「いろは、私から離れるなよ?」
「は、はい!」
牢屋の扉をゆっくりと開け、近場の通路に向った。
通路の角に身を寄せ、足音を聞いてみる。
「……よし」
通路の先を確認し、誰も居ないことを確認した。
そのまま足音を立てないように移動していく。
ん…羽根が居たな。当然こっちは警戒してない。
「……っと!」
「むぐ! む、ぐぅ…」
背後から近寄り、羽根の意識を奪った。
ふぅ、ドキドキするな、こう言うのは。
バレたらかなり不味いからな。
一環の終りという訳では無いが…苦労するだろう。
「よし…いろは」
「あ、は、はい」
いろはに黒羽根から奪ったローブを渡した。
顔を隠すからな、声でバレるかも知れないがな。
しかし…数が多い。全員分の声を覚えてるかな?
「っと、よし」
近場の部屋を確認た。中には1人、黒羽根が居る。
だが、休んでるな。休憩室と言った所か。
「ど、どうしたの? な、何か…あったの?
ね、ねぇ、こ、答えてよ…い、悪戯?」
扉を少しだけ開けて、彼女を誘い込んだ。
彼女はゆっくりと足音を消さずに近付いてくる。
ある程度まで近付いた瞬間!
「え!?」
「静かに」
「むぐ!」
ある程度近付けば、私の動きであれば即座に制圧できた。
油断していると言うのは、あまりにも大きすぎるデメリットだな。
まぁ、警戒さえしてなかったんだ。私達が自力で脱出だなんて可能性
一切なかったんだろう。甘いな。せめて私の両手両足を拘束してればな。
「よっと」
そのまま室内の黒羽根からローブを奪った。
その後、意識を奪った黒羽根をその部屋に運び込み
休憩室の道具を使って、彼女達が叫べないように口を塞いだ。
両手両足も、一応は休憩室の衣服とかを利用して拘束。
着替えがあるとは、中々良い環境だな。
まぁ、その着替えが邪魔になってるんだがな。
「いろは、着替え終わったか?」
「は、はい」
「じゃあ、私も急いで着替える」
そのまますぐにローブを羽織る。これでバレにくいはずだ。
だが逆に、あまりこそこそは動けないな。
ちょっと不安だが、堂々と進むしか無いだろう。
「よし、ソウルジェムを探そうか。と言っても、足で探すしか無いが」
「そうですね、羽根達に聞いたら、違和感がありますもんね」
「そうだな…会話を聞いて行こう」
「はい」
「会話は私がする…いろはの方はあまり喋らなくて大丈夫だ」
「わ、分かりました」
私達は牢からゆっくりと違和感がないように出た。
堂々と振る舞えば、きっとバレないだろう。
よし…誰にも見られてないな、少しだけ待機だ。
「おい、お前達」
「は、はい!」
少しだけ待機していると、羽根が私達に話し掛けてきた。
しかし、疑ってるようには見えないな。近場には誰も居ないし
あわよくば近付いてきた奴を無効化しようとは思ったが。
魔力探知とかしてないのか? いや、するわけ無いか。
私達はソウルジェムが無いんだ。
魔力を探知したところで、私達の気配は分かるまい。
「環いろはと仙波梨里奈は変わりないか?」
「あ、は、はい、あの2人は牢の中で大人しくしてます。
さ、流石にソウルジェムを奪われてる状態では何も出来ないでしょう」
「そうだろうな、だが、仙波梨里奈は危険だ。
警戒した方が良い」
「そ、そうでしょうか? い、いくら何でも
ま、魔法少女に変身出来ないなら…で、でも…」
「自信が無いのか?」
「は、はい…何だか、恐くて」
「…はぁ、そんな様子じゃ安心出来ないな。
もう良い、お前達は別の警備に回れ」
「は、はい…すみません…」
「全く、ここまで来たのに、まだ自信が無いとはな」
「も、申し訳ありません…」
よし、上出来だな。話し掛けてきた白羽根の指示で
私達の配置が変わった、少しだけ深い場所だな。
「…ソウルジェムの位置が分からないのが恐いな」
「は、はい…」
まぁ、ソウルジェムがあるのは恐らく深い場所だからな。
ひとまずはこの場で少しだけ待機だ…それが良いだろう。
