魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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救う為の戦い

周囲の羽根達は動ける状況ではなかった。

全員、何故か腰を抜かしている。怯えすぎだな。

だが、好都合だった…七美を確実に救うためだ。

 

「梨里奈ちゃん…今の私は前までの私とは違う。

 拘束されてた魔法少女達を見たでしょ?

 本来の私の能力なら、あの全員は無理。

 だけど、今の私なら出来た…私が強くなってるから」

 

確かにあの場に居た魔法少女全員を撃破していた。

いくら七美が強くても…あの数相手では苦戦したはず。

だが、七美は無傷だったし、全員を拘束してた。

糸の数も、今までの比では無いくらいに増えてるんだろう。

 

「今の私は同時に20本の糸を操れる…この意味が分かるでしょ?

 あなたに勝ち目は無いの…うわさと一体化した私には勝てない」

「七美、お前がどれだけ強くなろうとも、私はお前に挑むまでだ。

 私はお前を救うためにこの場に立った。

 それに七美、お前にうわさが付いているのなら

 私にはお前の妹達の思いが付いている。

 弥栄と久実だけじゃ無い…お前の思いも私にはある」

「……」

「必ず私はお前を助ける。そして、共に探そう。

 当たり前だった毎日に戻る方法を。

 まだ、最悪では無いだろう? まだ、終わってないんだ」

「もう終わってるよ…もう、私はウワサの一部になってる。

 マギウスが殆どのうわさを消してる中でも残るうわさ。

 それだけ重要視されていて、力があるうわさ。剥がせるわけが無い」

「……剥がすんだよ、そしてお前を救う。そう決めた!」

 

七美を救う…必ず救い出す。そう決めた。

だから、彼女の前に私は立った…本気だ、私は本気だ。

 

「剥がせるの? 無駄だよ!」

 

周囲に大量の糸が展開し、周囲の家財が一斉に私の方に飛んで来る。

その攻撃を避けるが、同時に家財が当った場所にうわさが出て来た!

 

「うわさ!? 何だこのうわさ! 熊か!?」

「この場所その物がうわさなの。色々な意味であなたは私には勝てない!」

「ふん、数が増えるなら減らせば良いだけだろ!?」

「そんな簡単なうわさが本拠地にあると思ってるの?

 良い事を教えてあげるよ。

 

 この子達はあなたがうわさを倒せば倒すほどに強くなる。

 全員ね、いくらでも増えて、いくらでも強くなり続ける兵士

 あなたは無限に増え続けるうわさを倒せない。

 倒しても良いけど、その度に脅威になるの」

「…物量でくるか」

 

七美が1度攻撃をする度に20のうわさが呼び出される。

そのうわさも倒せば倒すほどに全体が強くなると?

厄介なうわさだな。だが、倒さなければ良いんだろう?

 

「ウォグマッ!」

「熊の生首だなんて、地味に悪趣味だな。

 まぁ、うわさは殆ど悪趣味ではあるがな」

「酷い使い魔や魔女よりはマシだと思うけどね」

「酷いのと比べるのはどうだろうな。まぁいい、やるだけだ」

 

倒さなければ良い。それだけなら容易に対処出来る。

熊たちの攻撃を避ける事はそんなに難しい事じゃ無かった。

第六感の限界突破を使用してる状態の私は並じゃ無い。

 

全方位からの攻撃だろうとも、今の私は捌ける。

数が多かろうと少なかろうと、当らなければ意味は無い。

 

「そこ!」

「無駄だよ」

「っと」

 

やはり七美の攻撃は脅威と言える。

弾幕を張れば、その内の20個も操られるのは致命的だからな。

まぁ、投げた分が帰ってくる程度なら造作ない。

即座に糸を切断すれば、何て事も無いのだから。

 

「多少は痛いが許せよ、七美」

 

地上で群がってる熊たちを足場にして、七美に近付く。

七美は即座に周囲に糸を展開してこちらに引寄せてきた。

全方位から引っ張られるような感覚は辛いが!

