1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-   作:三流FLASH職人

14 / 20
第13話 トオルの四日間

「じゃあ、頼んだぞ、ジャック!」

「ああ、着いたら即連絡を入れる、任せとけ。」

1月5日早朝、シドニーの宇宙港でトオルは、サイド2にトンボ帰りするジャックを

見送りに来ていた。

あと数日は地球に滞在するハズだった友人は、事態の急変により急遽帰ることになった。

 

-ジオン公国、地球連邦に宣戦布告-

 

 二日前、ついに戦争が始まってしまった。ジオンは地球から最も遠いコロニーだ、

そこと地球連邦が戦争になるということは、その間の全てのコロニーは否応なしに

戦争に巻き込まれることになる。

ジャックは今の生活がサイド2にある、今後戦争がどう動くのかは分からないが、まずは

自分のいる場所に戻っておこうと言うことで、彼は帰宅を決意した。

 

 しかしトオルにとっては別の意味があった。宣戦が布告された1月3日から、セリカに、

いやサイド2自体と連絡が取れなくなってしまっていたのだ。

なんでも通信がミノフスキー粒子とかいう通信妨害に阻まれ、政府間ですら

連絡が取れなくなっているという。

ちょうどジャックがサイド2、アイランド・イフィッシュに帰るというなら渡りに船だと

セリカに伝言と、可能な限りの連絡方法を頼み込んだのだ。

通信妨害もそうずっと続くわけではない、やがては連絡がつくかもしれない、そんな楽観の裏に

何故サイド2だけが通信妨害を受けているのか、という悪い予感にも駆られる。

 

 シャトルが飛び立つのを見送って、トオルは空港のカウンターに向かう。

実はトオルもすでにサイド2行きの予約申請をしている。しかし正月のこの時期、予約はほぼ満席で

キャンセル待ちの状況になっていた、その経過をカウンターの受付に問いただす。

 

「最短で5日後、1月10日の午後便になります、今の所。」

遅すぎる、連絡がつかなくなってもう2日、今すぐにでも飛んでいきたい心境なのに

あと5日も待てというのか。

「今すぐ確認してくれ!あれからキャンセルが出ている便がひとつぐらいあるだろう!」

 トオルが激しい剣幕で詰め寄る。戦争が始まったのだから、予定変更して

地球に留まる人もいるだろう、事務的な対応しかしない受付嬢に食ってかかる。

トオルの剣幕に気圧されたか、受付嬢は電話を取り、ひきつった笑いをトオルに返す。

「しょ、少々お待ちください。」

そう言って電話を取り、空港本部に連絡を取る。まったく、やれば出来ることはあるじゃないか・・・

 

電話を置いた受付嬢が、トオルに暗い顔を向ける。どうやら空きは無かったようだ、

まぁやるべきことはやってくれたのだから仕方ない、凄んだりして大人げなかったかな。

「お客様、申し訳ありません。サイド2への出航は、先ほどのシャトルを最後に

全便欠航が決まったそうです。」

「・・・え?」

意味が分からない。空きが無かったとかじゃなくて全便欠航?つまり他の人もみんな

サイド2に行けなくなった、ということか、何故?

不審に思うトオルに、受付嬢はこう告げる。

 

「サイド2は現在、ジオンの侵攻を受けている、との報が入りました。」

 

 自宅に飛んで帰り、テレビ報道にかじりつく。あらゆる番組がジオンのサイド2侵攻を報じている。

時折表示される問い合わせ窓口の電話番号に片っ端から電話を掛けるが、そもそも繋がるのさえ稀で

つながった電話もセリカ・ナーレッドの、つまり個人の安否確認など不可能な状況だった。

 なんとか、何か方法はないのか、トオルに不安が広がる。

ジオンといえば例の組織、特殊能力研究開発機関とかいうのも所属してるだろう。もしセリカの

存在に気づいたら、今度こそ彼らに確保されてしまうかもしれない。

そうでなくとも戦争である。命の危険にさらされるのはもちろんのこと、セリカは年頃の女性だ、

軍に秩序が無ければ性的暴行を受ける危険もあるだろう。それから守ってやるべき恋人の自分が

彼女のもとに行く術がないことに憤り、また焦っていた。

 

