魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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初めての親友

「梨里奈、何よこの点数!」

「お、お母さん…で、でも、これでも学年では」

「小学生のテストで100点も取れないなんて…」

 

最高得点以外は怒られる…頑張らないと…

怒られるのは嫌だ…

90点なんかじゃ駄目なんだ、100点だけ。

だから、勉強をしないと…

少しサボっちゃったから90点だけ。

頑張らないと、もっと頑張って…

お母さんとお父さんをガッカリさせたくない。

 

「そうそう、やっぱり100点くらい当然よね。

 小学生のテストだし」

「う、うん…勉強、頑張るよ」

 

100点は当然で、褒められるような事じゃ無いんだ。

取れて当たり前…だから、取らないといけないんだ。

お母さんをガッカリさせたくない…頑張らないと。

 

「梨里奈、もう少し足が速くならないと駄目だな、

 遅いぞ?

 お父さんにかけっこで負けちゃうんじゃな」

「う、うん…も、もっと速く走れるようになるよ」

「そうそう、お前は運動できるんだ、

 将来はスポーツ選手かな。

 それなのにお父さんに負けるようじゃ、まだまだ。

 お前にはお父さんの代わりに大舞台で活躍して貰わないとな」

「うん、頑張る」

 

速く走るようになって、

色々なスポーツが出来るようにならないと。

私は凄いんだって、お父さんも言ってくれてる…

走ってると、足が痛くなっちゃうけど…

弱音を言ってられない。

お父さんに勝てるようにならないと駄目なんだ。

小学生の内に頑張って、お父さんよりも速くならないと。

 

「不味いわね…もっと美味しい料理出来ないの!?」

「ご、ごめんなさいお母さん…火加減とか上手く…」

「女の子なんだから料理くらい出来ないと駄目よ!」

「ご、ごめんなさい、急いで、痛!」

「あぁもう! ちゃんと手元注意しなさいって!」

「ご、ごめんなさい…」

「良い? 食材を切るときは、速く切らないと駄目なの

 ゆっくりじゃ、時間掛って待たせちゃうでしょ?」

「う、うん…頑張る…」

 

うぅ、何度も指を切っちゃうけど、

それは私がドジだから。

すぐに美味しい料理を届けるようにならないと…

女の子なんだもん。

女の子だから、美味しい料理を作るのは当然だから。

未来の旦那さんに不便を掛けたくないから、

掃除もこなすように…

 

あ、料理と掃除が終わったら、勉強して…運動しないと。

そして良い子だから、早寝しないとね。

9時には寝ないと怒られちゃう。

友達だって、皆同じくらい頑張ってるはずだもん。

私も頑張らないと。

 

「……よし、お風呂も入って、勉強しないと…」

 

しっかりしないと、私がしっかりしないと…

私、凄い人になって、

貧乏なお家を助けないと行けないんだ。

 

頑張ってお勉強して、凄い良い会社に入るんだ。

そして、運動して、スポーツ選手になってテレビに出て

そして、お金持ちの旦那さんと結婚しないと…

貧乏なお家を助けるんだ。

 

「わぁ、今回も100点! 凄いね梨里奈ちゃん!

 天才だね!」

「え? あ、う、うん…」

 

皆が私の周りに集まってくる…

100点を取るのは凄い事なんだ。

そんな事、今まで思ったこともなかった。

当然だって…ずっと、当然の事だって…

 

「梨里奈が天才なのは当然じゃん。

 だって、小学生の時から」

「……」

「運動も出来るし、料理も上手だしね」

「運動してる姿格好いいよね、梨里奈って!

 男の人みたい!」

「格好いい!」

「あ、あぁ…」

 

男らしい…運動も出来るんだし、男らしいのも当然なの?