 

「そう簡単には攻撃させないよ!」

「あぁ、私もそう簡単には食らわない!」

 

即座に体勢を立て直し、周囲の糸を全て切った。

そのまま飛び込んできた家財を足場にし

七美の左方向から距離を詰める。

 

「無駄だよ」

「っと、だろうな」

 

七美が私が飛び込む寸前に眼前へ壁を立てた。

だが、上空で体勢を立て直し、即座に壁の側面に回る。

 

「分かってるよ!」

「あわ、私も分かってる」

 

私が何処から飛び出すのか、七美は予想し、そして当てた。

だが、私も七美が私の攻撃に反応することは想定済みだった。

即座に伸ばされた糸を切断し、彼女との距離を詰める。

 

「くぅ!」

「このまま!」

「無駄なの!」

「チィ!」

 

一気に接近しようとするが、流石にあの数は近付けない。

即座に撤退し、距離を取ることにしたが

あの熊のうわさが多すぎるな。だが、倒せない。

しかし、利用は出来る。熊たちの攻撃を利用し

私は再度七美に接近した。

 

「無駄なの!」

「ち! 糸の数が多いか! だが、そこがある!」

「しま! うぁ!」

 

糸と糸との合間を縫い、ありったけの魔力を込めた蹴りを

七美に叩き込むことが出来た。

私の足には確かな手応えがあり、七美の髪留めがはじけ飛ぶ。

 

「あ、あぅ…」

「…自分がプレゼントした物を、蹴り飛ばさないとならないとはな。

 中々悪趣味だが…私に取って大事なのはお前だよ…七美」

「……あぁ、今までは…結構良い感じだったのにな…私…

 良い感じに…梨里奈ちゃんを追い込めてたのに…あはは

 何だろうな…やっぱり…最後に重要なのは…意思の強さな…かな…」

「迷いがあるお前と、迷いが無い私。結果は見えてただろう?」

「……そう、だね……ありがとう…やっぱり…あなただけは…」

 

ギリギリの所で七美が意識を失った。

だが、周囲は熊のうわさが群がってる。

急いで七美を背負い、即座に動けるように準備をするが

この数は…流石に逃げ切れるか?

 

「クソ…多いな…」

「うりゃぁ! っと、お待たせ!」

「な! ももこ!?」

 

て、天井が砕けたと思ったら、ももこが降ってきた!

驚いたな…派手な登場だ。

 

「グットタイミング、と行きたかったけど、案外そうでも無さそうだね。

 もうソウルジェムは奪い返せたって事?」

「あぁ、この通りだ」

 

全員のソウルジェムは無傷だからな。

ちゃんと丁寧に扱ってたさ、大事な命だからな。

 

「本当、わざと捕まったのかって言いたくなるくらいに手際が良いね」

「往生際が悪いんだ。私の場合は。そして、私の目的も果たせた」

「そうだね、じゃあ目の前の変な奴らを全部潰そう!」

「あぁ、そうしよう!」

 

私達は2人で協力して七美の攻撃で出て来た連中を排除した。

 

「ふぅ、中々数が多くて厄介だったね。

 で、目的も果たせたんだっけ? その背負ってる子の事?

 千花七美だっけ…」

「あぁ、そうだ。私の…大事な親友だ」

 

暖かい…そう、とても暖かかった。

……実感できた…七美がここに居ると、よりハッキリと。

呼吸もしてて、心臓の音だって聞えてた。

…生きてる。本当に…生きてる。

 

「梨里奈、あんた泣いて…」

「……泣きたくもなるさ、嬉しいんだ」

「梨里奈…」

「梨里奈さん…良かったですね」

「……ありがとう、お姉ちゃんを助けてくれて」

「大事な人を取り戻せて…良かったですね!」

「弥栄、いろは、さな…そうだな。ありがとう」

 

助け出せた…だが、まだ完全に終わったわけじゃ無い。

状況は良くないはずだ。ワルプルギスの夜が来てるのだから。

 

「な、七美様が…だ、だけど、まわ終わってない!

 私達は負けてない…絶対に、解放の邪魔は…させない!」

「どうしてそこまで必死に解放に拘るんだ?」

「そんなの…私達が救われたいからだ! 

 こんな理不尽な目に遭って…私達ばかりこんな目に遭って!

 私達が何をしたって言うのさ! 何をしたの!?

 ただ…ただ救われたいって、そう願っただけなのに!

