神浜の被害はあまりにも甚大だった。
だが、私達だけに絞るのであれば
被害よりも得た物の方が大きいだろう。
マギウス達の強行により発生した事態だが
本来であれば、あの化け物は
見滝浜へ出る予定だったそうだ。
まぁ、あんな化け物を召喚は出来ないだろうしな。
それが、この神浜へ襲来したのだ。
どちらに出現した方が被害が甚大だったのかは不明だが
少なくとも、今、この状況であるのなら
ワルプルギスの夜に対抗出来るだけの
魔法少女が集結していた神浜に現われた方が
被害は抑えられたのではないかと想定できる。
「偶然の産物……もしくは必然だったのか」
学校は一時的な休校。過去最大のスーパーセルの飛来により
神浜は甚大すぎる被害を被ったわけだからな。
そう言う訳で、私はみかづき荘で過ごすことになる。
理由としては……そうだな、飛び火というか……
私が過ごしていたあの寮が戦闘の影響で崩壊したからだ。
この辺りはそこまで甚大な被害だったというわけでは無いが
ワルプルギスの夜はちょっと攻撃の規模がな。
ビルを飛ばしてくるし、ビルを一瞬で溶かすからな。
まぁ、その大規模すぎる攻撃の影響を受けたというわけだ。
だが、もしワルプルギスの夜が神浜では無く
見滝浜に現われていたとすれば……十中八九
見滝浜の魔法少女は全滅していただろう。
そして、その甚大すぎる被害。仮にまどか達が
あの化け物を撃退出来たとしても
彼女達の家族は悲惨な事になっていただろうな。
あの攻撃を受け止めるだけの魔法少女が少ないからだ。
ほむらであれば、時間を止めて避ける事は出来るだろうが
それは避けただけであり、ビルによる被害は甚大だろう。
やはり神浜に現われたのは最も理想的な展開だったと言える。
何故なら、数多の魔法少女達の活躍で
ワルプルギスの夜を完全に撃破出来たからな。
「しかし」
部屋から少しだけ顔を出し、周囲を見渡す。
「やっちゃん、こちらを」
みかづき荘は本当に住民の数が増えた。
相当デカい場所だったというのが改めて分かるよ。
私達4人と、更にいろは、フェリシア、さな、いろはとうい
そしてみふゆさんと、相当な人数と言える。
本当に部屋数が異常なくらいに多いと感じた。
私は1人部屋だが、七美、弥栄、久実は同室。
いろはとういも同室だがな。
「梨里奈ちゃん」
「ん? 七美、おはよう」
「うん、おはよう……おはよう……梨里奈……ちゃん…」
いつも、何の気なくしている、ただの挨拶だった。
だが、その挨拶と同時に七美は涙を瞳に溜め
その場に崩れ落ちる……私も同じ様に瞳に涙が溜まる。
そして、一筋だけ私の頬をなぞった。
これは……本当に、私は……あぁ、嬉しい。
涙をここまで心地よい流したのは……きっと初めてだ。
「ありがとう……私を、止めてくれて……」
「ありがとう……私の前に再び姿を見せてくれて……」
「え、えへへ……お、お礼なら……2人に言って?
わ、私はほら……何もしてないから……」
「ふふ、ならお前もあの2人にお礼をしっかりとな。
私だって、あいつらがいなければ
お前を止めることが出来なかった」
「……そうだね、弥栄、久実」
「え!? あ、え!?」
「ありがとうな、2人とも」
「ありがとうね、私を、私達を助けてくれて」
「い、いや、そ、そんな、わ、私達は……」
「お陰でこうやって……もう一度、幸せに過せるよ」
「あぁ、だがこれからもやることは多いんだがな。
私達に掛けられた、この呪いを必ず解く方法を探し出そう。
真の幸せはその瞬間だからな」
「うん、やらないとね」
「だが、今は祝おう。ようやくこの瞬間が来たんだ」
私達の会話を聞いていたいろは達の姿を確認する。
その姿を見た後、私の頬は自然と緩んでいた。
「さぁ、約束を果たそう」
「よっしゃー! 来たぜー!」
「おぉー! ついに来たね! 待ってました!」
「え? 何の騒ぎですか? 私、何も知らないんですけど…」
「えぇ、教えてないからね、みふゆには」
「正直な話、私達だけで良いのか……」
「皆集めたいけどね」
「まぁ、祝いの席に私の料理が相応しいかの審査という形さ。
全員集めて、実はそれ程でしたってなると恥ずかしいしな」
「あなたって、変な所で自信なさげよね」
「私が本当の意味で本気を出すのはこれが初めてですしね。
だからこそ、自信は無い。でも、必ず応えてみせる。
ようやく1度、大事な親友の期待に応えることが出来たんです。
なら、私にも大事な人達の期待に応えることが出来る。
自信が無いと言いながら、今の私は自信満々ですよ」
「おぉー! 何か凄そーだぞ!」
「だから、私の全力の手料理を振る舞いましょう」
「梨里奈ちゃんの本気料理とか楽しみすぎる~!」
「梨里奈さんって、料理も出来るんですね」
「勿論ですよ。女の子であれば料理が出来なくては」
「ぐは!」
……何人か激しい動揺を見せたな。
出来ないのだろうか……特に七美の動揺がなぁ。
「り、梨里奈ちゃん……け、結構容赦ないよね……」
「あら、あなたは出来ないの? 料理」
「……で、で」
「な、七美お姉ちゃんはえっと、
びょ、病院で過ごすのが多くて!
