魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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万々歳へ

宣言通り、私は万々歳に足を運んだ。

万々歳は今は臨時休業らしい。

やはり鶴乃は家にも帰ってないのか…

張り紙にも娘を見掛けたらご連絡くださいと書いてある。

 

「失礼します」

 

表は簡単に開いた…そして、万々歳の店内は…

今まで私が見てきた中で最も暗かった。

電気も付いていないが、そんな事はどうでも良いくらいに

真っ暗だ……

 

(お! 来たね梨里奈ちゃん! さぁ、今日も頑張ろう!)

(頑張ろうといっても、あまり客来ねーけどな)

(ちょ! フェリシア! これから繁盛させるんだから!

 この最強である私が本気を出せばお客さんも沢山来るって!)

(あはは、じゃあ鶴乃、今日は呼び込みなんてどうかな?)

(任せてよお父さん! お客さん、ガンガン呼び込んじゃうよ!)

 

確かに客はあまり来なかった…だけど、とても明るかった。

客として入ったときも、本当に明るい。

鶴乃という存在がこの店を照らしていたんだろう。

常に店を照らそうと、必死に輝いてた。

 

私達はそんな鶴乃の輝きに甘んじてたんだろう。

一緒に輝こうとしなかったのかも知れない。

鶴乃が太陽なら、私達は月だったのだろう。

月は太陽がなければ輝けないのだから。

 

「親父さん…私です」

 

真っ暗な店の隅っこに、うなだれている親父さんが居た。

少しだけ声を掛けるか戸惑うが、私は声を掛けることを選択した。

ここで声を掛けず、店から出られるはずがない。

 

「……あぁ、梨里奈ちゃんか…もしかして君も…」

「そうですね…私もきっと鶴乃達と同じ事を伝えに来てます。

 ……しばらくの間、バイトを休ませて貰おうと」

「……そうか、店の方もしばらくの間は休みだ」

「えぇ、ですが…次に私が来たときには必ず賑やかにして見せます。

 まずはいつも通りに、そしていつも以上に…鶴乃とフェリシアと一緒に」

「ふ、2人を見たのか!? 何処で!」

「まだ見付けていません、その手がかりを探す目的もあってここに」

「そうか…」

「鶴乃が万々歳に来たときに違和感とかありましたか?」

 

鶴乃は確実に万々歳に1度戻ってきている。

洗脳できているというなら、鶴乃を家に1度帰すだけなら問題無いだろう。

とは言え、常時家に帰していれば、私達が確実に説得に来る。

それが嫌なんだろう。だが、逆を言えばだ

鶴乃がこうして万々歳に帰ってきていないと言う事は

 

洗脳を解除される可能性があるという事だろう。

完全な洗脳であれば、わざわざ街全体に波風が立ちかねない

鶴乃という少女の失踪だなんて望まないはずだからな。

 

「違和感…あぁ、そうだな…確か鶴乃が失踪する前に

 今までに1番安心出来る居場所を見付けたから帰らないって…

 捕まえようと思ったが、速すぎて捕まえられなかった…

 ただな…その時の鶴乃はいつもの元気な笑顔じゃなかったんだ…

 緊張が解けたみたいで、眠たげで表情がなかったんだ…」

「……そうですか」

 

緊張が解けたような表情…か…私も七美の前ではそんな表情だったのかな。

安心出来る居場所。周りに大事な奴が居ないから、緊張が解けたのかも。

なら、私とは違うのかも知れないな…私は期待されるから答えようとした。

 

鶴乃のあの笑顔は、もしかしたら大事な人を支えたいから…

私とは違う。大事だと思える人が居て、それで甘えられなかった。

鶴乃は優しいからな、フェリシアの面倒もいつも見ていたし

いろは、やちよさん、さな、そして私の事も…本当に優しすぎる。

優しすぎるから、甘えられなかった…

 

「…分かりました、必ず鶴乃とフェリシアを連れ戻して見せます。

 必ず鶴乃を見付けます」

「……俺も探すよ、鶴乃を見掛けたら梨里奈ちゃんにも連絡するよ」

「はい、私も鶴乃を見付けたら必ず伝えます」

 

