ソードアート・オンライン 仮想の城の反逆者   作:奇述師

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仮面の暴君
モラトリアム


 

 1

 

「キバオウ……? ちょっと何その格好は!?」

 

「ん、なんかおかしいんか?」

 

「どっからどう見てもおかしいに決まっている! トレードマークの髪型はどうしたの? その清潔感の欠片もない格好は!?」

 

「そんなんかまわへんやろ、誰が見ているわけでもないんやし」

 

「現にあなたの上司がここにいるでしょ! それに、その格好は人目が無いにしろひど過ぎ!」

 

「いいやん、そんな事。別に誰が見ているわけでもあらへんがな、じゃあ今日はオフやしゆっくりするわ」

 

「待ってキバオウ……ちょっと! ……私たちが! 見ているでしょうが!」

 

 聞きなれたはずの声の聞きなれない声量が部屋の外から聞こえてくる。

 

 激しい口調と悟りを開いたがごとくやっていることは違うだろうが、キバオウの冷静そのものの受け答えが癇に障ったのか彼女はやや荒れた様子で部屋に訪れた。

 

「一体どうしたというんだ? 一旦落ち着いた方がいいぞ、君らしくもない」

 

「これが落ち着いていられる? あんなもの見せられてたまったもんじゃないわ」

 

「落ち着いて聞いてくれ、あれは俺にも責任がある」

 

「あなたに?」

 

「そうだ。俺が彼の武装を解除させてしまった」

 

「武装解除?」

 

「男はな、女性がいないと武装を解除するんだよ」

 

「だからといって……あんなことになる?」

 

「考えてみるといい、もし男がこの世から居ないと仮定する。この世界では化粧なんてほとんど必要ないが……必要として、他にもいろいろと外出するときや人前に出るときは準備が必要だろう。だが、異性がいなかったら、君達でも多少はルーズになるだろう?」

 

「原因が分かった。私としてはあんまり見て気持ちのいいものじゃないけど」

 

「すまないな、リア。だが、君が男装をせずにもっと可愛らしい格好をすれば彼も戦士としての自覚を取り戻すだろう」

 

「うん、考てみる……流石にキモイ」

 

「ちなみに言うが、君がいなければもっと酷いからな」

 

「………………」

 

「モロダシだぞ……いい年下大人が3歳時並の行動をとるんだぞ?」

 

「受付に女の人何人か置くべきかもね、犯罪が起こるかもしれないけど」

 

「近々そうする予定だ、君の懸念が当たらないことを祈るばかりだが」

 

 このデスゲームの攻略が始まり、約半年がたった。

 

 最初のクオーターポイントで一度攻略は停滞してしまったがそれも一瞬。多少ペースは狂ってしまったが、順調に攻略は進んでいる。

 

 第一層を攻略した後、多少のもめごとは合ったものの、最初の足踏みは何だったのかというように攻略は順調に予想以上の速さで進んでいっている、目覚ましい結果ではあるが変わっていったのはそれだけではない。

 

 当然の如く、取り巻く環境も変わっていた。俺にしろ、キリトにしろ、アスナにしろ。

 

 同じ方向には進んでいるものの道は全く違っている。いいのか悪いのかは客観的には判断しずらいが、主観的な観点からだと良いことだと勝手に思っている。

 

 現在俺はアインクラッドでトップギルドと呼ばれている集団の創設者の一人として攻略に精を出して日々を暮らしている。とは言っても俺のやることは如何にして攻略に精を出させるか、攻略をしてくれる人数を増やしていくのかという仕事だ。

 

 欲に目がくらんだ腕が確かなプレイヤーを率いては破格の待遇と歩合制の資金で攻略へ勤しませたり、中層部プレイヤーへの投資、レベルも実力も確かではあるが危険は犯したくないという人たちには面倒だが攻略には有益になる情報が得られるクエストをこなさせ、その分の報酬を与えるといった如何にして効率よく攻略を行うかという目標を掲げて運営をしてた。

 

 余談ではあるがアスナは約束通り、契約通り血盟騎士団という少数ながらも戦闘という点に関しては我がギルドと張り合えるだけのトップギルドの副団長に就任している。

 