 それなのに、その結果がこれよ! 魔女になって…結局救われない!」

「……あぁ、何だろうな…この相違は…全く何処までも…皮肉だ。

 奇跡を願ったお前達は未来に絶望を抱いて

 自分に呪いを掛けた私は、未来に希望を抱いた」

「どう言う事?」

「私はお前達とは違うのさ、私は私に呪いを掛けた。

 自分の魂を対価に、私は私を呪った。何も無いと知りながら

 何も無いと思ってたから、私は自分を呪った。

 私は奇跡で生まれた魔法少女じゃ無い。呪いで生まれた魔法少女。

 QBにも言われたよ、私の祈りは呪いだとな」

 

私は自分に呪いを掛けた。そんな私が今、希望を掴んだ。

奇跡を願ったはずの彼女達は絶望を掴んだ。

皮肉だな…全くもって皮肉だ。

 

「あんたら…自分達だけが不幸だとか、自分達ばかりとか言って。

 結局は自分達の事しか考えてないじゃないか!」

「そんな物さ、私達なんて…私達は自分達が救われたいだけ。

 それ位は分かってる! でも、救われたい!

 あなた達は色々な人の思いを潰す…

 妹を殺された人の、親友を守ろうとする人の

 外で静かに暮らしたい人の、他重苦から逃れたい人の」

「なら、お前達は平和に暮らしてる人の

 今を楽しんでる人の、未来を掴むために努力してる人の

 そして、どん底から這い上がろうと、必死になってる人達の思い…

 いや、命を奪い…彼らの未来の、可能性さえ全て奪う。

 

 前も誰かに言ったが、幾千もある可能性を試さずに犠牲を選ぶな!

 お前らは試行錯誤したか? 事実を知り、助かる努力をしたか?

 可能性を模索したか? 何度も挑戦し、何度も挫折したのか?

 違うだろう? お前達は…甘い言葉を前に思考を止め

 自分が助かりたいという、そんな考えだけに思考を支配されてる。

 

 当然、分からない事でも無い。理不尽だと思うかも知れない。

 だが、理不尽は短絡的な行動だけでどうにかなるほど…甘くない。

 考えた事は…あるか? 魔法少女が解放された後の未来を」

「えぇ、何度も」

「なら、その未来にある、自分達の不幸を…考えたか?」

「え…」

 

羽根達が明らかな動揺を見せる。

やはり、考えてなかったのだろう。七美はよくこんな状況で

あんな思考に辿り着くことが出来たな…素直に凄いと思うよ。

 

「何故…解放されたら幸せになれると思うんだ?

 そう信じたいだけなんじゃ無いのか?

 人は占いでもそうだが、自分にとって悪い事は興味無いと思い

 自分にとって幸福なことは正しいと思いたがる。

 それと同じで、お前達は幸せになる可能性しか見て無い」

「……」

「何故、幸せになれると思うんだ? 魔女にならなくなるだけだろ?

 ドッペルはそのままだし…魔法少女である事は変わらない。

 長く息が続けば続く程に、魔法少女は悪意に飲まれる。

 私達が幸せになるにはきっと、魔法少女とは違う存在。

 元の人間に戻らないとならない…マギウスの計画ではそれは叶わない」

「そ、そんな訳無い! 魔女にならなかったら、わ、私達は誰も殺さず!

 い、色々な…ま、魔女になる恐怖から解放されて、し、幸せに!」

「……どう頑張っても、私達は人間だ…穢れは溜まるだろう。

 怒られて…辛い思いをして…ドッペルが出たらどうなる?

 怒られてる最中に……きっと、相手が死ぬだろう」

「……そ、そんなの」

「それにだ、今のままだと守るべき物さえ消え去るぞ?

 ワルプルギスの夜だなんて、とんでもない魔女を呼べば

 お前達の家族も、守りたい親友も…全て瓦礫の一部になるだろう」

「……」

「神浜に…何の思い出もないのか?

 それなら、神浜を破壊しようとするな…

 お前達が知らない大事な物を…勝手に恐そうとするな。

 そんな行為、魔女と差して変わらない…大義名分があれば

 何でもやって良いわけが無いだろう?」

 

羽根達が動かなくなった…涙を流す羽根も居た。

折角抱いた希望にさえ、絶望は纏わり付く。

気付きたくない…気付いても考えたくない可能性。

私は彼女達に、そんな残酷な事実を突き付けた。

 

「……だが、マギウスの言う解放は所詮数ある可能性の1つでしか無い。

 可能性はまだあるはずだ…探す事を諦めない限り

 必ず…何処かにお前達が救われる可能性だって存在するはずだ。

 だから、そう悲観することじゃない。

 考える事を諦め無い限り…希望は捨てるべきじゃ無い」

 

