……幸せな夢は最後に不幸を振りまいて消えた。
そんな私のソウルジェムはいつの間にか濁っていた。
……この程度の事で濁るなんて、情けない。
勇気を出して最後の言葉を振り絞ったのにの、私の言葉はただ虚無に消えた。
届くことは無い……勇気なんて、出さない方が良かったかも知れない。
頑張る必要も無かった…頑張っても報われない。
私の努力は何処までも無意味なのかも知れない。
求められたことしかしてこなかった私が……
今更自分の為に何かをしたところで…意味は無かった。
「……」
濁っているソウルジェムを覗いてみる。
確かこれが真っ黒になれば死ぬらしいじゃないか。
しかしまぁ、紺色だから何処まで濁ってるか分かりにくいがな。
「…ん」
しばらくウロウロとして居ると、再び七美の様な姿が見えた。
「……しつこい、今度は容赦しないぞ」
1度あんな風に馬鹿にされて…再び湧いてくるなんていい加減にして欲しい。
「お前は違うと言って!」
「……私を、探して」
「なん」
唐突に姿を見せた七美の影はそんな一言を残し消えた。
なんだ……何の為に湧いてきたんだ? 意味が分からないぞ。
私を再び誘うためじゃないのか…? じゃあ、さっきのは一体。
「―っ!」
囮だったのか…七美のような影に近付いた後、私の周囲をあのウワサの使い魔が包囲した。
ウワサ通りに私が行動しなかったからか?
全く、ウワサ通りに動かしたいなら、どうして偽物を徹底的に作り込まなかったんだ?
あんな未完成な偽物を出したところで、誰かを騙せるはずも無いだろう。
人の弱みにつけ込むにしても、もう少し徹底して欲しい物だ!
「ふん、弱い」
多少包囲されたところで敗北するほどに私は甘くは無い。
数による攻撃というのは重要かも知れないが
それよりも重要なのは個々の質だろう。
質が弱い雑兵を集めたところで状況は早々覆らない。
流石にスタミナを奪うという戦術を取れば状況は違うだろうが
悪いが雑魚の相手をする程度で私のスタミナは削れない。
激しい行動がメインである私の立ち回りだが
その実、移動自体は1歩で済むんだ。
距離があるならまだしも、至近距離じゃ無意味だろう。
「同時に飛びかかってきたか」
だが、周囲に短刀を呼び出し、飛び上がってきた使い魔達を串刺しにした。
私は基本的に武器を召喚しての立ち回りだからな、数が多くても制圧はできる。
伸縮自在に伸び縮みさせている短刀も実際は短い短刀を消し
長い刃物を召喚し、相手に突き刺しているのだから。
その召喚スピードは自分でも分からない程に速い。
圧倒的な素早さと変幻自在の射程によって相手を追い込むのが私の立ち回りだ。
体力も無尽蔵だからな、限界が来れば限界を突破すれば良いだけの話だ。
長期戦も短期決戦も私はこなせる。強くなくてはならないのだから。
「……ふぅ、やはり雑魚がいくら群がっても意味は無いな」
周囲の使い魔達を掃討し、一息吐くことにした。
私を探してか……ただの偽物がそんな事を言うとはな。
ただの囮だったんだろうが……気味が悪い。
「……しかし、いろは達は大丈夫だろうか」
結局このウワサは人の弱みにつけ込んだウワサだった。
だとすればあの2人も同じ様な目に遭っているかも知れない。
……あの2人を探してみるか。
「……いろは、やちよさん。何処かにいるか?」
あまり大声を出したくは無いな、場所をウワサに特定される可能性がある。
しかしまぁ、さほど探す必要は無かったようだ。
既にいろはとやちよさんは合流している様子だった。
しかし……あの白髪の人は誰だ? 魔法少女の様だな。
何故かいろはと戦ってる……しかし、援護は必要なさそうだ。
「はぁ、はぁ、良かった。偽物だった」
「ごめんなさい、環さん。嫌な役回りを引き受けて貰って」
「いえ、大丈夫です。それよりも今度は李里奈さんを探さないと…」
「そうね、あの子もきっと同じ様な目に遭ってるはず。
急いで合流しないと駄目でしょう」
「その必要はありません……こっちも解決しました」
「仙波さん…大丈夫だったのね」
「はい……全く最悪なウワサでしたね」
「そうね…って、仙波さん。ソウルジェムが…」
「あぁ、少し濁ってしまいましてね」
少し前までは綺麗だったんだがな…一応グリーフシードで穢れを取ったが
それでもすぐにたまるのか……情けない。
「それより、今は早くここから出ましょう」
「……そうね、鶴乃も心配だし」
「はい」
私達はそのままウワサの空間からゆっくりと出た。
ウワサの外は入る前と同じ様に真っ暗で鶴乃がソワソワしながら待っていた。
そして、私達の帰還に気付くと、彼女は駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「……駄目だったわ」
「ありゃりゃ、外れだったんだ…残念だね…」
「それより、そっちは大丈夫だった?」
「うん! 3人の盾になるという役目は果たしたよ!」
「そう」
しかしだ、このまま帰れるのだろうか?
