魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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リーダーの選択

ボロボロだった私が次に目を覚ましたのはベットの上。

何て、都合の良い展開が待っていると思ってたが。

なる程…どうも私は回復するのが早すぎたらしい。

 

「遅すぎるだろ…どれだけ時間が掛るんだ!?」

「そろそろ不味いな…」

 

結構追い込まれているという状況らしいが…

まだ、やちよさん達は…

 

「……2人とも…済まないな、私が不甲斐ないせいで…」

「梨里奈!? もう起きたのか!?」

「私はどうも…回復が早いらしい…私も防衛に参加しよう」

「それは心強いが…」

 

結構な数だ…しかし、肉体的にも相当辛い。

体が引きちぎれるような激痛が……

 

「い、いや駄目だ! もう体は相当無茶だろ!?

 満足に動ける状態じゃない筈だ! ここはあたしらに任せて!」

「……いや、十咎。そんな悠長なことを言ってる暇は無いだろう」

「でも十七夜さん! 今の梨里奈は相当辛いはずだ! 戦えるわけが!」

「…そうかもな、だが戦って貰うわけじゃ無い…行くんだ、仙波…

 七海達や由比君が待ってるだろう…」

「……あの中に入れと? でも、鶴乃は4人に任せれば…」

「時間が掛りすぎてる、手間取ってるのかもしれん」

「……分かりました」

 

疑ってるわけじゃ無い、だが…今の私に出来るのはそれ位だろう。

もうすでにまともに戦える状態では無いかも知れないが

それでも、多少の時間を稼ぐことだって出来る筈だ。

 

「よし、行ってきます」

「あぁ、頼むぞ」

 

私は痛む体を無理矢理動かし、やちよさん達が向ったゴンドラへ入った。

 

「随分とのんきそうな雰囲気だな…しかし、遊園地の割に殺伐としてる」

 

ゴンドラの中は少しだけ荒れている様子だった。

戦闘があったのか分からないが、中々に辛い。

 

「う、うぅ…クソ、な、何だ…余計に力が…」

 

こ、これがこの噂の効果か…気力を削ぐと言った所かな…

全く、今の私に取っては最悪の場所じゃ無いか。

急いで家のベットで眠りたいくらいにしんどいんだぞ?

既に夜更かしの時間だ…本来ならベットでグッスリの方が良いのに。

 

「だが……まぁ…ある意味、激痛のお陰で助かるな…」

 

意識が薄れそうになっても、体中の悲鳴が私をたたき起こす。

1歩歩くだけで、かなりの激痛が走るからな。

こんな状態でゆっくりと眠れるわけが無いだろう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…い、いろは…やちよさん…フェリシア…さな…

 あぁ、駄目だな…大声も上げられない…」

 

大声を出そうとすると体中が痛んでしまう。

この反動は相当辛い…下手したら簡単に意識が飛ぶ気がする。

体が千切れたのかと誤解してしまうくらいの激痛だ。

 

それも全身が…既に相当ボロボロなのだろう。

本来なら無茶な役目は押付けて欲しくは無いが

だがしかし…私に与えられた出来る事がこれなら仕方ない。

 

私は激痛を無理矢理堪えながら、1歩1歩足を進めた。

 

「くぅ…」

 

うぅ、不味いな…噂の使い魔が仕掛けてくる攻撃を受けたら

何だか余計に気力が…だがしかし、今の私は全身激痛だからな。

無理矢理体も動かしてるんだ、痛みで意識が飛ぶことはあるかも知れないが

気力を全て削がれ、意識を失うことは…無い!

 

「うぐらぁ!」

 

あぁもう…い、痛いんだよ…

腕を振るう度に腕が何処か行ったと勘違いしそうなくらいに。

 

「はぁ、はぁ…は、はぅ…くぅぁ…く、クソ…ま、まだだ…

 まだ、休むべき時じゃ無い…鶴乃を連れ帰って…安心しないと

 満足に眠れないだろ…? 私は…どうせ寝るなら満足に寝たい!