「おい、お前達」
「は、はい!」
「環いろは達の仲間が侵入した。
周辺の警戒をしろ。侵入者を発見次第拘束だ!」
「は、はい!」
誰だ? 誰が入ってきた? 出来れば合流したいが…
しかしだ…探知する手段が無い。
あちらもこちらも…探知することは出来ないだろう。
「誰が来たんだろうな…」
「き、きっとさなちゃんです。一緒に居ましたから」
「なる程、頼りになるな、さなは」
「はい」
とにかく探すしか無いだろう。
さなが何処に居るかは分からないが…
「……」
しばらくの間、周囲を見て回った。
合流出来れば、もう少し強気で動けそうだが。
「おい! 環いろはと仙波梨里奈が脱獄したぞ!」
「な! どうやって!? 侵入した仲間か!?」
「し、侵入者の姿は発見できてない! と、とにかく探せ!
牢が破壊された痕跡も無いし、内通者が居る可能性もある!」
「そんな!」
周囲の羽根達が慌ただしく動き出す。
それはそうだろうな、私達が脱獄したのだから。
そして、いつ抜け出したかも分からないだろう。
私達の姿を気絶させた羽根達に見せたわけでも無い。
疑心暗鬼…さて、どう動くだろうか。
「い、急いで探さないと!」
「う、うん」
私達も探す振りをしながら、周囲を走り回る。
周囲の羽根達に合わせて、違和感無いようにな。
しかしどうするか…ソウルジェムを探したいが
さなとも合流したいし…出口も把握したい。
しかしだ、さなが潜伏しているなら下層か?
入ってすぐなら、1階からの潜入が無難だろうからな。
「ど、何処に行きましょうか…」
「1階を目指そう。さなが来てるならそこが近い筈だ」
「わ、分かりました」
だが、羽根が派手に動いてる状態だ。私達がこの格好で動いて居れば
例えさなが居たとしても、私達だと気付かないだろう。
さなが向うなら…牢屋だろうな。あそこが何処かは分からないが。
「とにかく下層を目指そう」
「は、はい」
周囲を索敵しながら下へ向って走った。
全く、広すぎるだろう。ソウルジェムと離れすぎると不味いだろう。
「……しかしなぁ」
もし、さなが潜伏しているとすれば…
私達と同じ様に潜伏してる可能性もある。
……ここは、ちょっとリスキーだが…
「二葉さな! 何処に居る!」
あまり違和感が無いように走りながら、大声でさなの名前を叫ぶ。
結構危険だし、違和感がある行動かも知れない。
だが、この場面で識別出来るのはそれ位だろう。
そして、私達に出来て羽根達に出来ない事は1つ。
声の識別。彼女達は仲間の声を完全に把握してない。
仲間が多いから出てくる短所だ。逆に声でお互いが分かるのは
仲間の数が少ない、少数精鋭の長所でもある。
「このまま下層へ」
「ま、待って!」
「……」
後ろの方から声が聞え、私達は足を止めた。
「い、いろはさんと梨里奈さん…ですよね?」
「……そうだ」
「やった、合流出来た」
「あまり長話は出来ない。走るぞ
その間に色々と教える。小声でな」
「は、はい!」
私達は3人で階段を降りる。
ソウルジェムの探索も必須だが
とにかく今の状況なら、多少は上手く動けるはずだ。
マギウスの翼は混乱している。
この状況であれば、派手に動ける。
「よし…あそこが出口か。一応、場所は」
「おい、お前達! マギウスの目的は!?」
「……ふぅ、潮時か」
「うぐ!」
テレパシーか何かか…まぁ、実際それが正しいだろう。
潜伏されてる可能性が高い以上、その方法で見分けるしか無い。
そんなテレパシーは私達は受信できないのだから。
「あそこだ! 見付けたぞ!」
「…通路に逃げ込むぞ!」
「は、はい!」
「待て!」
私達はマギウスの翼から逃げ出し、通路に入る。
「逃がすか!」
「全く、本当にまぁ、良くあの状況でマギウスに付こうと思うな」
「ふん、あなたには分からないわ、何でも出来るあなたには
何も出来ない私達の気持ちなんて分からないでしょう!?
