俺が戦の世界で得た光   作:ショウキン

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第三十七話「吹き荒れるアンチの風」

「う、うう。ここはどこだ?」

 

 セラピアの自爆に巻き込まれた後、俺は何やら薄暗い場所に横たわっていた。

 

 かなり長く気絶していたように思えるが、とりあえず死んではいないようだ。

 

「んー、巨大化したセラピアと押し合った時に地面に亀裂ができて、爆発時に一気に崩れてここに落ちてきたってとこか。はぁ、運がいいと見るしかねぇな」

 

 俺は上へ戻ろうとするも、戦いのダメージのせいでうまく動けなかった。

 

 そして、追い打ちをかけるようにドーピングを長時間続けた反動が襲ってきて、しばらくもがくことになった。

 

「う、ぎ、ぐ。いくら何でも長く使いすぎたな。あ、ああああ!」

 

 苦しみはしばらく時間をおいても和らがず、ついに俺の心は完全に折れてしまった。

 

 もし、次に強敵と戦う事になってもドーピングを使う事はできないかもしれない。

 

「ったく、ざまぁねぇな。ん? あれは」

 

 何やら、奥の方からワルデット達がゾロゾロとやってきた。

 

 おそらくは爆発跡に俺の死体がなかったため、探しに来たのだろう。

 

 とりあえず、今見つかれば雑魚連中に殺されるという理不尽極まりない事態になってしまうので、何とか這いずりながら物陰へと隠れた。

 

「......行ったようだな。ふーっ。うっ!」

 

 気づいたとき、俺は周りをワルデット達に囲まれていた。

 

 すでにいくつもの銃口を向けられており、逃げ道がない事は明らかだ。

 

「ぐ、ちくしょう! ちくしょう!」

 

「大上ショウスケ、セラピア様を倒すとは思ってなかったよ。それが俺らみたいな雑兵にやられるとは哀れだな」

 

 次の瞬間、一斉射撃がはじまった。

 

 だが、それと同時に敵のうちの一人が俺に飛びついて押し倒してきた。

 

「う、うう。あ、お前!」

 

 目の前にいたのは、マスクとメガネをかけたソウジだった。

 

 状況を見た俺は倒れた状態で後ろに下がった。

 

「わりぃな。今回はたのむ」

 

「うん。まかせて!」

 

「あ、芦川ソウジ。俺たちの中に紛れていたのか!」

 

「時間がないんだ。荒くいかせてもらうよ」

 

 ソウジはあっという間に敵を蹴散らした後、俺を抱えて南の方へと走り始めた。

 

 しばらくして上に大穴が開いた地点まで着くと、カホが上からパラシュートを使っておりてきた。

 

「ソウジさん! ショウスケさん見つかったんですね」

 

「カホ、お前まで。うぐぐ」

 

 動けない俺はこの場ですぐにカホの治療を受けることになった。

 

 しかし、カホの腕をもってしてもすぐ動けるようにはならず、しばらくは安静が必要との事だった。

 

「う、うう、まぁ、命あって何よりだ。しかし、よくここが分かったな」

 

「一週間、情報を集めまくった結果なんだけどね」

 

「一週間! あれからそんなに経っちまったのか。道理で腹が減るはずだ」

 

「とりあえず、ここから離れましょう。また追手がくるかもしれません」

 

「ああ。すまん」

 

 俺はソウジとカホに支えられながら地上へと戻り、ヒメと八木の待つテントへと向かった。

 

 しかし、ソウジもカホもどういうわけか周りを必要以上に気にしながら、路地裏などの目立たない場所ばかりを通っていた。

 

 最初はワルデット側の追手を警戒しての事だと思ったが、どうもそれだけではないようだ。

 

「ソウジ、どうした?」

 

「この先の通りは人が多いね。別のルートにした方がよさそうだ」

 

「あいつらがどうしたってんだ。敵じゃあるまいし、避ける必要はないだろ」

 

「そうだ。まだ話してなかったね」

 

 ソウジは少し躊躇したような顔をした後、事情を話し出した。

 

 それによると、この街の市民たちの中に俺たちエイキュウカンパニーの者を憎む輩があらわれ出したというのだ。

 

 理由は俺たちが次々とワルデットのアジトを潰していっているせいで、この街のワルデットによる被害が激増したから。

 

 今までワルデット達はアジトの存在を隠すためにこの街ではあまり目立った行動をとる事ができなかったわけだが、今となってはもう隠す意味はないのだから当然といえる。

 

