魔法少女の道化師   作:幻想郷のオリオン座

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深淵へ

階段…果てが見えない程の真っ暗な階段だ。

全くおどろおどろしい…

 

「果てが見えない…何だか、気分が悪くなってきました」

「暗澹としてるだけが理由じゃ無いみたいよ。

 階段を降りれば降りるほど、強い穢れのような物を感じるわ」

「うむ、マギウスが育ててるイヴが原因かもしれんな」

 

酷い穢れだな…全員、結構状態が悪いらしい。

これは本当に、私がこっちに来て正解だったと言える。

私ならこの穢れの中でも動けるんだからな。

 

私は自分に関する事なら、限界突破を用いてどうにでもなる。

私の魔法はそんな魔法だ。自分の限界を越え続けること。

自分の無茶を通すことが出来る魔法。そんな魔法だ。

 

「きた、来ましたよ…」

「何が来たの? さな」

「え? 私、何も言ってませんよ…」

「こんな穢れで気分が悪いとか、クソヨエーヤツじゃん」

「あ、誰だよ! 俺の事を馬鹿にした奴は!」

「いや、今のは狂犬自身の声だ」

「俺が俺の事馬鹿にするわけねーだろ!」

「そう言われると困るな」

 

…違和感、ここまでお膳立てしてくれてるんだ。

何か仕掛けているとしか思えないがな。

罠だろう…しかし、奇妙な罠だな。

 

「なはは! 皆混乱してるよー、こんな事で情け無いね、ししょー」

「本当、自分の仲間だと思うと、見てて情けなく思うわ、ね、いろは」

「はい、こんなの私達らしくないと思います

 皆、自分を忘れてしまってます」

「本当、情け無いとしか言えないな…私よりも遙かに愚かだ」

「間違いないですよやちよさん!」

「本当、最低な趣味だわ」

「リーダーとして皆に、お願いしても良いですか?」

「うむ、ここは自分も環くんの指示に従おか」

「この人達に自分が何者か教えてあげましょう」

「リーダー、こっちはどうする?」

「モキュー」

「うん、話を聞いてみるのも良いかも知れません

 私達の気持ちが揺らぐことはもうないと思いますけど」

「……?」

 

小さいな、こいつ…あぁ、そう言えばこんなのが居たな。

…忘れてた、いろはと一緒に居るんだったか。

 

「そうね、こんな小手先を効かせてももう無駄だと思うわ

 辿り着く前に、私も自分の覚悟を決めてきたから」

「はい、私もです。だから消しましょう、自分の穢れたコピーを」

 

いろはの言葉の後、私達の前に自分そっくりな奴らが出て来た。

はぁ…瓜二つだな、鏡を見てるようだ。

 

「やぁ、私…随分と幸せそうに日々を過ごしているな。

 お前は忘れたのか? 自分の親友を殺してしまった罪を。

 私は幸せになっては駄目だ。私は道化になり続けないと駄目だ。

 殺してしまった罪を償うために…私は道化になり続ける。

 

 そう決めて、自分に呪いを掛けたんじゃないのか?

 私はピエロだ。自分らしく過ごすことなどあってはならない。

 人の願いに応え続けて、思いに答え続けないと駄目だ」

「ほほぅ、そっちのお前も仲間と登場してたが。

 そっちは意外と殺伐としてたのか? まぁ性格悪そうだもんな。

 そっちのいろは達は。ご愁傷様と言える。

 

 そうだ、私は親友を殺してしまった。それは事実だ。

 だが、その罪を償うなら…私は幸せに生きなければならない。

 七美がそう願ったんだ。それにこっちは七美が蘇ってね。

 より一層、幸せに日々を過ごさなければならなくなった。

 あいつは容赦ないからな、幸せにならなければ怒られてしまう」

 

七美は意外と容赦がない。無理難題を平気で押付けてくる。

だが、今の私からしてみればその難題は難しい事でも無い。

七美を1度でも殺してしまった…そんな罪を背負って

それでも幸せに日々を過ごす。

 

七美に後ろめたい気持ちはある。

だが、あいつの思いには応えないと行けない。

今度こそ、私はあいつの期待に答える。道化師としてではなく

あいつの親友、仙波梨里奈として…な。

 

「なら、どうしてこっちに来た…親友を放置して良いのか?」

「あっちには沢山の仲間が居る。だから大丈夫だ。そう信じてる」

「ふん、どうせ全員雑魚だ!」

 

っと、流石は私に瓜二つってだけはあるな。動きがまぁまぁ速い。

それでも何だか弱いと感じてしまうな。

所詮は模倣品、私と同じ実力では無いと言うことだろう。

 

「はぁ!」

「ん、意外とそっちでは私は弱いんだな」

「……どうしてそんなにも自分が強くなったか…覚えているか?

