ケイン「ばーちゃんが言ってたぜ?女を泣かせる奴は最低だっ、てな!」(旧Ver)   作:Fry-Hopper

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SS投稿速報のリメイク品(Fry-Hopper)


カテゴリ 【ロストユニバース】 【艦隊これくしょん】 【艦これ】

作品要素 【コメディ】 【シリアス】 【ミステリー】 【SF】 【ロボット・AI】

警告タグ 【ネタバレ】 【クロスオーバー】 【グロテスク描写】

対象年齢 【R-15】(戦争物の為)


あらすじで低年齢層向けと約束したな?
―あれは嘘だ。

※今回は過去編の海戦回です。



12 シャドウフレア

大淀は一度沈んだ。

 

――記録にはない。

 

 

 

鎮守府に最低限の機能が揃わらないころ。秘書官として派遣された大淀であったが特例として、大本営より通常出撃も行うよう辞令を受けた。嬉しかった。任務艦としてだけでなく。もっと活躍できることが。いつからか、長門と組んで出撃することが多くなった。自然と練度も上がった。

 

 

 

ある作戦の帰路。随伴の駆逐艦が

伏兵による奇襲攻撃を受けた。

2隻中破した。

 

 

「お前たち、私の後ろにつけ」

 

長門はその耐久性を持って、敵の攻撃をすべて吸収した。背後に、2隻の駆逐艦を隠したままで。本来の用途では戦力の要である戦艦を“庇う”のが駆逐艦の役目だが彼女たちは全員で一艦だと主張する。また、ここの提督もそれを黙認していた。

 

「支援艦隊を要請します!」

 

すかさず大淀が鎮守府に緊急電を入れる。敵の規模はわからなかった。駆逐艦を狙われ持たせていた電探をやられた。いくら目がきくとはいえ、目視では限界がある。晴天にも関わらず、風が強く先端が白く崩れる高波が索敵の邪魔をする。

 

ただ、攻撃は止んでいる。

 

最優先でレーダーピケット艦を狙い、かつ深追いしない。相手は手練れだ。提督に増援を要請した。機関浸水した長門は、曳航されるか艤装を投棄して自力で泳いで戻る以外の方法はない。

 

3人で長門を背負って、離脱するには――

速度が出ないか。

 

崩れる波の音、多きく揺れる体。

潮の匂いが全身に絡みついてくる。

 

その向こう側

風を切る音。オレンジの噴煙。

 

遅れて轟音が来る。

遠くで水柱を上がた。

 

 

「ミサイル?」そんなものでは

・・・当たらない。

 

 

的は小さいうえに奴らは波を上手く使う。

さらに今日の高波だ。

 

 

近海に同盟軍がいるらしい。

瞬時にミサイルの行く方向から逆算する。

 

――いた、3隻の巡洋艦

 

 

目を凝らす。

単独作戦か、あるいは、すでに轟沈したのか。

艦娘の姿は見えない。

 

1隻からは黒い煙が上がっている。

 

 

「長門、艤装を投棄して」大淀は言った。

友軍方向に探照灯で発光信号を送る。

 

 

ワレ・ソウナン・セリ

 

 

高波の中だ、こっちに気付いたか?

数十秒後、チカチカと光が返ってくる。

 

 

ワレニ・キュウジョノ・ヨウイ・アリ

 

 

「陽炎・不知火は直ちに当海域を離脱。支援艦隊に合流せよ」

 

大淀は吠えた通信機に向かって。越権行為の現場判断ではあるが、彼女の信頼は厚く多くの者が彼女に従う。また、提督も上手い言い訳を考えさせる程度にしか怒らない。多くの場合そのほうが柔軟に作戦が展開できるからだ。人とは違う彼女達を、人の尺度で物を考えるにはやはり限界がある。

 

「ダメージを受けた巡洋艦あり、これより長門の曳航と共に、直衛に入ります!」

 

その気迫に押されて、二人は離脱した、全速で。

一秒でも早く戻るために。

 

 

「大淀、武運長久を・・・」

少し若い声。だが、苦々しく重い声が戻ってくる。

 

 

それ以降、通信は切れた。

雲一つない青空。

 

今は、憎らしい。

せめてスコールでも来てくれれば。

長門を拾い上げると、艤装の限界を超えて走った。

 

健在な一隻が

艦首をこちらに向けている。

 

 

助かりたかった。

 

――でも、助けたかったのに。

 

 

チカチカと光を放ち、戦列を離れこちらに向かう巡洋艦一隻。

彼方の波の壁から数十発の砲弾が向かった。

 

高く空に上がり、斜めに次々と降り注いでいく。

艦側に直撃弾。

 

爆発。海水が艦内に渦を巻き流れ込んでゆく。

傾斜、炎上している。

ミサイル搭載艦であり、本来砲戦は想定されていない設計だ。

そのため装甲は極めて脆い。

 

