久実に勉強を教えたり、中々有意義な時間が過せた。
うん、非常に有意義だったと思う。よし、そろそろ動こう。
私達が最初に行なった行動…それは、感謝を示すことだった。
「よーし…やちよさん!」
「ん? どうしたの?」
いろはが意を決してやちよさんに話し掛けた。
その光景を、私は台所で聞いていた。
意外と堂々とした手法だ。まぁ、サプライズが多かったからな。
「実は渡したい物があるんです」
「渡したい物? 何かしら」
「これです」
いろはがやちよさんにコースターを渡した。
「コースター?」
「はい! やちよさんのマグカップに使ってください!」
「そう、ありがとうね」
そして、いろはがコースターを渡したタイミングで
私がお揃いのマグカップにコーヒーを注いで姿を見せた。
「コーヒー、入りました」
「おぉ! ちゃんと牛乳ココアだよな!」
「あぁ、フェリシアの分はちゃんと甘いぞ。
安心しろ、好みの甘みだと思うからな」
「流石姉ちゃん!」
「もしかして、私の好みの味にも合わせてたりするの?」
「勿論だ、全員分の好みの味付けにしておいたぞ。
甘さも苦さも程よいはずだ。豆から挽いたからな!」
「梨里奈さん、凄い所こだわりますね…」
「たまには良いじゃ無いか、そう言う余興も。
落ち着くぞ? 豆を挽く時の音は」
「あはは、梨里奈お姉ちゃんは何でも楽しめそうだね」
「えぇ、しかし良いタイミングね。じゃあ、早速…って、あら…」
私が持ってきたお椀を見たやちよさんが何かに気付いた表情を見せた。
少し驚いた表情の後、やちよさんが優しく笑った。
「そう言う事ね…お揃いのマグカップにお揃いのコースター…」
「えぇ、さぁやちよさん。そのコースターを」
「…えぇ」
嬉しそうにやちよさんが自分のマグカップの下にコースターを敷いた。
これで、皆お揃いだな…お揃いのマグカップにお揃いのコースター。
全員分が揃い、完成した姿が私達の前に出来た。
サプライズでは無く、サラッとしたプレゼントだ。
だが、全員の絆を再確認する為のこのプレゼントは
こう言う、全員が居る当たり前の光景の中でこそ相応しい。
私はそんな風に思った。私達の新しい当たり前が出来た瞬間だ。
「おぉ! 凄い好みだよ! 流石だね梨里奈ちゃん!」
「丁度好みみたいで安心したよ」
「甘いけど甘すぎないってこう言う味を言うんだな!」
「フェリシア、お前の分は普通の人が飲んだら甘すぎると思うぞ」
「ふふ、美味しいわね、やっぱり」
こう言う、当たり前の光景…それを取り戻せた。
あぁ、それだけで十分だろう。
私達は再び取り戻した短い平和をゆっくりと楽しんだ。
まだ真の平和じゃ無い…短い平和でしか無い。
マギウスとの戦いは終わってないし、魔法少女の宿命だって
私達には纏わり付いていた…それでも、この一時の平和くらい
ただ1人の女の子として楽しみたい。
「やちよさん!」
「ん? ももこ?」
私達がゆっくりとコーヒーを飲んでいると
みかづき荘の扉が開き、ももこが姿を見せた。
ももこは少し消耗しているようで、妙に息が上がってる。
「何かあったの?」
「あぁ、マギウスの翼が動き出した」
「……はぁ、もう少し位この平和を楽しみたかったけど
悠長なことを言ってる場合じゃ無くなったわね。
どう言う状況なの? 詳しく教えて」
「マギウスの翼は、自分達の意に背く魔法少女を殺すつもりだ!」
「そ、そんな!?」
「急いで魔法少女の保護に走るわ! 急ぎましょう!」
やちよさんが動き出そうとしたとき、やちよさんの電話が鳴る。
彼女はすぐにその電話を取った。
「はい、もしもし…十七夜?
