7
たかが一層、されど一層、ようやくゲームクリアへと近づくことができた。
キリトとアスナの手を取り、引き上げられるとアスナの膝が笑っていることに気づく、これがどういったものか、恐怖なのか、喜びなのか推測しづらい、だがこの場合間違いなく恐怖ではないだろう。
「見事な剣技だった。見事な指揮だった。この勝利は紛れもなく、あんたの…あんたらの手柄だ」
「これはみんなの力で成し遂げた勝利だ」
「そんな面はしてないけどな。ああ違った、それは仮面の柄だった」
「みんな好きだろう?仲良くやるのは」
「いや、これは紛れもなく君のおかげだよ」
ディアベルとエギルさんたちに囲まれて特にキリトとアスナは散々もてはやされていた。最後の猛攻は素晴らしいの一言に尽きる。
多くの人に囲まれ祝福の言葉をかけあっていた最中だった。
「何でだよ!!」
不意にボス部屋中に叫び声が響き渡る。
声が聞こえてきた方へ…いや怒りを露に肉薄してくる方へと視線を向けると、そこには両目に怒りを浮かべ俺をを睨みつけてくる男性プレイヤーが立っていた。
一体なんだ、こいつは?と疑問が浮かぶが、直ぐにそいつがどんな人物であるかわかった。なぜならそのプレイヤーをディアベルが宥めるようにしていたからだ。
「何であんたは…あんた達は、ディアベルさんを見殺しにしようとしたんだ!!」
男性プレイヤーは俺とキリトの方を指さしながら再び叫んだ。
だが、俺はこの男が言っている意味が分からない、理解できない、ディアベルを見殺しにした、という言葉の意味が。
「あんた達はボスの副武装が何なのかを知ってた!それにあのボスの技も見切ってたじゃないか!……知ってたんだろ?あのボスが使う技を!最初からその事を教えていたら、ディアベルさんが死にそうになることはなかったのに!!」
騒々しかった音は、称賛の声から疑念の声へと変わっていく。
生きてることを実感し、達成感を得ていたはずの微笑ましい雰囲気は一瞬にして消え去った。
「ま、待て!こいつがベータテスターだと決めつけて言ってるみたいだがこいつは「違うな、間違っているぞ」」
「何が間違っているんだ!まずはこっちの質問に答えろ!βテスターが!!」
「違う、さっきも言ったが、こいつはベータテスターじゃない!」
疑念の視線が俺に向けられているのがわかる、キリトが俺の前に立ってプレイヤー達の疑念を否定するがその言葉は、叫んだプレイヤーへ油を注ぐ行為だ、俺はキリトを、そいつはディアベルを押し退けて鼻と鼻が当たりそうになる位置まで近づき睨みあう。
こちらは睨みあってるつもりだが、相手としてはどういう心境なのだろうか。
「だったら先に答えてやる。まず副装備のことだが…お前ら気付かなかったのか?あの布が剥がれた時点でタワールでない事に、それとも知らなかったのか?タワールを。あの形状はどう見ても違うだろ」
「じゃあそれを言えばよかっただろ!」
しかし一向に火は消えない、こうなれば攻略に差し支えのないよう被害を最小限に食い止めるのが定石だ、俺だけに向ければ……何て事もない、それだけで済むのなら。
「ボスの攻撃パターンをどうやって見切れたんだ?知っていたんだろ?こいつらはボスの攻撃パターンを、知ってて教えなかったんだ!LAボーナスが欲しかったから!」
「そんなもの知るわけないだろ」
「嘘をつくな!だったらどうして……」
「ディアベルがやられるときの3連撃、小隊を分裂させるために使った範囲攻撃。一度見れば自ずと対処法は見えてくる、学習して対応すれば何て事はない…第一、予想と同じようにに事が運ぶと思って突っ込んだディアベルが悪い」
「う、嘘をつくな…そんなことは出来るはずないだろ!!!それにそんなことを言うな!勝手に仕切りあがって!」
ここまで感情的になられては理屈は通用しない。
