1
20層、陽だまりの丘。
アフリカあたりで悪魔の木と呼ばれているような背格好の木々が生い茂り、乾燥した草地をテーマとしたのどか……とは言い難いが、悪いところではない。
一つ欠点があるとすれば、ポップしてくるモンスターが気色悪いということだけだろうか。
やたらと図体のデカい昆虫類が嫌がらせのように湧いて出てくるし、そこそこ忠実に再現されいて攻略組全体としてもビジュアルになれるのに時間がかかった気がする。
嫌な思い出がフラッシュバックするが立ち止まるわけにもいかない、まるで出迎えてくれるかのように次々に湧いて出る昆虫系モンスターを斬り伏せながら彼等のもとに向かっていた。
しかしまぁ、10層くらい下だけど、案外覚えていないもんなんだな。
短期記憶は得意だけど長期になるとすっかりだ。さて、このあたりにいるはずだが……おっと丁度いいところに見つけた。
あれが月夜の黒猫団か、皆高校生くらいか。随分若いギルドだな。それにしてもパーティー構成が悪すぎる。
接近要員3名、しかも一人は手練れでもう一人は普通、更に残る一人はビビりまくり、槍一人、壁2枚……何でこんなのが急成長しているのか全く理解できない、その要因が何なのかすらもわからない。
しかし、ここでじっとしている訳にもいかないしわざわざ時間を割いたのに何の成果も得られずに戻るのも消費した時間がもったいない。
だが、異常なハイペースで最前線に近づいていることは間違いない。アルゴからの情報ではそう書いているから疑うことはあまりしたくないが……。
モンスターを倒しワイワイと盛り上がっているところに接近するも周りが見えていないのか俺の方に一向に気付く気配がない。
「おいおい、俺たちが血盟騎士団や解放軍の仲間入りってか?」
「なんだよ目標は高く持とうぜ、まずは全員レベル30な」
こうやって和気藹々と戯れているところ割り込むのは何度も経験しているし、空気を読んで、なんてする義理もない。
「忙しいとこ申し訳ない、君たちが月夜の黒猫団か?」
「……ああ、そうだけど」
「何だよいきなり」
と喧嘩腰でいきりたっているバカそ……頭が弱そうな奴が忌々しげに言ってくる、おそらく自分に酔っている危ないタイプの中二病だろう。
「おい、やめろ何でそんなに喧嘩腰なんだ」
面識があるのはリーダーのたけし? だったか忘れたがそんな感じの奴で、実質ギルドメンバー全員と会うのは初めてだ。
リーダーは普通にいいやつそうだが……メンバーはそうでもないらしい。
金髪碧眼にしてどこぞの民族衣装をもしているかわからない物を着ている中二病、細目の地味めなやつ、いきりくせ毛、大人しそうで大和撫子とでもいった女の子に、黒髪黒装束を身にまとい、この階層に適した武器を装備している見知った男。
「初めましてと言っておこう。自己紹介はいらないだろう、俺はアリス。解放軍の創設者の一人だ」
やはりいたか。これでようやく急成長の理由にも説明がつく。
「ご無沙汰してるよ。改めて俺はこのギルドのリーダー・ケイタ。でどうしたんです?」
「うれしい知らせだ。君たちが急成長を遂げているって噂を聞いてね、君とはもう一度話がしたい。今までは微々たる援助しかしていなかったが、近々攻略組に上がることを期待して正式に手を組みたい。あと、その盾なしの片手剣使いの新入りのことも少し聞かせてもらおうか」
「ああ、別に構わないけど……」
「キリトは俺たちの仲間だ。それで何の用だ……ベーター!」
中二病がそれなりの演技で凄んでくる、急にキレるのがかっこいいと思ってしまう年頃なんだろうか? まだ何もしていないのに。
ただ、ビーターと、そう言われるのはなかなか久ぶりの事だ。寧ろ懐かしくもある。
アルゴによると根も葉もないうわさが独り歩きをするのは有名人の特権だから気にするな、とのことだが……こうも阿保みたいにキレられると面白いな。
仮面を被っていなかったら更に怒りを加速させていたかもしれない、それはそれで見たくもある。
中二病が意味の分からないいちゃもんが止まらない中、地味とワカメと地味子が興味本位で寄ってくる。違った、仲裁に入ってくれているのか。
だが、中二病にはそれが許せなかったようで結果的に火に油を注ぐ結果になってしまったが面白いから問題ない。
その後ろでキリトはその輪の後ろで必死に俺と目を合わせないように下を向き続けていた。
