ソードアート・オンライン 仮想の城の反逆者   作:奇述師

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進展

 

 3

 

 迷宮区からわざわざアイテムを使うのもかったるく、時間も十分にあったので急ぎに急いで迷宮区をかけ降りた。

 

 丁度良い時間に街についた俺たちは劇場へと続く道を歩いていた。

 

「というか、何そのお面?」

 

「顔を隠すためだ、お前がフードを被っているのと同じ理由だ」

 

「フード被ってそれって、逆に不審じゃない。趣味悪」

 

「何とでも言え」

 

 なるほど、40人くらいか……思いの外、集まっているな。フルレイドが組めるくらいにはなったという事か、それならば余計に期待値も高くなる。

 

「凄い、こんなに大勢……。全滅するかもしれないのに……」

 

「みんながみんな正義感で集まっているとでも? お前の脳みそはお花畑か? ネットゲーマーの考えることだ、ここにいる奴全員が純粋な自己犠牲の精神で集まってることはあり得ない」

 

 この少女が考えているように、はじまりの街に残ったプレイヤー達のために、と思っている奴らも少なからずいるとは思う。しかし、俺にはこの場にいる全員が純粋にそう思ってやって来たとは思えない。

 

「なら、どうしてこんなにたくさん……」

 

「不安だからだ。最前線から後れを取りたくない。死ぬのは嫌、だけど、自分が知らない所でボスが倒されているのも嫌だ。そんなところだ」

 

 俺は多少MMORPGをプレイしてきた。だからこそ、その気持ちはわからないでもない。

 

「それって……、学年十位から落ちたくないとか、偏差値70キープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」

 

「……そうだな、間違っていない」

 

 今ので確信した、これは本物のお嬢様だ。本当に何でここにいるのかわからない、もし俺も同じ状況だったら気が狂っている自信がある。あの空に身を投げ出してもおかしくはない。

 

 やはりと言うか、間違いなかったというべきか。この少女は余程格式高い家のお嬢様とみて間違いないだろう。気品のあふれる佇まいに上品な話し方、時折ポロリと漏らす言動の端々にこの世界と本来ならば関わる筈のなかった少女であると。

 

 特に話すこともなかったため暫く会議が始まるのをうたた寝しながら待っていると、朗らかな声で青い髪という特徴的な出で立ちの男が舞台に現れた。

 

「SAOトッププレイヤーのみんな! 俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!」

 

 劇場から大きく二回、拍手の音が響き渡る、そこに目を向けると、青色の髪のある程度目鼻立ちが整った男が劇場にいるプレイヤー達を見回しながら言った。

 

 彼がプレイヤー達に呼びかけ、そして会議を仕切る人と見て間違いないだろう。

 

「俺の名前はディアベル! 気持ち的に、ナイトやってます!」

 

 微笑みを浮かべ、胸をドン、と叩きながら言うディアベルという男。ああいうのを見ていると鳥肌が収まらない。こっちまで恥ずかしくなるような青臭いお芝居は苦手だ。

 

 だがしかし、彼の手腕は認めざるを得ない。

 

 おそらく彼は、第一層のボス部屋を見つけたパーティのリーダー格の人物とみて間違いないだろう。もしそのパーティがキモ……根暗だったり、ひき……コミュ障の集まりとかだったらどうしようかと不安に思っていたがいい意味で予想を裏切られた、この層を攻略したあとの99層もぜひ先頭にたって頑張ってほしいものだ。

 

「さて、こうして最前線で活動している皆は言わば、SAOのトッププレイヤーだ。そんな皆に集まってもらった理由は言わずもがなだ……。俺達のパーティは今日、第一層のボス部屋に到達した! ついに、俺達の力でボスを倒し、第二層への扉を開く時が来たんだ!」

 

 ディアベルのコミュニケーション技術のおかげで霧散していった緊張の空気が戻る。

 

 この会議の本題は第一層のボス部屋が見つかったという事。

 

 この場にいるプレイヤー達でボスとの戦いに挑み、第二層へと到達する。そのために開かれた会議なのだ。

 

「ここまで一か月もかかったけど……、このデスゲームもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街に籠ってしまったみんなに伝えるんだ。それが今この場所にいる、俺達の義務だ! そうだろ!?」

 

 誰も、何も言わない。だが、決意を秘めたその目と、力強く頷くその姿だけで、この場にいるほぼ全員の目的は過程がどうであれ一つなのだという事は良く分かった。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん!」