中学生で男子と戦って圧倒できるのは私くらいだから…

男らしく振る舞おう…だって、皆、そんな私を望んでる。

 

「凄く頭が良いですね、梨里奈さん」

「えぇ、だってこの子は、私の自慢の娘ですもの」

「運動も出来るし、何でも出来る。

 お家のお手伝いもしてるんですよね?」

「毎日助かってます。本当にこの子は私の自慢の娘」

「ご両親の教育の賜物ですね」

「えぇ、この子には立派になって貰わないとね」

 

私は天才だから、常に立派で無くてはならない。

お父さんとお母さん、そして先生と同級生達…

全員、そんな立派な私を望んでる。

そんな私以外の私は…きっと私じゃ無い。

 

「梨里奈、点数少し落ちてるわよ!」

「ご、ごめん、次は100点を取るから」

「梨里奈も間違えることあるんだ…」

「だ、大丈夫…次は間違えない…」

「梨里奈さん、あなたはこんな物じゃ無いでしょ?」

「は、はい…先生…大丈夫です、

 次はもっと良い点数を取りますから」

 

中学生になっても、100点が当たり前。

少しの失敗も許されない。

そうだ、私は完璧じゃ無いと駄目なんだ…

私は皆から期待されてる。

些細なミスでも周りをガッカリさせてしまう…

失敗しないで頑張らないと。

間違いは許されない、運動も勉強も家事も、

全て完璧にこなさないと。

 

「……はぁ、疲れた」

 

1人の時だけは…あぁ、何だか落ち着く気がする。

1人の時は誰からも期待の眼差しを向けられる事が無い。

1人の時だけ…私が私で居られるのは、

その時だけなのかも知れない。

いやでも、どうかな…

もう、本当の自分が何なのか…忘れてきた。

 

本当の私ってどんな感じなんだ? 

人前で期待に答えようとする

それ以外の私は何なんだ? それ以外に…私に何がある?

 

友達なんて居ない、夢も無い…

私はもう…私自身の意思さえ…

皆の期待に答えることしか出来ない…

1人の時は何だか焦ってしまう。

 

私はこの間、どんな風になれば良いんだ? 

何をすれば…1人の間だ、何をすれば?

何もすることが無い…何も出来ることがない…

本当の私は…空っぽ?

 

「あの…梨里奈さん」

「あ……わ、悪いな…少しだけ気が緩んでた。どうした?

 君も勉強を教えて欲しいのか?

 それとも運動? 何でも良いぞ。

 私は何でも出来るからな、教えるのだって得意だ」

「……梨里奈さん、私ね、ずっとあなたに憧れてたの」

「どうしたんだ? そんな神妙な顔をして」

「私、病弱だから…何も出来ないの。

 家族にもいつも迷惑を掛けてる。

 だから、何でも出来るあなたの事…羨ましかったの」

「大丈夫だ、どんな時だって、

 君は誰かの役に立ってるはずだ。

 病弱なのも気にしなくても大丈夫だろう。

 それに君の両親は迷惑だなんて思って無いさ」

「…でもさ、私さっき気付いた…

 梨里奈さんも辛い時があるんだって」

「な、何を…わ、私に辛い時なんて無い」

 

弱みを見せたら駄目だ、

私は完璧にならないと駄目なんだ。

誰からの期待にも答えられるようにならないと…

弱い所を見せて、ショックを与えたくない。

私は何でも出来る

完璧な天才児…だから、弱い所なんて。

 

「梨里奈さん…いや、梨里奈ちゃん!

 私と友達になって!」

「え…な、何をいきなり…」

 

彼女は私に手を差し出す…彼女の表情は笑顔だった。

彼女は…私に失望してない…弱い所を見せたはずなのに…

 

「梨里奈ちゃんだって辛い思いをしてる。

 きっと皆の期待が重荷なんだよね?

 でも大丈夫、私はあなたのありのままを受け止めるよ。

 梨里奈ちゃんだって1人の人間だもんね、

 辛い時や悲しいときだって絶対にある。

 だけど、それを見せられる相手が居ない…

 そんなの辛すぎるよ…」

「つ、辛い事なんて無い! わ、私は…完璧なんだ」

「完璧な人なんて…何処にも居ないよ、居るはずがない。

 どんな人だって辛い時だってある、出来ない事もある。

 だけど、皆きっと、完璧を望んでる…

 だから、誰かにそれを求める。

 皆、あなたに完璧を求めてる…

 あなただって完璧じゃないのにね

 でも、あなたは不運にも完璧を演じる事が出来た…

 不運な事に完璧を演じる事が出来るほどの天才だった…」

「そんな事は…私はテストだって満点だし、

 運動も学年1位だ。

 ちょっと前に全国大会で優勝だってした…

 一切点を与えずに。

 わ、私は完璧なんだ…私は何だって…」

「無理、しないで? 辛い思いだって沢山したんだよね?

