ここが罠だとすれば、マギウスが待ち伏せしているだろう。
周囲に最大限の警戒をしながらゆっくりと進む。
何カ所か魔法少女の反応を感じた…でも、数が少ない。
「…罠だとすれば、もう少し反応があっても…」
「やっぱり罠だと気付いてたんだね」
「久実! よくも邪魔したな! 今度こそ!」
私の小声に反応して、頭上から声が聞えた。
…あの声は間違いない…七美!
それに弥栄まで…全力だな。
「七美! 弥栄! お前が出てくると言うことは…」
「えぇ、あなた達の予想通り、ここは私達の罠よ」
巴マミ…彼女まで姿を見せるとはこれは豪勢な布陣だな。
「今度こそ、あなた達を拘束して見せます」
「あなた方を全員制圧できれば、汚名返上だから」
「天音姉妹まで来るとはな」
縦笛を持った魔法少女、彼女達も幹部なのだろうか。
「やっちゃん、ここで確実に捕えさせて貰います」
「みふゆまで…マギウスの翼幹部勢揃いって所かしら」
「全力で来る割に、羽根達はすぐには出さないんだな」
「えぇ、邪魔ですからね…特に七美さんが居る場面では」
「そう言う事、死なないようにしてね!」
周囲の建造物が一気に私達の方へ向けて飛んで来た。
「不味い、下がれ!」
全員、すぐに後方へ退き直撃を避けた。
だが、同時に私は何かに引っ張られる。
「まさか!」
「梨里奈さん!」
「クソ!」
すぐに自分を引っ張る糸を切断する。
流石に空中で切断するとなれば吹き飛ばされるな。
とにかく空中で姿勢を正さないと
「狙いはあなたよ!」
「く!」
態勢を立て直そうとした所にマミの弾丸が飛んできた。
私は空中で何とか態勢を立て直し、マミの弾丸を自身のナイフで撃ち落とす。
同時に自身の近くのパイプにナイフを突き立て、足場にし
更にナイフを突き立て、落下しないようにバランスを取った。
「全く…容赦ないな、死んだらどうする」
「本当、恐ろしいくらいに強いわね、あなたは。
あの不意打から私の攻撃を全て撃ち落としたあげく
落下しないよう、即座に足場まで作っちゃって」
「私の魔法は限界突破なんだ、お前達みたいに
糸なりリボンなりで立体的には動けなくてな。
足場を作るしか無いんだ」
「あの2人は梨里奈の相手で手一杯なら
今のうちにみふゆと天音姉妹を!」
「残念だけど、あなた達の相手は私達だけじゃ無いんですよ」
みふゆが指を鳴らすと、周囲から黒羽根達の姿が
私はあの2人で制して、やちよさん達は黒羽根が叩くか。
「ついでだよ、出て来て」
「く、この気配は…魔女!? 数もかなり多い!」
「彼女達は私が操ってる。数は10以上は居るよ」
「千花さんがマギウスの翼に入ってくれたお陰で
私達はより容易に魔女を操れるようになったからね。
全力であれば、この程度の数じゃないわよ?」
「不味いぞ、七海、この戦力は想定外だ」
「えぇ…何とか撤退しないと」
「撤退はさせません、特に梨里奈さんは」
「私も随分と嫌われたな」
羽根達も多いし、魔女も居る。幹部も予想以上に勢揃いだ。
特に七美と巴マミ。あの2人は不味いぞ。
「ふふ、絶対に逃がさないわ。あなたは必ず手に入れる」
「梨里奈ちゃん、絶対に取り戻すから」
「……」
「1番の問題は、恐らく梨里奈さんでしょうね。
あの2人の実力は規格外です。
梨里奈さんが強くても、あの2人同時は手に余るでしょう」
「つまり、私達はあなた達を倒して、
何とかして梨里奈の援護に行けば良いのよね」
「そう言う事になります。けど、この数に勝てるとお思いですか?
更には魔女だって居る。やっちゃん、諦めてください。
大人しく諦めて、私達と共にマギウスの翼へ」
「十七夜さん、お願いします。マギウスの翼に来て下さい」
「断る、何度も言っと思うが?」
「梨里奈ちゃん、マギウスの翼に大人しく来て。
出来れば、怪我はさせたくない。
昨日みたいな思いは嫌でしょ?」
「その誘いに私が乗らないと言う事は分かりきってるだろう?