 

 気持ちを一つにいざ、会議を始めようかというところで、どこかから横やりが入ってくる。これはうまく演出された出来レースだろう。

 

 その関西弁が混じった声が聞こえてきた方へ視線を向けると、ツンツンと尖った、センスの欠片もないおっさんがいた。

 

「仲間ごっこする前に、こいつだけは言わしてもらわんと気がすまん」

 

「積極的な発言は大歓迎さ。でも、まずは名乗るのが先かな?」

 

「ふん、ワイはキバオウってもんや」

 

 ステージに立ち、ディアベルの前で立ち止まると、その男、キバオウはアバター名を名乗って大きく息を吸った。

 

 いやいや知り合いだろ、如何にもというアイコンタクト駆使してよく言うな。

 

「元ベータテスターの卑怯共! 出て来い!!」

 

 キバオウの口から吐き出された叫び声は、劇場中の空気を震わせるほど凄まじいものだった。そう感じさせる恨みがこもっている。

 

「こん中に五人や十人はおるはずや! 正直に名乗りでい! この1か月間、おどれらがなんもかも独り占めしくさったせいで死んでった二千人にワビ入れぇや! そしてずるして貯め込んだアイテムや金全部、この場においてけぇ!!」

 

 成る程ベータテスターに嫉妬して、彼らから物をぶんどりたい。MMOでよくいる嫉妬深いプレイヤーなだけか、欲求に忠実な人は嫌いじゃないがこいつは嫌いだ。

 

 だが、この男の叫びは中々効果的だったようだ。劇場にいるほとんどのプレイヤーはまるで嘲るように笑い、「そんな事言って、出てくるわけねぇだろ」などと言い合っている。

 

 しかしそれ以外の……、大きなパーティに入っていない少数のプレイヤーは違った、特に俺の斜め後ろの黒髪少年はその叫びに反応したのか、表情が蒼白くなっている。

 

 表情が出やすいこの世界のシステムでは注意深く表情を伺う事である程度の心の内が分かる、きっと彼らが捜しているのはあからさまに表情を変えた人物。

 

 方法は素晴らしい、そこは認めよう。だが俺は……

 

「発言良いか?」

 

「なんや? 言うてみぃ」

 

「さっき言った死んだ2千人に詫びろって言っていたけど、2千人の死因をきちんと調べたのか?」

 

「なんやワレェ! どういうことやねん!」

 

「βテスターの死亡した人数、デスゲームが始まりこの城から飛び降りて死んでいった、錯乱した家族がナーブギアを無理やり剥がして亡くなられた……そういったβテスター利害関係の全くない方たち、そう言う人たちを知っているか?」

 

「知るわけあらへんやろ……」

 

「βテスターに責任を押し付けても何も始まらない、ここはβテスターを糾弾しに設置した場ではないはずだ……それに、ボス攻略前にわざわざ歪を作って何か徳があるのか? ディアベル、もし俺の意見がこの場において正しいと思うのなら会議を進めてくれ、そう思わないのなら弾劾を続けよう」

 

「俺からも一つ、追加の意見いいか」

 

 ディアベルに決定権を渡した。するとそこに、さらにもう一人、大柄で色黒、スキンヘッドで強面な、筋骨隆々の両手用戦斧を装備した男が立ちあがった。

 

 レベル低くても強そうだ……というかそれリアルな肉体なのか? 手鏡貰っていないとかでは? 

 

「俺の名はエギルだ。キバオウさん、このガイドブックはあんたも持っているだろ」

 

 エギルはキバオウの前で立ち止まった、エギルが取り出したのはA4サイズの本。

 

 手のひらにすっぽり収まるその本を見ると改めてサイズの違いが判る、ステータスに影響はしなくともリーチの長さ等のPvsPで使えそうなアドバンテージが多そうだ。

 

「このガイドブックは、ホルンカやメダイの道具屋で無料配布されている。このガイドには、かなり詳しく情報が書かれてた。それに、俺が新しい町や村に行くと、どの道具屋にもかかさず置いてあった。あんたもそうだろ?」

 

「せや。けど、それがなんやっちゅうねん!」

 

「情報が早すぎると思わなかったか? 俺は、こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、常に俺達の先を行ってたベータテスターたちだと思ってる。彼ら以外には、あり得ないからな」