馬鹿って言われるけど違うの!」
「久実ー! いーわーなーいーでー!」
「あぁ! ご、ごめんなさーい!」
「何も泣く事無いじゃないか、七美。大丈夫だ。
毎日勉強を教えてあげてるし、そのついでに料理も教えよう」
「おぉ、毎日姉ちゃんに勉強教えて貰ってんのか!
姉ちゃん教えるの上手ーからな!」
「そ、そうなんだよね……でも、だからこそ……何か情け無い。
じ、実際梨里奈ちゃんは教えるの凄く上手なんだけど
そんな最高の家庭教師がいるのに成績が上がらなーい!」
「だ、大丈夫だよ七美お姉ちゃん!」
「そ、そうそう、わ、私も成績悪いし! 久実は良いけど!」
「なんで弥栄お姉ちゃんまで私を揺するのー!?」
「ぐぬぬぅ、ど、どうして私よりも成績がぁ……
いや、分かるけど……でも、認めたくないし!」
「ま、まぁ、久実はいつの梨里奈ちゃんに
勉強教えて貰ってたしね……あ、あはは」
「あー! お、お姉ちゃーん! そんなにがっくりしないでー!」
七美がなにやら少しだけ涙を溜め、その場に座り込む。
「だ、大丈夫だ七美、お前はほら、形無い事を考えるのが得意だしな!
こう、想定とか想像とか、そう言うのが得意だからな!」
「ありがとう梨里奈ちゃん、でもね……
それが得意でも成績……上がらないよ」
「だ、大丈夫だ! 将来のことを考えるのなら
そう言うのが得意である方が良いからな!」
「なんて言うか、この子……思ってたより元気ね」
「そ、そうですね」
「みふゆ、どうしたのかしら?」
「いや、梨里奈さんがもし同い年なら
私も勉強教えて欲しかったなーと」
「いや、私の方こそ教えて欲しいです!」
「いろは……勉強苦手なのか?」
「あ、えっと……は、はい……」
……今度、勉強を教えてやった方が良いのかも知れない。
ひとまず、大学の勉強もしてみるか……簡単だったし。
「じゃあ、料理の後教えよう。七美もそれで良いか?」
「教えてくださーい!」
「で、いろはの勉強も教えよう。
その傍らで良いなら、みふゆさんも教えます」
「え!? 教えられるんですか!?」
「えぇまぁ、簡単ですしね、大学の勉強程度」
「……」
やはり私は当たり前の様に変な発言をしたのだろう。
何だか全員がキョトンとしている……
「驚かないでくれ」
「驚くよ! 何でしれっと大学の勉強してるの!?」
「愚問だな、私は全教科100点満点だ。取らないと駄目だからな。
それにだ、私は授業料を免除して貰ってるくらいだからな。
頭が良くなくては、お金が掛ってしまう。それは困る」
「……い、いつも思うのだけど、あなたは異常なくらい頭が良いわね。
魔法少女として戦いながら、良くそこまで出来るわね」
「勉強は流れさえ分かれば問題はありませんからね」
まぁ、勉強を教える話はまた後にしてだ。
今は料理だな、料理をしないと。
「では、この話はここまでにして」
「ここまでにして良いのかな?