昨日もそうだ、私はマギウスの翼には降らない」
「本当、強情だね!」
周囲から私に向けて、いくつもパイプなどが飛んで来た。
私はすぐにその場から離れ、上空へ飛び上がる。
「それ!」
「うぐ!」
上空に飛び上がると同時に、私は再び地面に叩き落とされそうになる。
すぐに糸の位置を割り出し、その糸を切断する。
「く!」
だが、結構な勢いで地面にまで落下した。
と言っても、それでもすぐに態勢を立て直せる程度。
だが、視線を上げると、何挺もの銃がこちらを狙っていた。
「これでどう!?」
咄嗟に自身の手元に短刀を召喚し
私に当るであろう、弾丸のみを後方に下がりながら防ぎ
障害物に身を隠して弾丸をやり過ごす。
「無駄よ! ティロ・フィナーレ!」
「くぅ!」
危ない、あのままあそこに居たら障害物もろとも吹き飛ばされてた。
全く手加減という物を知らないのか! 死ぬだろ!
「捕えた!」
「な、うぐぅぅ!」
不味い、吹き飛んだ障害物に気を取られすぎた!
いつの間に私の四肢に糸を繋げたんだ…クソ、身動きが…
「梨里奈ちゃん、1対1なら梨里奈ちゃんに分があったかも知れない。
でも、今はマミも居る…勝ち目はないよ」
「そう言う事よ、さぁ、弾丸を受けたくなければ降伏しなさい」
「……四肢を捕えた程度で、私を倒したつもりか?」
自身の限界突破を行使し、四肢を拘束していた糸を引きちぎる。
「嘘…」
マミはそんな動作を異常に思えたのだろう、驚きの声が漏れた。
「……やっぱり、強いよね…梨里奈ちゃん。
普通ならあれで身動きは全く取れなくなる。
私の糸を力だけで引きちぎれるのは…あなただけだよ」
「私に限界はない。私を捕えたくば意識を奪え。
四肢を拘束したところで、私には何の効果もない。
牢獄だろうと、その牢をへし折り、脱出してやろう」
「あれが仙波 梨里奈…マギウスが最大に警戒するだけはありますね。
まさか、七美さんの拘束を引き千切るとは」
「はは、やっぱりあの人が敵じゃなくて良かったよ」
「えぇ、全く勝てる気がしないわ」
私の限界突破はまさしく天井知らずの能力だ。
半端な肉体では体が持たないところを差し引けばまさしく最強だろう。
「…七美、流石にこれ以上、お前達に翻弄されるわけには行かない。
私も本気で行くぞ…今度は油断しない」
「それは、私の糸を避けてから言ってよ!」
「なら、そうしよう」
私は七美が飛ばしてきた糸を全て回避した。
「……嘘、ど、どうして…弾丸よりも早い私の糸を…全部避けて…
み、見えるわけ無いのに! 私の糸はほぼ透明…見えるわけ!」
「言っただろう? 本気で行くと。これが本気だ」
第六感の限界突破。魔力の消耗が激しいが
七美を倒すにはこの手しかないだろう。
あの目に見えない糸を避ける方法はこれしか無い。
「どんな手か知らないけど、無駄よ!」
私はマミが放った無限の弾丸を全て避ける。
何処に弾丸が来るか、全て分かる。
どの部位を狙っているのか、その全てが。
「冗談でしょ…」
「冗談だと思うなら試せ!」
すぐに地面を蹴り、2人との間合いを詰める。
「この!」
七美が飛ばしてきた糸を移動しながら全て避け
「近寄らせないわ!」
「無駄だ!」
マミの弾丸は全て私の手に持っている短刀で撃ち落とす。
「そんな!」
「避けれるなら避けてみろ!」
マミの弾丸を撃ち落とすと同時に鉄の蛇を呼び出し攻める。
「この!」
「くぅ!」
マミと七美は私が放った蛇へ迎撃をするが
無数の刃物が蛇の形をなしたのが私のこの技。
どんな攻撃を受けても、1本1本しか潰せない。
「こうなったら! ティロ・フィナーレ!」
マミが大技で私の蛇を全て弾き飛ばすが
「よし!」
「く、梨里奈ちゃんが!」
「そんな、見失って!」
「勘で探せば分かるだろ?」
「うぐ!」
私は周囲の建物を利用し、彼女達の死角からの攻撃を仕掛けた。
マミは私の攻撃を避けれず、一撃を貰う。
「この、あぅ!」
同時に七美の足下にマミへの攻撃と同時に仕掛けていた短刀が刺さる。
出来れば傷付けたくはないが、こうなると仕方ないだろう。
「はぁ!」