 

 キバオウは言葉を続けるエギルを見上げて、ただわなわなと震えるだけ。エギルのいう事は上げ足を取る隙もなく、完璧な正論だったからだ。

 

「いいか、情報は確かにあったんだ。だが、たくさん人は死んだ。しかしそれは、彼らがSAOを他のMMOと同じだと見誤り引くべきポイントを誤ったからだ。一方で、ガイドで情報を学んだ俺達は、まだ生きている」

 

 キバオウは何も言い返せない。キバオウと同じように、ベータテスターを恨んでるプレイヤーが他にいたかもしれないが……、彼らも同様にも何も言えない。

 

「キバオウさん、君の気持ちはよくわかる。でも今は、前を見るべき時だろう? それに、元ベータテスターがボス攻略に力を貸してくれるなら、これより頼もしいものはないじゃないか」

 

「……ふんっ」

 

「じゃあ、この話題はもういいかな。そろそろ本題に────」

 

「おーい、ディアベルさーん!」

 

 要約本題に入れるというところで、ステージに降りる階段を息を乱しながら駆け下りてくる一人のプレイヤーがいた。

 

 そして、そのプレイヤーが手に持って、掲げていた物。

 

「これは……攻略本のボス篇!?」

 

 キバオウが持ち出したベータテスターとの諍い問題の話はさておき、ディアベルは本体のボス攻略の議題を持ち出そうとする。すると、ステージに降りる階段を息を乱しながら駆け下りてくる一人のプレイヤーがいた。

 

「ついさっき、広場のNPC露店に入荷されてて……」

 

 ディアベルの関係者と思われるプレイヤーから、エギルさんが出したガイドブックと同じ形をした本を受け取ると、ディアベルは驚愕の声を上げた。

 

 わざとらしく大声で、でもこれくらいがいいのかもしれない、人の上に立つことは大変そうだ。

 

 攻略本のボス篇。そしてその情報提供者は、鼠のアルゴ、らしい

 

 劇場内が三度騒めき立つ。それぞれプレイヤー達は立ち上がり、攻略本を受け取ったディアベルの周りに集まっていく。

 

「…………」

 

 ディアベルの周りに集まっているプレイヤー達の輪に俺は入らない、別に入れない訳じゃない、人が多すぎて見えないから座ったままである。ボス部屋はディアベルたちが見つけたばかりだ。それなのに、どうして鼠のアルゴはボスの情報を提供することができたのか……答えは言わずもがな簡単だ。

 

「ちょお待てぇ! これ見てみぃ!」

 

 突然おっさんが大声をあげ、攻略本の裏側を指さした。

 

 そこに書かれた文をディアベルは音読する。

 

「データはベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります……」

 

 鼠はβテスターだ。βテスターであり情報屋、もしかすると近くにいる可能性もなくはない。

 

「やっぱりや! あの情報屋、ベータテスターだったんや!」

 

 鼠のアルゴは、ベータテスター。今だからこそ思い出すがβの時に珍しい三本髭のプレイヤーがいると聞いたことがある。

 

「鼠が……ベータテスター!?」

 

「けどそれはホントなのか……?」

 

「でも、だとしたらこの情報の早さも頷けるだろ!」

 

「そうだ鼠! あいつさっきまでそこにいたよな!」

 

「どこだ? どこ行った!?」

 

「鼠にしっかり説明してもらわないといけねぇだろこれは!」

 

「あぁ! 大事な情報だけ省いて俺達を嵌めて、おいしいとこだけ持ってこうとしてるのかもしれねぇ!」

 

「いねぇ……まさかあいつ、逃げたのか!?」

 

 皆の苛立ちも、どうしようもない怒りをβテスターへ向けるのは仕方がない、しかし、鼠はβテスターでありながら情報を提供してくれているのだ、この扱いはあまりにも酷すぎる。

 

 やはりここにいる人間の多くは碌でもない、どうしてここまで会議の本題からかけ離れていくんだ……。

 

 それなら最初からβテスター言及会と集めたあと言えばいいでないか。今、大事なのはそれじゃない、少なからず情報は提供されている。

 

 さて、帰るかと思ったその時横から澄んだ綺麗な声が聞こえてきた。

 

 そしてその声は、騒めきに包まれた劇場でやたらとしっかり通る。

 

「今は感謝以外の何をするというの?」

 