羽根達は全員、動く素振りを見せなくなった。

 

「あれ? 何かもう終わってる?」

「レナ…かえで…」

「…何でこいつらは動いてないの? 何をしたの?」

「やちよさん…私は何もしてませんよ。

 私はただ…親友の言葉を伝えただけです」

「梨里奈さん、もうソウルジェムを」

「はい…ん? みふゆさん? それに…誰だ? その2人」

「ひ、酷いでございます! 天音月夜でございますよ!」

「う、うちは天音月咲だよ! 覚えてないの!?」

「…………あ、あぁ…そ、そうだな、あ、天音…し、姉妹だよな?」

「……何だか、ショックでございます…」

「お、覚えられてすら無かったなんて…」

 

ま、全く覚えてなかった…

 

「あなたって、結構忘れっぽいのね」

「あ、あはは…す、すみません。じゃ、じゃあこの2つは?」

「わ、私のソウルジェムでございます!」

「うちのも!」

「そうか、じゃあ渡そう」

 

私は全員にソウルジェムを渡した。

 

「何だか、私達が来なくても何とかなったかも知れないわね」

「いいえ、この後が一番苦労する場面でしょうしね。

 私達にはまだ、マギウスという厄介な存在が居る」

「そうですね、マギウスを止めましょう」

「でも、何処に行けば良いんですか?」

「地下にある聖堂です。聖堂はマギウスに取って 

 最も重要な場所ですからね」

 

みふゆさんの話を聞いて、分かったことは

この場所はねむが作ったうわさであり

自由に増築することが出来るらしい。

 

だが、ルートは変わらず、ただ道を塞ぐことしか出来ない。

だから、壊すしか無い…そして、その場所は…この変なぬいぐるみ。

 

「でも、破壊しないと通れないなら、罠が」

「はい、ですので私達で破壊します…一気に行きましょう」

「はい!」

 

罠の危険性があるのにあの3人は自分から率先して進んだ。。

当たり前の様に罠に挑むとは…驚いた。

 

「はぁ!」

 

3人が同時に攻撃し、蓋を破壊する。

同時に熊のぬいぐるみみたいなのから強風が!

 

「ちぃ!」

 

私は急いで2本の短刀を伸ばし、地面に深く差し込んだ。

 

「な、何この風!」

「いろはさん! わ、私の盾の影に!」

「狂犬! ハンマーで壁を作れ!」

「おぉおおおお!? おう!」

「あ、駄目! 槍が抜ける!」

「レナちゃんの力が弱いから!」

「く、くっそ! こ、このままじゃ! ふ、吹き飛ばされる!」

「梨里奈さん! わ、私達3人大丈夫!?」

「わ、私はだ、大丈夫だが…七美が!」

「り、梨里奈お姉ちゃん、わ、私が七美お姉ちゃんを!」

「うぅ…わ、私もお姉ちゃんを! うわぁ!」

「七美! 弥栄! 久実! くぅ!」

「も、もう力が…あ、あぁあ!」

「も、もう限界でございますー!」

「だ、駄目!」

「も、もう駄目! キャー!」

「わぁ! レナちゃん抜けちゃったじゃんかー!」

「あ、あたしももう、うわ!」

 

クソ…な、長すぎるだろ…この風…だ、大丈夫か? 全員。

し、仕方ない…さ、さっさと動くべきだったが…このままだと不味い。

 

「いい加減に…その臭い息を止めろ!」

「!!roar」

 

一気に脚力を増強させ、あの熊を思いっきり蹴り飛ばす。

熊はそのまま吹き飛ばされ、風が大きく逸れた。

 

「さ、流石! ナイスだよ!」

「はぁ…危なかった…鶴乃、良く飛ばされなかったな…

 その扇で良く地面に突き刺せたな…」

「一応、刃があるからね、この扇」

 

あぁ、よく見てみたら確かに扇の先端に刃が付いてるな。

 

「あと少しで皆でマギウスに挑めたのに…」

「えぇ…でも、こうなってしまった以上は仕方ない。

 私達だけだ挑まないと行けないわね」

「はい、急ぎましょう」

「あのうわさ…一撃で倒れましたね」

「最初からすればよかったと後悔してるよ」

 

もう少し判断が早ければな…はぁ、失敗した。

だが、悔んでる暇は無いか…先に進まないとな。

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