あなたから電話と言う事は、そっちも不味そうなの?」
やちよさんと十七夜さんの会話を聞いた感じ
どうやら東の方も同じ様な状況らしい。
一気に動いたか…全く休ませて欲しいよ。
「もしかして、向こうも?」
「えぇ、マギウスの翼の様子が急変したそうよ。
一気に攻めてきてるらしい。急ぎましょう!」
「あぁ、そうだな!」
私達は急いでみかづきそ荘から飛び出す。
「死になさい」
「ッ!?」
みかづき荘から飛び出すと同時に、私達へ向けて弾丸が飛んでくる。
銃声に反応した私は即座に体を動かした。
「梨里奈!」
「だ、大丈夫です…ギリギリね」
掠ったな、あと少しで頭を撃ち抜かれるところだった。
頬から血が滴り落ちる。
「ふふ、魔法少女に変身しなくてもその反応速度は驚いたわ」
「奇襲とはな…相も変わらず、私には容赦ないな、巴マミ」
「あなたに容赦なんてしたら負けてしまうでしょ?」
「容赦しなければ勝てるとでも? 1人で来るとは随分と舐めてくれるな」
魔法少女に変身し、彼女に向けて短刀を構えた。
いろは達も変身し、全員臨戦態勢だ。
「巴さん、この状況で勝てると思うの?
少なくともあなた1人で勝てる人数差じゃ無いと思うけど?」
「そうね、私は1人であなた達は8人。人数差は絶望的と言えるわね。
でも、今回は忠告しに来たのよ? あなた達にね」
「忠告?」
「えぇ、マギウスの翼はもう手段を選ばないわ。
あなた達を含めた、マギウスの翼に所属しない神浜の魔法少女。
その全てを、私達は誅殺すると宣言するわ」
「殺すって…事ですよね…それがどう言う意味か分かってるんですか!?」
「えぇ、ただ解放の邪魔になる存在を殺すだけよ。
幾千の魔法少女達を救う為に、邪魔な存在を排除する。
数え切れない数の魔法少女を救うために、数十人の魔法少女を殺すだけよ」
「自分が何を言ってるか分かってるのかよ!」
「えぇ、邪魔者を排除しようとしてるだけよ」
「……全くお前達は…お前達がやろうとしていることは
1万を救う為に10万を殺すのに等しいんだぞ…
魔法少女だけでも非人道的だが、前回の件もある。
お前らは一般の人達さえ殺そうとしてる…ふざけてる」
「解放には仕方のない犠牲よ」
「仕方ないだと? その方法以外に方法を考えてないのにか?
狂信的に妄信的にただ1つの可能性しか見て無いだけだろう?
冷静になれ、阿呆共。何千何億の可能性を試して犠牲を選べ」
「そんな途方も無い時間を過ごせば、私達は死んでしまうでしょ?」
「未来の魔法少女も救う為に努力してると思ったが。
何だ、自分達が助かりたいだけか。自己保身的な偽善者共め」
マミが無言のまま、私に向けて弾丸を放つ。
私はその弾丸を手に持ってる短刀で弾き飛ばした。
「……あなたは本当に腹が立つわね、梨里奈」
「私もだよ、私もお前とのやり取りは腹が立つ。
本心は知らないが…お前は妄信的すぎる」
「……ふ、まぁ良いわ。あなた達はもうお終いなのだから」
マミが変身を解除し、私達に背を向ける。
どうやら、本気で戦うつもりは無いらしい。
「…まぁ、精々急ぐ事ね…既に殲滅は始まってる。
あなた達は強い。だけど、他の魔法少女はどうかしらね。
一緒に固まって行動してたら、何人も死ぬわよ?」
「…露骨に孤立させようとするんだな」
「えぇ、そうよ。私達はあなた達を孤立させたいの。
目的は分かるでしょ? でも、あなた達は私達の狙いを知りながらも
孤立し行動するしか無い。果たして何人死ぬかしらね?」
「本当、いやな行動をしてくれるわね…」
「ふふ、あなた達もでしょ? 同じ事をしたまでよ。
さて、あなたの親友はどうなるかしら?」
「…まさか、七美を!」
「あなただけはどうしても倒したいからね。
ヘリポートで待ってるわ。1人で来なさい」
「……本気だな」
「本気よ。言っておくけど、私を捕まえても無駄よ?」
「……クソ」
「梨里奈…」
「……私1人で行く…皆は、魔法少女達の救助を頼む」
「えぇ…」
「ふふ、決まりね」
そう言い残し、彼女は私の前から消えた。
……罠だと分かっていても、行くしか無い…やるしかない!