「…でも、油断はしない方が良いわね。
うわさを実現させるのがウワサ。
大事な人に出会ったのに眠らないまま更には否定した私達をウワサが逃がすとも思えないし」
最愛ノ者トノ再開ヲ求メテ殺メル者ヨ
神ヲ謀ッタソノ罪、万死二値スルデアロウ
「今の声…ん」
周囲の景色が変る……来たか。
「来たわね…!」
「鮭闇羅我蔌愚我輪邊」
「あれがウワサを具現化してる大元ね。
で、さっき謀ったと聞えたけど。
あの声がウワサの声だというならそっくりそのまま返さないとね」
「はい、会いたい気持ちを利用するなんて」
「……確実に仕留める、許せない!」
「な、待って仙波さん!」
こいつが私を馬鹿にしたんだ……私の願いを!
そして、あいつは七美をも愚弄した…許せるか!
「凄く早いよ!」
「くたばれ!」
限界突破の力を惜しみなく発動した一撃だった。
私の攻撃はあのウワサに通っているように思えるがどうも軽い。
「蛾戯画愚」
「はん!」
このウワサの反撃も避けて、一瞬でもう一撃を叩き込む。
だが、どうも浅い…多少は効いているように感じるが致命打を叩き込めない!
「無茶しないで!」
「あの子…よっぽどあの空間で馬鹿にされたことを怨んでるのね…」
「きっと、凄く大事な人だったんだよ」
「蛾我賀唖」
「ち!」
やっぱり私の攻撃もあまり通っているようには思えない。
完璧に弾かれているというわけではない、確かにダメージは与えているのだが
致命打にはとてもじゃないが届かない、取り巻きも面倒だ。
「駄目だね、全然攻撃が通ってるように見えないよ。
もしかして、魔力を弾くコーティングでもしてるのかな?
油まみれの厨房みたいな」
「また適当なことを言って、そんな事あり得るはずが…
いや、ウワサはうわさ…魔女と関係ないなら…」
「あり得るって事だよね」
「えぇ、だからといって解決策は分からないけど」
「何か、考えるきっかけはないでしょうか、馬、蛙、口寄せ、神様…」
「…っは」
「鶴乃ちゃん?」
「うーん…神様!!」
「鶴乃ちゃんが閃いた!」
「うん、閃いた! あのね、神様って願いを叶えてくれるでしょ?
で、魔法少女って願いを叶えて生まれたでしょ?
どっちも奇跡に関係してるから、魔力の質が似てるのかなーって
もしもそうだったら、魔法とか効かなそうじゃない?」
「100歩譲ってそうだとして…どうすれば」
「さっさと倒れろ!」
「賀愚我」
「……でも、仙波さんの攻撃は通ってる…?」
致命打が与えられないなら、何発も叩き込めば良いだけの話だ!
一撃で倒れないなら100発叩き込めば良い!
こいつは許さない…絶対に!
「何あの速さ……目が追いつかないよ」
「口寄せ神社のウワサも、手も足も出てない…」
「あ、少しずつ傷が!」
もっと何発も叩き込む! 何度も何度も叩き込んで追い込んでやる!
攻める! 容赦なく攻める! 躊躇わない!
「もっと速く……」
「嘘…何あの速さ……」
「今まで、見たことない…」
「破緋愚唖!」
「っ! いろは!」
「うわ!」
「環さん!」
く! 私を捉える事が出来ないと判断したか。
不味いな、仲間を守りながら戦わないと。
「はぁ、はぁ……っ」
少し力が抜けてきた…やり過ぎたか…?
「うぅ…」
いろはの状態も悪い。
「くっ仙波さん、撤退するわよ!
あれだけあなたが叩き込んでも致命傷は与えられてない。
動きはかなり鈍くなっているけど、これ以上は環さんが持たないわ!」
「……分かりました」
やちよさんはいろはを背負い、走り始める。
鶴乃は出口を探して動き回っている。
あいつの耐久力は異常なほどに高い。
撤退しながらあのウワサに攻撃をしているが
私以外の魔法少女の攻撃はことごとく弾いている。
唯一私の攻撃だけは、あのウワサには通っている。
深くは通らないが、他の魔法少女と比べればかなり通っている方だろう。
その差はなんだろうか…私は物理攻撃を主要に戦っているから?
しかし、私の短刀は魔法による武器。物理攻撃のようで違う。
魔法で作っているはずの武器での攻撃が通るというなら
鶴乃の扇も通るし、やちよさんの槍でも通るだろう。
しかし、ダメージは無い…理由が分からないぞ。
「ち、小物が多いわね」
「……」
「環さん、しっかりして! く! ウワサが動き出した…」
「やちよー! 出口を見付けたよ!」
「でかしたわ! この、どきなさい!」
やちよさんは退路を作るためにウワサに攻撃を仕掛ける。
しかし、態勢を崩してしまった。
「やちよ!」
咄嗟に鶴乃がカバーに入るが、どうも彼女もかなり追い込まれているらしい。
私も…中々に辛いな。限界突破を多用したせいか?
でも、まだ動けるなら!