 ステージに立つプレイヤー達が静まり、そして、近くにいた奴ら、いや、餓鬼に欲情した変態どもが途端に熱い視線を向け始めた。

 

 雑然とした中でも通る声、凛としながらも厳格さのある響き、この状況でも啖呵を切れる度胸。これは……認めざるを得ない、彼女は間違いなく優秀だ。人の上に立つべくして生まれてきた人間だ、本当に、この時間は彼女にとって惜しすぎる。

 

「お、女の子だ……」

 

「可愛いかな……?」

 

「スタイルは良さそうだ……」

 

「たかがネトゲ廃人だろ? 期待するだけ無駄無駄」

 

 そういいながら凝視するな、というかお前はまず鏡見てから発言しろ。自分のことは棚に上げてよく知らない年下の女の子によくこうも酷い言葉を投げかけれるものだ。

 

 俺やエギルが発言したときは殺気立っていたのに性別が女と分かるとこれか、だがしかし確かにこの状況は耐え難い。

 

「視線が嫌だったら俺を使って遮れよ」

 

「……そうさせてもらうわ」

 

 横にいる少女に向けて背中を指でちょんちょんと叩く、おい男どもそんな熱い目で俺を見るな気持ち悪い。

 

「その通りだ!」

 

 ようやくディアベルが声を上げてくれた。

 

「俺達の敵はβテスターじゃない。フロアボスだ! 今はただ、この情報に感謝しよう……よし、じゃあ早速実務の話を始めよう。まずはレイドの構成からだ」

 

 ようやく本題に入ることができる、長かった、そして眠い……

 

「とりあえず、みんな自由にパーティーを組んでくれ」

 

 既にある程度のグループが出来上がっていた。ヤバイな……これは予想をしておくべきだった。

 

 虚を突かれ硬直していると下の方から大柄な男が手を振ってやってきた。

 

「よぉ仮面の兄ちゃん、俺はさっきも言ったがエギルだ。どうもあと1人足りなくてな……どうだ? 入らないか?」

 

 驚くほどスムーズな日本語、そこら辺の日本人より遥かに表現豊かなイントネーション、思わず引き込まれてしまう。

 

 フードを被って顔を隠した不振極まりないプレイヤーに戸惑いもなく勧誘をしてくるところを見ると本当にいい人なのだなと分かる。

 

 いい話だ、しかし……

 

「こんな得体のしれないやつを勧誘するのか?」

 

「誰にだって事情はある。ただ、俺はあんたの心意気を買ったんだ」

 

「なるほど、非常にありがたい話だが、生憎俺には厄介な相棒がいるので遠慮させてもらうよ。ありがとうエギルさん」

 

「なんだ、そうだったのか……なら仕方ねぇな! そんなに畏まらなくていいぞ、俺たちはもう兄弟だからな!」

 

 豪快に笑ってバンバン背中を叩いてくるエギルさん、ノリがアメリカンだ。

 

 さて、厄介な相棒のとこへいこう

 

「パーティーを組もうか」

 

「……そっちから申請するなら、受けてあげないでもないわ」

 

 コイツ……

 

「そうは言うものの、さっき俺が彼に誘われたときびびっただろ?」

 

「っ……そんなことないわ」

 

「そんなに全力で否定するところが怪しいな。だがさっき俺がエギルと話している時ちらちら心配そうに見ていたのは分かっているんだよ。まったく、正直じゃないな」

 

「なっ……み、見たの!?」

 

 カマかけ成功、第一そんなに深くフードを被っていて表情どころか顔も見えない。少し考えれば分かることなのに、流石に動揺しているな。後はじっくりいたぶってや「あのー」誰だお前。

 

 黒のコートと胸にアーマープレートを装備した緊張が浮かんだ表情の少年が立っていた、確か……

 

「あのさ……俺ちょっとあぶれちゃって。パーティーに入れてほしいなぁ……なんて」

 

「あぁ、成程。何の心配もいらないさ、俺もソロだからな。よろしく」

 

「……え!? あ、その横にいる彼女は?」

 

「私もソロよ」

 

「え、えぇ!?」

 

 困惑している表情を見るのは面白いが、時間の無駄だ。ここは年長者(?)として大人の対応を見せるべきだ。

 パーティー申請を送ると黒ずくめの彼は素直に、彼女は躊躇いを見せてから承認する。

 

「あの……アリス? さん」

 

