1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-   作:三流FLASH職人

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第16話 幸せなウエディング、永遠のエンディング

愛しい人のぬくもりを感じる、あの人に抱きしめられ、腕の中で-

大好きなアイツの呼吸が聞こえる、その胸の中で、心臓の鼓動も- 

 

「「・・・あれ?」」

 顔を上げ、お互いの顔を見合わせる。目の前にいる、会いたいと思ってやまなかった人。

確かにお互い抱きしめ合った、それはいい。けれど、なんで二人とも無事?

 

 接触の際の衝撃は、少なくとも交通事故の比ではないくらいの勢いがあったはずだ。

二人の体は少なくとも全身骨折、普通に肉体破裂していてもおかしくはない、

しかしトオルは、セリカは、ケガどころか痛みさえ感じはしない。

それともう一つ、音が消えている、強烈なコロニーの落下する音が。

それでいて数瞬立っても落下音も爆発の爆風も来ない。よかったけど、なんで?

 

 抱き合ったまま周囲を見渡す二人、シドニーの街並みも健在、そして眼下のコロニーは

何故かその動きを止め静止している、空中に、斜め落下の姿勢のままで。

コロニーから剥がれ落ちた破片も、乱気中が巻き上げたホコリも、みんな空中で止まっている

まるで時間が静止でもしたかのように・・・

 

 二人はそのまま、ゆっくりと落下していく、足下のコロニーに向かって。

「これって・・・夢?」

「さ、さぁ・・・」

 

 セリカは思う。これが夢なんだとしたら、いったいどこからが夢だったのだろう。

抱き合った瞬間?それともコロニーに毒ガスが撒かれた時からずっと夢?

 

 トオルは思う。これって、ひょっとしてセリカの仕業?だとしたら

もはやニュータイプとか超能力者どころか、ホントに神か魔物の域だなこりゃ。

 

 そして、二人は抱き合ってお互いの顔を見合わせたまま、ゆっくりと着地する。

斜めの地面、アイランド・イフィッシュの上に。

 

 その瞬間だった、強烈な地鳴りがシドニー全土に響き渡る。はっ!とする二人、

ついに来てしまったのか、ともう一度ぎゅっ!と抱き合う。

しかし来たのは爆風では無かった、歓声だ、歓喜の声だ。車のクラクションや爆竹、

クラッカー、拍手、そんな音が混然となり、2000m下のシドニーの街から響き上がってくる。

「イーーーヤッホゥーーーッ!!!」

「おっしゃあああああああっ!」

「やった、やった、やったーーーっ!」

「ブーラボーーーー!!」

「ナースキャッチィー!」

「イィエェアァァァァァッ!!」

「ピーピーピーピーーーーッ!」

 歓喜の声が、音が、遥か下の街から届けられる。

遠目にも分かる、シドニーの民衆が、街全体が、お祭り騒ぎになっていることが。

まるでフットボールの世界大会で優勝した瞬間のような、爆発的な歓喜の渦。

 

 次に足元に振動、そしてコロニーの裂け目から、非常用の出入り口から、

遠くの宇宙港ターミナルから、次々と人が溢れ出す、やはり歓喜の声を上げながら。

飛び跳ね、猛り、二人のもとへ駆けてくる大勢のアイランド・イフィッシュの人々、

あっというまに二人は大勢に取り囲まれ、手洗い祝福を受ける。

「やったじゃねぇか、このヤロウ!」

スティーブがトオルにヘッドロックをかける、他のセリカファンクラブの連中が

容赦なくトオルを小突き回す。その中に何故かセリカの母、アーチェスが混じっているのを見て

思わず吹き出すセリカ。その肩にそっと手を置く父、リャン。

「パパ・・・」

「よくやったな、お前は私の誇りの娘だ。」

涙が滲む。トオルに会えただけでも奇跡なのに、それをみんなに祝福される瞬間まであるなんて、

もうこれが夢でも何でもいい、この時間を経験できただけで十分だ。笑顔のままはらはらと涙する。

 

「おーい、、トオルーーーっ!」

「俺たちも混ぜろって!」

知った声を聴き、小突き回してた連中を振りほどいて斜め下、コロニーの下部を見る。

コロニーの先端のスリバチ状の部分が、ちょうどクラウド・カッティングの頂上、

神父が割った壁ガラス部に接触するかしないかの所で止まっている。そこからコロニーに乗り移り

駆けてくるキム、アイン、そしてミア、他ホテルの従業員たち。

「おーい、こっちもいるぜーっ!」

大声が横から聞こえる。そこには1台のワッパ、さっきトオルにワッパを貸してくれた

運送屋のオッチャンが乗っている。そのオッチャンの後ろに乗っているのは・・・

「父さん、母さん・・・」

父、カクと母、ユリコ。三人を乗せたワッパは人ごみをかき分け、トオルの横で着地する。

降りる両親に正対するトオル。笑顔の父とは対照的に、母はハンカチを目に当てて耐えている。

「やったわね、生意気にも立派になって、もう・・・」

それだけ言うと母は嗚咽を漏らす、そっと母の肩に手をやるトオル。

 