二度目の爆発が続く。さらなる敵の艦砲射撃だ。三角波に乗せられ、一瞬艦が持ち上げられ海面に叩きつけられる。アンカーを両側から荒れ狂う海面に叩き落し時間を稼ぐが。ついに転覆した。守るべき者が、海へと散らばっていく。この冷たい海の上に。

 

 

わらわらと。

 

わらわらと。

 

 

蜘蛛の子を散らすように。

黒い煙が登っている。

 

 

ぱらぱら。

 

ばらばら。

 

 

まるで悲鳴が聞こえて来るようだ。

コースを固定したからか。私たちのために。

その光景が、酷くゆっくりと見えた。

 

 

「どぉこだぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁぁ!」

 

 

生き残っている別の艦から

数発のミサイルが飛ぶ。

低高度で。

 

続く大型対艦ミサイル。

出し惜しみのないダメージ交換だ。

 

ミサイルが怒り狂う波をさけ飛び行く。

仇敵の元へと。

 

 

 

ミサイルの推進方向から、雷跡が走った。

高波が魚雷を押し上げる。海面を抜けた。

 

一瞬。上空を踊る数本の魚雷。

精確な砲撃がこれを打ち抜く。

海面を道連れに大爆発を起こした。

 

特大の水柱がミサイルを叩き落とす。

その先に。

 

 

 

――みつけた

 

 

敵艦見ゆ!

 

 

距離3マイル。

敵の雷巡4隻。

 

 

「大淀もういい。私を離せ」長門は言った。

 

 

――殺せ

 

声が聞こえる。

 

――見つかったのは私。

 

――見つかってしまったのは、私。

 

「大丈夫ですよ」口元が緩んでいる。

 

ただのトリガーハッピーならいいが。

長門は、押し黙った。

 

敵にも気づかれたようだ。“遊びの時間”は終わりだとばかりにその瞳がこちらを睨みつける。12.7mmを向け、敵をけん制しつつ乱射。弾幕を張りつつ、全速で航行する。

 

長門を背に抱え、蛇行し高波に隠れながら進む。敵が手練れのおかげか、マグレ当たりを狙った魚雷は撃って来ない。あるいは弾薬欠乏だろうか。

 

敵との中間距離に上がる水柱。

残る2隻の巡洋艦から主砲やミサイルの牽制射もあり

一隻の巡洋艦に辛くも到達出来た。

 

 

「歯がゆいな」

 

 

垂らされたチェーンに掴まり、艦体が二つに折れ急速に沈んでいく巡洋艦を、唇を震わせ見つめる。浮かび、オレンジの救命具を着た人間の何人かが、その渦の中に連れていかれたようだ。ボートを出す間もなく沈んだため。まだ多くの者が浮かび、漂っている。高波が行くたびに、オレンジ色が見え隠れする。

 

 

長門はチェーンをよじ登り、すぐに高波が打ちつける甲板にのぼった。

大淀は残り少ない弾薬で、4隻の雷巡をいまも相手取っている。

 

「貴様!ガトリングをかせ!」

 

甲板で果敢にアサルトライフルを撃つものに怒鳴る。それでは、目くらましにもならない。

航空用20mmガトリングを戦時徴用して無理やり引っ張ってきた。かなりの重量で体が軋む。さらに無理やりのため繋がる弾薬が垂れている。

 

一刻を争う。

 

目的は同じだ、だれにも躊躇いはない。艦橋の者も長門の意図に合わせるように、操船を指示している。戦時には攻撃の要である艦娘を支援することは、すでに暗黙の了解になっている。「一隻」の艦娘の喪失は、一つの主要都市の損失であるとさえ言われるほどだ。艦体が大きく振れた。

 

「ビッグセブンと呼ばれたこの長門、侮るなよ」

 

艦首に仁王立ちでガトリングを構える。

両脇では海兵が、制圧射撃をして接近までの時間を稼ぐ。

だがやはり、たいしてダメージを与えらていない。

 

巡洋艦は全速で敵に突入して行く。

雷巡の航跡を全速で追う。

 

 

 

4隻から速射砲で狙われる。

大淀は嗤っていた。

「砲戦、用意」

 

 

その姿を目撃したものは

後にこう語った。

――鬼神と

 

 

 

滑るように踊るように。

クルクルと回るように。走る。

崩れる高波に体を任せ急降下。

 

クルクルと。海面に片足を突き刺し。

撃ってはクルクル。

高波が彼女を高みに導く。

波の上をクルクルと回る。

 

彼女は踊る、

荒れ狂う速射砲から迫りくる

赤い火線の中を。

死のステージを。

 

水面に水柱が立ち続ける。

波の中に行く銃弾が泡を作る。

当たらない。

全ての攻撃をいなしている。

 

昨日までの私と

今日からの私。

その違いは何処から来るのか。

 

 

――コロセ スベテヲ

 

 

