少しの時間を空け、私はマギウスの元へ来た。
色々とやることが多く、来るのが遅くなったな。
中々に多忙という感じだ。
「あ、来たね」
「何だ? 来ることが分かってたのか?」
「あぁ、お姉さんからも話は聞いたよ。
勿論、君も来るとは思ってた」
「まず想定できる最初の質問に答えるケド
今回のうわさの襲撃はアリナ達は一切関与してない。
そんな事したら、あなたにデリートされちゃうしネ」
「私がそんな野蛮な訳無いだろう?
何度も言ったが、私は臆病だからな。
それに、その質問は私がしたい質問じゃ無いさ」
「およ? そうなの?」
「あぁ、お前らが関与してないことは理解してるさ。
私もそれなりに一緒に居るわけだからな。
お前達が黒なら私が気付かないはずもない。
今回私が来た理由は、うわさの襲撃関連ではあるが
このブレスレットの事だよ」
私はゆっくりと腕を上げ
腕に付いてる不可解なブレスレットを見せた。
「何だい? このブレスレットは」
「梨里奈が宝石のアクセサリーを付けるなんて意外だにゃー」
「趣味の良いアクセサリーとは言えないと思うんですケド?」
「言うまでも無いとは思うが
私はこんな高価なアクセサリーを買えるほど
金に余裕が無い、貧乏だからな。
鶴乃のお陰でお金は貯まってきてるが、
貧乏性の私が高い買い物を出来る筈も無いさ」
そもそも、こんなアクセサリーを買うくらいなら
新しい服を買うと思う。
まぁ、その服も安い奴だろうがな。
流石に5着では厳しいと感じて来た。
最初は3着で回してたのが嘘のようだ。
ふふん、私も贅沢になった物だ。
「なんかさ、梨里奈って能力高いのに
何だか妙に不憫って言うか……
理不尽とか感じ無いの-?」
「あんたは他の金持ち層よりも
遙かに能力高いしネ」
「私は結構満足してるよ」
「もっとアングリーになった方が良いと思うんですケド?」
「自分の境遇に腹を立てるというのは贅沢だからな。
普通ではないが、生きてるだけでも幸せ者さ」
「君は本当に献身的というか愚直というか。
いつか激しい後悔に見舞われても知らないよ?」
「ふ、心配してくれてありがとうな」
少し言われ慣れた言葉だ。
同じ様な言葉を私は何度も七美から贈られてた。
「だが、今は私の境遇よりもこのブレスレットだ。
さっきも言ったが、これは私が買った物じゃ無い。
うわさの襲撃時に出現した、異様なマネキン。
そのマネキンが変化して、私の腕に引っ付いた。
正確にはブレスレットになって引っ付いた訳だが」
「そんな事って、それにマネキンってなーに?」
「デカいマネキンでな、ちょっと待っててくれ、書く」
私は自分が遭遇したあのマネキンを細かく書いた。
書きながら思ったことだが、何とも奇怪な姿だ。
顔も無く両手両足も無い、謎の巨大なマネキン。
マネキンは確かに肉体さえ存在していれば
顔なんて物は不要なのかも知れない。
ある意味、マネキンに必要とされてる要素は
服を魅せる事が出来る、理想的な体。
まぁ、誰もマネキンには期待なんてしないだろうし
必要なのはマネキン本体では無く
その本体を包み隠し、飾り付けてる服だからな。
「っと、こんな形だ」
「魔女……とは、違うような……でも、魔女っぽい」
「梨里奈、あんた随分と絵が上手いネ。
本気で書いたらどんな風になるワケ?」
「流石芸術家、私が描いた化け物の造形より
私が書いた絵の方に興味が出るとは。
だが、残念な事に私が本気で書いても
お前みたいに特別な作品は出来ないだろう。
私が描くのはありふれた幸せだろうからな」
「それは」
「そう、それが私が今求める、1番の理想だ」
ありふれた幸せ。今の私はそれが欲しいと感じるだろう。
無論、私では無い……私は十分過ぎる程、幸せだからだ。
例え魔女になると言う呪いに苛まれていようとも……な。
「ありふれた幸せほど、難しい物は無いよ」
「あぁ、千差万別、ありとあらゆる形があるからな。
考え方次第では、あらゆる理想へと変化する
最高の芸術作品なのかも知れない。
だが、今はその話よりもこの化け物だ。
心当りは無いか? 中々に強かったが……」
「正直、梨里奈が強いと言うことは相当なんだろうね」
「普通の魔法少女だと苦戦は必至なんだろうなー」
「あぁ、正直私も今、自分がどれ程か測れてない。
ワルプルギスの夜の後から、私は妙に強くなったし」
「……これ以上強くなってどうすんのさ」
「魔法の効果と言うか、恐らく願いの効果だな……
私の願いは自分の限界を越え続けることだから
肉体の限界突破を多用したことで
その限界突破による限界にさえ対抗するために
私の願いで肉体が強化されてるんだと思う」
「……そ、そう」
さ、3人が少しだけ引きつった笑みを見せた。
ま、まぁ、自分でも若干驚くからな。
「えっと、怯えないでくれ、今は敵じゃないからな」
「本当、あんただけは敵に回したくないネ」
「きっとこの化け物、多少実力がある魔法少女じゃ
束になっても勝てないんだろうなー……」
「だけど、流石の梨里奈も1人じゃ」
「……」
「なんで目を逸らしたのかな~?」
「ソ、ソウダナー、やっぱり多いと」
「はい、理解したよ。1人でやっちゃったんだね」
「……引かないで欲しい」
「本当、ワルプルギスの夜って
とんでもなく強かったんだね…」
そうだよな、やはり語り継がれる魔女と言うだけはある。
今の戦果で理解したが、私が苦戦するのは相当なのでは?