「元よりそのつもりだった。言ってなかったのかディアベル?」
ここはディアベルに賭ける、上手く擁護してくれ。
「あ、ああ。あんな状況をわざわざ作り出してしまったのは恥ずべき事だ、なんの覚悟も、なかった。それに隠していたことは謝るよ、でも時には隠さなければいけない作戦もある」
「て、てめぇディアベルさんになんて事言いあがる!ほらディアベルさんも何か言ってやって下さいよ」
はぁ、また逆ギレか、このままでは埒が明かない。ガンガン燃え盛っている家を消火器で対応している気分だ。
折角ディアベルが上手く対応してくれたというのに……
「ベータテスターの情報は私達だって得たじゃない」
思わぬところでアスナが口を開いた。アスナが一歩前に出て、周りのプレイヤーを見回しながら続ける。
「あのボスについて、ベータテスターと私達には知識の差はなかった。ただ、このボス戦が過去問通りと思い込んで私たちが窮地に陥った時、彼らはもっと先で得た知識を応用して対処法を示してくれた。そう思うのが自然じゃないかしら?」
アスナ、それは悪手だ、間違っているぞ……その文言だと俺達をβテスターと認めている事と代わりはない。
悪気がないから余計複雑な心境だが、フォローにはなっていないぞ。
「違う、それは間違いだ」
声が聞こえてきた方へとアスナが振り向く。にやりとした笑みが厭らしい男性プレイヤーだ。
「アルゴとかいう情報屋とそいつらはグルだったんだ。ベータテスター同士で共謀し、俺達を騙してたんだ」
「なっ……」
「ベータテスターだけで美味しい所をかすめ取ろうとしたんだろ?まったく、恐ろしい奴らだよ」
アスナの方から、ぎりっ、と音が鳴る。
面白い仮説だ…辻褄もあっているし否定した後の反論もきちんと用意されているのだろう。
「そんなことっ!」
あり得てしまう、だからアスナは出来れば口を挟まない方がいい。
「それよりあんた、ずいぶんベータ共の肩を持つな?……あ、もしかして、あんたもそいつらとグルとか?」
「…そう「最初から、そのつもりだった」」
案の定、アスナにまで疑念の矛先が向けられようとしている。まったく、親切のつもりだろうが大きなお世話だ。
ここで、アスナをかばう事のメリットは殆んどない、がデメリットはある。
その分俺にその被害が来てしまうけれど、今後の事と秤に掛けるまでもない。
「俺とディアベルの打ち合わせ通りのことだ。ボスにとどめを刺したときのL.Aを確実に取るためには凄腕プレイヤーをマークしなければならない。話し合った結果、俺が他のプレイヤーと一線を画す奴らについて牽制していたわけだ」
なるべく低く、通る声で淡々とそれでいて鼻につく話し方で言葉を綴る。
「普通に考えてβテスターが群れると思うか?答えはNOだ。だからこの2人に張り付いていた……まぁ、女の方は期待外れだったが」
そして、伝わるかどうかは分からないが目で釘を指す、頼むから黙っていてくれよと。
「……あんたって」
「なんだ?俺の味方をしていい思いをしようと?まぁ長いものには巻かれた方がいいからな」
「ちが「それとも、俺がそんなに良い奴に見えたのか?」………」
「これだから温室育ちのお嬢様は漬け込みやすい、良かったなこの人たちに感謝しろよ、これ以上利用されずに済んだのだから」
これで、俺とアスナの関係は終わりだ。そして他のプレイヤーに付け込みやすくなったはずだ。凄腕、かつ女性プレイヤーという事だけあって引く手は数多なはず。
後は、キリトとアルゴと…他のベータテスターを庇うのは癪だが致し方がない、キリトにはやって貰うことがあるし、アルゴには借りがある。
今は俺が大きく動きβテスターなどに注目を向かせなければいい話だ。
