1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-   作:三流FLASH職人

3 / 20
第2話 二人三脚

 昨日も、今日も、おそらく明日も、トオル君の奮闘は続く。

転校生、セリカ・ナーレッドに勝つための、無駄な努力という名の奮闘が。

 

 ドッジボールの授業、セーフティエリアにはすでにセリカ一人、しかし四方からの球を

まるで全て予知してるかのような彼女の動きに誰一人命中させられない。

やがてボールを奪われると、やはり相手側で唯一人セーフティにいるトオルに四方から攻撃が来る。

持ち前の運動神経でボールから逃げつつ、カットする機会を伺う・・・が、

セリカの「カットすれば至近距離の私に当てられるよ」とでも言わんばかりの位置取りに

欲を出して無理に捕ろうとしたボールをこぼす、試合終了。

 

 写生遠足の水彩画、ほとんどの絵が教室の後ろに張り出されているが、トオルの絵は職員室の一角に

数枚の絵とともに掲示されていた。

で、セリカの絵だけは校長室の応接椅子の上にあり、来客者を驚嘆させていた。

ニュージーランド遠足、ほとんどの生徒がナウルホエ山を描いてたのに、セリカだけはキゥイ鳥の絵

躍動感のあるその絵は数ある山の絵を圧倒していた。

 

 水泳の時間、今度こそ勝つ!と息巻いているトオルだが・・・

水着姿のセリカは、森の妖精から水の妖精に早変わりしたような見事なしなやかな泳ぎを見せ

皆を魅了していた。まぁ元々カナヅチのトオルに勝ち目はなかったわけだが。

結局、雪辱を果たせないまま6year(6年生)に。ご丁寧に今年も同じクラスだ。

 

 トオルが「それ」に気付いたのはそれから1か月たった頃だった。

休み時間、セリカの周囲には誰もいなかった。あれ、取り巻きどこいった?

相変わらず彼女はスーパーガールっぷりを発揮しているし、それをハナにかけることもなく、愛想もいい。

むろん森の妖精のような美貌も変わることは無い、じゃあ一体なぜ?

 

「あー、あいつといると、なぁ。」

いつの間にか自分の周囲に戻った取り巻きの一人、チャンはこう語った。

「なんかさぁ、自分が『脇役』みたいな気がしてさぁ、空しいんだよな」

転校以来の友人ジャックが続ける。

「誰にでもひとつくらい得意なもんあるだろ、これなら負けない、ってヤツ。

でも彼女はそれすらあっさり負かしてくれるからなぁ・・・自信無くすんだよな」

クラスの委員長、ミアが付け足す。

「なんかすごい記録とか出しても、全然喜ばないっていうか、あっさりしてるのよね

気取ってるわけでもないし、『特別』な感じがして、近くに居づらいのよね」

最後に全員が声をそろえて言う。

「「というわけで、頑張れよな、お前が頼りだ!」」

 

 セリカを見る、こちらの視線に気づいて笑顔で手を振る。

取り巻きが離れていったことも、対抗意識を燃やされていることも、今の会話も全部知ってて

平然としているその姿は、確かに特別と言うべきものだろう。寂しくないのかなアイツ・・・

 

 それからもトオルの挑戦は続いた。しかしそれは以前のような自己顕示欲からくるものでは

次第になくなっていき、むしろ相手のセリカという女の子を知るためのコンタクトになっていく。

無敵の彼女がもし負けたらどういう反応をするのか、勝つたびに孤独になっていく彼女が

何を求めているのか、そんなことを考えながら今日も黒星を重ねていく。

 

そして一年は駆け足で過ぎ去っていった。

 

 「二人三脚は、そうだな、ランドウとナーレッドに頼もうか」

 卒業間際のスポーツコンペ(運動会)、種目分けに対する先生の提案にクラスは大賛成だった。

当クラスの名物女子+男子の組み合わせ、教室に冷やかしの口笛が沸く、ヒューヒュー。

照れながら周囲に食って掛かるトオルに、笑顔で「がんばろうね」と答えるセリカ。

そういや彼女とは張り合ってばかりで、一緒に何かするのは初めてな気がする。

ジュニアハイスクール(中学校)に上がると、勉強以外は男女は別々に評価される、

まぁ・・・最後にこういうのもいいか、と思うトオルであった。

 

 さすがに二人三脚ともなると練習は必須だ。天才と秀才の組み合わせとはいえ、

息が合わなければ凡人&凡人にもぶっちぎられるのがこの種目だから。

しかし真の天才にはそんな心配すら無用だった。イチ、ニ、イチ、ニ・・・

掛け声とともに走る二人は全く乱れない、トオルのペースにぴったり合わせるセリカ

バランスを崩すことすら全くないまま5往復を走り切る。

「本番、頑張ろうね」

笑顔でそう言うセリカに、トオルはこう問うた。

「お前さ・・・面白いか?そんな何でも完璧に出来て。」

「え・・・?」

困惑する表情を見せるセリカに、あわてて否定するトオル。

「い、いや、何でもない、忘れろ!」

慌てて足のヒモをほどき、その場を離れるトオル、まずいこと言っちゃったかな・・・

 