「ああ、別に敬称をつける必要はないよ。この名前なんてただの記号だ」

 

「そっか、じゃあアリス、改めてよろしくな!」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 横でやたらと静かな厄介なお嬢様を見ると震えていた、俺の方を確かに見て。

 

「まさか……プッ……アリスなんて……フフッ」

 

「何だ、文句でもあるのか?」

 

「えっと、君は……アスナ、さん?」

 

「……アスナで良いわ、でもどうしてわかるの?」

 

「目線だけ左上に移せばいいんだよ、改めてよろしくな、温室育ちのお嬢様」

 

「あら、ありがとう。よろしくね、ア・リ・スちゃん」

 

 バチバチ熱い火花を散らしてにらみ会う俺たち2人(温室育ちのお嬢様の目は僅かしか見えないが)慌ててキリトがそんなこと言っていいのか? と仲裁に入る。

 

 そう言えば現実世界の情報は禁忌だった、だがこの少女が果たして温室育ちのお嬢様かどうかは彼女しか知らないのでグレーだとは思う。

 

「君達は、三人パーティーかい?」

 

 わざわざリーダー直々に声を掛けてくるとは。何か嫌な気もするがキリトは何も答えない俺たちの代わりに代弁してくれた。

 

「あぁ。他にプレイヤーは余ってなさそうだし……三人で決まりだな」

 

「……非常に申し訳ないが、君達は取り巻きコボルド専門のサポートで納得いただけないだろうか?」

 

「取り巻き専門だと?」

 

 確かに、見たところ俺たちのパーティーが最少人数だが、実力も何も知らないで雑用を押し付けるのは不可解だ。

 

 頭を下げるディアベルをキリト戸惑いを浮かべた目で見下ろす。彼はソロでこの攻略会議に参加してきた、それに背中にあるのはアニールブレード、強化値は2くらいだろうか。ちょっとこのゲームをプレイすれば装備単体の強さは彼はトップレベルの筈。

 

 おそらくボス戦の役割分担で一悶着あったのだろう。そしてそんな流れの中、一番誰もがやりたがらないだろう役目を、人数が少ないパーティーに頼みに来たということだろうが……なにか、いや、この場で疑っても仕方がない。

 

「いや、フルレイドを組める人数は集まってないんだ。仕方ないさ。それに、取り巻き潰しだって重要な役割だしさ」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 本当にキリトが礼儀正しく返してくれて助かる、俺は先ほどのように喧嘩腰だし、お嬢様に至っては話もしない。

 

 パーティーを代表してキリトが一歩前に出て、ディアベルに了承の返事を返す。

 

 俺達のパーティーの役割が決まった所から、会議はさらに本格化していった。

 

 ボスの名前から始まり、HP量に使う武器。それによって繰り出されるソードスキル。

 

 ボスだけでなくその取り巻きの詳細もしっかり確認しながらパーティーの役割を決めていく。

 

「じゃあ、そんなところかな。ボス戦本番は明後日午後からだ。集合はここに朝八時。明日は休養にあてるもよし、各隊で連携の練習をするもよし、親睦を深めるもよしだ。自由にやってくれ。A隊の練習に参加したい隊はこのあと残って相談しよう。では、解散っ!」

 

 最後にディアベルがボス戦の日時と集合時間、そのボス戦の日までは自由行動だということを報せて二時間にも及んだ攻略会議は終了した。

 

「どうするアリス? A隊の練習に参加するか?」

 

「いや、俺達のパーティーの役割は取り巻き処理だし、今日はゆっくり風呂にでも浸かって休養を取ろうと考えてる」

 

「いやいや、まだ俺たちパーティー組んだばかりでお互いの実力とかわかってないし……ん?」

 

 俺をキリトがどうにかして引き留めようとするとお嬢さまの姿が忽然と消えていることに気付く。そういえばすでにステージの階段を上って帰路に着いていたな。

 

「待て待て待て待て……って戻ってきた!?」

 

「どうしたキリト?」

 

 キリトは慌てて追いかけるも、何故か戻ってきたお嬢さまは心側が激しい模様で。

 

「これからちょっと話し合いをしましょう。ボス戦までそう時間はないし、連携の練習しとかないと」

 

「そんなの必要ないだろ。たかが取り巻き潰し。練習しなくても何とかなる」

 

「万が一、があるわ。そこは警戒しないといけないでしょ」

 