 折角の夜更かしだ…夜更かししただけの対価くらい欲しいから…なぁ!」

 

腕が…足が…い、意識が痛みに飲み込まれそうだ…

それでも進む…無理矢理にでも進む…げ、限界突破はキツそうだが…

そ、それでも…ま、まぁ…進むことは…出来るだろう。

 

「はぁ、はぁ…ぐ、うぐぅうぅ! 鶴乃ぉお!」

「……ありゃりゃ…梨里奈ちゃんも来たんだね…」

「鶴乃…な、み、皆…」

 

鶴乃の姿を見たが…その背後に動けない状態の4人が居た。

何で…ど、どうしたんだ? 鶴乃もボロボロだし…何が。

 

「…り、りな…ごめんな…さい…」

「折角…わかり合えると思ったのに…もう、魔力が…」

「……もう、助からないよ。だって、私を助ける方法があっても

 もう、その方法を試す手段は無い…」

「魔力があれば…後、1度だけ…チャンスが…」

「俺…まだ、あ、諦めたくねぇよ…鶴乃の事…や、やっと分かったんだ…

 ぜ、絶対に、た、助けて…あ、ありのままで話すんだ…」

「……もう良いの、皆が私の事…大事だって思ってることは分かったから…

 だから、もう良いの…私の事なんてどうでも良いから…私を…」

「……魔力があれば…良いんだな。なら、その魔力…私が送ろう!」

 

私の魔力は完全回復に近い、意識を失ってる間に

ももこ達がグリーフシードを使ってくれたんだろう。

私の魔力は完全に近い状態にまで回復していた。

だが、肉体がボロボロだからな、最悪の場合は肉体の限界突破をして

一緒に戦おうと思ったが…それよりは有用な使い方が出来るだろう。

 

「梨里奈…で、でも…私達に魔力を送ったら…」

「安心してください…今の私じゃ…元より動けませんからね…

 正直、激痛で立ってるのもやっとだし、意識を保つのもやっと。

 だけど、魔力消費が激しい肉体の限界突破をしないで堪えてきた。

 それが功をそうした…それだけです。でもこれは、最後のチャンス」

 

どれだけの魔力があれば良いのかは分からないが

きっと、相当数の魔力が必要なのだろう。

いろは達4人の残った魔力よりも大きな魔力が。

 

それだけとんでもなく大きな魔力を私が持ってたとしても

恐らくチャンスは1度きり…このチャンスを逃せば

グリーフシードを使って回復する余裕は無いだろう。

 

「…そして後1つやちよさん…失敗したら最悪、全員共倒れです。

 それを避ける方法は…鶴乃を倒すこと。

 私なら出来る…魔力をかなり消耗してでも肉体を突破すれば…

 でも、それは同時に鶴乃を見捨てると言う事…どう、しますか?」

「……それは」

「……いや、問う相手が違った…どうする? いろは」

「わ、私…ですか?」

「あぁ、お前はリーダーなんだろう? なら、選ぶんだ。

 1人を殺して確実に他が助かる方を選ぶか…

 全員死ぬかも知れないと言うリスクを背負ってでも

 誰1人殺さず、自分が理想とする最高のシナリオを目指すか。

 選ぶんだ、リーダー…現実か理想か…確実を取るか全てを賭けるか!」

「……助けます、鶴乃ちゃんを…助けます!

 お願いします…梨里奈さん…もう1度…もう1度だけ!

 もう1度だけ、私達にチャンスを…チャンスをください!」

 

殆ど動けないはずのいろはだが、フラフラしながらも立ち上がる。

弱々しい立ち姿ではあるが、その瞳は非常に力強い物だった。

 

「……リーダーが選ぶなら…付いていくしか無いわね…」

「鶴乃を絶対に助けるんだ…俺達で!」

「はい! あの毎日を…もう1度! あの毎日よりも楽しい毎日を!

 その為に…私達は頑張るんです!」

「どうして…あ、危ない事だよ…わ、私を倒した方が安全だよ!」

「……鶴乃、良かったな…お前のありのままを受入れてくれるそうだ。

 今度から…しっかりと頼るんだぞ?

