魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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秘めたる思い

全くマギウスの翼を追うのは苦労するな。

あれ以降、あまり情報を仕入れることが出来なかった。

ついさっきまで夏だったような気がしたが、もう寒くなってきた。

はぁ、年も越した…か。最初は大躍進だったが上手く行かない。

 

「……はぁ、全く上手く隠れるな。マギウスの連中は」

 

うわさノートを広げて回っては居るが…やれやれ。

と言っても、このうわさノートでは本拠地を割り出すのは難しいか。

…そうだな、冷静に考えてみればうわさなる物を作り出す能力がある連中。

そんな連中が簡単な発想で本拠地を割り当てられるようなヘマはしない。

 

マギウスのトップは恐らく複数人居るんだろう。

その内の何人かは切れ者だな。

アリナがここまで緻密に色々と練れるようには思えないしな。

 

あいつは何だ? 行動力に秀でていると考えるとして

残りは手段を与えているのだろうか?

その手段を用いてアリナが動いて居るという感じか?

 

それにアリナと最初戦った時に妙な言葉を言ってた。

それにだ、マギウスはどうやって魔女を使役してるんだろうか。

アリナの固有魔法が結界を作る事だったと思うが

もう1つ、あの子のドッペルと言ってたが、そのドッペルはどんな物だ?

魔女を操るドッペル? そんな都合の良い能力があるのか?

 

「……うーん、考えるべき事は多いが、今は本拠地の捜索か。

 もし仮に、私がマギウスの立場だった場合何処に陣取るかな。

 …確実に隠れられるという自信があるなら展開しやすい

 西と東の間だかな。そこならうわさも流しやすいし

 情報収集も楽だ、それに東と西がにらみ合っているのなら

 どちらもそうそう手を出せないのが中央だろう」

 

とは言え、情報をある程度把握していれば

その位置が無難だと予想される可能性はある。

いかなる可能性も潰すのであれば、無難な位置。

想定できない位置…あえて何の変哲も無い場所に配置するか?

 

「…あ、不味いな…時間を掛けすぎたか」

 

そろそろバイトの時間だな。急いで向うとしよう。

 

「すみません、少し遅れてしまいました」

「お、来たね!」

「あぁ」

 

私が万々歳に来ると、鶴乃が元気よく迎えてくれた。

しかし…何と言うか、鶴乃はいつも元気だな。

あまりにも元気すぎる気がする。まだ1年共に居ないが

鶴乃が辛そうな表情をしているところを見ない。

 

「……」

「ん? どうしたのかな?」

「いや、少し気になることがあってな。バイトの後で話すよ」

「今話しても良いのに-!」

「まずはやることをやらないとな」

「そうだね、あ、いらっしゃいませ!」

 

私達は2人で万々歳の手伝いをこなした。

万々歳に来るお客さんはやはり常連客ばかりだ。

だが、店にとって重要なのはそう言う常連客だろう。

とは言え、もう少し常連客を増やさないと駄目だろうが。

 

「ふぃ、終わったね。それで? 気になることって?」

「あぁ、まだ仲良くなって、1年経っていないんだが

 鶴乃が辛そうな表情をしているところを見たこと無いと思ってな」

「え? そんなの当然だよ!」

「当然じゃ無いぞ? 毎日笑顔で生きる事は大変な事だ。

 どんな時でも笑顔で居るのは、どんな時でも

 他者の理想の姿で居る事よりも、きっと難しいからな」

「そ、そんなの」

「少しくらい、辛い表情を見せても良いんじゃ無いか?

 常に笑顔で居るのは大変だろうしな」

 

鶴乃はいつも笑ってる。相手の心が読めるわけじゃ無いが

この行為がどれだけ難しい事かは分かる。

私には出来る気がしない。誰かの理想のままでいる事よりも

きっと困難なことだ。何故なら私に理想を抱かない相手の前では

相手の理想を演じる必要が無いからな。だが、笑顔はどうだろう?

