結局、バイトは七美以外は見付からない。
弥栄と久実も手伝ってくれようとはしたが
七美の判断であまり良くないとなった。
弥栄も久実も意外と人見知りな所があり
親しい間柄なら良いが、それ以外は不味い。
七美は周りをよく見ているからな。
その七美が不味いと判断したと言う事は
当然、不味いことなのだろうと分かる。
「はぁ、はぁ、しんどいかも」
「親父さん、材料を切りました」
「あぁ、ありがとう。
何だか昨日より速くなったね」
「えぇ、必要ですからね」
このままだと不味いと判断した私は
昨日、色々と調べて料理を速くなるコツを
徹底的に集めて実戦する。
必要であるなら努力をする。
その努力に意義があると思うのであれば
その努力に手を抜いたりはしない。
「七美」
「はいはい、お任せ!」
七美には中々に苦労を掛ける事になるが
裏方の手伝いをして貰う事にした。
七美の仕事は私の支援とレジだ。
最優先はレジではあるが
必要であれば、私の手伝いをして貰う。
「いやぁ、中々大変だね、お仕事って」
「そうだな、楽な仕事なんて無いし当然だが」
「だねー、なら、楽しい仕事をしようかなー」
「それで良いんじゃ無いか?
七美がそれで良いと思うなら」
「だね」
とは言え、七美の就職先は大体決ってる。
それは、両親の仕事を手伝うことだ。
七美はお嬢様だからな。
病弱であまり自分の親を自慢しない
結構謙遜気味の彼女ではあるが家は一流。
父親は会社を経営してるし
母親はブランドの衣服を作ってる。
要は、母親が作ったブランドの服を
父親が売ってるというのが七美の家族だ。
家は大成功して、かなりのお金持ち。
とは言え、生まれ育った場所で仕事をしたい。
そう言う意向もあり、私達の故郷に居る。
「ま、私は就職先決ってるけど。
体も頑丈になって来たしね」
「なら、経営術を習うのか?」
「うん、あまり頭良くないけど
梨里奈ちゃんが言うようにそう言うのは得意だし
そう言った経営術的なのを習おうかなぁって」
当然、七美はそう言った能力に優れている。
不確定な事柄を想像するのは重要な事だからな。
私も想定できなかった未来の不安や
今のその先、未来の想像や可能性の把握。
その能力は経営をする上では必須の技術だ。
七美はそう言った発想能力に秀でてて
私なんかじゃ、その足下にも及ばないだろう。
あげく、周りの性格や機微から内面を見抜く
そう言った目もかなり秀でてる。
どれだけ秀でているかと言えば
どれだけ私が隠しても見抜かれるほどだ。
七美相手に、親しい人間は嘘を吐けないだろう。
「お前なら出来るさ」
「梨里奈ちゃんに言われたら自信出るよ」
私達は会話をしながら色々な料理を作る。
とは言え、七美は料理には手を出しては無い。
七美は料理が出来ないからな。
色々と教えては居るが、まだまだという感じだ。
とは言え、この万々歳の料理を再現するのは
かなり難易度が高く、私も完璧では無い。
まだ失敗しかねない、それだけ絶妙な料理だ。
ふふ、やはり親父さんの料理の腕は凄い。
あの味を安定して出せるのは凄い技量だ。
「姉ちゃん、えっと」
「用意できてる、届けてくれ」
「おぅ! やっぱはえーな!
てか、教えたっけ?」
「聞えてるからな」
「おぉ! 流石姉ちゃんだぜ!」
「……本当、あんたどうなってんのよ」
今日も万々歳に来ていたレナが
軽く引いたような目で私を見ていた。
「まぁ、私は色々出来るからな」
「いや、それは分かるんだけど……
てか、あんたが動いて万々歳
かなり繁盛してるって言うか……
最初から動けば良かったんじゃ無いの?」
「最初は自信が無かったからな
自分の行動に、自分の行ないに
自分の考えに、自分の思いに。
だが、七美も取り戻せたんだ
そこから自信がハッキリ出来ただけだ」
「本当、万々歳には勿体ないんじゃ無い?」
「馬鹿を言うな、万々歳だから出来たんだ。
私が私の行動に結果が付いてくると理解できたのは
万々歳だからだ、当然だろう?