後ろめたい何かが、俺とこの場において関わりたくない、そういっているようにも見えた。キリトとは第二層時点でなし崩し的に和解はしているし、つい最近までは迷宮区でばったり会って即席のパーティーを組むことだってあった。
だからその沈黙に意味がある、このメンバーたちに話していない後ろめたいことがあって、俺と知り合いという事実を隠したいからそうやっているのだ、そう推測せざるを得なかった。
「言いたいことは言い終わったか? 俺は君たちのリーダーと話がしたい。もう良ければそこらへんで遊んできてほしい」
「この野郎!」
「まぁまぁ落ち着けって、この人は信頼できる。話に入ってくれても構わない、どうせすぐに終わるんだろ?」
「俺のことが分かってきたな。まず確認したいのだが君たちは解放軍入るつもりはなく、あくまで月夜の黒猫団としてやっていくってことでいいのかな?」
「ああ、それでいい」
「それじゃあ細かいことを詰めていこう。まず………………」
「え!? そんなに……ちょとそれは…………」
話を進めること5分、思いの外長引いた話を終わらせた。本来はわざわざ会いに来る必要はなく、メッセージを飛ばせばいいのだがそれはフレンドリストに双方がいればの話。
俺のフレンドリストにはリアとアルゴしか登録されていないためにこの様な手間がかかることをしないといけない。いつもならリアに任せているのだが今回は自分の目で確かめないといけないことがあったために面倒なことをしたが来た甲斐はあった。
「OK、それじゃ頑張ってくれと言いたいが、少し君たちを見てて指摘したいことがある」
聞いてくれるかは怪しかったが、話だけは聞いてくれた。
勤勉であったし、キリトを除く他の男たちは上昇志向もあったので助かった。しかしキリトがいたとしても如何せん組み合わせが悪い、そのことの指摘も事細かに、そしてこれから先の層の情報もある程度は話した、信用されているか否かはまだわからないが。
このケイタってやつの望みを聞く限りではあるが、あまりにもお気楽なもので驚いた、攻略組をあまりにも美化しすぎている、このギルドが攻略組に加わることによって平均年齢がぐっと下げてしまうほどに若い、俺もそのことは言えないが、このメンバーは一人を除いていい奴すぎる。いい意味でも悪い意味でも、幼い。
このギルドが攻略組へ加わることによってこの甘ったれた雰囲気がどう作用するのかは分からないが……大半は若い者には負けられない! とか言って決起するに違いないと思いたい。
それでもまだ幾何か先の未来の話、それなりの収穫得られなかったけど、まぁ無駄ではなかった。
それよりも気になるのはキリトのことだ、どうやら自分の情報を偽って、経歴を隠してその場に無理やり溶け込んでいる……ようにも思えた。
「というわけで、話は終わりだ。時間とらせてすまなかったな……取り合えずあんたらには頑張ってほしい。しかし急成長したからといって調子に乗っていつもと違うことをしようとするなよ。お前らギルドの雰囲気は良くいえば和やか年相応に長閑なものだが、悪く言えば危機感がなく、楽観的に物事を考えていて更に今ちょっと調子いいからって何でもできる気になっている子供と変わらない、ここがどういう場所であるか忘れないように」
心理的に今は相当警戒されているため、怪訝な顔でお見送りをされた。特に中二病患者からはありがたいことばをたくさんもらった。
少し先、27層あたりではトラップが巧妙に、そして強力に作り替えられていた、安全マージンが必然的に上げられるほどに凶悪なものへ。
それよりも久々にキリトと話してみるか……聞きたいことと議論したいことがあるし、彼の現状も気になっている。
月夜の黒猫団とはどういう経緯で、どんな巡り合わせで一緒にいるのか、もしかしたら何か弱みを握られて……は流石に考えすぎた。このお花畑のギルドのメンバーがそんなことを考える脳があるとは思えない。
キリトのことは置いといてこのギルドが成長するにはサチとかいう女の子くらいの恐怖感を持っていて前に進む勇気さえあれば丁度いいんだけどな、男4人の中に女1人(本来のメンバー)という組織構造であれば発言力は彼女にないのかもしれない。
第一このゲームにいるってことはそこまでイケイケの感じではないだろうし、あんな連中だし、調子に乗ると何でもできる気になるだろうからな。
閑話休題。
真相がどうであれ今のキリトの居場所はあそこだ。
そこに口出しする権利なんて俺にはない、とやかく言うつもりはないが、知人としてアドバイスするくらいなら問題ないだろう。