 キリトはというと一人で気儘に攻略しているとの情報を耳にはさむ。現実世界に戻りたくないのでは? と疑ってしまうほどに、彼はこの仮想の城に適応していた。攻略もしっかりやってくれ情報提供もしてらっていることもあり、これ以上何も要求できないのは事実だが少しだけ不安になってしまう。

 

 あの時、彼と彼女……キリトとアスナたちと袂を分かってからは攻略や情報収集、自己の強化、ギルドの運営など効率の悪さも相まって多忙を極めている。

 

 能力がない人間が無茶をしでかすとこういうことが起こるとは知っていた。だから音を上げるわけにはいかないが、あの後からはずっと同じことを繰り返している感じだ。

 

 俺から2人に対する関係性はずっと平行線をたどっているだけで一切変化はない。

 

 そんな中で大きく変わったことと言えば、俺自身が皆に認められ始めてしまっているということと専属の情報屋を引き入れたという事だろうか。

 

 彼女のここでの名前はシステム上定められた呼び名ではなくあくまで通称、そう呼んでほしいと言われたから【リア】と呼んではいるが、実際のプレイヤーネームとは似ても似つかないほどかけ離れている。

 

 彼女はビーストテイマーと呼ばれる珍しいプレイヤーで、聞いた話によるとごくごくまれにモンスターがこちらに興味を示してやってきて、餌付けするなり、アイテムを渡すなり……とまぁ何でも構わないらしいけれど、そのモンスターから気に入られる条件を満たすと自分の使い魔へとなって共に行動をしてくれるらしい。

 

 俺自身も自己申告してくれるまでは気付かなかった、トレードマークのように首に巻かれている飾りかマフラーかわからないものがまさか使い魔だとは思いもしないだろう。

 

 この現象自体非常に稀なことらしく、モンスターを使い魔へとした暁にはその賞賛と嫉妬を含めてビーストテイマーと称されているわけで。

 

 イベント発生条件としては、その系統のモンスターを多くは殺してはいけないらしく必然的にイベントを発生させようともするならば戦闘は避けられない、テイムできるモンスターは比較的小型で割と高度なアルゴリズムを持っているため簡単には倒せないし、逃げるのだってそこそこ難しいようだ。

 

 その点に関して彼女は比較的運がよかった、というか奇跡的な連鎖が幾重にもつながっていった結果だと本人は言っていた。

 

 余談ではあるが下層の方で青い竜を使い魔へすることに成功した女の子が出てきたらしく、いまはそっちで話は持ちきりだ。

 

 彼女と出会ったのはいつ頃だったかは定かではない、しかし、アルゴの紹介で俺のもとに来たという事だけはぽつりと漏らしてくれた。どういう文言で紹介し他のことは聞かせてくれないが。

 

 ちなみに結局のところアルゴを専属の情報屋として引き入れることは叶わなかった。リアがいる手前アグレッシブにアルゴを勧誘することは出来なくなったが、リアはアルゴに劣らず優秀だ。ただ一つ、気になる点を除いては不満は無い。

 

「やぁ、遅くなってすまないね。お取込み中だったかな?」

 

 そこでいったん思考を止めた。

 

 そして、俺の思惑通りこのデスゲームを率いる攻略組の中でも1,2位を争うまでに成長したギルドのトップであるディアベルが相変わらず趣味が悪い青い髪とさわやかな笑顔で、なんてことはなく、やつれた笑顔でやってきた。

 

「いやいや、こちらこそ急にすまない。フロアボスの方はどうだ?」

 

「問題ないよ、寧ろ拍子抜けしたくらいだ。それより、いい加減君がトップに就いてくれないか? もう勇者を演じるのはきついんだ」

 

「馬鹿なこと言うな、貴方が始めたんだぞ。第一俺じゃ務まらない、情報を基に思いついた出鱈目な案をあんたが上手く改善修正して結果につなげていっている、うまくやっているよ……貴方だから上手く回せている。適任は他にいない」

 

 ディアベルはよくやっている、俺がアルゴとリアから得た情報を基に出した案をディアベルへ提出、それをさらにいいものへと昇華させて実現させている、非常にいい指揮官だ。

 

「だけど、正直言って俺には重荷だよ。どうかな? 君がトップに就くっていうのは」

 