私を肯定してくれる優しい親父さん。
どんな時も元気で支え様としてくれる鶴乃。
私の事を慕い、必死に頑張ってくれるフェリシア。
どんな時も人が努力しようと覚悟するには、
自分を認めてくれるような人が必要なんだよ」
「……そうなんだ」
「そうだ、支えてくれる誰かが居るのは良いことだ。
どんなわがままを言っても、肯定してくれる。
そんな誰かが居るのは、とても素晴らしい事だ」
「ま、まぁ、そうよね」
レナが少しだけ顔を赤くしながら小さく呟く。
恐らく、ももこ達の事を思い浮かべたのだろう。
レナにもその素晴らしい人達は居る。
自信を持って良い事だろう。
「梨里奈ちゃん! か、カレーうどん!」
「あぁ! 分かった!」
素早く包丁を取り替え、カレーうどんを用意する。
アレルギーが発生しないようにラーメンと
うどんは別々にして料理しないとな。
アレルギーは危険だ、必ずリスクは排除しないとな。
「次はこの材料だね」
「七美、糸は使わないのか?」
「使うわけ無いじゃん、リスクは避けないとね」
「そ、そうだな」
い、忙しいせいで若干忘れてたが
そうだよな、魔法少女の存在が露呈するのは
可能な限り避けないと駄目だからな…
うぅ、やはりまだまだ甘いところがあるなぁ、私も。
「はぁ、きょ、今日も終わったぜぇ~」
「本当、お、大忙しだね、でも最高!」
「梨里奈ちゃんのお陰で売り上げも伸びたよ、
ありがとうね」
「いえ、気にしないで下さい。
元々万々歳にはこれだけのポテンシャルがあった。
ただ、それだけの話ですよ」
「梨里奈ちゃん!」
そんな会話をしてると、鶴乃が私の前に来た。
「ん? どうした?」
「ありがとう!」
私が彼女の方を向くと同時に
鶴乃は笑顔になり、私の両手を取り、礼を言う。
深々と頭を下げながらも、ハッキリと大きな声で。
「……本当に、ありがとう」
鶴乃が握ってる手が、さっきよりも少しだけ
力強くなったように感じる。
同時に、僅かに声が震えてる様に思えた。
……鶴乃にとって大盛況は本当に嬉しい事だ。
あの儚い泡沫の夢に見えた、あの過去。
その過去を見た私とフェリシアには
この鶴乃の小さな言葉の意図くらいは分かる。
廃れてきてる自分の大事な場所を
昔のように繁盛させ、永遠に日々を過ごす。
それも、奇跡の力に全て頼るわけでは無く
可能な限り自分達の力で繁盛させたかった。
その夢が今、一部とは言え叶ったんだ。
必死に頑張ってきた努力が
まだ一時的とは言え無駄では無かったと
そう証明された瞬間でもある。
客足も昨日よりも増え、このまま増えて行けば
鶴乃の夢は叶う可能性が高い。
だが、まだ完全に叶ったわけでは無い。
「鶴乃、まだまだゴールまで遠いぞ?
ふふ、お礼を言うのはまだ先だ。
今はこのチャンスを掴むことを考えよう。
この勝負は一世一代の勝負と言える。
ここを物に出来るか否かだ。
さぁ、まだまだ油断しないで行こう」
「う、うん! でも、今は感謝させて……
梨里奈ちゃん、本当にありがとう」
「鶴乃……本当にありがとう」
親父さんが鶴乃にお礼を言いながら彼女に近寄る。
「な、なんで? わ、私よりも梨里奈ちゃんにお礼を」
「うん、勿論梨里奈ちゃんには本当に感謝してるよ。
万々歳が繁盛する切っ掛けを作ってくれたんだからね。
でも、鶴乃が諦めなかったからこうなったんだ。
だから、まずは鶴乃にしっかりと感謝するよ。
ありがとう、万々歳を好きなままで居てくれて」
そう、それはとても大事な事だった。
鶴乃が万々歳の事が大好きだったからこそ
こんな可能性を作り出すことが出来たのだから。
宣伝をしてチャンスを掴める状況を作ったのは
確かに私の影響だったかも知れない。
私が宣伝をすると言いだし、その宣伝が当り
そこからお客様が来るようになったのも事実だ。
だが、そんな状況に至る事が出来たのも
鶴乃が諦めずに努力をしてくれたからだ
鶴乃が私達を助けてくれようとしてくれたからだ。
この結果は、鶴乃が自分の信念で行動した結果だ。
だから、誇るべきは鶴乃だ。
「鶴乃、この結果はお前の努力無くては無かった。
勿論、親父さんが諦めないで努力したのだって
この結果を手繰り寄せる事が出来た理由だ。
だから、私に感謝する必要は無い。
感謝するべきは私の方だからな。
ありがとう、鶴乃。私を助けようとしてくれて。
お陰で私は確かな自信を得ることが出来たよ」
当然、七美のお陰でもある、いろはのお陰でもある
神浜に来て出会った、全ての人達のお陰でもある。
結局はそう言う事なんだろう。
「さぁ、泣くのは後だ、まだまだ終わってない。
絶対にチャンスを掴み取るために努力しよう」
「う、うん!」
少しだけ涙を溜めながらだったが
鶴乃がいつも通りの笑顔を見せてくれた。
さぁ、頑張って結果を掴み取るとしよう!