1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-   作:三流FLASH職人

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第9話 もうひとりの私、それより上の彼女

 宇宙世紀0079、1月2日、PM9:00

うーん、と伸びをして机に座るセリカ。お正月だというのに、地球から戻って以来

休む暇もない。有名人は辛いな、ねぇトオル、と心で呟く。

例のTVが放映されたせいで、アイランド・イフィッシュに宇宙港には大勢のマスコミや

顔見知りが待ち構えていた。

これもプロバガンダの一環だろうけど、ヤリ玉に上げられる方の身にもなってほしい。

まぁ笑顔は絶やさなかったけど。

 それが終わると今度は来年の結婚式の報告と招待状の作成だ。

この1年、私の本性がバレたせいで女友達も大勢できた。ユリにエミーにショーンに・・・

あとファンクラブの連中にも出さなければいけない、スティーブにガンツにアクトに、

あと勿論ジャックにも。

 

 さて、これからは私の時間。カバンの中から2冊の日記帳を取り出す。

トオルと付き合い始めてからずっと続けてる交換日記。再会した時にまとめて半年分くらい

渡し渡されて、お互いの半年を追うのが楽しみになっている。

今回トオルから渡された日記は帰りのシャトルでもう読んでしまった、

生真面目で直球、かつウィットに富んだトオルの文章は、いつ読んでも「らしさ」が前面に出て

トオルの生々しさを感じられる。

最初は子供っぽいかと思っていた交換日記だけど、こうして続けるとなるほど遠距離恋愛には

もってこいだ。

 トオルの日記帳を隣に置いて、真新しい日記帳を開く。とりあえずこの正月はネタには困らない。

大みそかに帰宅して以来の多忙な日々を綴っていくセリカ。時に頭をひねり、時に微笑んで。

トオルがこれを読んでどんな感想を持つかな、そんなことを考えるだけでペンは進む。

今日までの出来事を綴り終わってひと息つく。際にあるトオルの日記帳を手に取り、ページをめくる。

 

色々あったよね。

 

 流し見してから思い出に浸る。初めて出会ったその日から、私に対抗意識を燃やした男の子。

負けん気が強くて、一生懸命で、私の能力を知ってからも態度を変えることなく接してきた人。

どんなに分の悪い勝負でも諦めず、挫けず、逃げずに向かってきた、私の彼氏。

「ねぇ、トオル。私って、あなたに勝てないことがひとつあるんだよ。」

改めて自分の日記帳を開きペンを取る。今日の日記は長くなりそうだ。

セリカは綴る、ずっと昔に彼女が出会った、彼女が敵わなかった、ある天才少女のこと。

 

 あれは7歳の時、私は遠い親戚の葬式のため、サイド6のあるセレモニーホールにいた。

「お葬式」が悲しい出来事であるから、笑ってはいけないことは知っていた。

それと長い儀式さえガマンすれば、そのあとごちそうが食べられることも。だから私は

顔も知らない大人たちに交じって、私の髪と同じ色の「黒い服」をまとってガマンしていた。

ようやく葬儀も終わり、食事会場に移動する。見たこともないような食べ物に心が躍る。

と、一人の女性が、自分と同じくらいの女の子を隣に連れてきた。

「ここ、いいかしら?」

と母親らしい女性が言う、その女の子はうつむいて視線を合わそうとしない。浅黒い肌に

私と同じ黒い髪を丸くまとめた、金緑色の瞳をした、どこか不思議な雰囲気を持った娘。

「もう笑っていいから、子供同士楽しんでね。」

そう言うと女性は他の席に行ってしまった。母親ではないのかな?

とりあえず隣に座った少女に声をかける。

「私、ココロ・スン、あなたは?」

「・・・ララァ、ララァ・スン。」

自分を斜に見ながら、薄い笑いを浮かべて、そう答える少女

なんか暗そうだし、付き合いづらそうな印象の子だ、緊張するな~。

 

お料理を平らげると、大人はしばらく雑談の時間となる。お酒も入ることもあり

子供二人は会場の裏庭に出され、自由に遊んでいいことになる。

「ねぇララァちゃん、何して遊ぼっか?」

自信満々に言う。実は私には少し不思議な力がある、相手の考えや感情がほんの少し分かる。

勝負ごと等の「強い意志」に関しては勝負直前にピンと来るのだ。

彼女が何の遊びを提示しても、私が負けるはずがないと思っていた。

 

何で?