「この!」
「鴑御蔌婆鵜!」
「鶴乃、仙波さん!」
「やちよはいろはちゃんを連れて先に行って、こいつは私が引き受けるから!」
「鶴乃、お前も行ってくれ。こいつへの攻撃は私の方が通る」
「でも、梨里奈ちゃんも凄く消耗してるんじゃ! さっきの攻撃で!」
「大丈夫…何とかする」
もう一度限界突破の力を行使する。
私の集中攻撃でこいつもかなり消耗しているはず。
このまま追い込めば勝算は十分ある!
「また凄く速く…分かった、頼むね!」
「この!」
私の攻撃は確かにこいつに入ってる。
こいつの動きじゃ追いつけないほどに加速すれば、このまま撃破も!
「っ!」
……大体分かってたが、流石に無理をさせすぎてるか……
これ以上のこの力の行使は、魔力ではなく、身体が限界を迎える…
でも、あと少しの所まで追い込んでるんだ、必ず仕留める!
「らぁ! 深く、入った!」
流石に向こうもこの攻めには限界が近付いているようだ。
ようやく私の攻撃が深く入った。これなら
「ぐ……逃がすか!」
私はあいつの足下に大量の短刀を呼び出し、串刺しにしながらあいつを打ち上げた。
かなりの攻撃だが、やはりあの防御力を貫通させられない。
あと少しだというのに、まだ届かないって言うのか!
は、速く追撃を…だが、これ以上は身体が持たない。足の激痛で私はその場に跪く。
「待て! く、悪い、そっちに行った!」
「くぅ!」
「やちよ! この!」
「駄目、やっぱり私達の攻撃は通らない!」
「なんで向こうは瀕死なのに…!」
「待ってろ……今すぐ、っく!」
小物が……私の邪魔をしようというのか…
クソ、こいつらの相手をして居る暇は無いと言うのに!
「っは、っは、っは……ふぅ、はぁ…す、すぐに潰す……!」
相手は小物とは言え、ここまで消耗している状態で速攻は困難…
だが、速攻を仕掛けないとやちよさん達が危ない。
特にいろはだ…彼女は身体に深い傷を負った。
ソウルジェムの状態もあまり良くない……急いで合流しないと。
さっさとグリーフシードを渡せば良かった!
「う、ぐぅ!」
こ、小物相手に…傷を受けるなんて…
私の体もかなり限界が近い…と言う事だ。
思った様に身体が動かない。ソウルジェムもかなり濁ってきている。
だが、手持ちのグリーフシードは後1つ…
こんな事なら、もっと持ってきていれば良かった。
「あぐぅ!」
「やちよさん!」
向こうもかなり不味い…身体は上手く言うことを聞かないから
小物相手にかなりの時間を浪費してしまう…
やちよさん達の方もかなり追い込まれている。
あいつは私以外の魔法少女の攻撃をほぼ完璧にカットして居るんだ。
攻撃が効かない相手じゃ、あの2人でも長くは持たない。
攻撃が通る私が行かないと駄目だ!
「だから、お前らはさっさと消えろぉ!」
痛む足を無理矢理動かし、小物達を撃破して急いで合流しに走る。
「この! そろそろくたばれ!」
「輪蔌藻観躘毫」
「仙波さん!」
「くぅ……まだ、浅…うぁ!」
「仙波さん!」
クソ……まだ甘い。もっと通さないと…もっと深く叩き込まないと…!
「う、うぅぅう!」
「環さん」
「穢れが! グリーフシードが1つだけある! 急いでいろはに!」
私はグリーフシードをやちよさんに投げる。
「ぐぁ!」
「仙波さん!」
く、投げたときの隙を……でも、私は…まだ大丈夫だ。
「つぁ!」
「やちよさん!」
小物…あの小さい奴らがやちよさんの妨害を!
「クソ…グリーフシードが!」
「うぁああ!」
「環さん! そんな…」
「こい…つら!」
「うぁあああ!」
いろはが…な、なんだ? 何か…何か出てきた!
「何…これは!」
「唖賀蔌蛇!」
「なん!」
いろはから出て来た魔女の様な存在が目の前であのウワサを倒した。
「え? 何…倒した…?」
「……ど、どうなってる?」
「環さん! 大丈夫…って、そのソウルジェム…」
さっきまで濁りきっていた筈のいろはのソウルジェムが綺麗になっていた。
穢れは一切ない…そんな馬鹿な…何があったんだ?
「あれ? 穢れが…消えてる?」
「……」
「はっっっ!! 分かった! 今のは穢れを使った技なんだね!
凄いね、いろはちゃん! 魔法少女の新しい技を発明だ! ふんふん!」
「そう、なのかな…? すみません。全然自覚がなくって、私…」
「私も初めて見たけど、なんだったのかしら…とりあえず調整屋に行きましょう」
よく分からない攻撃だったが…まぁ、事なきを得て良かったと考えよう。
出来れば、あいつには私がトドメをさしたかったが…仲間の命が最優先だ。
「悪いけど、行かせるわけには行かないわ」
「え!?」
不意に聞えた声の方向を向いてみると、そこには金髪で
独特なドリルヘアーの魔法少女が立っていた。