 壊れたラジオのようになっているな……そんなに勇者の役目が嫌か? 第一層の時は嬉々として名乗っていたのに。

 

 いや、あの時は騎士だったか? まぁどうでもいいか。

 

「ディアベル、頑張れ。大体俺の立ち位置は憎まれ役となってしまっているし……今の状態で手がいっぱいだ。こんなこと言うのもなんだが、キバオウに任せたらそれこそお終いだって言うのは分かっているだろう?」

 

「……確かに」

 

「それに俺なんかが君の場所に就いたらうるさいやつが出てくる。話し合いでこの役割を決めたんだ、今更変えられないさ。頑張れ……もしギルドの3分の2のメンバーが俺を推すのならばやってもいいが……その場合、ツケが回ってくるのは自分自身だぞ」

 

「脅しは効かない。言ったからな、言質はとった」

 

「何度目そう言っているか覚えているか? まぁ……その場合、俺がやっている業務全て受け持ってもらうというのは忘れるなよ? 責任は今の比ではないという事だけは覚えておいてくれ」

 

「…………」

 

「その分しっかり報酬は弾ませる、ある程度の要求も飲む。だから引き続きよろしく頼む」

 

 納得がいったのか、諦めたのか、はたまた淡々と計画を練っているのか。虚ろだった目が若干マシになったところで意見交換を重ねるとディアベルは重い足取りで部屋を後にした。

 

 ディアベルが一体いつまでこの重荷耐えれるかわからない。

 

 簡単に言えば優しすぎる。圧倒的強者ではなく、こうやって人間味があるからこそあれだけ大規模な組織になってもみんな変わらずについてくるのだろう。

 

 だが、権力に決して溺れることはなかったディアベルの贖罪の意思と強い意志は本当に賞賛に値する。

 

「あんまりギルドの運営に口を出したくはないけれど、私もあの人と同意見。貴方はもっと前に出るべき。血盟騎士団のように攻略だけに専念すればいいじゃない」

 

「君まで何を……俺がやらないといけないことは知っているだろう、とてもじゃないけど難しい。あと血盟騎士団のことは話題に出すな、これは命令だ」

 

「かしこまりました。でも、ここまで上手く行っているのは貴方のおかげ。実績も信頼も十分にある」

 

「それは違う、皆はディアベルだからついて行っているんだ。情報屋なら耳に入っていると思うが、今の攻略ペースは相当なものだろ? 血盟騎士団の副団長こと攻略の鬼、解放軍団長こと青い髪の鬼畜野郎と副団長のパワハラクソ頑固じじいが必死にケツを叩いて攻略速度を保っているが、俺に言わせればまだ甘い。ただ、俺がやれば間違いなくこのバランスは崩壊するのは目に見えている。だから前には出れない」

 

「また屁理屈、いつもそう。逃げてばっかり」

 

「逃げてなどいない、それに仮面を被り素性を見せないやつを信頼できるか? 未だにこの仮面を利用して詐欺まで行われているんだぞ?」

 

「案外、そういう事が狙いだったりするんでしょ? 悪い噂が残り続ける限り、貴方は恨みを引き受けられる」

 

「出鱈目だな、第一この立場にいるのは君との約束のせいでもあるんだぞ」

 

「私のため?」

 

「俺との契約を忘れたとは言わせない」

 

「もちろん、私は貴方に精一杯尽くす。だからあなたに私の望みを叶えてもらう。それが契約」

 

「そう、確かに君は俺に尽くしてくれている。君のおかげで本当に助かっているのは言うまでもない。しかし俺は君の望みを叶えていないと言うか、そもそも知らない」

 

「言ってないから」

 

「だから調べたよ、君のこと」

 

「…………」

 

「安心しろ、大した情報は得られなかった。わかったことと言えば君が前ギルドに所属していたことと、今はそのメンバーと君が別行動していることだけ。もちろんパーティーメンバーの名前なんて知らないし、構成もわからない。ただ、初めて俺と契約したあの日、憎悪にまみれた瞳を俺は忘れていない、だが何を企んで「何も言わないで」」

 

 彼女は自虐気味に笑った、俺が言いたいことは分かっている筈だ。だから言葉を遮るように否定する、言葉を重ね俺の発言を潰していた。

 