 その時、周囲にスピーカーのハウリング音がヒィーーーン、と響き渡る。

斜め下からだ。クラウド・カッティングの頂上から神父さんが顔を出している、

手にハンドスピーカーを持って。

彼はおだやかな顔で、そして賛美歌を歌うような大きな声でこう宣言する。

 

『これより、神に祝福されし二人、トオル・ランドウ!セリカ、ナーレッド!

両名の婚礼の儀を執り行います!』

 

「うおおおおおおおっ!!」

「神父さんかっけぇぇぇ!」

「やろうやろう!」

「ヒャッホーっ!」

一斉に起こるバカ騒ぎ、数秒遅れてまた地鳴り。神父の粋な提案は、眼下のシドニーにも

しっかり届いたようだ。

 狂喜乱舞、拍手喝采の中、トオルとセリカは向き合い、見つめ合う、二人の思いは一つ。

 

-この人を、好きになって、よかった-

 

 祝福の鐘の音が、群青の空に高らかに鳴り響く。幸せな結婚式が今、幕を開ける。

 

 トオルはクラウド・カッティングの窓際、神父が叩き割ったガラスの前に立つ。

身を包むタキシード、チャペルの入り口に展示してあった物を拝借しただけに、少々窮屈ではあるが。

窓から空を、コロニーを見上げて新婦を待つ。

 神父が聖書を広げ、神に報告する。今日、ふたつの魂が一つの結晶となる、その幸を報告する、

晴れやかな顔の神父が。

見守る大勢の人々、シドニーの都市に暮らしていた人々、アイランド・イフィッシュというコロニーで

暮らしていた人たち、アースノイドとスペースノイド、その隔たりはこの空間には無用だった。

塔のエレベーターは何往復もして、下の人々を可能な限りこの高度へと運んでいた。

教会の中にも、コロニーの上にも、大勢のシドニー市民とアイランド・イフィッシュ市民が

混然とごったがえしていた。

 

 その最中心から、ひとりの少女が歩いてくる。純白のドレスを身にまとった、金緑色の髪の少女、

その美しさに気圧されるかのように、人々は道を開ける。この美少女の前に立つ資格者はただ一人。

みんなそれを知っていたから。

 

 セリカはコロニーの先端付近に立つ、父リャンに手を預けて。傍らには大泣きしている母アーチェス。

やがて父は娘の手を引き、ゆっくりと先端まで歩いてくる。そして淵に立つと、さぁ、と

セリカを促す。セリカは父に向き直り、一言。

「今まで、ありがとう。パパ、ママ。」

ひとすじの涙をひらめかせ、セリカは前を向く。自分が行くべき場所、飛び込むべき人に。

 

 トオルはその時を待つ。優しさと愛しさと、そして悲しさをたたえた瞳で。

何よりも、今この瞬間に自分がここにいる、彼女がそこにいる幸せをかみしめて。

 

「トオルっ!」

ウエディングドレスをなびかせ、セリカは飛ぶ。コロニーの先端の淵と教会のガラス枠は

ほんの1メートル足らずで止まっている、セリカならドレス付きでも余裕で飛び越せる距離。

それを抱きとめるトオル。ドレスに顔を埋め、そのまま下ろす。

見つめ合い、神父に促されて一歩ずつ距離を取る両者。

 

「汝、トオル・ランドウ。この者を伴侶となし、今の一瞬の思いを永遠の事とすることを誓うか?」

神父の問いかけに、トオルは力強く答える。

「はい!」

「汝、セリカ・ナーレッド。かの者の伴侶として、共に一瞬の永遠を歩むことを誓うか?」

神父の言葉に柔らかく答えるセリカ。

「はい。」

 

「偉大なる神よ、両名が今の一瞬の幸福を、永遠の誓いとする時をご覧あれ。」

神父が二人に誓いの口づけを進める言葉を述べる。と、その時!

 

「・・・え?」

「あ・・・!」

 紙吹雪、二人の周囲にひらひらと舞う。一斉にざわつく周囲。誰だこんな肝心な時に・・・?