「そうだぞアリス。せめて明日の計画とか、さ」

 

 ……小さなことで腹をたてるのは大人げないな。俺としたことがつい頭に血が上ってしまっていた。

 

「仕方ない、こういう役割は誰かがやらないといけないんだ。ここは皆のためにやるしかない」

 

「じゃあ明日はパーティ戦闘についてレクチャーしよう。明日の……正午で良いか? トールバーナの北門集合で」

 

「了解」

 

「…………わかった」

 

「なら決まりだ。えっと……じゃあ、これで解散……だな」

 

「ああ、またなキリト。お嬢さんも寝坊するなよ」

 

 今日の所はここで解散する事になった。三人はそれぞれの帰路に着き、歩き出す。

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

「どうしてついて来ているんだ? もう宿ならいくつか通りすぎたぞ」

 

「……あの、さっき言ってたこと本当?」

 

「何のことだ?」

 

「お風呂に浸かってゆっくりするって」

 

「ああ、間違いない。厳密に言えば少し違うのかもしれないが揶揄的表現なんかではない、もちろん通常の宿屋と比べたらもう天と地の差があるな。値段は張るが」

 

 突然左腕を捕まえられ前に進むのを止められる、振り向くとお嬢様が物凄い剣幕でこちらを睨め付けていた。何か言おうとしているのか口を開けたり開いたりしている。

 

 俺がそんなに良いところに泊まっているのが気にくわないのか……。

 

 ホールドされている左腕を抜こうとするがガッチリとホールドされていて簡単には抜けない。対して筋力ステータスに差がないのだろう、こうなると全力で引き抜くしかないがそれは流石に失礼にあたる。

 

「どうした? 何も言わないなら俺は宿へ行くぞ」

 

「ねぇ! 今言った事、本当!? ねぇ!!」

 

「いったい何がだ!? 主語を言え!」

 

 余程興奮していたのか手は放してくれたが、更に顔をぐいと顔は近づけ口を開いた。

 

「あなたの借りてる部屋! お風呂あるって本当!?」

 

「……は?」

 

 つい呆けた声が出てしまった、フードの中の、端正に整ったアスナの顔が覗く。初めて見えた、そんな彼女の目が、輝いていたように見えたのは気のせいではないだろう。

 

 一瞬だけ垣間見えた彼女は、凛として美しかった気がした。

 

 4

 

 風呂を貸すことにはなったが流石に同じ空間にいるのは気まずい、あちらとしては借りている身なのだしそこは我慢すると言っていたがそういう事ではなく、風呂に入っている時に身近に異性がいることを考えてものを言ってほしい。

 

 丁度用事もあったので部屋を貸す代わりに留守番をしてくれと頼んでおいた、彼女としては1泊分の料金を出すとは言っていたが、風呂を貸したぐらいで見返りを求めるほどひねくれた人間ではない。

 

 ただ、現実世界の風呂とは違い過ぎるためがっかりするなよとだけ言い残し俺は無理やり作った用事を消化しに外へ出る。

 

 指定された場所へ行くと一人の人物が街灯の下に佇んでいた。

 

「あんたが鼠、か?」

 

「そうだヨ、オレっちが鼠のアルゴ。全くこんな夜中に呼び出しておいて何の用ダ?」

 

「そう警戒するな。俺の名前はアリス、よろしくな。以後お見知りおきを」

 

「ふーン、お前がアリス……仮面のプレイヤーカ」

 

 アルゴ。そのプレイヤー名は聞き覚えがあった、というか、一方的に知っていた、先程まで行われていたボス攻略会議がきっかけで思い出したようなものだが。

 

 通称鼠のアルゴ、正しい情報を誰よりも早くプレイヤーに提供してきた有名な情報屋。

 

「情報を買いたいなら欲しいものを言ってみナ。あったら売ってやるヨ」

 

「いや、情報を買いたいわけではないんだが……」

 

「用がないならモウ行かせて貰うヨ。それと人と話すときはその趣味の悪い仮面を外した方がいいゾ」

 

 やはりというか、当然というか……警戒心は非常に高い、声、背丈から判断するに完璧に女性だし、俺は男、何もないと言えども普通に警戒はしてくるだろう。

 

 しかし、こんなところで引き下がれない。彼女はおそらくこの先も最先端を征く情報屋としてこのゲームの攻略に必要になってくるだろう。なら今のうちに手中に納めれば! 