「1000人のベータテスターの中でどれだけ本物のMMOプレイヤーがいたと思う?ほとんど初心者だった。だがな、俺はそんな初心者共とは違う。これを言えば流石に馬鹿でもわかるか?俺が誰も到達できなかった第十層まで一人で駆け上がったプレイヤーだ」
……嘘だ。何も知らない。あのコボルド王の攻撃も初見で誰かの犠牲によって防げたようなものだ。
ただ、今は全部知っているふりをしろ。
「だから俺はここにいる誰よりも、この城のことを知っている」
ここから先はもう誰にも口を挟ませない。
「これから俺が、俺たちが攻略を引っ張る、なぁディアベル」
その言葉を言い切ってから、俺は今は消えたコボルド王の玉座があった方。第二層へ繋がっているはずの扉に向かって歩き出した。
「何だよ…。何だよそれ…!」
「ふざけんなよ!チーターだろそんなの!」
「そうだ!ベータとチーターで、ビーターだ!」
背中から幼稚な非難が飛んでくる、それならばバカだのアホだの言われた方が傷つくな。
「……まぁいい、これからもよろしくな」
「こっの…!待てよ!ディアベルさんも何か言わないんですか!?」
「彼の言っていた通りだ、これからは一緒に行動する」
「キバオウさん、言ってなくてすまなかった。これからは力を貸してくれ」
「なんや、そういう事か!全くディアベルはんも人が悪いな!」
「待てっつってるだろ!おい!」
やはりディアベルの力は絶大だ、彼の求心力にあやかるしかない。なんだかんだ文句を言いつつ俺を受け入れられないながらもディアベルが納得しているのなら異物すらも受け入れる。
近いうちにはったりでも何でもかまし俺の地位を確固たるものに固定しないといつかは不満が充満し組織は内部分裂だ。
時間が足りないがやるしかない。
「待ちなさい!」
「ディアベル、今夜話がある」
「ああ、わかったが……あの子はいいのか?」
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「……分かってる。先に上に上がっていてくれ、後始末は自分でやる」
ディアベルたちが昇って行った上を見上げる。第二層に上がるには、螺旋状の階段を上っていかなければならないらしい。
この少女の前では、俺は仮面を被る必要はない。いや、これからは被る必要があるが今だけは。
「一体なんだ?」
「まず一つ、エギルさんから伝言」
「……は?」
思っていたシチュエーション声色に肩を透かされてしまい自分でも驚くほどに抜けた声が出た。事実の追及かと思えば伝言係の役割か?
「次のボス戦を一緒にやろう、だって」
「攻略に参加するならそれは叶う、心配しないでくれと伝えてくれ。正直に言えよ、聞きたいことがあるんだろう?」
「……あの言葉、本当?」
「何がだ?」
「知っているくせに。あの人たちの手先だったという事、私達に張っていたという事、私を利用したこと」
「ちょっとこっちにこい」
「隣に来いって?私たちそんなに仲良かった?」
「最初で最後、一度しか言わない」
「はいはい、わかりました…………」
煩わしく響くブーツの音が止まり、赤色のフードを被った少女は隠していた顔をのぞかせて唇を少しだけ持ち上げて微笑んだ。
「あら、その仮面ようやく趣味が悪いって気付いた?」
「趣味の悪さは気付いている。注目が集まるならそれでいいさ、こういうことは予想していなかったが」
いつかは組織を作り、この世界から一刻も早く脱出しようと考えていたが、ここまでは早くに組織を持つとは思わなかった。
「やっぱり、アドリブだったんだ」
「でも、いずれはこうするつもりだった」
「いずれはって、組織を?」
「そうだ、笑えるだろう?」
「ううん、あなたらしいと思う。随分と様になってたし。あ、結構若く見えるけどもしかして経営者とかやったことある?」
「冗談が上手だな、しかし答えはNOだ。だったらこんなところにいるわけないだろう」