「私が一番理解っている」

 

 哀しい声音が全てを物語っていた。

 

「……そのつもりならその先は言わない。ただ、俺は万能じゃない……それだけは覚えておいてくれ」

 

 彼女は沈黙を貫いた、否定も肯定もせずに佇んでいる。

 わかっていると言いたげではあったが言葉に詰まったのだろう。鋭くなる目つき、盛り上がるこめかみ、喰いしばった口から読み取れるものは決して多くは無いが答えを出せずにいるのはわかる。

 

 こんな話の後だ、一般的に言えば気まずい空気が流れる。もっとも俺も、彼女にも関係のないものだが。

 

「それはそうとアリス君、うちのギルドに現実世界で税理士の人がいてね……もうそろそろやばそうだよ。と言うか、多分ばれてる」

 

「そのために君がいる。何とか宥めていてくれ」

 

 トップが金銭を横流しにしていたとかありえないのはどっちの世界でも同じことだ、この関係ももうそろそろはっきりさせた方がいいかもしれない。

 

「……使い方は間違っていない、けど、額が大きすぎる。それに隠していること自体が問題。そろそろ公に公表すべきだと思う。悪いことをしている訳じゃない」

 

「いや、どんな手を使ってもいいからそいつの口封じを頼む。それでも無理だったら直接行く」

 

「わかった。貴方がそういうなら」

 

 まだ足りない、現状ではまだまだ不十分だ。

 

 アインクラッドをより早く攻略するために必要不可欠である要素が大多数ある中そろっているのはほんの一部。

 俺はそれをそろえるために秘密裏に動いてきた。この行いの行く末がどこに行くのかはわからない、停滞かもしれないし、大きな歩みになるかもしれない……

 

 けれども、俺はやることはやるつもりだ。しかしあくまで大義名分を背負ったように見せかけた勝手な推測の押し付けと、ただただ合理性を求めた人の心など意にも介さない思想を尤もらしく遂行するだけ。詰まるところ自分のためにしか動いていない最低な人間だ。

 

 そんなことは置いといて、さっさとキリトの方をどうにかしないとな。

 

 攻略はしていないがレベリングだけはしっかりしているという意味の分からない行動をしているキリトを前線に引き戻さなければ。これだけの期間の離脱するという事はおそらく何らかの事情があるのだろう。

 

 だから無理強いは出来ないが。

 

 アルゴの情報からすると……この時間帯はレベル上げをしているのか。最前線から離れていることは今までに何回かあるが、ここまで下に下がったことは珍しい。なのにレベリングは続けている。

 

 立ち位置が分からない、考えられるとしたら脅しか温情かのいずれかで一時的に人助けをしているか攻略組から下りたのか2通りだろう。

 

 仮に後者であった場合、趣味のように彼が行っている迷宮区のマッピング作業を血盟騎士団と一度話し合わなければならなくなる。

 

 ただ、幸か不幸か彼が今所属していることになっている【月夜の黒猫団】は直接的ではないがこのギルドが(秘密裏に)援助しているギルドであることだけが救いか。

 もしそうなれば、キリトという最高の駒が手に入るのは間違いないし、彼の行動をある程度掌握、上手くいけば制御できる。

 

 もしそうできれば現在攻略に支障が出ていたとしてもお釣りが帰ってくる。

 

 もちろんこの情報と推測が正しければの話にはなるが。

 

「リア、少しばかり下に行くが一緒に来るか?」

 

「いい、私にはやることがあるし」

 

「そうか、それなら助かるよ。やはり君は頼りになる」

 

「どうもありがとう、貴方こそ頑張り過ぎないように」

 

「そこは頑張れだろ?」

 

「頑張りすぎてこの前みたいに倒れられても困るから」

 

「……善処する」

 

 

 

 

 






こんな世界だからこそ、希望を探し続けていけばいつかは結果がついてくる……

誰しもがそう信じていた。

この時のアインクラッドは、現実から目を背けるために見えない物に縋っていて、 俺も同じように微かな光にすがって、自分が助力することでこの世界はもっと良くなるんだと、ここできちんと生きているんだと仮想の世界で自分を偽って。

そんな事はあり得ないのに。

刻一刻と不穏な暗闇が希望を飲み込もうとしていた。
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