「そして、俺たちはおとなしくしていたワルデット共を暴れさせた元凶だと。そういうわけか」

 

「うん。ボクらがアジト探索をはじめなければ、この街は平和なままだった。それは事実だからね」

 

「バカな! このまま奴らのアジトを放置すれば、この世界全体にどんどん被害が広がるんだぞ。そうなれば、この街だっていずれは危ないってのに」

 

 怒りをぶちまけていると、それに気づいた市民たちが一斉に襲い掛かってきた。

 

 それと同時に凄まじいほどの罵声が飛び交い、俺は情けなさで頭がいっぱいになった。

 

「ちっくしょう。こんな理不尽な事があるかよ」

 

「とにかく、今は逃げるしかない。さぁ、はやく」

 

「うう、くそ」

 

 俺たちは人を避け、かなり遠回りしながら先を急いだ。

 

 しかし、路地裏を抜けた後に入った廃工場の出口前でワルデット達に行く手を阻まれた。

 

「どうやら先回りされていたようだね」

 

「何か見たことある奴がいるみたいだな」

 

 敵の先頭に立っていたのは、前にドキュメント映像で見たアフロ頭のワルデットだった。

 

 俺たちの状況をすでに把握しているらしく、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「はじめまして、俺の名はイクトゥーミー。大変なことになっているようだねぇ、エイキュウカンパニーの諸君」

 

「調子に乗るなよ、アフロ。先に言っとくが、俺らはこの街を出て行かねぇからな」

 

「それは残念だな。お前らがいなくなれば、この街に平和が戻るってのに」

 

「よくもぬけぬけと。時が来れば、この街でも派手に暴れる気だったんだろうが!」

 

「ショウちゃん、そのケガじゃ戦うのは無理だ。こはボクがやる」

 

 ソウジは俺とカホを後ろに下げた後、戦闘態勢をとった。

 

 イクトゥーミーはソウジに向けて糸を連続で飛ばすが、かすりもしない。

 

 反面、ソウジの攻撃はガンガンヒットしていき、勝負はかなり一方的なものになった。

 

「う、おう」

 

「ここで時間をくっていてもしょうがない。終らせるか」

 

「く、くそ」

 

 イクトゥーミーはソウジに至近距離から連続パンチを浴びせられ、吹き飛ばされた。

 

 だが、さすがは上級ワルデットというべきか、最初の何発かはガードしていたようだ。

 

「ぐ、接近戦じゃ敵う相手じゃない。一旦退くしかない」

 

「悪いが、逃がさな、うっ!」

 

 ソウジはいきなり右足を押さえた。

 

 おそらくは前の戦いで受けた傷が開いてしまったのだろう。

 

 いくら一週間経過したとはいえあれだけの重傷を負っていたのだから、当然といえば当然だ。

 

「くっ、何てマヌケなんだ。こんな大事なときに」

 

「ソウジ、やっぱり俺も!」

 

「大丈夫だ。これくらいすぐに止血できる」

 

「フフ、そんな余裕があると思うなよ」

 

 ソウジが足をおさえてうずくまっている間にイクトゥーミーはドーピングし、すぐにその場から離れた。

 

【挿絵表示】

 

 そして、糸をうまく使いながら、天井へと移動していった。

 

「フフフ」

 

「粘着性の糸で天井に張り付いているのか。まいったな、あんなところまでは行けない」

 

 そうこうしている間に、イクトゥーミーはソウジに向けて糸を飛ばしまくる。

 

 しかし、あんなに近くで飛ばしても当らないのだから、これだけ離れている状態で当るわけがない。

 

 ソウジは難なく避けるが、イクトゥーミーはそれでも負けじと糸を吐き続ける。

 

 最初はヤケになって飛ばしまくっているように見えた。

 

 だが、ところどころ、ソウジが立っている場所からかなりずれた場所に向けて糸を飛ばしている。

 

 いくら狙いが不正確だといっても、まるでワザとそうしているかのようにも見えた。

 

「これは、あ! しまった」

 

 何と、ソウジの周りにはすでに細い糸がびっしりと張り巡らされていた。

 

 イクトゥーミーはただやみくもに糸を飛ばしていたわけではなく、ソウジを囲むようにして糸の包囲網を作っていたのだろう。

 

 広範囲からではあるが、外側からソウジの周りを糸で覆っていき、行動範囲をせばめていく。

 

