七美が攻撃手段を持っているのかは分からない。
だが、1対1ならば恐らく私の方に分があるだろう。
七美を侮っているわけではないが、彼女は病弱。
私の高速戦闘に付いてこれるとは思えない。
相手の出方を見るのも重要ではあるが
七美の魔法が分からない以上は素早く仕掛けるしかない。
彼女は私がここに来ると想定はしていなかっただろうし
仮にトラップ系の魔法だったとしても用意する余裕は無いはずだ!
「行くぞ!」
素早く間合いを詰める。
相手の出方が分からないなら無謀な行動ではあるが
長期戦になって他の羽根が来ても厄介だからな。
七美奪還の妨害をされる訳にはいかない!
「はぁ!」
「ッ!」
一気に七美と間合いを詰めようとすると
目の前に大きな岩が飛んで来た。
これが七美の魔法!? 岩飛ばすのか!?
だが…七美の願いは居場所が欲しいという願い。
この魔法とその願いは何だか乖離してるように感じる。
「どんな魔法か分からないが、この速度では無意味だ!」
私はすぐにその岩を回避し、七美の姿を視認した。
「知ってるよ、梨里奈ちゃんは強いんだから」
「ん? うわ!」
引寄せられた!? 唐突に、彼女が手を叩くと同時に!
「痛いけど我慢してね!」
「な!」
かなり尖った石が私の方に近寄ってきてる!
いや、私も近寄ってる!? どんな魔法だ!
「この!」
私は急いでその岩を弾き飛ばした。
だが、今度は背後に引っ張られる!
「な! うぐ!」
弾いた岩が…背中から…ど、どうなって…
「くぅ…」
「膝を付いたね、出来ればこんな事はしたくないけど」
初めてだった…初めて魔法少女との1対1の戦いで
ここまでの大ダメージを受けたのは…今までこんな事は…
巴マミとの戦いの時はあいつの無茶にやられたが
今度は正攻法で私は膝を付く…その相手が七美だなんて。
「や、やっぱりお前は…私の色々な初めてになるな…」
「梨里奈ちゃん、マギウスの翼に来て」
「……断る」
フラフラと立ち上がり、背中に突き刺さった石を引き抜こうとする。
でも、引き抜けない…何だ、何かに引っ張られてるように…
「無理だよ、その石は引き抜けない。私が能力を解除しない限りね」
「……そうか」
この感覚で七美の魔法がどんな魔法なのか少しだけ分かった。
引寄せられるような感覚。石を引き抜こうとしたときに
なにやら服が引っ張られるような感覚になった。
「…だが、痛いのはごめんだからな」
私は自身の軍服を1箇所引き裂いた。
そのまま妙に引っ張られている布を強めに引く。
小石は私の体を貫通して、体から飛び出した。
「何を!」
「い、石が入ったままだと傷が癒やせない…だろ」
すぐに治癒能力の限界突破から自身の傷を癒やす。
運の良いことに石が突き刺さった場所は致命傷になる場所じゃ無い。
完全に癒えるまで少し時間が掛るが、短期間で完治だろう。
だが、口から少し血が出てしまった…普通は無茶だからな。
「七美、お前の魔法の正体…分かったぞ」
布切れと石の隙間を短刀で切った。
何かが刃に当り、切れた様な感覚の後、石は地面に落下する。
「い、1回喰らっただけで…私の魔法の正体が…」
「あぁ、お前の魔法は糸で繋げる魔法。違うか?」
「……流石だね」
「そうと分かれば対策はある。その糸は切れるようだしな」
いつ相手に糸を付けるのか分からないな。予備動作はないみたいだ。
かなり強力な魔法だ。自分が何と繋げられたかが分からない。
何処からの攻撃かも分からない…不意に引っ張られると焦るしな。
更に糸が殆ど見えない。夜だからなのかは分からないが
それでも意識していない間に糸を引っ付けられると厄介だ。
「本当に対策があるのかな? 私は魔法少女の中でも結構強いよ」
「間違いないな、だがお前を連れ戻すためだ。強かろうとも必ず!」
糸の特性が分からないからな。ここは1つ試す!
「糸は1箇所しか繋げられないんだろう? なら、こうだ!」
自身の周囲に大量の短刀を呼び出し、七見に向けて放った。
「……舐めないでね!」
やっぱり1箇所だけじゃないのか。
短刀のいくつかが私の方に引寄せられた。
「脅威だな、やっぱり」
私はすぐに短刀を解除した。
「侮らないでね、梨里奈ちゃん」
「侮ってはない。試しただけだ」
七美…私がこっちに来て1番強いと感じる。
「全く、これ程強いのに何故最初神浜に来たときに苦戦したんだ?