「確かに。勢いで潜り込んだのは良いけど上手くやっていける?私はそこが心配」
「大丈夫だ。正直不安だが。組織を乗っ取ったんだから……やるしかない、ただし内部分裂だけは避けなければ。だが俺を受け入れてくれるか」
「大丈夫、出来るよ。私が保証する」
「慣れないことをするんじゃない、おふざけが過ぎると思うが」
「ふざけてない。あの時、あなただけが冷静だった。ディアベルさんを助けて、周りを見て的確な指示をだして、貴方だけが勝つために前を向いていた」
「違うよ、あそこで退けば還るのが遅くなる。それだけは嫌だった、だから退きたくなかった。レベルのアドバンテージを、情報がないから無理難題を押し付けた。君と彼に」
「それは間違っている、無理難題じゃなかった。だって貴方は私達を信頼していたでしょ?」
「根拠がなかった。結果上手く行っただけでこの先上手くいくかどうかわからない。一つ言わせてもらうが君は俺を信頼しすぎだ」
「信頼は、ちょっと怪しいけど信用はしてる、だって助けてくれたもん。それに死のうとしてた私をこうやって前向きにさせてくれた……ようやくこっち見たね、アリス君」
綺麗な相貌が俺の目をしっかりと捕えていた。
花のような笑顔を咲かせ彼女は佇んでいる。
「ったく、茶目っ気をこんなところで出しあがって。今まで見た中で最高の笑顔だ、眩しすぎて直視できないな」
「何て言った?」
「聞こえているくせに。綺麗だ、見惚れてしまうほどに。絶対に俺以外に見せるなよ」
「かしこまりました。だったらアリス君も素顔見せるのは私だけにしてよね」
「もとよりそのつもりだ、これからはアリスになりきる。還るために……」
今更後戻りできない。
「キリト君があなたに謝ってた。『俺にはもうあいつと合わせる顔がない。けど…、あいつに俺が謝ってたって伝えといてくれ』って」
「……そうか、じゃあこう伝えといてくれ『アスナをよろしく頼む』ってな」
「……今、なんて言った?」
「キリトに君の口から伝えてくれ、私を鍛えてくださいって」
βテストの時唯一10層の迷宮区最上階までたどり着いたプレイヤーがいたと聞いたことがある。片手剣の大きな特性として剣を持っているもう片方の手で盾を持つことが出来る。その盾を装備せずにLAを掻っ攫っていったβテスター最強といわれていたプレイヤーがいたと。
おそらくそのプレイヤーはキリトだ、俺とは全く違うやり方でボスモンスターの攻撃をしのいだ。それも恐ろしく高い精度と最も効率的なやり方で。
認めざるを得ない、彼が現時点最強のプレイヤーであり攻略のためには……少なくとも10層までは確実に彼の情報が必要になってくる。
「私が、私だけがここに来た理由わかるでしょ?」
「もちろん、だがそれだけはやめろ」
「私はあの時の貴方の姿を見てついて行こうと思った、だからここにいる」
「だからそれが間違っていると言っているんだ、お前は生まれたての小鳥か。こんな小物についてくる必要はない」
「あなた以外に凄い人が出てくるとは思わない!あなたほどここを出たがってて、あなたほどリーダーにふさわしい人はいない!」
「いるじゃないか」
「じゃあ紹介してよ!いるなら私の前に連れてきて!」
「だから、いるじゃないか。今ここに」
「……まさかとは思うけど、私のことを言っている?」
「気付くのが遅いな、君らしくない」
「ふざけないで、そんなの方便に過ぎない。なんで?そんなに邪魔?確かにこの世界のことを何も知らないし、ここにいる人たちを見下しているのは確か。でも、でも……還りたいって気持ちも、頑張ろうって気持ちも誰にも負けるつもりはない!」
「だから私を連れて行けってか。正直者が馬鹿を見るって習ったことがなかったか?誠実なのは評価ポイントではあるが、歪を生む人材を入れるわけにはいけない」