「うぁ!」
周囲の建物を利用し、高速で2人に攻撃を与えた。
こんな地形は確かに七美の糸の独壇場かも知れないが
残念な事にこう言う場面は私に取っても有利なんだ。
立体的な動きが出来ないと言ったが、足場があれば可能だからな。
それが私の強み。私の高速戦闘の強いところだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…こ、こんな…」
「く…ここまでなんて…」
「これ以上は動けないだろう? 大人しく降伏しろ」
「く…まだ!」
「諦めろ」
マミが手元に召喚した銃を、すぐに蹴り上げた。
「そ、そんな…」
「梨里奈ちゃん、やっぱり強いね…でも、これなら!」
七美が糸を使い、私達の方へ巨大なタンクを引寄せた。
「無茶を!」
私は急いで2人を抱き上げ、その場から移動をする。
「さぁ、捕えた…」
「く…」
私が2人を抱きかかえたときに、七美に糸を繋げられた。
そのまま後方の方へ引っ張られて、やちよさん達の元に。
「り、りな…大丈夫?」
「えぇ、私は…でも、どうもこっちは不味そうですね」
「えぇ…ちょ、ちょっとね…」
十七夜さんとやちよさんが動けない状態みたいだ。
周囲ではいろは、ももこ、久実が戦ってるが、押されてる。
「クソ…数が多すぎる!」
「加勢するぞ!」
「させません!」
みふゆの姿が分身して…く、それに視界が変な風に。
「不味い、幻覚の!」
「そこです!」
「でも、今の私には効果が無い!」
視界は捨て、私は自分自身の勘を信じて攻撃をする。
「な!」
どうやら、私の堪は的中したようだ。
確かな手応えと同時に視界が晴れた。
「…ど、どうやって…」
「今の私は第六感が鋭いんだ、幻覚なんて意味が無い。
幻覚も幻聴も幻惑も、今の私には効果が無い。
不可視な攻撃さえ、今の私は避ける事が出来る」
「こ、これ程だなんて…」
「さぁ、刺せ!」
自身の周囲に大量の短刀を召喚し、周囲に向けて放った。
「うわ!」
私の攻撃は仲間達には一切当ること無く、周囲の羽根を攻撃した。
「よし、怯んだぞ! 一気に!」
「あ、笛が!」
「音が…よし、動ける!」
「形勢逆転ね! みふゆ!」
「うぅ!」
動けるようになると同時にやちよさんがみふゆに攻撃をした。
彼女は攻撃を受けて怯み、後方に退く。
「よし」
「クソ、梨里奈!」
「ん、弥栄」
弥栄が唐突に私に攻撃を仕掛けてきたが
ドッペルは出してないな、なる程、武器は私と同じか。
「止めて! 弥栄お姉ちゃん!」
「久実! 邪魔するな裏切り者!」
「間違ってるってどうして分からないの!
こんな事しても、七美お姉ちゃんは助からないよ!」
「梨里奈はお姉ちゃんを悲しませたんだ! 生かしておけない!」
「梨里奈さんが死んだら、お姉ちゃんは絶対に悲しむ!
どうして分からないの!? 弥栄お姉ちゃん!」
「うるさいうるさいうるさい! 邪魔するなぁ!」
「うぁ!」
「絶対に梨里奈は私が!」
弥栄が私に向けてナイフを向けてきた。
私は弥栄の手を止める。
「く、この、離せ! 離せよ!」
「…弥栄、どうして大事な妹にそんな事を言うんだ?」
「お、お前を殺せば久実だって戻ってくるんだ!
全部お前が悪いんだ! お前さえ居なければ!
お前さえ居なければ! お前のせいで全部台無しだ!」
「……七美を蘇生させなかったのは…本当に悪いと思ってる。
お前達を魔法少女なんかにしてしまったのは私の責任だ…
魔法少女の解放という言葉に確かに甘美な物があるのも認めよう。
でも…やり方が間違ってる。平和を手に入れるために
世界の全てを滅ぼす。そんな手段と遜色ないほどに誤ってる」
「そんなことどうでも良いんだ! 私が魔女になろうとどうでも良い!
でも、お姉ちゃんが辛い表情をしてるのを見るのは嫌なんだよ!
だから、お前を殺せば、お前を殺せばお姉ちゃんだってきっと!」
「弥栄お姉ちゃん、そんな訳無いよ! 大事な人が死んで
七美お姉ちゃんが喜ぶ訳無いよ! どうしてそんなに強情なの!」
「うるさい! うるさい! こいつがお姉ちゃんの前に現われなければ!