「だ、だがまぁ、1番危険だったのは
口寄せ神社のうわさだな、危うかったし。
次は七美と戦った時だな、死にかけた。
弥栄にも殺されそうになったり、私も散々だ」
「本当、不憫だよね……でも、流石は七美だよね。
正直、梨里奈と戦えるって相当だよねー」
「後はマミとかネ。何度も戦ってたし」
「そうだな、マミは相当強かったな。
あれで中学3年生とは恐れ入ったよ」
「君と1つしか年は変わらないよね?
それに、魔法少女歴は君の方が浅いだろ?」
「……そう言えばそうだったな」
「たまーに馬鹿になるよね」
「い、言わないで欲しい……」
うぐぐ、何でこんな話題に。
い、今はそれよりもこのよく分からない化け物だ!
「と、とにかくだ! この化け物の話しに戻ろう!
ま、まぁなんだ、この化け物を倒したら
このブレスレットになったんだ」
「はいはい、脱線しすぎちゃったしネ」
「でー、これがブレスレット?」
「あぁ、そうだ」
「……本来であれば、道具を説明しようとするときは
そのアクセサリーを取って見やすいようにすると思うのだけど」
「それが普通だな、礼儀という奴だろう。
誰でも当たり前の様にする、礼儀作法。
とは言え、それを私がしてない地点で察してるとは思うが
このブレスレットは私の腕から離すことが出来ないんだ」
「まぁ、当然察しては居たんだけどねー」
「勿論、邪魔だから壊そうとはしたんだが
七美が重要そうだから壊さない方が良いと言ってな」
「あからさまに不自然だもんね」
「そうだろ? 色々な場所が欠けてるアクセサリーだ。
当然、装飾品としてはどうしようも無い程の欠陥品」
何も完成してないと言っても過言では無いほどに
殆どの要素が欠落している欠陥品だ。
「全く、問題ばかりで頭が痛い……
これではゆっくり眠れない」
「まぁ、明らかに完成させちゃうと何かありそうだよね-」
「あぁ、窪みの場所から考えて……残り7つ。
あの化け物が倒された際にこのブレスレットになる
あるいは、この宝石になるのだとすれば」
「最低でも残り7回、その手強い化け物が現れる」
「そう言う事だ。ただでさえ妙な気配が増えてる状況。
そして、この謎の宝石に謎の魔女の様な化け物。
だが、その化け物は当然、とある組織に密接に関係する何か」
「……理解はしてるよ」
「あぁ、お前達マギウス。
うわさを率いてる化け物が出て来た。
この状況で考えられるのはいくつかある。
ねむの魔法の暴走したのか
灯花が集めていたというエネルギーが暴走したのか
アリナの結界に隔離された何かしらの魔女が暴走したか
あるいは、うわさで力を蓄えてたとある残滓の影響か」
「もしかして」
「あぁ、お前らが大事に大事に育て上げて作りだし
今も私達を目の見えない場所で守ってる存在」
「僕らが育て、自動浄化システムを管理してくれてる魔女。
エンブリオ・イブ」
恐らくこの宝石は今、姿が分からなくなってるイブ。
あれが関わってきていると予想する。
アリナの結界が暴走してるという可能性も0に近く
灯花が溜めてたエネルギーの殆どはイブの為。
ねむの具現化の魔法はそもそもが意図しなければならないはず。
自分の寿命を削ると言ってたし、相当な負荷が掛る。
そんな負荷が掛るというのに多様は出来ないだろう。
他にある可能性として、七美のドッペルが暴走した。
そう言う可能性もあるし、あるいは誰かのドッペルの影響。
だが、うわさに対処したのは殆どが私達だからな。
そのうわさ達が関わってくるなら、ドッペル説は薄いだろう。
だから、うわさを率いてる化け物の出現には
うわさによって力を蓄えてきてたイブ。
それが大きく関わってると考えるのが自然だ。
「もしイブが関わってるならチャンスかもね。
イブを改良して、
自動浄化システムの拡張も出来るかも」
「他にもこの宝石の多大な魔力を利用して
感情を統一する事が出来る可能性もある」
「そんな事が出来るのかい?」
「そんな事が出来る魔法少女が居るかも知れない。
少なくとも私は1人だけ、
その魔法少女を知ってる。
私の親友……千花 七美だ」
「彼女の魔法は糸で繋ぐ魔法だよ?」
「七美の魔法は繋ぐ魔法だ。
とは言え、七美1人では辛いかもしれないがな。
他にもそんな魔法が扱える魔法少女が居ればな」
「うーん、そこら辺も神浜マギアユニオンを通して
色々と調べてみるよー、所で凄く今更なんだけど」
「なんだ?」
「七美は?」
「……追試だ」
「まぁ、大体察してたけどね-」
「うーむ、魔法少女の解放のことばかりで
あまり七美に勉強を教える余裕が無かったからな。
力及ばずだ……申し訳無いと感じるよ」
「いや、あんたが感じる事じゃ無いよネ?」
「は、はは……」
とは言え、しばらくは勉強を教えられないかな……
すまない七美、もうしばらくの間だ、辛抱してくれ。