 数多の期待に答え続けてきたからだ。その力は空っぽだ。

 所詮は周りに期待され、答え続けた結果でしかない」

「そうだな、魔法少女としての実力や自身の願いもそうだ。

 他者の期待に答え続ける為に、私は無限に強くなることを選んだ。

 だがそれも今では、正しい選択だったかも知れないって思うよ。

 

 過去の過ちも、未来で結果となれば正しい選択だ。

 少なくとも今、私はこの願いを選んで良かったと思う。

 お陰で、こんなにも強くなって仲間を助けられるんだから」

「それは所詮、仲間の期待に答えようとしているだけだ。

 今までと変わらない、自分で選んだんじゃない。

 仲間に期待され、そして答えようとしてる! 変わってない!」

「そうだな、変わってないよ。期待に答えてるだけだ。

 だが違うのは、今までは期待に答えないと駄目だと言う使命感。

 だが今は、期待に答えたいという、自身の思いから強くなってる!」

「ぐぁ!」

「期待に答えたいと、期待に答えないと。

 文面にすれば僅か1文字程度の差だが、心で全く違う物だ。

 心の底から…成長出来て良かったと…思えるよ」

 

これは自分で選んだ成長だった。強くなりたいと思うのも

昔は強くなり、期待に答えなければならなかったからだ。

今は大事な奴らの期待に答えたいから…強くなる事にした。

 

「ありのままで居られる場所がなければ、こうはならないだろうな。

 ふ、今の私は少しだけだが…七美の期待に答える事が出来てると思う。

 やっとだよ、やっと七美の期待に少しだけ答えたる事が出来た。

 後は最高に幸せにならないとな。私も幸せになりたい」

「魔女になるという、そんな呪いがある限り、幸せにはなれない」

「なら、全てが終わった後に考えるまでだ。

 少なくとも、今のままでは私は幸せにはなれないからな。

 犠牲を黙認した上で得た、自分達の仮初めの平和など必要無い」

「世の中は数多の犠牲の上で成り立ってる。理解してるだろう?

 その犠牲が少しだけ増えるだけだ…僅かな犠牲を増やしただけで

 私達が幸せになれるなら、それで良いじゃないか」

「少なくとも、神浜の人達が犠牲になるというのは

 私に取って、僅かな犠牲ではないんだよ、偽物の私。

 それ位、お前も私なら分かってる筈だろう?

 

 七美の死だって、はたから見ればありふれた死の1つだ。

 だが、私に取って、その死はどんな死よりも重かった。

 そんな物だ。だから、神浜の人は犠牲にはさせない」

「……」

 

分かってる。世の中は色々な犠牲の上で成り立ってると。

既に魔女になり、その命を落とした魔法少女だって多いだろう。

魔女の犠牲となった人達だって多いだろう。

……だが、それで犠牲を選んでも良いとは思えない。

 

「お前は少しくらい…子供になれば良い」

「安心しろ、今は子供だ。これはわがままに等しいのだから。

 だから、そこをどけろ。偽物の私……いや、過去の私。

 私はもう…お前じゃない。道化師はもう止めた」

「……そうか、分かった…なら。私を消せ」

 

もう1人の私が戦うことを止めた。

彼女は私の前で、武器を置いた。

 

「……殺せと?」

「あぁ…少しだけ嬉しかったからな。

 私も何かを楽しめ時が来る…それが分かったからな」

「……そうか、なら…さよならだ」

「うぐ!」

 

私の一撃がもう1人の私を貫き、彼女はゆっくりと倒れる。

流石に気分が悪くなるな、自分そっくりの何かを屠るのは。

こいつは偽物…ではあるが、同時に過去の私でもあった。

その過去を乗り越え、今、終止符を打っただけだ。

 

「……死に際に1つ…聞かせて…欲しい…

 どうして、そんなに弱くなれた…? どうしてだ…」

「弱い自分を自覚し、強くなろうと思ったからだ。

 だから、私は1人で何でも出来る

 そんな道化師から少女に戻れた…まだ魔法少女だがな」

「……そうか、もう…お前はただの…仙波梨里奈…か」

「そうだ、何処にでも居る…ちょっと強いだけの少女だよ」

「ふ、ちょっと…? 馬鹿だな、私…ちょっとって次元じゃ…ないだろ?」

「ふ、かもな…さぁ、もうお別れの時間だ…幸せになれたら良いな」

「死んだ後に、幸せと…? 面白い冗談だ…

 だが、今一瞬だけは…何だか…幸せな…気分だよ…

 七美…私達にあの世があるか…分からないが…

 死んだ後…謝らせて…くれ」

 

そう言い残し、もう1人の私は消え去った。

あの世があるんだろうか? この偽物達に。

だがまぁ良いだろう。幸せに逝けたなら、それで良い。

 

「そっちは大丈夫か?」

「はい、何とか」

 

全員、自分達のコピーを乗り越えたようだな。

全員、チームみかづき荘で良かったと、そう思った様だ。

 

「梨里奈と十七夜は大丈夫だった?」

「む、何も変わらぬ自分が居た」

「十七夜らしいわね、梨里奈は?」

「私は過去の私が居ただけでしたよ。ある意味、良かったと思えた」

「そう、マギウスの小細工は完全に失敗したと言う事ね」

「それじゃ、行きましょう、マギウスの所に。

 もうすぐみふゆさん達がうわさを倒すはずですし」

「えぇ、降りましょう…この深淵に」

 

マギウス…何故来ない? イヴを守りたいなら

この場で打って出ても良いと思うが…罠があるのか

はたまた、私達を圧倒できる自信があるのか…

警戒はした方が良いか。

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