魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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執念

散々恥ずかしい思いをしたが、うわさの中には入れたようだ。

はぁ、失敗したな…下手な事を言わなければ良かった。

 

「っとと、こ、ここがうわさの中…?」

「ここがアイさんが居るところ…私達、電波の中に溶け込んだのかな?」

「噂って凄いね…本当にこんな事が現実になっちゃうなんて」

 

噂が現実になる。魔法少女という存在が居るわけだし

意外と世界は奇跡とかそう言う不条理はあるのかも知れないな。

ひとまず、このまま奥を目指そう。アイという名無しの人工知能を探し出さないと。

 

そして、さなと言う少女を見つけ出し、救出しよう。

しかし何だか妙な気分でもある。

私達はさなに助けを求められている訳では無い。

 

私達が助けを求められたのは、うわさの人工知能。

この事件の大元…やっぱり、何だか特殊な気がする。

まぁ特殊な存在がうわさなんだし当然と言える気がするが。

 

「えっと、何処まで行けば…」

「ん!? 周囲の気配が…」

「これって、うわさの結界!? アイさん、私達に罠を仕掛けて!?」

「どっちかは分からないが、事態に対処するしか無いだろう」

 

私達は臨戦態勢を整え、襲いかかってきたうわさ達を撃退した。

まどか達も最初はうわさに困惑をして居たが、いろはの言葉のお陰で

ちょっとずつだがうわさの対処にも慣れてきている。

この攻撃にどんな意味があるかは分からないが…私も一緒に居て良かった。

まぁ、私が居なくても最悪の事態には至りそうに無いが。

 

「……見付けた…」

「なんだ?」

 

うわさを対処していると、1人の黒羽根が私達の前に姿を見せた。

ち、マギウスの翼に存在を認識されたのは痛い。

だったら、騒がれる前に潰せば!

 

「梨里奈ぁああ!」

「な、私の名前を…なん! うぉ!」

 

彼女は叫び声を上げると同時に右手を広げた。

その右手は唐突に真っ黒く巨大化し、私へ向って振り下ろされた。

 

「きゃ! な、何!?」

「どうなってるの!?」

「マギウスの翼!」

 

振り下ろされた巨大な黒い腕は再びすぐに振り上げられる。

あれはなんだ!? あいつの魔法? いや、でもあの不吉な雰囲気は…

魔法と言うより、マギウスのアリナ…彼女が使っていた力に雰囲気が似ている気がする。

 

手は更に振り上げられると同時に更に奇妙に変化。

そして、その巨大な掌には真っ赤な大きな切れ目が裂かれている。

そこから血のような物が滴り落ち、掌から離れると同時に血は更に小さな手と変わる。

小さな手はそのまま地面に落下し、紙吹雪のように弾けた。

 

「ま、魔女…?」

「絶対に…逃がさないんだから…!」

「っ! その顔…」

 

黒羽根のフードが取れた、そのフードの下には少し懐かしい顔があった……

私の前に立ちふさがり、攻撃をしてきていたのは弥栄…七美の妹…弥栄だった。

 

「弥栄、どうしてお前がここに…マギウスの翼に……

 そしてその姿…魔法…少女…?」

「梨里奈…絶対に復讐する…お姉ちゃんの仇を取る! 私が!」

 

彼女の目に大粒の涙が見えた……私に復讐をするために…この神浜まで来たのか…

 

「し、知り合い…ですか?」

「あぁ……仕方ない。3人とも、こいつは私の客だ。

 私が相手をする。その間に3人はうわさを見付けてくれ!」

「で、でも! あんなのを1人で相手にするなんて無茶です!」

「マギウスの翼に存在を認識されている状態では何よりも時間が重要になる…

 あいつの狙いは私だ…なら、私があいつの足止めをするしか無いだろう。

 4人であれと戦っていては時間を取られすぎる…だから、これが最善だ」

「……わ、分かりました」

「終わらせた後に合流する。私が合流するよりも前に終わらせてくれても構わない。

 行ってくれ」

「…はい! 行くよ、2人とも」

「で、でも…あんなのと1人でなんて危険すぎるよ!」

「大丈夫、梨里奈さんは強いから…信じるしか無いよ!」

「うぅ……ごめんなさい」

「私が言い出したんだ、謝ることはない」

 

あの3人が逃げるまで、弥栄は動きを見せることは無かった。

狙いは完全に私だけだと言う事がこれでハッキリした。

 

「梨里奈…これで心置きなくお前を殺せる…」

「お前に怨まれて当然の事をした…好きにすればいい。

 私はお前の行動に文句を言う事はしないし、怨むなとも言わない。

 だが…お前に殺されてやることは出来ない。あいつの所に行くには…まだ早い」

「は! そうよ! あなたはどうやってもお姉ちゃんの所には行けない!

 あなたはここで死ぬから! そして死んだ後もお姉ちゃんと会うことも出来ない!

 お前なんかが! お姉ちゃんと一緒に居られる訳がないんだ!」

 

彼女は振り上げていた手を私に叩き付ける。

しかし振りは大きい。私は素早く後方に下がり手の範囲外に逃げる。

 

「逃がすかぁ!」

「っ!」

 

だが、手はすぐに動き、私を掴もうと伸びてきた。

今度は跳躍を行ない、彼女の手から逃れる。

 

「逃がさないって、言ってるでしょう!?」

「左手も!」

 

左手も唐突に変化し、私の方に伸びてくる。

私は急いでその足を蹴り後方に飛び退き手が閉まる前に抜け出す。

だが、今度は着地と同時に右手が動き、私を捕まえようとする。

 

なんとか逃げても、また次が…このままじゃ追い込まれる!

私は限界突破の魔法を使い、その手が追いつけないほどの速度で避けてはいるが

このままじゃジリ貧…だが、私は攻略法は分かってる。

 

「絶対に捕まえる! 握り潰してやる!」

 

彼女の殺意は当然だ、当然なんだ…当たり前なんだ…

私は彼女の姉を見殺しにした…怨まれて当然だ…当然なんだ…

だから、彼女が私を殺したいというなら殺されてやる事が正しいんだろう…

 

「逃げるなぁ!」

 

だけど、私にはそれが出来なかった…死ぬのが恐いからだ。

誰でも、死んでも良いと思える人は居ないだろう。

死ぬのは恐くないと本気で思ってる奴は…ただ自分に絶望してるだけの人間…

 

じゃあ、なんで私は死ぬのが恐いんだ?

私は自分に絶望してるはずなのに…未来にも希望は抱いてないのに。

この先を生きていても、自分のままでいられ続けない恐怖しか無い筈なのに。

居場所なんて無い、孤独な未来しか考えてないはずなのに…

 

「逃げるなって、言ってるでしょうがぁ!」

「……私は…死ぬわけにはいかない」

「知らないわよ、私はお前を殺すんだ!」

 

彼女が右手を地面に叩き付けると同時に右手が消える。何処に消えた…? 

 

「潰れろ!」

 

唐突に出て来た大きな黒い影…背後!? 私の視界が暗くなっていく。

 

「死ぬわけには…行かないんだ!」

「うぁ!」

 

あわや潰される寸前に私は黒い手の指先を切断し飛び出した。

 

「…なんで死んでくれないのよ!」

「死にたくないからだ…」

「知らない…絶対に捕まえる…捕まえてお姉ちゃんの仇を取るんだ!

 絶対に…逃がさない…!」

 

彼女の瞳には揺るぐことが無い決意が見えた。

彼女は決して私を逃がさない…私も決意を決めるしか無い…か。

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