魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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容赦なく

周囲の結界が消えていく。

そして、ヘリポートに私達は移動していた。

壊された結界。大事にして居た魔女を排除されてアリナはどんな気分かな。

 

「フェリシアちゃん! 梨里奈さん! 良かった!」

「ふぅ、助かった。命拾いしたよ」

「あ、あの、巴さんは…」

「いや、中は俺達2人だけだった…」

「そんな…じゃあ、マミさんは…」

 

マミがいなかったという事実はまどか達にはあまりに衝撃だっただろう。

大事な先輩が死んでしまったかも知れない。そんなの、衝撃を受けないはずが無い。

 

「いや、マミとかどうでもいいんですケド…

 アリナの作品はどこ…?」

「あんな気味悪いもんぶっ潰したに決まってんだろ!」

「後悔するぞと警告したはずだ…聞かなかったお前が悪い。

 お前の手で壊したような物だ」

「……ベストアートワークを彩る…ジュエリーの一つが…」

 

アリナから表情と言える物が消えた…目は虚空を向いている。

そこには誰もいない、ただ暗い星空が見えてるだけだ。

そもそも焦点すら合っていなかった、彼女は今、何も見ていない。

 

「魔女一匹でなにショック受けてんだよ」

「…けるな」

「は?」

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!

 ヴァァァアアアッッッ‼

 作品をブレイクしていいのはアーティストだけなんですケド!

 何勝手なマネしてくれてるワケ⁉」

 弁償しろよ‼ アナタらのボディを魔女に喰わせて弁償しろよ‼」

 

さっきまでも態度とはまるで違う、冷静さを欠いた状態か。

……本当、芸術家というのは分からない。

ただ好きな事を好き放題にするだけ…羨ましいよ。

 

「鹿目さん!」

「ほむらちゃん!」

「こいつ、マジで壊れてるぞ!」

「全くだな、いかれてる」

「壊れてる? 壊したのはアナタらだクソガキ!

 あぁぁ…………黒いのが蠢いてきた…

 叩いて砕いてすり潰すしかない。

 アナタたち纏めて、真っ赤な絵の具にしてやる!

 このドッペルで!」

「そう言えば、血で絵を描いたという画家がいたな」

「余裕かましてる場合かよ姉ちゃん!」

「勿論だ、余裕をかます暇は無い!」

「な!」

「はや! ボロボロなのに!」

「ドッペルはここから出ているんだろ!?」

「うぎ!」

 

私は一気にアリナに接近し、彼女のソウルジェムを弾き飛ばす。

あのままたたき壊せば良かったが…

 

「く! でも、無駄なんだよ!」

「ち、壊さないと出てくるのか!」

「うわぁ!」

「あんたから潰してやるよ、梨里奈!」

「く、うぐぅう!」

 

流石にボロボロの状態でこの追撃は辛い…

回避出来るほどに態勢は良くないし…この一撃は…

 

「うぅ…」

「……く…」

「でも、まだ足りないヨネ! もっと徹底的に痛めつけないと!

 特に梨里奈、お前には確実に消えて貰う!」

「…随分と憎まれた物だ…でも、流石の私も殺されるというなら黙ってはいない」

 

体力の限界突破。魔力消費が凄まじいからあまり使いたくは無いが

この場面じゃ、使わなければ勝てないだろう?

 

「うそ…何でアリナのドッペルを食らって、立ち上がってるワケ?」

「姉ちゃん…な、なんで動いて…そ、そんな怪我で、う、動けるわけ…」

「肉体の限界突破。傷を急速に癒やさせて貰ったよ。

 再生能力の限界突破とでも言おうか。出来れば使いたくは無いんだが

 流石に死ぬわけには行かないんだ…」

「……チ! でも、怪我はまだ完治してないでしょ!」

「そう思うか?」

 

私の怪我は癒えている。完全に癒えている。

流石に服までは回復しないが、傷自体は完治だ。

 

「な…怪我が治って…」

「梨里奈は休んでて!」

「おっと」

 

私とアリナの間に割って入ってくるように鶴乃が姿を見せた。

 

「今度は誰な訳!」

「由比鶴乃だ! これ以上皆を怪我させることは!

 この最強の魔法少女である私が許さないから!」

「邪魔しないで欲しいんですけど!」

「邪魔するよ!」

「く、うぅ!」

「よし、競り勝った!」

 

やはり鶴乃は強いな。アリナを初手で圧倒したか。

 

「フェリシア! 梨里奈! なんともない!?」

「何ともあるに決ってるだろ…ヘトヘトで力が出ねぇよ。

 でも、俺よりも姉ちゃんの方が…結界の中で戦ってたのは姉ちゃんだし!

 それに、さ、さっきまでボロボロだったのに…」

「私はなんともないぞ、この通り怪我1つしてない」

「それがおかしいんだよ…ど、どうなってるんだ…?」

「ち…あなた、勝ったつもりなワケ?」

「ちょ、ちょっと! まだ動くつもり!?」

「アリナ的にまだ超アングリーなんですケド…

 今からでも、デリートしたくて仕方ないワケ…」

「でも、戦った所で結果はもう見えてるよ!」

「その通りだ、鶴乃に私。この2人を相手に1人で勝てると思うか?」

「結果なんてどうでも良いんですケド!

 アナタら2人に、アリナの作品をブレイクされた分

 リターンが欲しいだけなワケ」

「―っ!? 俺、こいつ恐い…」

「あんたら2人をくれたらアリナの作品と相殺

 無かったことにしてあげてもいいんだケド」

「……良いだろう、なら私をくれてやろう。だが、私は凶暴だぞ?

