1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING- 作:三流FLASH職人
「というわけで、ぜひお宅の息子さんをウチに預けてはみませんか?」
ジュニアハイスクールに入学前の休み期間、ランドウ家を訪れた黒服の男は、トオルと両親に語る。
なんでも「能力開発機関」と称する、優秀な生徒を集めて育てようという組織のスカウトとして
ウチに来たらしい。
「専門的なスタッフと完璧な育成システムによって、必ず息子さんをエリートに育ててみせますよ。」
説明は饒舌だが、どこか熱量に欠ける声で語る黒服。セールスマンなら落第点の域だろう。
「しかし、この入学費と学費では・・・」
父親が返す。その費用は明らかにランドウ家のキャパを超えるものであった。
「まぁ、即お返事を頂きたいとはいいません、入学までに結論を出して頂ければいいですよ
その気になったならご連絡はこちらまで。」
そう言って名刺を置いて腰を上げる黒服、そのまま挨拶をしてランドウ家を後にする。
「で、お前はどうなんだ?トオル。」
「んー、興味はないよ、普通にジュニアハイスクール行きたいし。」
一緒にいたい娘もいるし、という本音は心に押し込める。
「まぁ、それがいいわね、なんかちょっと信用できないし、あの人。」
母親が返す、どうやら一家の結論は出たようだ。
それぞれが解散する中、トオルはテーブルに残った名刺を取り、目を通す。
―特殊能力研究開発機関、広報、リビル・イレイズー
TEL×××-×××××-××
名刺をひっくり返す、ウラには小さい文字でこう書かれていた。
―代表者:フラナガン・ロム―
特に何の感慨も沸かず、まぁそれでも自分を評価してくれた人の名刺だと思い、机の引き出しに仕舞う。
そんなことよりいよいよ中学生、もうすぐ新しい生活が始まる。アイツと一緒に。
入学式。どこにも、セリカ・ナーレッドの姿は、無かった。
色あせる、景色が、学校が、クラスが、新しいクラスメイトが、級友が、教師が、先輩が・・・
これから始まるジュニアハイスクールの生活が、トオルの目にはモノクロに移った。
文字通り「色」を失った世界に。
旧友の誰も、彼女の行方は知らなかった。むしろ彼らもてっきりこの学校にセリカも
来るものだと思っていたらしい、委員長だったミアすら彼女が来ないとは思わなかったと言う。
プライマリーの担任教師を訪ねても返事は同じだった。
聞きだした住所、アパートの一室はすでにもぬけの空だった。
まるで雲隠れのように、こつぜんと姿を消した、金緑の髪の少女、トオルの初恋の人。
それでも時は進む。新たな生活、勉強、運動、部活、イベント。
トオルは相変わらずトップクラスの成績を維持してはいた。しかしこの年齢になると
全てが突出して、とはいかなくなる。それぞれ突出した個性が芽吹くこの時期、
ジャンルのそれぞれにおいてトオルが敵わない生徒も徐々に増えていく。
もし、俺の近くにアイツがいたらどうだろうな、そんなことを考える。
アイツはそれでもクラスのスーパーガールの地位を維持できるだろうか
俺はアイツに張り合って今より上に行けただろうか、なぁ、セリカ。
「まぁ、アイツに比べたら、敵わない相手じゃないかなって思うんだよ、オレ。」
チェスが得意だったキムは、すでにテーブルゲーム部のチェス部門でトップクラスになっている。
「先輩との差は感じるけど、アイツほど圧倒的に引き離されている、って感じはしないしな。」
フットボール部に入ったジャックは、一年にしてすでにレギュラーポジションを獲得していた。
「彼女と張り合うことを考えたら、まだ上級生と競うほうがマシかな。」
マーチングを始めたミアは、カラーガードの一角を担うほどの腕になっていた。
アイツがいなくなってもう半年なのに、みんななんだかんだ言って、あの天才を忘れていないんだな。
そして彼女を指標にして、自分を鼓舞することで自己を高めている。
そういった影響をみんなに残すだけでも、やっぱ天才だよ、アイツは。
-天才?-
トオルの脳裏に何かが引っかかる、天才のセリカ、失踪、入学前、スカウト、能力開発機関・・・
「ああーっ!」
立ち上がり、悲鳴に似た声を上げる。そうだ、入学の少し前、ウチにも来たあの男、あの組織。
俺のところに来たんだ、セリカのところに行ってないはずがないじゃないか!
どうして気付かなかった、どうしてあんな胡散臭そうなところに、どうしてあんな高額な学費の・・・
そこまで考えて気付く、奴らの目的はもともと俺じゃなくてセリカなんじゃなかったのか、
俺はあくまで「ついで」、あるいは隠れ蓑でしかない、だから断るのを見越して
あんな高額な学費を提示したんじゃないのか、彼女には学費なんて要求しなかったんじゃないのか。
終業後、家に飛んで帰る。確か机の引き出しに名刺があったはずだ。
部屋に飛び込んで机の引き出しをひっぺがす。あった!携帯でふるえる指でダイアルする。
『当電話の通話先はスペースコロニー・サイド6方面となっております。通話をご希望なら、料金はー』
電話を切る。愕然とする。嫌な予感はあった、しかしまさかスペースノイドの組織だとは・・・
手が届かない、宇宙はトオルにとって遥かに遠い場所、絶望感がトオルを苛む。
そして確信する、連中の目的はセリカであったこと、おそらく俺と出会う前、彼女が宇宙にいたころから
ヤツラは彼女に目をつけていたこと、そう確信させるほどセリカが天才だったから。
ふとトオルは、授業で習ったことを思い出していた。サイド3の首相、ジオン・ダイクンが提唱した
新たな人類の進化系、宇宙に適合し、進化した人類。
-ニュータイプ-
もしセリカがそういった人種なら、すべて納得がいく。彼女の天才っぷりも、組織に目をつけられたことも。
そして俺には、文字通りはるか遠い空の上にいる『高嶺の花』だったことも-
魂が抜けたように肩を落とし、トオルは歩く。日の暮れかかった道を、彼女の思い出を探しながら。
気付くとプライマリースクールに来ていた。ここにもすでに彼女の面影はない。
紅に染まる運動場、そう、何度も彼女と張り合った場所。高跳び、ドッヂボール、そして二人三脚。
-今日はトオルの勝ちだね-
あの日の事を思い出す。初めて聞いた彼女の本音、初めて勝った勝負、そして、初めて抱いた恋心。
トオルの中で「何か」が動いた。そう、もう一度彼女に会いたい、もう一度彼女に勝ちたい。
じゃあどうする?答えは簡単だ。彼女のもとに行けばいい。なんだ、簡単なことじゃないか。
どうして無理だと思っていたのか、宇宙が遠いから?シャトルで行けるじゃないか。
行く期間は?夏休みを使えばいい。どうやって探す?名刺あるじゃん。お金はどうする?―
次の日、部活(JUDO部)に休部届を提出するトオル、フリーアルバイト雑誌を手に仕事を探す。
「待ってろよセリカ、どうせ俺は宇宙に行けないとか思ってるんだろ、ギャフンと言わせてやるぜ!」
モノクロだった景色が極彩色に戻っていく、凍っていた体に血が通っていく、魂の焔が再び灯る。
トオル・ランドウの物語が、再び動き出す-