 辛くても弱音を吐くことが出来ずに…1人の時だけ悩んで

 誰にも悩みを打ち明けられないのは辛いよ」

「辛くなんて無い! 当たり前なんだよ!」

「私だけは…あなたのありのままを受け止めるから!

 だから、私と友達になって! 梨里奈ちゃん!」

 

彼女の言葉に嘘偽りは感じなかった…

本気でそう思ってくれてる。

分かってくれてるのか…私だって辛い時があるって。

皆、私は何でも出来て当然の様に見ていた…なのに彼女は…

 

「……本当の私なんて見ても…幻滅するだけだぞ…」

「幻滅なんてしないよ、

 友達なら良いところも悪いところも全部受け止める。

 あなたに理想を押付けたりなんかしない」

「ほ、本当の私なんて…居ないんだぞ?

 私は本当の私を知らないんだ…」

「だったら、一緒に見付けよう。

 本当のあなたがどんな子なのか。

 大丈夫だよ、絶対に見付かる。

 1人じゃ無理でも、2人なら!」

「……後悔、するぞ? 私みたいな奴を友人にしたら」

「後悔なんてする訳無い」

「……本当に…良いのか? 弱音を吐いても…」

「何でも言って、聞いてあげるよ」

「……ありがとう…本当に…ありがとう…」

 

私はずっと差し出されていた、彼女の手を握る。

普段、人には見せないけど…私の目には涙が溜まっていた。

何でだろうな…ただ友達が出来ただけなのに…

 

「これからよろしくね、梨里奈ちゃん」

「あぁ…よろしく」

 

千花七美…ありのままの私を受け止めてくれる、

唯一の親友…

この子と一緒なら…もしかしたら、

本当の私が何なのか…分かるかも知れない。

 

彼女の隣なら、自然と笑顔が出る…

誰かと一緒に居るのが楽しい…

1人よりも、彼女の隣に居る間は何故だか落ち着く…

だけど、私は親友なんて作らない方が…

良かったのかも知れない。

 

私は憧れの的だった…学年のアイドルと言われるくらい。

そんな私と仲良くしている七美が妬まれるのは…

当然だった。

 

「もう梨里奈さんに付きまとわないでよ!」

「何でさ!」

 

学校も終り、

いつも通り七美のクラスに足を運んだときだった。

七美が何人かの女子生徒に囲まれていた。

 

「あの人と私達じゃ、住む世界が違うのよ!

 ましてやあなたみたいな根暗!」

「住む世界が違う? 何言ってるの!

 同じ街で同じ学校に通ってる!

 梨里奈ちゃんだって、私達と同じで辛い時だってある!

 失敗するときだってある!

 どうして誰も分かろうとしないの!?」

「な、七美! 喧嘩は!」

「梨里奈さんが失敗なんてするわけ無いでしょ!」

 

七美と取っ組み合い女子が七美の頬を強く叩く。

その勢いで七美は大きく仰け反る。

 

「な、七美!」

 

私は倒れそうになる七美に手を伸ばす。

だが、私の手は彼女には届かなかった。

足が遅かった…もっと速く走れたなら…

私は倒れる彼女の手を掴めたはずだった。

 

だが、私の手は届かない…

七美はそのまま机に頭を強打した。

勢いよく倒れてしまい、彼女の頭部から血が流れる。

この光景を見た他の女子生徒達は

逃げるようにその場から離れた。

 

「な、七美! 七美、七美! 大丈夫か!? 七美!」

「梨里奈…ちゃん…えへへ、ご、ごめんね…」

「謝らないで! 私がもっと速く動けてたら

 私が悪いの! な、七美、待ってて!