 私みたいに1人で全部やろうとするな。

 1人だけで最強になっても…意外とつまらないからな」

「……姉ちゃん、まさか最初から鶴乃のこと…全部分かってたのか…?」

「あぁ、鶴乃と私は似てたんだ…だが、今度からは違うだろう」

「鶴乃…こ、今度は、今度は俺がお前を助けるからな!」

「無理だよ、フェリシア…さっきも駄目だったじゃん…」

「さっきは駄目だったかもしれねーけど! 今度は駄目じゃねーよ!

 だって! 姉ちゃんも来てくれたんだ! 俺達が諦めなけりゃ

 絶対に鶴乃を助ける事だって出来るんだ!

 俺だって! 鶴乃の事理解するから! 迷惑掛けねーから!

 だから…だから! 戻って来いよ! 鶴乃!」

 

鶴乃には自分を支えてくれる仲間が居るんだ。

自分のありのままを知っても、受入れてくれる仲間が。

それはとても幸せなことだ…とても、大事な事だ。

 

「今度こそ…今度こそ5人の力で!」

「あぁ…いろはに預ける! 本当なら俺が目を覚まさせてやりたいけど

 でも、いろはなら大丈夫だ! 俺達のリーダーだからな!」

「ありがとう…フェリシアちゃん」

「もう1度…これが最後のチャンス…絶対に連れ戻すわ」

「いろはさん…皆の思い、いろはさんに託します」

「いろは…鶴乃の目を覚まさせてやってくれ。

 夢は目覚めるから幸せなんだからな。

 あいつの悪夢を…今、終わらせるんだ」

 

私達の魔力を全てリーダーであるいろはに送る。

いろはに全部を託す…今度は失敗するなよ。

 

「鶴乃ちゃん! 絶対に助けるからね! 皆の思いを込めた一撃で!

 鶴乃ちゃんの心を解き放ってみせるから!」

「……いろはちゃん、良いよ、私を撃ち抜いて」

「今度からは私達に頼って! 辛い時も大変な時も!

 隠さないで全部! 私たちと一緒に悩もうね!

 だって私たちはチームなんだから!」

 

いろはの願いが込められた一撃は真っ直ぐに鶴乃を貫いた…筈だった。

だが、鶴乃は一切その表情を変えず、立っていた。

 

「鶴乃にダメージが無い…」

「……」

 

少しの沈黙の後、鶴乃から泡のような物がゆっくりと漏れてきた。

 

「鶴乃ちゃんから何か漏れて…これって…」

 

鶴乃の過去…鶴乃の思い…それが、私たちに流れ込んできた。

泡沫の様に現われては消えて…僅かな衝撃でも消えてしまいそうな

そんなとてもとても脆く、美しい光景だった…

泡沫の夢…見えては消える、そんな儚く美しい光景。

 

泡の中に見えるその過去は…とても美しかった。

とても美しくて、とても力強く…そしてとても…儚い。

とても優しくて…とても頑丈に見えて、とても脆い。

あぁ、ここまで優しく努力をしているはずの鶴乃…

その過去はおだてにも報われているとは言えなかった。

 

大事な人が死に、大事だった場所もゆっくりと廃れていく。

大事なチャンスも無駄に潰え、それでも強く振る舞った。

大事な仲間も死に、何も知らずに過ごした…

 

尊敬していた師匠も変わり、それでも支えようと努力して

誤解される大事な師匠を必死に助けようと動いた。

そんな辛い思い出を積み重ね…その上でもなお気丈に振る舞う。

だけどな、鶴乃…お前の努力は決して無駄なんかじゃ無かった。

 

「今度は…今度は私に…お返しさせてください…鶴乃さん」

「いちいち、んな心配すんなよ! 俺だってもう店の戦力だろ!?」

「ごめんね鶴乃、ずっと無茶させちゃって」

「私、鶴乃ちゃんに頼って貰える、そんなリーダーになるからね

 一緒に手を取り合おう…」

 

何故なら、その優しさに気付き、助けてくれる仲間が居るんだ。

自分達の身を顧みず、助けようとしてくれる仲間がこんなに居る。

鶴乃、お前はもう1人じゃ無い。お前には仲間が居るんだから。

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