1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-   作:三流FLASH職人

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第11話 悪意と良心、それと生者

 宇宙港の入り口、ターミナルビルに到着、手をヒザについて呼吸を整える。

ここに着くまで、道端に、家の玄関に、公園に、たくさんの人が倒れているのを見てきた、

しかし、ここターミナルビルは別格だった。昼夜を問わず人が行きかう場所で放たれた毒ガスは

その地に死屍累々の地獄絵図を描きあげていた。

 

 だが、セリカにはもうそれがおぞましい光景とは感じられなかった。彼らの体を離れた魂の

存在をそこかしこに感じていたから。

彼らは光の玉となって空間を漂う、セリカは思う。地球なら彼らの魂は天国に上るのだろう。

しかし宇宙コロニーに浮かぶ魂はどこに飛んで行って救済されるのだろうか、このまま行くあてなく

宇宙空間を漂うのだろうか、そう思うと宇宙移民が本当に正しかったのだろうか、そんな考えが頭をよぎる。

 

 と、ヘルメットのバイザーが緑色の表示を示す。

毒ガスの効果が薄まったことを示している、ありがたい。さっきから息苦しくて仕方なかったから。

ボタンを押し、バイザーを上げる。外宇宙に近いこのエリアでは浄化もより早いみたいだ。

空調システムが宇宙港内にもあったことも原因の一環だろう。毒を広める起点になった分、

浄化も早いということか。

 ふぅ、と一息つくセリカ。と同時に腹の虫が盛大に鳴り響く。

「うわあぁぁ・・・」

みっともない。そういえば寝てたとはいえ、4日間なんにも食べてない。こんなパニック的状況でも

体の欲求は正直だ。

売店に寄り、パンと牛乳を失敬する、がっつくように食べた食事は、こんな地獄でも美味だった。

 

 エレベーターはもちろん止まっている、とういより案内板から時刻表、エスカレーターはおろか

照明に至るまですべて落ちている、ゴーストタウンの駅があったらこんな景観になるだろうか。

エレベーターの横の非常階段への防火扉を開け、螺旋階段を飛ぶように駆け降りる。

途中、重力が反転するポイントで、階段の裏側に回る踊り場があるはずだ。

あれだ、そこまでたどり着き、ループ床になっている所を歩き、反転する。

ずしり!と体に重力がかかる。さっきまでは通常より弱い重力だったのに、反転した途端体重が復活する。

 

「・・・え?」

Gコンが狂ってるのなら、反転した後も重力は軽いままか、逆に重くなるはずだ。でもコロニー内で

弱重力だったのが、コロニーの外側で通常重力と言うことは、まさか・・・。

階段を駆け上がるセリカ、通常の重力になったせいで上がるのがキツい。ひたすら螺旋を駆け上がって

ようやく終点の防火扉にたどり着く。

気配を探る、外に生者の気配はない、そっと扉を開け、中に入る。

 

 こちらも惨状は同じだった。無数の死体、落ちたシステム。ただ違うのは、こちら側には各所に

破損、粉砕された様々なガレキ等が散らばっていること、それはここで戦闘があったことを

示していた。おそらくジオンはここから潜入し、破壊と毒ガス工作を行ったのだろう。

その生々しさが、セリカに注意を喚起する。ここにはまだジオン兵が潜んでいるかもしれない。

そんな緊張感を感じ、物陰に隠れながら慎重に宇宙港を移動する。

やがて見送りのデッキ付近まで来た彼女は、そっと外宇宙をガラス越しにのぞき込む。

 

 いた、ジオンの宇宙船。目に入る宇宙空間にはジオンカラーの大型船と、忙しく動き回る

人の形をしたメカ、「モビルスーツ」と呼ばれる機械の巨人。

おそらく攻め入ったのもあの機械だろう、セリカは見つからないように物陰に身を潜め、外の気配を伺う。

通常の彼女の能力であれば、数百メートルも離れた、まして真空の宇宙空間の気配の察知など不可能であったろう。

しかし、無数の死人の魂に触れ、彼女の能力は今までにない程研ぎ澄まされ、感度も上がっていた。

本人は自覚もないまま、今の自分ならできる、と、外の人間の気配や意思を読み取ろうとする。

そして、それに呼応するかのように、彼女の頭に声が響く。若い士官らしき声。

 

『これは!これは何ですか、これは!!』

焦燥と、悲しみと、そして怒りが存分に込められた、強い意志を持った声。

『あのコロニーに暮らしていた住人はどうなったんですか!2千万人がいたはずだ!!』

叫んでいるのはどうやらジオンの将兵らしい、彼が嘆いているのはどうやらこのアイランド・イフィッシュの・・・

『いや、あんなものを地球に落としたら!!』

 

え?地球に、落とす?

セリカにはすぐに理解ができなかった。それと気づいたのはその大型船が、次第に左に移動し

見えなくなっていった時だった・・・このコロニーは動いている!進行方向は・・・地球!