 私を押さえる事が出来れば、大人しく殺されてやろうじゃ無いか」

「な、何言ってんの!? 私は仲間を売らないよ!」

「折角ちょっと無理をして傷を治したんだ。大人しく守られるのは恥ずかしいからな」

「じゃあ、あなたを殺しても良いって事ね!」

「どうぞ、殺せる物なら、鶴乃はフェリシアを守っていてくれ」

「姉ちゃん! ぼ、ボロボロだったのに何をいってるんだよ!」

「む、無茶はしない方が良いよ梨里奈ちゃん!」

 

ソウルジェムは濁っているから、あまり魔法は使わない方が良いな。

濁れば濁るほど、段々自分が自分じゃ無くなっていくような気がしてゾッとする。

出来ればこの感覚は長く感じたくは無いから、短期決戦に及ぶしか無い。

 

「もう遅いんですけど!」

「ハッキリ言うが、私と戦うならまず距離を取れ」

「くぅ!」

「少なくとも、私の体術が届かない距離まで逃げろ」

「うぐぁ!」

「この距離では、魔法少女に変身するまでも無く圧倒できる」

「ちぃ! こ、こいつ!」

「や、やっぱり強いね、体術だけで追い込んでる」

「でも、どうして動けるんだよ…あんなにボロボロだったのに…」

「至近距離は私の得意分野だ」

「ふざけて! こうなったら、アリナのドッペルをもう一発!」

「この時を待っていた!」

 

私は短刀を召喚、アリナがドッペルを発動させようとした寸前を狙う。

私の短刀は確実にアリナのソウルジェムを捉えている。

今回は加減も無い、身体の怪我も十分だ。確実に壊せる。

 

「…駄目!」

「な!」

 

だが、寸前にやちよさんが私の攻撃を防いだ。

 

「や、やちよさん! 何を!」

「梨里奈、それ以上は駄目よ、もう勝負は着いてる」

「……でも、相手の最大の武器を潰せれば」

「これ以上は駄目よ、梨里奈…」

「……わ、分かりました」

 

何で止めたんだ? 私にはこの行動の意味が分からなかった。

でも、彼女が止めろというのであれば、無理に仕掛ける必要も無い。

そもそもこの状況、私達に軍配が上がっているのは間違いないのだから。

 

「く…」

「そろそろ止めてください」

 

まだまだ好戦的だったアリナをやちよさんと同じくらいの人が止めに入る。

 

「みふゆ…」

「ごめんなさい、やっちゃん。家のアリナが暴れてしまって」

「暴れるなんて、ただ個人の問題だから良いわよ。

 それより、魔女を守るってどう言うことなの…?」

「魔女を守る…?」

「……それも、必要なことなんです」

「解放のために? 信じられない。

 魔女で私達が救われるなんて、あなた何を考えてるの!?

 目を覚まして!」

 

…知り合い、やはり彼女とやちよさんは知り合いだったのか。

それより、魔女を守る…そんな事、どうして。

 

「やっちゃん! お願いだから、これ以上干渉しないで…

 本当に、争わなくちゃいけなくなります」

「みふゆ」

「むしろ争わせてくれると、嬉しいんですケド?」

「よく言えるな、争うというのなら、私はお前のソウルジェムを壊すぞ?」

「止めなさい!」

「…わ、分かってます」

 

最大の武器を破壊する行為…相手の戦力を削ぐ妥当な行為だが…

何だ? ソウルジェムに何がある?

 

「アリナ、いけませんよ争っては。あなたは3人のマギウスの1人です。

 それに、この場で戦えばまず我々に勝ち目はありません」

「……チ」

「分かったら、ここは退きましょう」

「…仙波梨里奈」

「何だ?」

「あなたへの怨み、アリナの心に刻み込まれたから。

 今度会ったときは、絶対に魔女に食わしてやる」

「ならやちよさんが近くにいる時を狙うんだな。

 私が1人でいるときに私を襲えば、私はお前のソウルジェムを砕きかねないぞ?

 出来るだけ効率の良い手を取りたいからな、最大の武器は潰す」

「……何度駄目だと言ってると思ってるの? それだけは絶対に駄目よ」

「……はい」

 

脅し文句に近い言い方だ。本気でそうは思ってはいない。

ここまで止めると言うことは、絶対に何かある…それなら事実を知るまで動けない。

 

「じゃあね、やっちゃん」

「やっぱり戻ってきてはくれないのね」

「ごめんなさい」

 

そう言い残し、みふゆと言われていた人はアリナを連れて帰っていく。

 

「みふゆ、本当に戻ってこないのかな…」

「あのアリナの行動を許容するぐらい何だから

 私達の言葉じゃ覆らないほど決意は固いのでしょうね」

 

……分からない事は多いな、マギウスが何で魔女を守っているのか。

マミの行方、そしてソウルジェムの謎。

…情報を集めるしか無いだろうな。

 

本当、嵐が来たかのような時間だった。

まどか達はそのまま急いで家に帰り

さなはみかづき荘にすむことになった。

 

そのまま歓迎パーティーを始めることにしたらしい。

今回は鍋、そのパーティーに何故か私も招待された。

折角の招待を無下にするわけには行かないか。

晩ご飯をごちそうになる…何だか申し訳ない気持ちになる。

 

「どうしたの? 浮かない顔をして」

「い、いや、お金も払っていないのに晩ご飯をって言うのは…」

「……気にしなくて良いのに」

「そ、そう言うわけには…やっぱり気になって」

「…じゃあ、買い物や調理を手伝って貰える? 

 手伝ってくれたお礼で晩ご飯をごちそうしてあげるわ。これなら良いかしら?」

「…はい、分かりました。お安いご用です!」

 

手伝ったお礼だというのなら、まだ妥協は出来る。

腕によりをかけて料理の手伝いをさせて貰おう。

ま、水炊きになるみたいだし、腕はあまり関係ないかな。


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