こいつがお姉ちゃんを蘇らせていれば! お姉ちゃんは笑えたんだ!
笑って、いつも通りに元気に笑って! 今みたいにならなかった!」
「七美お姉ちゃんは、梨里奈さんが居なかったら笑ってない!
梨里奈さんが七美お姉ちゃんを蘇らせなかったのは…
七美お姉ちゃんの事を心配してなの…七美お姉ちゃんが
あんな風になっちゃったのは、私達が七美お姉ちゃんを…
七美お姉ちゃんを蘇らせたからなんだよ!」
「そんな訳無い! そんなの嘘だ、嘘だ! そんな訳無い!
私は間違ったことなんてしてない! してないんだ!
違う、違う、違う、違う、違う…私は…私達は悪く…無い…」
弥栄のソウルジェムが真っ黒に…不味い!
「全部、お前らが悪いんだぁぁあ!」
「無数の手が!」
弥栄…あぁ、分かるよ…弥栄…自分達が悪いなんて
そんな風には思いたくない…誰だってそうだ。
でも、過ちを受入れないと…成長はしないんだ。
まだ小さなお前にその事を理解しろとは…言えないが。
「梨里奈! 逃げて! その手は全部あなたを狙ってる!」
「……弥栄、辛かったよな、自分達のせいで何て思いたくないよな。
当然だ、当然なんだ…でも、未来から目を背けるな」
私は私を狙ってきた無数の手を、全て切断した。
「…弥栄、今すぐ分かれとは言わない。まだ小さいんだ
理解できるわけがないし、そんな風には思えないかも知れない。
でも、まだ未来は…まだ可能性はある。だって、七美は今…生きてるんだ」
「あぐ…ぁ」
手を切断しながら、私は弥栄に一撃を入れ意識を奪った。
「……弥栄、きっとまた笑える。お前も笑えるようにしてやる。
それが七美の親友として、私がやるべき事だ」
「…梨里奈さん…」
「…む、不味いぞ! 上だ!」
十七夜さんの言葉に反応し、上を見てみると
そこには巨大な建物の一部が迫ってきていた。
「七美!」
「止めて、七美お姉ちゃん!」
だが、久実が手をその建物に向けた途端
建物が途中で停止する。
「ど、どうなってる!?」
「わ、私の再構成の魔法で…足止めしてます…」
「久実…戻ってきて、久実! 私と一緒に梨里奈ちゃんを取り戻そうよ!」
「七美お姉ちゃん! 分かって! 間違ってるの! そんなの間違ってる!
梨里奈さんはいつも七美お姉ちゃんの事を心配してる!
七美お姉ちゃんの事を助け出そうとしてるの! だから!」
「分かって、このままだと私達は結局魔女になるの…
そんなの、嫌でしょ!? だから、マギウスの目的を果たして
魔法少女達が全員解放されて…そうじゃ無いと、私達は笑えないの!
魔女になっちゃうんじゃ無いかって、そんな思いをしたままは嫌なの!
生きてる死体として、ずっと過ごさないと行けないなんて、嫌でしょ!?」
「ほ、他に、ほ、方法はあるよ…き、きっと、あるの…」
少しずつ、巨大な建物は私達の方へ動いてきてる…
「だか…ら…だから、目を覚まして! 七美お姉ちゃん!」
「そんな風に悠長に構えてる…暇は無いの!」
「うぅぅぅあぁぅぅ! 駄目…お、押されてる…」
「仕方ない、みふゆ」
「な、何ですか?」
「弥栄を頼む」
私は寝転がってる弥栄をみふゆに向けて投げた。
「え?」
「…弥栄は七美からは離れたがらないだろう。
本当なら七美同様連れ戻したいが…仕方ない。
あんな感じだが、普段は優しいんだ…恥ずかしがり屋だがな」
私は必死にあの建物を抑えている久実を持ち上げる。
「全員、撤退よ!」
「ま、待って! 梨里奈ちゃん! 久実!」
「待たないさ」
七美が飛ばしてきた糸に私が持っている髪留めをプレゼントした。
髪留めはすぐに七美の方に引っ張られる。
「髪留め…」
「大分遅めの誕生日プレゼントだ! 来年は手渡しさせてくれ!」
そう言い残し、私達はその場を後にした。
七美達はもう追っては来なかった。