ。

 

 俺は半べそをかきながら、八木を医務室へと運んだ。

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