鶴乃…優しすぎるよ、お前は…やっぱり親父さんにも見せなかったんだな。

私なんかと違って、お前は本当に優しい奴だ…だから、お前の周りには

とても良い人が集まる。素直になれれば、本当の居場所は身近にある筈だ。

最も安心出来る居場所…それは簡単に自力で作り出せる。

素直になれば良い…まだチャンスはある。必ず連れ戻してみせる。

 

「……ふぅ、よし、方々を探すとするか」

 

まずは情報収集だな。今回は誘導作戦だが、情報は欲しいからな。

調査をゆっくり進めていって、その過程で情報を得た風に装う。

 

「ふーん、方々探してたら遅くなったな」

 

最近はかなり夜分遅くに帰っている気がするな。

全く、ちょっと前までは毎晩9時に寝るのが当然だったのに

最近は完全にリズムが崩れてる。今から戻っても9時睡眠は無理だな。

 

「ふぁぅ……あぁ、そう言えば昨日は殆ど眠れてなかったな…」

 

色々な事がありすぎた…死んだと思ってた七美が生きていて

七美がマギウスの翼に入っていて、雰囲気も変ってしまって…

それに死にかけた…本気で死ぬと思ったのはあれが初めてだったよ。

まさか実際に自分が腹を貫かれるとは…

 

限界突破の汎用性が高くて助かった。

しかし、考えてみれば神浜に来てから死にかけることが多くなったな。

大体がマギウスの連中の影響なんだが…

 

「獲った!」

 

不意打ちを仕掛けるなら、少しくらいは気配を消せば良いのにな。

 

「獲ってない」

「な!」

 

背後から奇襲を仕掛けてくる魔法少女を変身するまでも無く制圧する。

魔法少女と言えど所詮素人。変身しようと接近戦であれば容易に反撃出来る。

 

「残念だったな黒羽根、私はこう見えて強いんだ」

「く、な、なんて力…変身してないのに!」

「力は技術で埋めれるんだ」

「うぐぐぅ!」

「さぁ聞かせて貰おうか、鶴乃達の居場所は何処だ?

 力を込めれば込めるほど、激痛は増していくぞ?

 流石に腹を貫かれるほどは痛くないだろうが」

「ど、どれだけ喚いても、お前達の仲間は…!」

「喚くのは私じゃない、お前だ」

「いだだだだ! や、やめ! 止めろ! し、知らない! 知らないから!」

「……」

「痛い痛い! た、助けて! お、折れる! 折れちゃう!

 知らない! 本当に知らないの! 知らないから助けて!」

 

これ以上は止めておこうか…本当に折ってしまっては申し訳無い。

 

「ふん、仕掛けるならもう少し数を揃えるか、連携を取れ。

 仲間が捕まればすぐに助けに来い、怯えてる暇は無いだろう?」

「く…これが仙波梨里奈…変身してもないのに…」

「さぁ、行動が遅いから変身してしまったぞ? 逃げるか?」

「いや、数はこっちの方が多いんだ! 1人に対して私達は5人!」

「もうすでに1人戦闘不能だ、もうお前達は4人だよ」

「関係ない、人数差は火を見るよりも明らかだ! 仕掛けろ!」

「言っただろう? 私に仕掛けるなら

 数を揃えるか、連携を取れと」

 

 

 

 

結局、鶴乃の居場所も七美の居場所も分からなかったな。

 

「全員に聞いても分からないとは、厳重な警備だな」

「つ、強すぎる…こ、この人数でも…傷1つ…」

「連携を取れ、良くそんな雑な連携で神浜の魔女を相手にして来られたな。

 とにかく帰れ、仲間の情報を知らないなら用は無い」

「くそ…て、撤退…だ…」

「何故…マギウスの翼に…入らないんだ…救われたくないのか…?」

「大事な仲間にあんな仕打ちをする組織なんぞに救われたくは無い」

 

七美、お前がどうしてマギウスの翼に入っているのか分からない。

何もしていない人の心を弄ぶマギウスの翼に入っているのか。

私はあの口寄せ神社で見た、幸せな偽りの夢を見ている人達を。

神浜に来たときに見た。作られた居場所で傷を舐め合う少女達を。

崩れた絆を直そうとする健気な思いを食い物にする化け物を。

 

「私はマギウスが気に入らない。お前達を否定はしないが肯定もしない。

 さぁ消えろ。痛い思いはあまりしたくないだろう?」

「クソ…どうして…」

 

そう言い残し、翼達は私の前から姿を消した。

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