じゃんけん、かくれんぼ、ボール遊び、宝探しからカードゲームまで、私は何一つ勝てなかった。

彼女の感情はまるで湖の水面のごとく静かで、まるで読めない。

でもそれだけなら五分五分の勝敗になるはずなのに、まるでこちらの意図を見透かされてるように

やる遊びやる遊び、ことごとく私は後れを取ってしまった。

 

 両親が帰る時間になったと告げても私は、「あと1回、あと1回だけ」を繰り返しては

勝負を挑み、そして負け続けた。

日が落ち、とうとうあきらめざるを得なくなるココロ。涙目になりながらララァを睨む。

最後に「ばかぁっ!」と叫んで、走ってその場から逃げた。

ただ負けただけじゃない、ララァは最初から最後までココロに無関心で、その表情を崩さなかった。

いくらココロが必死になっても、まるで作業のように淡々とそれを上回る彼女に、人生で味わったことのない

敗北感を感じ、私は泣いた。

両親に叱られ、お詫びの手紙を書いたのはその翌日のことだった。聞いた住所を書いて投函した封筒は

3日後に自宅に「宛先不明」で返ってきた。

 両親が直接連絡を試みたが、どうにも行方がつかめない。そもそも彼女の両親が誰なのかすら

定かではなかった。

 

 それから数日後だった。「特殊能力開発機関」を名乗る男がココロの家を訪れたのは。

ココロも父親も、その目的がココロの力であること、彼らの行いが人道的なそれから

大きく外れていることはすぐに気づいた。対応も早々にお帰り願ったが、

その時男が言った一言がココロには引っかかった。

「そういえば、おたくの親戚筋だと思いますが・・・確かララァさん、おたくの娘さんと

同じくらいの年頃の娘と思いますが、ご存知無いですか?」

 

 彼女も、同じ能力があったんだ-

そう考えれば、あの連戦連敗も説明がつく。ココロは相手の意思が読めるだけなのに、

ララァは自分の意思を消してこっちの心を読んでいたのだ。

むしろ機関の目的は彼女で、その足取りを追う流れでウチに来たのかもしれない。

 それからというもの、不審な電話や顔を知らない人物が家周辺を徘徊するのが目立ちだす、

明らかに監視されていることを悟り、一家は引っ越しというより夜逃げを決意する。

 

 監視のスキをついてサイド6からドロンし、途中サイド2に立ち寄って、あらかじめ手配していた

美容院でココロの髪を脱色し、染める。

カラーサンプルから金緑色を選んだのは、あの娘の瞳の色と同じだったからなのかもしれない。

彼女、ララァはどうしただろうか。例の機関に関わらずにすんでいるだろうか。

心配する反面、もう会わずに済みそうなことにもほっとしていた。

あんな悔しい思いはもうしたくない、あの力を使って勝てるのは私だけでいい。

・・・あれ?

じゃあ、今まで私が負かしてきた子たちも、私みたいな悔しい思いをしたの?

そう考えたとき、ココロの背中に冷たいものが走った。私のこの能力は、私を勝たせてくれる代わりに

私から友達を奪っていく、そういう能力-

 

 それでもいい、あまり派手な使い方をしなければ、あの機関にもバレないだろう。

そして彼女はセリカ・ナーレッドと名を変え、地球に降りる。

 

「だけどそこには、私の能力にもめげずに、何度でも挑んでくる男の子がいた。」

そう書き留めてペンを置く。もしトオルと出会わなかったら、私は一体どうなってただろう。

私の能力を知った後でさえ、それを非難すらせず、先の一手を考えてきた人。

私が出来ないこと、自分より上の力を持った相手にあきらめずに挑み続けることができる少年。

私を愛し、結婚、そして未来への希望まで与えてくれた愛しい人。

もう一度ペンを取り、最後にこう書き加える。

 

-ありがとう-

 

そのまま日記帳を抱え、机に突っ伏して眠りに落ちるセリカ。ここ何日かの激務で疲れもピークだ。

トオルとの幸せな夢を見るのはもう少し先、、目覚める少し前になるだろう。

 

各家に設置された緊急速報のモニタが点灯する。

『・・・緊急ニュースです。本日00:00をもって、ジオン公国が連邦政府に宣戦を布告しました

各人は落ち着いて冷静に、続報をお待ちください-』

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