自分達じゃ何も出来ない。だから、出来る人を信じるしか無い!」
「そうだ、分からない。お前達もだろう?
何でも出来てしまう奴の気持ちなんぞ分かるまい。
そう言う物だ、他人はどんな時でも輝いて見えてしまうんだ。
他人に自分に無い物を求めるからな。
だが、思考停止して良い理由にはなるまい」
「ふざけないで! 解放さえ叶えば、私達は報われる!
そんなの! 考えなくても分かる事よ!」
「……救われると思うか? 本気で、本心で、心の底から」
「そうよ、救われるって信じてる!」
「……少しは歴史の勉強をしてた方が良かったんじゃないか?
まぁ、私も人の事を言えた口じゃ無いんだがな」
「どう言う…」
「まぁ良い…絶望されたら流石に不味いからな。
盲信的な奴に正論や現実はあまりに酷だ」
「……何なのよ!」
やるしかないか…この距離ならやれそうだが…
「……何で、私こんな事してるんだろう」
「う゛!」
私達に攻撃をしようとしてきた羽根達が全員倒れた。
「…な、なんで?」
「……梨里奈、私はお前を殺したい。
だけど、今はそれ以上に…お姉ちゃんを助けたい」
「弥栄」
羽根達を倒した黒羽根。彼女がローブを脱いだ。
そこに居たのは弥栄…だった。
「どう言う心境の変化だ?」
「梨里奈を運んでるとき、お姉ちゃんは嬉しそうだった。
だけど同時に…辛そうだった。私には見てられなかった。
うわさの一部にされて…だから、止めて欲しい」
「んな」
弥栄が何かを投げたと思ったら、私のソウルジェム…
「環いろはのソウルジェムまでは取れなかった。
でも、そろそろ来ると思う。1階のエントランス、もう来てる。
そこにはお姉ちゃんも居る…だから、お姉ちゃんを…助けて」
「……最初からそのつもりだ…弥栄、ありがとう」
「……今まで、ごめんなさい」
「謝るのは久実にしておけ、私は気にしてないからな。
殺されても文句は言えない…そう思ってる。
さな…いろはの事、頼む」
「は、はい!」
「弥栄は見守っていてくれ、私が七美を救うところを。
ここから見えるだろう? エントランスは」
「…うん」
弥栄から渡されたソウルジェムを使い、変身する。
そして、1階のエントランスに向けて飛び降りた。
「梨里奈!?」
「それは貰うぞ」
「うぁ!」
ソウルジェムを持つ羽根達の意識を奪い、
いろは…と、何だ? 他にもあるな。
まぁ良い、まとめて回収しよう。
「ッ! 梨里奈…ちゃん…」
「梨里奈!? どうして変身して!」
「羽根共に用は無い。下がってろ」
「この、今更!」
「…邪魔だ」
「ヒ…」
周囲に居た羽根達が怯えて、ゆっくりと後ずさりをする。
「……七美、助けに来たぞ…今度こそ、お前を助ける」
「梨里奈ちゃん…どうして…」
「お前の大事な妹達から大事な思いを預かってきた。
七美、お前を必ず救う」
「……どうしても、私と戦うの?」
「そうだ、お前の親友として、私はお前と戦う」
必ず救う。救い出せる…あの会話を聞いてなかったら
もしかしたら、私は気付けなかったかも知れない。
だが、今は違う…必ず救う。