これだけの力があれば、神浜の魔女だろうと倒せるだろう」
「単純だよ、私の魔法は火力が足りないんだ。
相手が人であれば十分な効果を発揮するけどね」
「久実達が居るなら、お前が魔女を足止めして叩けただろうに」
「久実の魔法は再構成。攻撃出来る魔法じゃない。
弥栄の魔法だって治癒魔法。梨里奈ちゃんみたいに
魔力の扱いに長けてるわけじゃないから攻撃力が足りないんだ」
「そうか」
火力不足か。確かに神浜の魔女相手にそれは致命的だな。
だが、この会話で分かる事もある。七美の魔法は
そんなに多くの対象を繋げる事が出来るわけじゃない。
複数の対象を繋げられるのであれば、魔女から逃げ切れるからな。
死を覚悟するような場面にはならない。
だが、複数繋げられない。だから使い魔に追い込まれたんだろう。
「仙波君、こちらは終わったぞ…自分も加勢しよう」
「十七夜さん」
「流石に2人相手は不味いかな…梨里奈ちゃん1人でも手一杯なのに…」
「逃がさないぞ、七美!」
絶対に助け出すと決めた! あんなやり方は間違ってる!
絶対に七美をここで連れ戻して、鶴乃達も取り戻す!
「逃げるよ、流石にね」
「待て!」
七美が素早く後方に下がった! 何だあの速度!
そうか、魔法の! 逃がすわけには行かない!
限界突破の魔法をフルに使えば十分追いつける!
「待て! 七美!」
「お、追いついてくるの!?」
「絶対に連れ戻す!」
「く、こ、来ないで!」
「うぁ!」
ひ、引寄せられる…でも、関係ない!
無理矢理にでも追いつく!
「に、逃がすかぁ!」
「糸が…そんな無茶苦茶!」
「七美様を守れ!」
「黒羽根! く!」
しまった! 黒羽根の攻撃で!
「うぅ、こ、この…」
「飛んだね!」
「しま、うわ!」
黒羽根の攻撃を避ける為に飛んだせいで
新たに七美が付けた糸に引寄せられてしまった!
クソ、急いで追わないと行けないのに!
「糸を…って! 不味い!」
背後を振り向くと、そこには十七夜さんの姿があった。
「と、唐突に引寄せられてしまった…
何があったんだ…」
「か、十七夜さん、ひ、ひとまず動かないで」
「う、うむ」
すぐに自分と十七夜さんに付いた糸を斬った。
下手な事をすると
十七夜さんに怪我をさせてしまうから
あまり早く切断できなかった…
そのせいで七美の姿が見えなくなった。
「クソ…あと少しだったのに…
七美にあんな魔法が…」
「かなり強力な魔法の様だな、驚いた。
所で傷は大丈夫か?
かなり深そうだったが」
「大丈夫です」
もう私の傷は完全に塞がっていた。
塞がってないとあんなに動けない。
しかし…七美をまた取り逃がすなんて…
あと少しだったのに…
「……仙波君、
君はあの少女をどうしても取り戻したいのだな?」
「はい、私の親友です…」
「だが、彼女は相当な実力者だ。
他の羽根とは実力が違いすぎる。
あの魔法、私も全く抵抗できなかった…
半端な力ではあの引寄せには抵抗できまい」
「数で攻めれば勝算はあります。
でも私は例え1人でも助け出す。
誰も協力してくれなかったとしても、
私は必ず…
ですが、今はそれよりも…
洗脳された鶴乃達ですけどね…」
「あぁ、君の心の内は読ませて貰った。
悪意はないようだな」
「心の内? 心を…読めるんですか?」
「あぁ、君と彼女が戦っている最中に
心を覗かせて貰ったんだ。
お互いにお互いの事を考えていたな。
七美という少女も
君をどうしても連れて行きたいと考えていた」
「……そうですか」
やっはり分からない…
七美、どうしてお前がマギウスの翼に入ったのか。
一般の人を犠牲にしてまで…助かりたいのか?
他の方法を考えようと思わないのか?
…分からないよ、七美。
だから必ず、お前とまた話をして…
お前を改心させてやる。
絶対に助けてやるぞ、
七美…お前を偽りの居場所から引きずり出して
本当の居場所がある所へ連れて行ってやる…
絶対にだ、絶対に…