魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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友愛のドッペル

巨大な姿だった…2人の人の様な姿があるが

その2人の手にはいくつもの南京錠があった。

まるで魔女の様な姿…そんな化け物が

七美の背後に出て来た…こんな馬鹿な事が…

 

「こんな手は、使いたくなかった…

 使う必要も無いって思ったのに。

 だって、梨里奈ちゃんは私の大事な親友だったから。

 私の言葉を聞いてくれれば…来てくれるって思ってた」

「私はお前の親友だから、お前の元には行けないんだ」

「でも、きっとその考えはすぐに変る。変えてみせる。

 私の友愛のドッペルで、あなたを…取り返す」

「安心しろ、取り返す必要は無い。

 元より私は変ってない。

 今まで通り、お前の親友としてお前の前に居る。

 お前は私を失ってないんだ」

「なら、一緒に来てよ!」

「それは出来ない…私はお前の親友だから!」

 

救わなければいけない。彼女を、救わなければならない!

 

「全く、私に散々言っておいて

 今じゃお前が諦めるのか?

 頑張れよ、変な手を使わなくても

 お前なら出来るだろ?」

「頑張れって言葉…本当に無責任だよね…頑張ってるのに」

「そうだな、誰でも頑張ってる。期待に答えようと。

 それに私は今の今まで、

 ずっとお前の期待に答えようと必死だったんだぞ?

 幸せに生きようと。

 

 でも、もう止めた…

 お前と一緒に居るときの私はピエロじゃ無いもんな。

 期待に答える努力はするが、

 期待に絶対に答えないと駄目という訳じゃない。

 その時の私はピエロじゃ無い。

 

 素直にもなれない不器用な少女

 仙波梨里奈だ…だから、私は期待に答えるんじゃ無い

 努力するつもりだ…お前の為に努力する。

 お前の為に頑張る」

「私と一緒に居ることが、私の為じゃ無いって?」

「お前の心を救う事が、お前の為だ。

 今のお前を救ってみせる。

 親友として、私は必死に努力してお前を元に戻す!」

 

自身の両手に短刀を再度召喚した。

七美を止めなくてはならない…絶対に。

 

「私はあなたを連れ戻す!」

 

そう言うと、彼女のドッペルから大量の糸が飛んで来た。

その糸は地面や壁に接触すると、即座に繋がった。

 

「トラップ系か?」

「違うね」

 

再度私に向けて複数の糸が飛んで来る。

これだけしか攻撃手段が無い?

破壊力が抜群という風には見えないし、どんな効果だ?

 

「逃げないでよ!」

「攻撃かも知れないなら避けるさ」

「だったら、逃げられないようにする!」

 

彼女が周囲に大量の糸を飛ばした。

この狭い範囲では避ける事が出来ない。

仕方がない、私の方に飛んで来た糸のみを切断しよう。

 

「無駄だよ…運命の糸は切れない」

「な…」

 

私が彼女が放った糸を迎撃しようとすると、その糸は

私の短刀をすり抜け、そのまま私の胸に突き刺さった。

 

「な…糸が…でも、痛くない…」

「奪う」

「な、い、うぅあぁぁああぁああ!」

 

む、胸が…張り裂ける…痛い…こ、こんな…あ、うぁ…

 

「これであなたの心は私の物…さぁ、私と一緒に…」

「はぁ、はぁ、はぁ…い、意識が一瞬飛ぶかと…」

「さぁ、一緒に来て、梨里奈ちゃん」

「さ、さっきも…言っただろ…

 お前と一緒には居られないと」

「え?」

 

私の答えを聞いた七美の表情が大きく変わった。

明らかに動揺してる。

さっきの攻撃に何かあったのか?

激痛が走るだけだったが…

 

「そ、そんな…どうして…確かに糸は、心に繋げて…

 確かに奪う能力も発動した…悲鳴を上げてたし、

 絶対に繋がってた…

 な、なのにどうして…どうして…」

「あの攻撃に…何かあったの…か?」

「どうして!」

「いぐ! う、うぐぅぅうぅぁ!」

 

ま、また! また…胸が…胸が張り裂け…う、ぁ…

こ、この攻撃…は…が、外傷は無いのに…くぁ…

 

「あ…くぅぁ…」

 

激痛が…くぅ、た、立ってられない…ど、どんな攻撃だ…

 

「こ、今度こそ…さっきよりも沢山繋げて、

 奪ったんだ…手に入れたはず」

「はぁ、はぁ、はぁ…さっきから、

 な、何を言ってるんだ…」

「どうして!? どうして効果が無いの!? どうして!