しかし、良かったな。いい人たちに出会えて。
少しだけ羨ましそうに思っている自分を少し恥ずかしく、そして苛立たしく思いながら安らかに微笑む彼は斧と木の少年とは全く違うように思えた。
2
28層のフィールド、通称狼ヶ丘。キリトが最近現れるという少しさびれたレベリングスポットに最近はよく顔を出しているらしい。
時間は丑三つ時、つまるところ午前2時くらいの深夜。
ここ狼ヶ丘は名前の通り狼のモンスターが多数ポップするレベリングスポットである、その他にも攻撃力は高いがある程度決められた攻撃パターンと経験値の多さから実力のある人たちからは非常によく好まれている、またこの狼自体非常に凶暴なので割に合わないと言えばそうかもしれないが、俺個人としてはもう用がなかった筈の狩場だ。
トン・トン・トンと、軽やかに左右に跳び死角から襲い掛かってくるがそのパターンはすでに対応済み、軽く剣の側面で突進の威力をそらしすれ違いざまに一撃を首元へ叩きこみ、怯んだところへ短剣突進技リーパーを押し込む。
少しの振動が手に伝わった後、フッと手ごたえが消えた。
暫くはリポップしないため少しばかりの充足感を得ながらペン回しならぬ剣回しをした後で自分の思い描いた軌道を描く。
速く、迅く、疾く。
薙ぎ払い、突き、斬り上げ、回転しその勢いを利用して斬り払う。
ソードスキルは使わないオリジナルの剣術、動きを最小限にフェイクも入れて迅く剣を動かし疾く動く、最も大事な足運びは細心の注意を払い意図的に意識して動かす。
風を切り裂く音が静かに響き一息をつくと乾いた音が3回ほど耳に届いた。
「また……腕を上げたみたいだな」
「まぁな、ステータス上昇による補正も関係しているが……しかし大分遅かったじゃないかキリト。何か楽しいことでもあったのか?」
昼間とは違い見慣れた感じのキリトが立っていた。
装備も昼よりも黒々と彼らしい風貌になってはいたけど、よそよそしい感じは昼間よりももっと顕著に、言葉は表面上平静を繕ってはいたが俺の目を見て言うことは無く……何かを受け入れるような表情をしていた。
この表情を俺は知っている、解っている、見たことは無いがその表情は罰を受けたがっている表情だ。
まさかまだ引きずっている? いやいや半年も前のことだぞ、あの時はこれからβテスターたちがその他のプレイヤーからよく思われなくなり攻略に支障をきたすよりかは特定の個人にその思いを集めた方がいいと思ったからだ。
特にβ時代を経験し、尚且つその内部情報だけは詳しく知っていた俺が適任だっただけだ、確かに俺がソロで活動するには酷く危険が伴う行為だがそれ相応の対価をキリトとアルゴからもらっているから俺はまだ生きている、それも返しきれないお釣りを今もまだくれている。
気にすることなんて何もないのに、寧ろ俺の方が図々しいくらい施しを受けているというのに……
「その……話って、何だ? 偶然ここに来たわけじゃないだろ」
重くなっていた雰囲気をさらに重い空気にすべくキリトは口を開いた、狼がリポップした為ひとまずは剣を抜き撃退した、パーティーを組んでいないため経験値はキリトの方だけに行ってしまったが、やはり技術の衰えは目に見えて顕著だ。
プロのピアニストは一日練習をサボるとその遅れを一週間かけてその鈍りを取り戻すというが……キリトの場合は一週間以上もぬるま湯につかっていたわけで、それに夜は最前線まで来ていたらしいが、その程度では±マイナスになってしまう。
俺もそんなことつべこべ言うつもりはないし、フォローしてやる優しさも、ない。
それとは別に聞こうとしていたことなんて忘れてしまうほどに俺の心は冷静じゃなかった。
「あまり口出ししたくはないが……お前あそこにいていいのか?」
「……楽しいというか、落ち着くっていうか、何だろうな。甘えてしまっているのかもしれない、彼らの雰囲気に」
「……あの場で言うことが出来なかったこと言おうと思ってな」
「あの時は……すまなかった。あんたと知り合いだとばれたら色々困ると思って」
「あからさまな不審人物と知り合いだなんて嫌だもんな?」
聞かなくてもいいことだとはわかっているが、悪癖だけはどうも直せなかった、元より直すつもりは一切ないが。
「いやっ、そ、そんなことは無い。久々に会えて恥ずかしかっただけだ」
恋する乙女か。
「そんなどうでもいいことは置いておいて、これからどうするつもりか聞きに来た」