 コンペ本番、各クラスとも拮抗したスコア、後半の二人三脚も得点的には重要だ。

しかしクラスの期待はそこには無かった、天才少女がまた天才ゆえの強さを見せるのかという

冷たい視線に、天才の大コケを期待する凡人の暗い願望というエッセンスがわずかに混ざった空気。

スタートラインに向かう二人に応援は無い、さすがに鈍いトオルもこの空気に気付く。

「なんだ、アイツら・・・」

カチンときてクラスの集団を睨もうとしたトオル。ふとその腕を掴む隣の女の子。

「だめだよ、怒っちゃ」

「・・・え?」

笑顔でトオルをなだめて続ける。

「私は面白かったよ、この一年半。トオルがずっと対抗心剥き出しで挑んできてくれて。」

その言葉が先日の失言に対する答えだということはすぐわかった。

 

「今日はどうやってトオルに勝とうか、明日はどんな勝負をするのか、ずっとワクワクしてた。」

「え・・・そんなに対抗心剥き出しだったっけ、俺」

赤くなって返す。まぁ対抗心は否定しないけど、女子相手だし、なるべく気付かれないように挑んだ

つもりだったんだが。

あれで~?、とクスクス笑うセリカ、こんなかわいい笑顔で笑う彼女を見るのはもちろん初めてだった。

ああ、そうか、張り合う相手が欲しかったんだ、この子も。

 

スタートラインに立つとトオルは右手を上げ、高らかに宣言する。

「全力疾走!いくぞーーーーっ!」

二人三脚で全力疾走とか無謀の極みでしかない。が、隣にいるセリカがそれに続く。

「おーーーーーーーーーーっ!」

グラウンドに、ええーーーっ!という驚愕の声が湧き上がる、否応なしに注目が高まる。

 

「レディ・・・GO!」

教師のピストルと共に全クラス一斉にスタート、と同時に弾丸のように飛び出す一つの塊。勿論セリカ・トオル組。

内側の足をお互い結ばれているのもお構いなしに雄叫びを上げ全力疾走するトオルと、

それに重なるように手足をぶん回す、笑顔の金緑の髪の少女。

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「あはははははははは・・・」

一年の総決算のように並んで走る二人、まるでルームランナーの横に鏡を置いて走ったら

こういう絵になるかのような見事なシンクロ、しかも両者全力疾走、他の参加者をぶっちぎり、見る者すべてが

声援を送る。そう、声援。天才だろうが何だろうが、全力で頑張るものには誰しもそれを送りたくなるもの。

出走前の空気はどこへやら、場内は純粋な興奮と期待感に満ち溢れていた。

 

 ゴール直前、そのバランスが崩れる。どちらがミスしたのかはわからない。

ただ、競技の性質上それはありうる事ではあった。問題は二人が全力で走っていることだ。

もつれ合い、転がりながらゴールラインを割るカタマリ、砂ぼこりを上げてようやく止まる、

上にあるのは金緑の髪、その少女の下敷きになっている男子、とっさの事とはいえ、しっかり女の子を

かばって抱き支えている。

 

先生が心配そうに駆け寄る。

「おーい、大丈夫か?」

「あたた・・・何とか」

セリカにのしかかられながら、何とか身を起こすトオル。セリカはというと、トオルの胸に顔を埋めて動かない。

「おい!」

心配そうに語気を強めるトオル、その声にこたえて顔を上げるセリカ。

「・・・大丈夫?」

「それはこっちのセリフだ」

至近距離で見つめ合う二人、やがてセリカがクスクス笑いだす。

「うん!楽しかった。」

花が咲いたような、満面の笑顔で答えるセリカ。その笑顔と、重ねた体から伝わる彼女の体温に

血圧が急激に上がった気がして狼狽するトオル。

 

その真っ赤な顔を見て、周囲の面々が一気に冷やかしの言葉をかける。

「初めての共同作業お疲れー」

「魅せるねーお二人さん」

「どっちが押し倒したのー?」

「ここに教会を建てよう」

「式はいつ挙げるのー?」

「1着記念にキス!キスしなよっ!!」

「だぁーっ!やかましいぞお前らっ!」

慌ててセリカから離れ、1着の旗に向かうトオル、もちろん耳まで真っ赤だ。

と、その横に並び、腕を組んで微笑むセリカ、焼け石にバーナーとでも言うべきか。

「だから、ひっつくなって!」

照れるトオルを無視してその口元を耳に近づけ、ささやくセリカ。

「(今日はトオルの勝ちだね)」

二人にだけは分かっている。今日、最後にバランスを崩したのはどちらなのか。

そして、その言葉を聞いた瞬間、トオルのある「枷」が外れた。

目の前の女の子は「勝たねばならない相手」から、「近しい可憐な少女」へと代わった。

そしてそれは、ほんの一呼吸おいて「初恋の少女」へと変わる。

 ―そして二人は、プライマリースクールを卒業する―

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。