 

 状況は完全に理解した。ジオンがこのコロニーの住民を皆殺しにしたのは、このコロニーを

武器として地球に落下させるためだったんだ。

そういや動いているけど回ってはいない、遠心力が働いていないから、コロニーの内側では

重力が弱くなっていたんだ。

でも、それなら時間が無い。このコロニーが落ちるまでに脱出しなければ、自分に助かるすべはない。

と、そこでひとつの予感に突き当たる、気付きたくもなかった悪夢。

 

-もしこのコロニーがオーストラリア周辺に落下したら、あの人、トオルは助からない、そんな・・・-

 

 引き返し、ターミナルを走る。このコロニーが落下しているなら、もうこの内部にジオン兵はいないだろう、

こそこそ隠れ回る必要はないんだ、なんとか宇宙空間に脱出できる術を探さなくては。

裏口、緊急脱出口、業務用の搬入口、宇宙に出られる「何か」がありそうなところを片っ端からあたる。

だが、脱出ポッドのようなものは無く、出口に通じるハッチもすべて溶接、封印されている。

それでも諦めず、裏口から表へと続く角を曲がった時、彼女の眼前に巨人が現れた!

 

「(しまった、見つかった!)」

気配を読むことを怠っていたせいで、セリカは一体のモビルスーツの前に飛び出してしまった。

2,3歩後ずさり、その後のアクションを待つ。しかし、その巨人は動かなかった。

ヒザを付き、両手を地に落として、なにかを大事そうに抱えるポーズで沈黙している。

「これは・・・」

モビルスーツの手の中には、一人の少女が倒れている、およそ6歳くらいの女の子。

外傷は無かった、この娘も毒ガスにやられたのだろう。

そしてその先、巨人の股間の下にも一体の死体、ジオンカラーのノーマルスーツを着た、

屈強そうな男性が倒れていた。バイザーの空いたヘルメットの下に、強面の顔を苦しみに歪めながら。

上を見上げる。巨人の腹の部分は開き、中にコックピットが見える。肩には”MS-05”の文字。

 

「・・・どうしたいのよ、あななたちは一体。」

セリカは嘆く。どういう状況でこうなったのかは見ればわかる。自分たちで毒ガスを撒いておきながら

この兵士は少女を見捨てることができなかったんだ。巨人の手を差し伸べ、コックピットに

招き入れようとハッチを開けた、うっかりヘルメットバイザーを閉めていないことに気付かづに。

 殺された少女、自分の作戦の犠牲になった心優しい兵士、兵器として開発された禍々しい巨人の

誰かを救おうとするそのポーズ。まるで悲劇の絵画のようなそのシーンに、セリカはしばし見入っていた。

 さっき叫んでいた将兵もそうだった。戦争という名の人殺し行為と、それにかかわる人間の良心の矛盾、

こんな愚かなことで私の仲間は皆殺しに会い、愛しい人のいる地へ大量の死と破壊を運ぼうとしている。

 

 止めたい、こんな馬鹿なこと!

意を決して、セリカはモビルスーツによじ登る。この機械なら外宇宙に脱出も不可能ではないだろう、

同じジオンの機械なのだから、脱出しても無下に攻撃はされないだろう、問題は私に動かせるか―

 席に座る。生命反応を感知し、画面に光が灯る。そして映し出されるメッセージ。

-INPUT CODE NUMBER-

認識番号の入力画面だ、おそらくこれを入力しないとこの機械は動かない、だめだ、私にはわからない。

・・・いや、できるかも。今の私なら、この機械に同調してコードナンバーを読み取ることが。

意識を集中する、この機械に自分の意思をシンクロさせようと-、

 

「だめ、わからない・・・」

機能を停止した機械は、セリカの能力をも受け付けなかった。パスワードを受領するまでは、

ただ沈黙するのみ。頭をたれ、嘆く。

 ふと目に入る光景。眼下には少女とパイロットの死体、その際に光の魂が浮かび上がり、

うっすらと人の形を取る、あの少女だ。あどけない顔を向け、無言で指をさす、自分の方向に向かって。

「・・・え?」

セリカの傍らに、もうひとつの霊が形を成していた。ノーマルスーツを着たジオンの兵士、

この機械のパイロットだ。彼はセリカに顔を近づけ、ささやく。

『・・・76820、old zaku』

それだけ告げると、亡霊は申し訳なさそうな顔を残し、霧散して光の玉となる。

 

「ありがとう。」

誰にともなくそう呟くと、セリカはコードナンバーを入力する。入力が終わると同時に

コックピットに一斉に光が入る。モビルスーツ、旧ザクのモノアイが点灯し、スクリーンに

景色が映し出される。核融合炉が動き出し、全身にエネルギーという血液が流れだす。

「・・・いける!」

ひとたび電源が入ると、その全身の力の流れ、それに対応した機械の動かし方が、セリカには

手に取るように伝わってくる、セリカはまるでザクとシンクロしたように理解しあった。

コックピットハッチを閉め、足元の少女と兵士を踏まないように歩き出す。

この巨人のパワーをもってすれば、隔壁に穴をあけて強引に脱出することも不可能ではないはずだ。

 

彼女は向かう、さっき回った脱出できそうなエリアに向かって、その身を宿すモビルスーツと共に。

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