 私の友愛のドッペルは…魔女の心だって奪えるのに!」

「心を奪う!? そ、そんな能力を!」

「私のドッペルは…相手を私の友人にするドッペル…

 糸を繋げて、効果も発揮したのに…

 何であなたには効果が無いの!?」

「……ふ、ふふ、なんだ…そんな事か…

 簡単すぎる問題じゃ無いか」

「どう言うこと!?」

「何度も…私はお前に答えを伝えた…何度も何度も…な…

 私はお前の親友なんだよ…ずっと、今でも…」

「え…」

「だから、もう意味は無いんだ…

 私はお前の親友だからお前を取り戻そうとしてる。

 友人にする能力なんて、

 ふふ、お前の親友に効果があるわけが無いだろう?

 もうすでに友人よりも親しい、親友なのだから」

「あ…あぁ…」

 

七美がゆっくりと後ずさりをした。

表情から明らかな動揺が読み取れる。

彼女は焦りの表情を浮かべたまま、何処かへ走り出した。

 

「ま、待て! 七美!」

 

私は胸の激痛を堪えながら、急いで七美の後を追う。

ここで見失ったら、今度いつ会えるか分からない!

 

「七美!」

「死ね!」

「な、がふ!」

 

……そんな、弥栄…彼女の大きな手が、私の腹を貫いた…

痛い…お腹が…焼ける…そんな…どうして弥栄も。

 

「あ…ぐぁ…」

「やっと…殺せる…」

「ぐぁ…」

 

彼女が私の腹から手を引き抜く…

こんな状態で立ってられるはずがない…

フラフラと背後の壁に背中が当り、

その場に座り込んでしまった。

駄目だ…ち、力が入らない…体が満足に…動かせない…

 

「良くもお姉ちゃんを泣かせたな…梨里奈…」

「ぅぁ…ゲホゲホ!」

「もう死にかけだね、口から血まで吐いちゃって…いい様!

 でも、お姉ちゃんの傷はもっと酷い!

 もっと痛い思いをしたんだ!

 そんな痛み程度!

 お姉ちゃんの痛みに比べればへでも無い!

 だから、もっと痛めつけてやる! もっともっと!」

「弥……栄お、まえは…今の七美…が…ゲホ!

 お、お前が大好きな…七美だと…」

「何言ってるの? お姉ちゃんはお姉ちゃん、

 私はお姉ちゃんの事、大好きだよ」

「……よく…みろよ…」

 

駄目だ…意識が少しずつ曖昧になっていく…

このままだと…死ぬ…

体がドンドン冷えていく…あぁ、こんな事になるなんて…

 

「うるさいなぁ、どうせ死ぬんだから黙ってろ!」

「もう止めて! 弥栄お姉ちゃん!」

「な!」

 

弥栄が私にトドメを刺そうとしたとき

走り込んできた影が弥栄を思いっきり押し倒した。

 

「く、久実! 何の真似!?」

「止めて…止めてよ…こんなの…こんなの!」

「離せ! 久実も見たでしょ!?

 こいつがお姉ちゃんを泣かせたの!」

「違う、違うんだ! だから、止めて!」

「この!」

 

い、ま、なら…今なら…まだ…助かる。

自分の治癒能力の限界を突破し、傷の回復を図る。

魔力の消費が…激しい……治せても、動けない…か。

 

「この、久実!」

「駄目だから、ごめん! 弥栄お姉ちゃん!」

「な、ドッペル! こ、この!

 うぎ! か、体が…クソ! 離せ!」

「梨里奈…さん…い、一緒に…」

「……」

「梨里奈さん? 梨里奈さん!

 へ、返事して! 梨里奈さん!」

 

こ、声だけが聞えるが…口を上手く動かせない…

だ、だが、傷は…治った…

まだ、し、死ぬわけには…行かない…


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