トオルが、セリカが同時に気付く。これは紙吹雪じゃない。そもそもそんな小さな大きさじゃない。

A5判サイズの紙切れが、二人の真上から雪のように舞い降りてくる。

そこに記されているのは、二人の思い、そして思い出。

 

「「交換日記!」」

そういえばワッパの荷物カゴに放り込んだままだった。

そういえばザクのコックピットでヒザに乗せてたっけ。

 

 しばし降りしきるそれに見入るトオル、そしてセリカ。

遠距離恋愛のハイスクール時代、そしてそれに綴られた思い出は、ジュニアハイスクール時代の告白

そしてプライマリー時代の勝負へと記憶を邂逅させる。

二人の時間が遡る。記憶と、そして肉体も。思い出を辿るたびに二人の見た目が見る見る

幼くなっていく。

 トオルが向き直り、セリカのブーケを広げる時には、すっかりプライマリー時代の少年少女に

なっている・・・ように見えた。

 

少年の頃に戻ったトオル、顔を赤らめ、凛々しさと優しさをたたえた黒い瞳で、少女を見つめる

神秘的な、金緑の髪と琥珀色の瞳を持つ、まるで森の妖精のような少女が、トオルにその身を委ねる

 

-そして二人は唇を重ねる、10歳の少年少女の姿のままで-

 

 誰もが笑顔だった。まるで神話の天使のような光景、ぶかぶかのタキシードを纏った凛々しい少年と

今にもずり落ちそうなウエディングドレスを纏った神秘的な少女のキス。

顔を綻ばせるなというのが無理な注文だ。

 

 やがて誰かの拍手が起こり、そして間を置かず大喝采に代わる。

二人が振り向いた時、すでに年齢相応の体格に戻っていた。それが幻覚なのか錯覚なのか怪奇現象なのか

問題にするものは誰もいなかった。

 

「二人の一瞬に永遠の幸あらんことを。」

祝福の鐘が高らかに鳴り響く。父も、母も、友人たちも、知り合いの人々も、名も知らぬ同郷の人も

皆、この幸せを心から祝福する。

 

 そんな中、ミアが花束を持って近づいてくる、セリカの前で止まり、言う。

「さ、幸せのおすそ分けタイムよ。」

言ってセリカにブーケを渡す。セリカが投げるこのブーケを受け取った女性には、次の幸せが約束される。

「あ、ちょっと待て!指輪の交換は?」

口をはさんだのはスティーブだ。そういやそれの用意がすっかり抜けていた。

う~ん、と思案する一同。やがて、ぽんっ!と手を打ったアインが、手ぬぐいをポケットから出し

二人のもとに駆け寄って足元にしゃがみ、手ぬぐいで二人の片足をくくりつける。

「こいつらにゃコレがお似合いだろ!」

二人三脚、二人の最後の勝負の種目であり、共に人生を歩む比喩に使われる言葉。

 

二人は顔を見合わせ、思わず苦笑いする。

「んじゃ、走ろっか。」

「ああ!」

周囲かがどよめく。走る?タキシードはまだしも、ドレスで?

「「よーい、どんっ!」」

合図とともに駆け出す二人。教会からコロニーに飛び移り、先端部分を駆け上がって大ジャンプ、

まるで重力が無いかのように何十メートルも飛び上がり、コロニー本体に着地する。

そのまま観客をモーゼのように分断して、飛ぶようにコロニーを駆け上がっていく、二人三脚で。

 

 その二人の動きが現実味のないことも、そして斜めに立つ円筒状のコロニーで道を開ける人々が、

誰一人バランスすら崩さないことも、誰もが知り、誰もが気にとめないでいた。

これが夢か現か、死後の世界か臨死の世界か、そんなことは今更どうでもいい。

そんなことより、さぁ、いよいよフィナーレだ!

 

 コロニーの最上部、分断されたコロニーの割れ目の角に立つ、黒い服と白いドレス。

セリカはトオルに向き直ると、満面の笑顔で両手を広げ、トオルに差し出す。

トオルは意図を察し、かがむと足元の手ぬぐいをほどき、そのままセリカをお姫様だっこして

立ち上がる。

 足元にはアイランド・イフィッシュ、眼下にはシドニー。二人が暮らし、愛した街が同時に映る。

 

「それーっ!」

ブーケを放り投げるセリカ。遥か天空に舞い上がったところで結びがほどけ、花束はばらばらに分かれ

その花びらが舞い散り、やがてそのひとつひとつが観客たちの少女の手のひらに飛んでくる。

ミアも、ユリも、エミーも、ショーンも皆、その花びらを受け取る。

コロニーの上で、シドニーの街並みで。幸せがこの空間全体に等しく広がっていく。

花びらと、今だ降り続ける交換日記の紙吹雪とともに。

 そんな中、一輪の蒼いバラの花だけが、散ることなく舞い上がっていく。高く、はるか髙くへ。

 

 -シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップルは、こうして結ばれた-

 

宇宙世紀0079、1月10日PM12:03分。ひとつのコロニーと、ひとつの都市が消滅した。

そこに住む全ての住人と共に、数多くの悲劇の「合図」として。

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