でも、このままだと最強の座が危うい!」
「大学の勉強を程度と言う事は……
最高学年のレベルも出来るでしょうね」
「出来ますよ。なので年上に教えることも出来ます」
「……勉強しないと!」
「その前に料理だ、料理を食べて言ってくれ」
「おぉ! そうだった!」
「本当、多芸だよね、梨里奈ちゃん……大変でしょ?」
「あぁ、大変だ。だけど、今はそれ以上に……楽しい」
「……えへへ、良かった!」
七美が私の返事に対し、少し驚いた後、満面の笑みで返してくれた。
このやり取りの後、すぐ全員同じ様に私に笑顔を向けてくれる。
頑張らなくては、と言う思いと、頑張ろうという思い。
僅かな文字の近いだろうと、その意味は大きく違う。
私の心は踊りだし、全力の料理を私は作る事にした。
私に出来る最大の事を、私に出来る最高の料理を。
最高の美味しいと思って貰える、最高の料理を振る舞う。
それが、私がやりたいことで、やるべき事!
「お待たせ、私が出来る最高の料理だ」
「お、おぉおおぉお!」
みかづき荘にある材料をふんだんに使わせて貰った。
無論、やちよさんからの許可は貰ってるからな。
「お邪魔しまーすって、何か凄く良い匂いが!」
「あら、ももこ。今回はグッとタイミングね」
「え!? まさか、これって!」
「ちょ、ちょっと! 何!? 美味しそうなんだけど!?」
「凄いよ!」
「約束を果たそうとな。今回は私の料理が
祝いの席に相応しいかを測る為の試作だ。
だが、全力は出させて貰ってる。ふふ」
「あ、あの話か! じゃあ、もう一度作るって事!?」
「そう言う事だ、今度は全員に振る舞う予定だ。
だが、今回はみかづき荘の皆の分だけだな」
「だ、だけって事は……」
「もしかしてお預け!?」
「えー!? そ、そんなー!」
「うぅ、最高にバッドタイミングだ!」
「早合点するな、私もちょっと気合いを入れすぎてな」
「じゃ、じゃあ、まさか!」
「あぁ、3人分位は十分余ってる」
「おぉおおぉお! さいっこう!」
「よ、良かった、お預けとか酷すぎるし!」
「美味しく食べてくれよ、その為に頑張ったからな」
「あぁ! 任せてよ!」
そそくさと3人分を用意し、私達は全員で手を合せた。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
やちよさんの挨拶と同時に全員が挨拶をする。
そして、笑顔のまま皆が私が作った料理に手を伸ばす。
「お、おいしぃい!」
「七美、お前は大袈裟だな」
「お、大袈裟じゃ無いって、最高に美味しいよこれ!」
「ぷ、プロレベル! いや、それ以上かも!?」
「うぅ、ほっぺたが落ちそう……蕩けるように美味しい……」
「こ、高級食材じゃ無くても調理次第で
ここまで化けるのね……美味しすぎるわ」
「料理で扱えるテクニックは無論、全て把握してるからな。
白米も美味しいだろう?」
「えぇ、本当にお店で食べてるのかって思うくらいに丁度良いわ」
「梨里奈ちゃん!」
「ん? どうした七美」
「私のお嫁さんになってくださーい!」
「お、お嫁さん? まぁ、同性婚もあるしな。
だが、残念ながら私にそっちの気はないんだ」
「フラれた-!」
「ふふ、これからもずっと仲の良い親友のままで居ような」
「あはは、完全にフラれちゃった時の台詞だよ~
でも、嬉しいな! ずっと親友で居ようね!」
「あぁ、約束だ」
「仲が良いわね」
「そうですね」
「うおぉおお! うめー! うめーぜー!」
「フェリシア、も、もうちょっとゆっくり食べようよ-」
「でも、フェリシアさんらしいですよね」
「そうだけどさー、でも、こうなってくると本当にチャンス!
梨里奈ちゃんが万々歳でバイトをしてる間に!」
「正直、勿体ないと思うんだけど?」
「えー!? 酷いよレナちゃん! いや、分かるけどね……」
「それでも私は良いぞ?」
「本当!? で、でも、やっぱり勿体ないー!」
「まぁ、梨里奈は引く手は数多だろうしな、才能の塊だし。
最大限に生かせば、普通に歴史に名前を残しそうだし」
「勿論、そのつもりで私は頑張ってるからな。
そういう風に育ってきた。だが、誰か1人の1番になれるなら
今の私はそれでも良いと思ってるよ」
平和な時間……この時間が尊い事を、私はよく知った。
七美を失い、仲間を失った経験が私にはある。
だが、その経験がきっと、私をこれからも強くするだろう。
……ありがとうな、私に出会ってくれて。
再び私の前に姿を現してくれて……私は幸せ者だ。