4隻の雷巡がダンスの先を見定める。

2発の魚雷が彼女の次のステージを狙う。

 

高波を吹き飛ばし

水柱はついに彼女のバランスを崩した。

体が傾く。海面が近づく。

 

1隻が近づいて行く。

長門はただその光景を見ていた。

今撃てば大淀も沈めてしまう。

まだ、遠い。撃てない。

 

 

雷巡は速射砲を構えた。

 

 

――ギソウトイッタイカシロ

脳裏に声がよぎる。

蒼く深い海から響く声が。

 

 

脳内に響く大きな甲高い鈍い金属音。

視界が揺れる。

足に羽が開いている。船の翼が。

 

彼女はくるぶしまでを海水に沈み込ませた。

フィンスタビライザーが海面を舐める。

滑った。

初めから知っていたかのように。

 

一瞬、全身から力を抜き、体を重力に任せる。

崩すバランスを利用して、真横にスライドする。

 

 

雷巡は驚き、対応できずに高速のまま通過した。

その後方に海面に一筋の泡の道を作り出している。

怯んだ背中に12.7mmを浴びせる。

 

左右にスライドしながら波に乗る。

高速で至近距離に肉薄する。

 

被さる波が上がった体温を冷ます。心地よい。12.7mm機銃が首を捉え連射された。頭をぶるぶると震わせた後、奴の硬い皮膚を削り抜け、銃弾が突き刺さる。

 

さらに撃ち続けた。

こちらに向き直る隙を与えずに

雷巡は、頭を失い沈んでいった。

 

 

 

「待ちに待った艦隊決戦だ!」

 

敵は3隻。

大きく足を開き、腰で砲身を支える。

巡洋艦がついに小さな目標に迫った。

 

合わせて甲板員は退避する。

恐ろしい火線が、雷巡を襲った。

 

長門の体にも左右に蛇のように暴れ狂う弾薬があたり、傷ついてゆく。だが、その火力がついに1っ隻の目を打ち抜き、のどを突き抜ける。

――穴の開いた目を、呪うようにこちらへ向けながら、奴は轟沈した。

 

 

残り2隻が見上げる、甲板の上に艦娘。

散開した。分が悪いと判断し退避行動を始める。

 

逃げ始める2隻を狙うが焼け付く砲身と

高波が邪魔をして決定打にはならなかった。

致命傷ではない。

 

――だが

 

たかが機動性の足りない巡洋艦と侮っていたか

敵方も予想外の新手に混乱を始める。

 

「弾切れか」給弾は間に合わない、か。これが、人類が苦戦している最大の理由。大型の兵器でなければダメージを通し辛いが、機動性が低くなるうえに、弾数も悪い。1隻相手なら勝ち切れるが。数隻相手では給弾中に敗北は免れない。

 

低高度の航空攻撃など、敵には演習にもならないほど、すぐに叩き落す。最近では、敵も艦隊行動が多くなり、艦娘の協力が不可避になっている。制海権さえとれれば、面攻撃なら、艦砲に勝るものはないのだが。

 

2隻が炎上中の巡洋艦へ進む。

帰り際の駄賃だろう。

大淀は歯噛みした。

 

「まもるぅぅぅぅぅぅぅぅ!」走った、渾身の力を込めて。

 

翼が海をつかみ取り、海を駆ける。

鬼になった。

 

 

――何のために?

 

――何のために生まれたの?

 

――何のために生きるの?

 

長門は感じた。

何か沸き立つものを。

アレは危険な力だと。

 

黒い怨念を。

彼女に。

まるで、くろいほのお

 

「シャドウ・・・フレア・・・」小さく呟いた。

 

 

 

「オカエリ」

 

弾薬の尽きた

12.7mmの銃身を喉へ突き刺してやった。

衝撃で銃身が折れる。

 

奴の体液が

折れた銃身の穴からとめどなく噴き出している。

 

沈む前に、嗤っていた。

残り1隻。

 

瞬間、世界が止まった。

――やられた。

 

 

後方から迫っていたのか。

あいつも、嗤っている。

手には魚雷。

体にも魚雷を付けている。

 

体をつかまれた。この距離。

懐かしい。感覚。

 

――懐かしい?

 

 

 

「おおおよどおおおおおおおお」長門が叫ぶ。

 

雷巡は魚雷を噛みちぎりゼロ距離起爆させる。

大爆発した。

弾ける黒煙が大気を振動させる。

全ての艤装が消し飛んだ。

 

「かはっ!」

 

体がはじけ飛び、海に打ち付けられる。

 

裸で。

深い。

海へと。

沈む。

 

シズメ。

 

沈んでいく。

 

シズメ。シズメ。

 

――また、いつか、どこかで、きっと。

 

――悪夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・止まった。

 

お願い。

もう、寝かせて。

 

 

もう、知ってしまったから。

ねぇ。

 

――長門。

 

 

 


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