 

知り合いの前でも大事な人の前でも笑顔は作りたいからな。

常に笑顔で居れば、それが当然になりかねない。

自分をさらけ出して良い場所が分からなければ、疲れるだけだ。

 

「それに、笑顔って言うのは分かりにくいからな。

 その心の内で何を考えていても、笑顔であればそれで良いと思う。

 笑顔は幸福の証だけだと思っている人が多いからな」

「……」

「笑顔は便利だ、幸せを強調するときにも使えるし

 何かを隠すときにも使える。毎日を過ごしていれば

 後者の方が使用頻度が多くなるだろうな。

 

 でも、仲間の前では前者…と言う、先入観もある。

 友達同士のやり取りで笑顔を見せれば後者とは思うまい。

 そしてお前は常に明るい。これも難しい事だと思ってな。

 こっちも私には出来ない。例えどんな性格でも

 常に幸せな奴はそういないだろう? 辛いときは絶対にある」

 

鶴乃の表情が少しだけ…何だかボーッとしてるように見える。

悪い事を聞いたか? …いや、どうだろうな。

正直、こんな表情の鶴乃を見たのは初めてだ…そう、初めてなんだ。

 

「……で、でも…梨里奈ちゃんも苦労してるし」

「そうだな、誰でもそうだ。でも、お前もじゃ無いか? 鶴乃」

「どうして、そんな風に言うの?」

「そうだなぁ、似てる気がしてな…何となく私に。

 最初は違和感も感じなかったけど、ずっと過ごしてる内に

 常に笑顔って所に気付いてね。それで何となく似てる気がしたんだ。

 

 私も…まぁ、そうだな。周りの期待に答え続けないといけないと感じて

 常に期待に答えようと努力してきて、他者の理想になる事だけ考えてた。

 それで自分がどうなるかとか、何も考えて無くてな。笑えるだろう?

 自分自身の人生なのに、自分の事なんてどうでも良いと思ってたんだ。

 お前は私じゃ無くて私以外の誰かかよって言いたくなるよな」

「た、確かに最初と今じゃ雰囲気違うね」

「そう…だな…ふふ、最初の私ならこんな事は言ってないだろうな。

 でもな、皆と過ごしてると親友の言葉が何度も蘇ってきて

 昔を…思い出すんだ。まぁ昔と言っても、1年程度前だが」

 

そうだよな、まだ1年程度しか経ってないんだ。

私にはその1年が…まるで何十年も前に感じてしまう。

 

「そして、その親友に言われた言葉がピエロだ」

「ぴ、ピエロ?」

「そう、ステージの歓声に答え、笑顔を作り続け難しい技を

 難なくこなし、喜ばず、期待に答え続けるピエロ。

 的を射てると私は思ったよ」

「そうなんだ…」

「だから、演じる事の難しさはまぁまぁ分かってるつもりなんだ。

 素直になれないのは辛い。弱音を吐く先さえないのは余計にな。

 私の場合は…まだ親友が居たから大丈夫だったんだが」

 

今は鶴乃達の前であれば、少しくらいは素直になれる気がする。

流石にまだ弱音は吐けないかも知れないが

嫌な事は嫌と言えるようにはなったからな。

 

「だからほら、限界になる前に少しくらい素直になると言い。

 辛い事はあるだろう? 愚痴とか、そう言うのが。

 私でよかったら聞くぞ? 毎日笑顔なのは素晴らしい事だが

 心の底からの笑顔じゃ無いと、笑顔はその内陰るぞ?」

「い、いや、良いよ。そんなのないから、本当に」

「…そうか、でも鶴乃…偽物の笑顔ばかり作ってたら

 本当に楽しいときに、心の底から笑うことが出来なくなるかも知れないぞ?」

「え……?」

「本当に答えたい想いに答えられなくなるかも知れない。

 偽りを作り続けた代償は、本物の願いや笑顔かも知れない。

 偽物には確かに価値はあるだろうが、代償が重すぎる。

 

 偽りの先にあるのは、失われた本物かも知れない。

 だからな、そうなる前に偽りを捨てるのもありかも知れない。

 本物になろうと努力する偽りであれば問題は無いかもしれないがな」

「……」

「悪いな、長話が過ぎた。ただ少しは友人を信頼するのも良いと思う。

 親友の前で偽りを演じる必要は無いんだ、その友情が本物ならな。

 大丈夫だ、どんな思いでもきっと受入れてくれると思うぞ」

「……か、考えておくね」

「そうだな、考える事は大事だ。行動の第一歩だからな。

 それじゃあ、また明日、みかづき荘で会おう」

「うん」

 

言いすぎたかも知れないな、勘違いかも知れないのに。

でも、あの雰囲気はきっと勘違いじゃ無かっただろう。

だが、どうかな。何かを変えるための一歩は本当に重い。

足に何十㎞もある重りが付いてるんじゃ無いかと思うくらいに。

その一歩を踏み出すのは簡単じゃ無い。

でも、誰かに手を引っ張られたり押されたら簡単だ。

そんな物なのだろう。重りなんて物は。

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