「うっ……でもこんなに綺麗で、可憐で、聡明で、それからそれから」
「十分承知だ。だから、どうしようもなく利己的で、非現実的な妄想に酔っていて、非現実的な役割を誇りに思っている人たちの中にいて欲しくない……俺のエゴだ」
「ねぇ、アリス君。もしかして……私に惚れてるの?」
「ほぅ、急に年相応になったな。ちなみに答えは教える気はない、せいぜい俺のことを意識して敵わない初恋を終えることだな。安心しろ、相手は俺が見つけてやる」
「遠慮しておく、君と付き合うつもりは一切ないけど落としてやるって決めたから。せいぜい後悔することいいわ」
「出来るかな?碌な奴じゃないぞ」
「それは同意、承知の上でやってみせる」
本当にそれだけはやめてほしい、と言うか先ほどの場でこの二人と敵対をしていると宣言したようなものだからなるべく一緒にいたくない。
そうでなければディアベルたちに示しがつかない。
「契約しないか?」
「契約?」
「俺と君の決まり事だ、法的な拘束力はないが」
「ふーん、内容は?」
「1つ、仮面を被っている時俺とお前は知らない者同士でいること。散々虚仮みしたんだ、そこそこ親しいと怪しまれる。そこそこ親しいという間柄には突っ込むなよ、風呂を貸した仲だったはずだ」
「感謝してますよ。じゃあ仮面を被っていない時にもあってくれる?それなら飲むけど」
「約束しよう、頻度は気が向いたらでいいか?」
「私が呼び出したら直ちに従う事」
「じゃあ無しだ、これっきり俺は無視を決め込む。強く生きろ、俺の作った組織には寄り付くな、キリトにはしばらくお世話になれ。じゃあな」
「あーウソウソ、冗談。でもあなたが無視しようと私は絡みにいくから。2つ目は?」
「2つ目、もし信頼できる人にギルドに誘われたら迷わずその人のギルドに入るんだ、なるべく有望な奴にしろよ、お前が率いていくっていうのも悪くない話だが……その様子じゃやらなさそうだから」
「あなた以上の人を見つけろってことか……この中ではなかなか厳しそう。念のために聞いておくけど、その時は頼らせてもらっても?」
「その時は歓迎しよう、絶対にそんなことは起きないように手は尽くさせてもらうけどな」
この時間が嫌ではないけれど、もう行かないと。こんなに長く心地良い所にいれば決意が揺らいでしまう。
別れの言葉は告げなかった。今生の別れではないし、どうせすぐに会う。
彼女にはボス攻略の場で近いうちに鉢合わせる。
第二層に続く階段を登る、ブーツが床を叩く音が静かに響いた。
「何でわざとあんなことを言ったの?」
「どちらのことだ?」
「……キリト君と情報屋のアルゴさん、そして他のβテスターを庇ったときの言葉」
「あいつらが非難の声を浴びて攻略が進まなくなるより、俺が引き受けた方がいいと思ったからだ。実際俺に対する話題で持ちきりだろう」
「最後に……もし、こんな事態が起きなければ、君の作る組織に私はいた?」
「愚問だよ、答える必要なんてない」
やれることはたくさんある、やらねばいけないこともそれと同じで、立ち止まるのはもうおしまい、俺は前に進まないと気が済まないから、一刻も早くここを出るために。
立ち止まることも、振り返ることもしなかった。
「一度だけ、たった一度しか言わないからよく聞いて!」
SAOというデスゲームが始まってから、二か月。プレイヤーはようやく、第二層へと辿り着く、その階段を一歩一歩踏みしめながら彼女の言葉に耳を傾ける。
「ありがとう。君に会えて本当によかった」
思わず目を逸らしてしまいそうになる、輝かんばかりの笑顔だった。
「俺の方こそ。頑張れよアスナ、また会おう」
この言葉は届くことは無いだろう、いつか言う日が来るとすればこの世界から出る時だ。
上に続く階段を踏みしめて前に進む、後ろはもう振り向かなかった。