 打つ手がないまま2日か過ぎる。両親も心配してトオルをなだめようとする。友人たちも

電話で、あるいは顔を出し、トオルを気遣ってくれる。きっと大丈夫だよ、と気休めを言って。

 しかし、地球のテレビが報道した画面が、そんな気休めを最悪の方向に吹き飛ばした。

一瞬受信したアイランド・イフィッシュのテレビ局の報道、ミノフスキー粒子の晴れ間を

かいくぐって捕らえた電波、それが映し出すテロップ。

 

-ジオン軍、サイド2を占拠。アイランド・イフィッシュに毒ガス兵器使用か-

 

「・・・なん、だって?」

毒ガス、密閉されたコロニー内で使うそれがどんな結果をもたらすか、それは火を見るより明らかだ。

毒ガスの規模は分からないが、その画面に映っているキャスターまでが地に倒れ伏している所を見ると

少なくとも局地的な使用ではあるまい、おそらくコロニー全土に・・・

 

 いや、あいつは、セリカは天才だ、ニュータイプだって自分でも言っていた。

そんな危険が迫るのなら察知して手を打っていたハズだ。彼女の家族も、友人たちもきっと無事だ

そうだ、そうに違いない。だっはアイツは、いつもそうやって俺の裏をかいてきたじゃないか。

 そんな期待を肯定するように、ひとつの朗報が入った。ジャックの乗った宇宙船は

戦争に巻き込まれることなく、連邦軍基地ルナツーに避難しているとの情報。

そうだ、物事は悪いほうばかりには向かない。ジャックが助かったんならきっとセリカも・・・

 

 間が空くと、彼はセリカにもらった交換日記を開き、読んでいた。

柔らかな字と文章、その中にどこか彼女らしい達観した、あるいは冷めた感情が込められた日記。

能力を持つがゆえに少しだけ欠落した感覚、そんな文章の中にあって、トオルに対する恋心だけは

生き生きとした表現で書かれていた。それを読むたびトオルは確信し、決意する。

「待ってろよセリカ、必ず助ける。必ず会いに行く!」

 

 1月9日、報道管制を掻い潜ってその報道が成された時、地球全土が恐怖に包まれる。

-ジオン軍、コロニー地球落下作戦、通称「ブリティッシュ作戦」を強行-

半日後、さらに具体的な報道が伝えられる。ジオンの目標は南半球、南米ジャブローであること、

これを阻止すべく連邦軍はコロニーを攻撃、落下地点は南半球のいずれかである可能性が高いこと、

そして、この作戦に使われたコロニーは、サイド2、アイランド・イフィッシュであること-

 

 この瞬間から、シドニーは騒然となった。いや、おそらくオーストラリア全土が、南米が、

アフリカ大陸やニュージーランド、南半球の各諸島全てが、拳銃を突き付けられたような

緊張と恐怖に見舞われた。パニックを起こす者、国外脱出を図るもの、様々な混乱が

南半球を主として、地球全土に広がっていった。

 しかしそのパニックは1日で終わる。マスコミは報道しなかったが、そこまで近づくと

落ちてくるコロニーは一般人の望遠鏡でも捕らえられ、頭のいい人によって軌道は計算され

落下位置は特定される。必然、落下地点から離れた地のパニックは自然と収まる。

 

-落下予想地点、オーストラリア、シドニー周辺、落着予想時刻、AM12:00前後-

 

 あと1時間に迫る死と絶望、その報道にシドニーの人々は嘆き、恐怖し、絶望する。

その街でたたひとり、トオルだけは別の思考があった。落ちてくるのがアイランド・イフィッシュとは、

セリカは無事に脱出できたのか?俺はもう駄目だが、彼女だけでも助かってほしい。

 外に出て、真昼の地平線やや上にある星を睨む。すでに肉眼でも星の大きさにくらいは見えるまでに

近づいてきている。頼む、セリカよ、そこに居るな!

 

 その瞬間だった。トオルの頭に音が響く、金属をこすり合わせたような強烈な音!

それと同時に、彼のよく知る女性の声が、トオルの脳に、はっきりと鳴り響く!

 

『トオルーーーっ!!逃げてーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。