 

「少し話をしたいだけなんだ、それじゃダメか?」

 

「……話だけは聞いてやるヨ」

 

「俺と、組まないか?」

 

「……!」

 

「近いうちに組織を作ろうと思っている。そこで、情報収集に長けた貴女の力をその時には是非とも借りたい。返事はあとでで構わないからこの話を頭に入れておいてくれ」

 

「この手の誘いは初めてダ。もちろん返事はNOダケド」

 

「だろうな」

 

「だろうなって……フラれるの覚悟で口説いていたのカ?」

 

「違う、間違っているよ。俺があくまで望むのは協力関係、まぁ上手く事が運べば主従……専属でやってもらいたいと思っていただけさ。それに理念も実体もない組織に入り出すほど愚かでなくて良かった。それで今日は充分だ」

 

「上手く誤魔化したと思っているだろうけど、全然隠せてないからナ」

 

 本音を言えば了承を得たかったが、逆にこれでトントン拍子に話が行くならばこの情報屋は信頼に値しなかった、自分で言うのもなんだが、今の格好も言動も怪しすぎる。

 

 それに彼女はどこにも属する気はないのだろう、フリーランスの情報屋としてこれからやっていくつもりか。どこかと繋がっているという話があるよりかは情報屋としては確かに箔が付くのは間違いない。

 

「だがまぁ……交渉は決裂か。時間をとらせてすまないな、これからはお得意様としてよろしく頼む」

 

「お得意様も何も、まだ情報を買ってもらってないんだけどナ」

 

「それならば、いくつか情報を売ってもらおうか。ディアベルという男はβテスターか?」

 

 俺が知りたいのは情報屋の鼠のアルゴではなく、アルゴというプレイヤーの情報だ。彼女の信念や譲れないもの、俺がするいくつかの質問に対しての反応が一番の情報になる。

 

 特に感情の起伏が激しいこの世界ではつい現れてしまう表情からある程度のことは把握できてしまうからな。

 

「……そういう情報は売らないと決めているんダ」

 

 正直のところ、俺はディアベル自身もβテスターなのではないかと思っている。ディアベルがβテスターだと思った理由は一番最初にボスの部屋を見つけたからだ。

 

 一度もこの世界を経験したことがないプレイヤーのみでボス部屋に一番乗りで辿り着くはずがないと考えただけのこと。

 

 俺としてはほとんど黒なのだが、彼女の反応を見ると間違いないだろう。まぁどうでもいいが。

 

 それに、この手の情報に関しては彼女自身もβテスターであるためか、あぶり出しを防ぐためか、何にせよこのゲームの秩序を乱すことはしたくないらしい。

 

「成程、それならば必要ない。ではキリトというプレイヤーについての情報をあるだけ売ってくれ」

 

「お前、一体……」

 

 この質問に対しての返答は意外なものだった、ここまで露骨に動揺する意味がよく分からない。もしかすると2人の間で何かあるのかもしれないが……

 

「何を神経質になっている? 俺はただパーティーメンバーの情報が知りたいだけだが? 別に言いたくないのならば仕方ない。さっきの話は考えていてくれ、じゃあまたな」

 

 キリトに関してはひとまずパーティー組んだのだから多少は知っておこうと思った程度、この2人がらみで何か大きなことが裏で怒っているのかもしれないが、俺には想像もつかない。

 

 もう、話す余地はない。これ以上話すと更に印象を悪くしてしまいそうだ。

 

 彼女はいつか必ず手中に収め……いや手と手を取り合い協力しようと決心して、厳しい表情で俺を見上げる情報屋に背を向けて来た道を戻っている時だった。

 

「組織を作っていったい何をするつもりなんダ?」

 

 俺がレッドギルドをつくると思い込んでいるのか鼠の目線は厳しい。

 

 怪しさだけなら得体のしれない宗教と同じぐらいなのだから文句は言えないが。

 

「俺はただ帰りたいだけさ、この世界の誰よりも。そのための組織だ」

 

 嘘はつかない、つく必要もない。何をするか細かくは決まっていないけれど、目的だけは変わらない。

 

「もしそのことが本当デ、お前を信頼できる時が来たら力になるヨ」

 

「その言葉、忘れるなよ」

 

 言質は取れた、それならば御望み通り行動で示そうじゃないか。

 

 

 

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