 急いで先生を呼んでくるから!」

 

七美は重体だった。先生に話をして救急車で運ばれた。

後頭部を強打した事で彼女が死んでしまった、

というわけでは無かった。

ただ強打した事で、別の病が併発してしまった。

七美は体が弱い…この怪我が原因で一気に体に限界が来た。

 

「……」

 

そして…私は七美の最後を看取ることになった…

七美は死んだ。そう、私が殺したんだ。

私なんかと仲良くなったせいで、七美は命を落とした…

私がハッキリと全員に素直にぶつかるようになってたら!

七美に言われたとおり、

七美以外に素直な気持ちを言えたなら!

そうすれば、こんな事にはならなかった筈なんだ!

 

そんな後悔をしても、七美はもう戻ってこなかった。

だが、偶然か…私は奇跡を掴むチャンスを得た。

何でも願いを叶えてくれるという、喋る獣。

私は七美を蘇らせて欲しいと思った…

だが、その願いは押し殺した。

私が願ったのは私の限界を越え続けること…

道化になり続けること。

 

「仙波梨里奈、それが本当に君の願いなのかい?」

「自分の限界を越え続けること…それが本当に私の願いだ」

「そうなのか、僕はてっきり

 親友を蘇らせて欲しいと願うと思ったんだけどね」

「良いから! 願いを叶えるというなら叶えろ!」

「あぁ、君の願いは叶えられる。

 本気で願っているんだね」

「そうだ、本気だ…」

「だけど、仙波梨里奈、自覚はあるのかい?

 それはもはや奇跡じゃ無い。

 奇跡では無く、それはもはや呪いだ。

 君は自分自身に呪いを掛けるつもりなのかい?」

「呪い? 何を言ってる。私は自分を越え続けたいんだ」

「その願いは、

 君のための願いでは無いと思うんだけど?」

「良いから叶えろ、叶えられるならな!」

「…やれやれ、分かったよ。

 でもね、君はその願いに…

 いや、呪いに…魂を賭ける事が出来るのかい?」

「魂だろうと何だろうと賭けてやる…

 もはや空っぽなんだからな」

 

私はこうして魔法少女になった。

限界を超え続け、完璧な道化になるために。

 

「驚いた…君にこれ程の素質があるとはね

 余計に勿体ないよ」

 

七美を蘇生させれば…七美は私と同じ思いをする事になる。

七美が死んで、もう何ヶ月も経つ…そんな状態で蘇っても

彼女の居場所は無くなってしまう…私以外、消えてしまう。

 

七美はそんな事…きっと望まないだろう。

私と同じ思いはして欲しくない…

家にも何処にも居場所が無い…

私の隣だけが居場所…そんなの、辛すぎる。

 

仮に七美が死んだことを無かったことにしてくれと

私が願ったとしても

果たして…その七美は本物の七美なのか?

いや、きっと違う。

七美は死んだ…私が殺した…だから私は私を呪うしか無い。

私は自分に罰を与えた…もはや居場所など必要無い。

私はどんな時でも道化になる…ピエロになる。

 

それが私が私へ降した罰…そうだろ?

そうだ、私は私に罰を降した。

なのに…どうして…

私は今、居場所なんて作ろうとしたんだろう。

みかづき荘の皆と過ごす時間が…楽しすぎたのか…

駄目だ、私は私に罰を降した、

道化であり続けないと駄目だ。

大事な人の期待に答えられない、私みたいな奴は…

 

「……いや、何を馬鹿な事を考えてるんだ、私は」

 

また、私は親友の思いを…裏切るつもりか?

あいつは私に言った…幸せになれと、そう言った。

あいつを忘れる事は無理だが、幸せになる事は出来る。

 

「梨里奈ちゃん、私と一緒に…私の居場所に…」

 

そして、あいつと一緒に居るとき、

私はピエロなんかじゃ無い…仙波梨里奈だ。

あいつの期待に、願いに応えることは出来ない。

私は彼女の親友だからだ。

彼女が辛そうなら救わないと駄目だ!

私は絶対に…七美を助ける!

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