一体俺は何様なんだ、口走っておいて我ながら虫唾が走る。
そんな感情をも噛み砕いて、俺は再びキリトに問いかけた。
俺が本当に心配しているのはキリトではなく、攻略に支障が出ることだ。ソロで行動するキリトや俺をはじめとする幾何かのプレイヤーはたいていどこかのギルドの支援を受け……もとい雇われている身の人が多い。
その為か、非営利での情報を配信しているプレイヤーは少なくその点においてキリトは非常に優秀であった人材だ、俺とは違い隅々まで迷宮区を探索しほとんど完璧なマッピングデータを無償で提供する行いは合理的行動をモットーとする俺には出来ないことだ。
マッピングデータの無償支給はしているがそれでは遠くキリトに及んでないことは自分が一番よくわかっていた、その大切な人材が現在下でぬくぬく過ごしているとなると多少なりともこれから大きなことに繋がりかねない。
夜な夜な最前線には顔を出しているようだがあまりにも無駄な時間、あいつらと関わっている時間が多すぎる。それに、あの程度のプレイヤーと一緒にいたらキリトの足を引っ張りかねないし、ああやって遠慮している状態が続くのだったら長く一緒にいてもらう方が困る。
アルゴによればあのギルドは高校のパソコン部の集まりらしくこの世界で作られた仮の関係ではない、キリトとあの連中の溝は埋まるのにはもう少し時間がかかる、最短でも半年以上は……
結局、何の重みのない言葉に動かされるくらいのものならそれだけの話だ。
「そう、だな……俺がこんな事していいわけな「違う、俺はそういうことを言っているんじゃない」」
筋違いな謝罪や罪を勝手に背負うのはどうでもいいがその間違った思い込みで自分を罰するのは間違っている、それはキリトに言葉で伝えても届くことのなかったことなのですでに諦めているが認めたわけではない。
「お前、あいつらに隠していることがあるだろ……推測だがレベルとか偽っているんじゃないか? 隠すことがあるんだったら正直に話すべきだ、長く一緒にいるんだったらな」
「でも……そしたら……」
言いたいことは分かる、あのメンバーの俺に対する態度がそれを物語っていたからだ、俺とキリトは客観的に見たら似た者同士。
本質こそは違えど、そんなことわかってくれるのはほんの一部の人間だ。
「そんなことも受け入れてくれない奴らだったら、一緒にいるのをやめてしまえ。その程度の薄っぺらい信頼関係なんだ、そんな連中と時間を浪費するくらいだったらさっさと最前線に戻ってこい、一緒に行動する意味は皆無だ」
キリトにとっても、俺にとっても、そしてあいつらにとっても。
「そうだよな……俺みたいなやつに「だ・か・ら! そういうこと言ってんじゃない」」
全く、ひねくれすぎだ。対人関係は不器用なやつだな……言葉から真意をくみ取ってくれたらどんなに楽なことか、その分言葉で伝えれば素直に受け止めてくれるが。
こいつはいつも、いつだって、本心で話してくれることは無かった、いつだって遠慮して何かを償うようにしていた。
俺はそれがやっぱり気に食わない。
「埒が明かない。一つだけ質問だ、あの場所はお前にとっていい場所なのか? そうかそうではないかで答えろ」
「……ああ、そうだ」
「その間が、答えだってことを、自分でもよくわかっているはずだ」
「…………」
「自分の情報を偽って、いいやつを演じて、一つ一つは我慢できてもいずれは我慢できなくなるもんだ、お前が隠していることだって上に来れば確実にばれることになる。お前が言わなくともいつかきっとばれる事なんだよ、それが遅いか早いかの違いだ。そして例え、ばれなくともこのまま関係が続けばお前はいつか必ずあいつらを見殺しにする」
「……そんなことは絶対しない!」
「見解の相違だな、お前あの団体で発言を積極的にしないだろ、ボロが漏れないように、それにずっと遠慮して気を使って……これからお前が知っているはずの数多の危険区域は死に直結することろもある、でもまだ新入りで発言権がないお前は強く主張できないし、かと言って自分の情報は明かさない、理由を聞かれれば押し黙って結局数に流されて、危機的状況に追い込まれ見殺しにする」
「違う!」
「何も違わないさ」
「俺は……あの人たちを守るって決めたんだ、絶対に。お前に口出しをされることじゃない!」
やっと本音で話してくれたな。