 こうすれば、動けばいつかは糸に引っかかるし、当のイクトゥーミー本人は天井にいるので、手は出せない。

 

 仮にソウジがじっとしていても、イクトゥーミーが範囲をせばめながら糸を吐きまくれば、いずれはつかまる。

 

 まさにスピードを封じられた最悪の展開となった。

 

「まいったよ。そういう作戦だったとは」

 

「フフフ」

 

 イクトゥーミーはその後も糸を吐き続けながらソウジの周りを内側へと覆って行動範囲をせばめていき、ついに彼の両足をとらえた。

 

 ソウジは急いでほどこうとするも、逆に手にくっつき、左手の方は離れなくなってしまった。

 

「う、ううう」

 

「フフ、この特製糸は細くて目で確認しずらい上に丈夫で粘着力も抜群だからな。俺を上に逃がした事が運のつきだったな」

 

「このまま右手まで糸につかまってしまったら終わりだ。糸に強いもの、強いものといえば。そうだ! フー、うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ソウジは右手を床に置くと、ものすごい速さでこすりつけはじめた。

 

、イクトゥーミーはかまわず糸を飛ばしまくるが、それでもソウジは右手の回転をやめない。

 

「一体何を、ん? ああ!」

 

 見ると、床にこすり続けたソウジの右手にボッと火がついた。

 

 つまり、この回転は摩擦により火をつけるためのものだったのだろう。

 

 ソウジは火をまとった右手で両足と左手の糸を溶かすと、周りの糸包囲網に向かっていった。

 

 イクトゥーミー自慢の糸も火にはまったく歯が立たず、みるみる溶かされていく。

 

「うう、何てことだ。まさか火が弱点だったとは。あれ以上強い糸なんて作れないぞ」

 

「さぁ、包囲網はすべて溶かした。残るはキミだけだ」

 

「フ、ハハハ、やるじゃないか。だが、天井にいる俺をどうやって攻撃する気だ。俺はてめぇの右手が燃え尽きて灰になるまでここを動かないぞ」

 

「そうか」

 

「フフ、今のにびびって右手の火を消せば、その瞬間に糸を吐きまくって捕らえる。今度は摩擦を起こす時間も与えないさ」

 

「あの、今心の中で思ったのかもしれないけど、思いっきり声出てたよ」

 

「えっ、あっ」

 

「まぁ、動かないならそれでいいさ。ええっと、これで」

 

 ソウジは近くに落ちていた何かを拾うと、それをイクトゥーミーめがけて投げつけた。

 

 よく見るとそれは右手の火で熱した小石で、イクトゥーミーの額に命中した。

 

「ま、さか。何でもないただの小石で」

 

「薄っぺらい紙ですら人を切る事ができるんだ。要は使いようだ」

 

「ぐ、うう」

 

 天井から落下したイクトゥーミーは焦げた額をおさえながら逃げ惑った。

 

 そして、泣き叫びながら命乞いをはじめてしまった。

 

 その卑屈すぎる態度にあきれたのか、ソウジは攻撃できずにいた。

 

 だが、直後にイクトゥーミーの背後に移動すると、右腕を捻りあげた。

 

「ほら、右手に新しく糸を生成しかけた痕跡がある。こういう仕事していると分かるんだ。キミなら絶対やると思ったよ」

 

「ま、待てよ。これはその、手がすべって」

 

「ごめん、聞こえないよ」

 

 ソウジはイクトゥーミーの背中に高速回し蹴りをあびせ、壁にたたきつけた。

 

 まもなく、イクトゥーミーの首からリングが外れ、肉体の崩壊がはじまった。

 

「へ、へへ」

 

「キミは負けたんだよ。何がそんなにおかしいんだ?」

 

「お前らは市民の平和のために戦ってんだよな。だがな、周りをよく見てみろよ」

 

 周りにはけっこうな数の市民たちが集まっていたが、その表情は憎悪に満ちていた。

 

 これは明らかに正義が悪に負けたときに向けられるようなものだ。

 

「見ろや、お前らがそんなにボロボロになって戦ってもこの街じゃヒーローにはなれねぇんだよ。はは、はーっはっは!」

 

 イクトゥーミーは笑いながら鉄くずと土の塊と化した。

 

 その後、市民たちによる激しい投石がはじまり、俺たちは逃げるように立ち去るしかなかった。

 

 もはや、この街に俺たちの居場所はないのかもしれない。

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