「その道がどれだけ厳しいかわかっているのか? 自分を守るだけでも精いっぱいだった奴に他人を守れるのか? 始まりの町で自分を守るためにひたすら逃げていたお前が」
「やってみせる!」
「本気か?」
「当たり前だ!」
「ならその覚悟を貫き通せ」
「…………え?」
「ただしその道は想像よりもずっと険しいぞ、何かを守るってことはそんな簡単なことじゃない。失うということは……思っているよりも遥かに苦しい、関係ないと、ただの駒だと思っていたやつらでさえ」
最初のクオーターポイントで、3人を失った。
そのうちの一人が同じギルドの戦闘員で、深い喪失感と恐怖に囚われた。
我ながら細い神経だと自嘲しているが、思いの外関係者の死を目の当たりにするのはきついものがある。
それに俺はあの時、とうの昔に、守りたかったものと自分を秤にかけ迷うまでもなく自分を選んだのだから。
「アリス……」
「それに俺は本当に失いたくないものを、手の届かないところに遠ざけてしまった。お前に押し付けて、この道を進み始めた俺にはもう立ち止まる権利なんて、ない。だから、一度覚悟したら引き返せないことだけは覚えておいてくれ」
本音を言わした代償は本音で返さないといけない、だから……歩み続けるしか残されていない。
自分で選んだこの道を、文字通り命を懸けて。
3
後日、正確にはクリスマスイブの12月24日、ある一通のメッセージがアルゴを通して俺のもとに届いた。
そこには少年少女6人が、事情を知っていなければ旧知の間柄のようにじゃれあっているかのように映っていた、俺がよく知る友達も見たことないくらい眩しい顔で笑っている。
攻略組に仲間入り! という文字が写真の下の方で映えていた、そして短いが何かしら伝えた方がいいのかと思ったがそれは止めた。
そんなことしなくとも、近いうちに合う日が来るだろうから。
「さて、クリスマスに一緒に過ごす相手もいない寂しい野郎ども! 戦う準備は出来ているか!?」
「「「「おおおお!!!!」」」」
さて、今夜のメインイベントは何でも蘇生アイテムをドロップするボス級モンスターがもみの木の下に出現するらしい、俺の考えからすると蘇生アイテムがどんなプレイヤーにも適応されるのならこのゲームは外部からナーブギアの電源を切ってもこの世界から解放されることを意味する、だから極限られた条件のもとでしか効果を発揮しない代物であるだろう。
ただとんでもない値が付くことは間違いないので金に釣られ一緒に過ごす相手もいない暇人兼金の亡者たちが驚くほど集結している。
というわけで、解放軍の皆さんとともに大勢で寂しくクリスマスを過ごすことになってしまった……こんなことに戦力を分散させるよりかは攻略に力を注いでいただきたいが、蘇生アイテムだけではなくクリスマスプレゼントとしてハイリターンな報酬が受け取れるらしく、この事情であればこの熱の入れ方も納得がいく。
最も誰がそのアイテムを獲れるかは運次第でもあるが。
そしてちょうど0時00分クリスマスの12月25日、そらから醜悪なサンタ……いやサタンが下りてくる、まるで服の赤色は血で染め上げたように生々しく、目は血走っている。
とても子供たちへ夢と希望を配る聖職者には見えない、逝喰者だ。
装備は斧だし、まるでアメリカンジョークの桜の木を切った男の子みたいだな、斧を畏れた先生は起こることが出来ませんでしたという話。
「今夜はこのクソサンタと血祭じゃぁぁぁぁあああああ!!!!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお」」」」
最近は違う意味で吹っ切れたディアベルが情緒不安定さを伺わせる激励を飛ばしサンタクロースへ突撃しに行った。
その様子を若干呆れながら少しだけ眺めてキリトへとかけた言葉を思い出す。
あれは彼だけにではなく、自分にも向けた言葉だったと。
罰を受けたがっている甘ちゃんは俺の方だった、人のふりを見てようやく気付くこともあるんだな……。
未だに腕に残る赤黒白の3色のミサンガ、罰を受けたがっている象徴がそこにはある。
「ありがとう。君に会えて本当によかった」と頭に染みついて離れない呪いも、何も知らずに凛として美しく微笑む大馬鹿野郎が離れない。
後悔はしている、たらればの話なんて何度考えたかもわからない。
この決断はきっと正解ではなかったのだろう、ただそれでも、いやだからこそ。
なおさら立ち止まってはいられない、きっとそういう理由が欲しかったのだから。