1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING- 作:三流FLASH職人
天頂に輝く夏の日差しに、ジングルベルが鳴り響く、南半球の12月。
ハイスクール2yearの終わり、トオルもすっかり慣れた夏のクリスマス・イブの日、
彼は両親と宇宙港にいた。
今日はトオルにとっても、彼女にとっても、お互いの家族にとっても特別な日だ。
やがてシャトルが到着したアナウンスが流れ、乗客が次々と降りてくる。
そんな人ごみの中でもひときわ目立つ金緑の髪の毛を揺らし、「愛しの君」が
家族と共にやってくる。
「おーいセリカ、こっちこっち。」
やや照れ臭そうに、あらかじめ打ち合わせていたセリフでナーレッド一家を呼ぶ。
「トオル、半年ぶりだね~会いたかったっ!」
こちらもあらかじめ打ち合わせてたセリフのあと、筋書き通りトオルに抱き着く。
二人の後ろではお互いの両親が、ぎこちなく挨拶する。
そしてその様子を、幾人ものスタッフがカメラやマイクを構えながら撮影している、
さらに距離を置いて、大勢の野次馬が取り囲んでいる。
「はーいカット、OKです。じゃあ次いきますよー」
-シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップル、半年ぶり再会-
そんなテロップがランドウ家のテロップに映り、数時間前の再会シーンが流れる。
「いやぁ、若いのに演技派だねぇ二人とも。」
トオルの父、カク・ランドウがTVに映った二人を見て感心する。
「まぁ、8割は本気でしたけど。」
セリカが笑顔で返す。お父様、と付け加えて。
「トオル君もなかなかのもんじゃないかい、演技とは思えないよ~」
アーチェスさんは相変わらずのからかい口調で、トオルをヒジでうりうりとこじる。
「まぁ、初めてじゃないですしね、セリカと演技するのは。」
トオルは思い出す。セリカと会って間もないころの、赤ずきんの朗読を。
二人は結婚の約束をしていた。そして今日はそんな二人の両親の初顔合わせ、
その情報を聞きつけたトオルの悪友たちは、そのソースをTVに売りやがったのだ。
しかもサイド2のジャックを通じて、向こうの局にまで企画が通ってしまった。
普通ならそんな企画は通るはずもないが、今現在ではそれはTV局にとっておいしい題材だった。
宇宙世紀0078、12月。地球連邦とジオン公国の緊張はもはや限界に達しようとしている、
両国にもはや交渉の余地はなく、戦争も時間の問題と思われた。
地球連邦にとって、この戦争の図式がスペースノイドとアースノイドの戦争、と取られるのは
他のコロニーの手前避けたかった、あくまでジオンとの戦争であり、他のスペースノイドまで
敵に回すのは得策ではなかった、よって他のコロニーとの友好なイメージは大切だった。
連邦寄りのサイド2にとっても、連邦との蜜月を示すのは重要な要素だった。
そんなわけで連邦とサイド2のマスコミは、半ばプロバガンダに近い形で両者の友好性を
逐一アピールするようになっていた。
その一環として、トオルとセリカは恋人の祭典、クリスマスに放送するネタにされてしまったわけだ。
「そういやジャックももうすぐ帰ってくるって。」
「アイツもうしっかり客取ってるらしいな、大したもんだ。」
両親を交えての世間話に花が咲く。お互いの友人のこと、両親の生活や風習、さらには
お互いの子の昔話まで、話題は尽きない、この両家ならうまくいくことは間違いなさそうだ。
「それでそれで、明日はどこいくの?」
興味津々でセリカが聞いてくる。が、まだ明かすわけにはいかない。せっかくのサプライズなんだし
セリカの能力に悟られないよう、平静を装って質問をかわす。
「ま、それは明日のお楽しみってことで。」
今回のナーレッド家の地球来訪、その目的は両親との顔合わせともうひとつ、
1年後に控えた結婚の式場の下見だ。
ハイスクール卒業と同時に結婚する、それが二人で出した結論だった。
トオルの両親は、早すぎるのではと乗り気ではなかったが、トオルは熱心に説得した。
彼にとって伴侶はセリカ以外考えられなかったし、お互い遠距離恋愛する身の上ならば
できるだけ早く一緒に暮らしたいと思うのは自然な流れだった。
また、ここしばらく音沙汰ないとはいえ、例の機関のような組織がまたセリカに
近づかないとも限らない、トオルとしては目の届くところで守ってやりたかった。
加えるならば、ニュースが流すような世情の不安もある、吉事は早いほうがいい、というわけだ。
翌日、両家の車がシドニーを走る。西暦の頃から大都会だったこの街は現在、
自然と文明が共存する南半球の名物都市、モデルシティとなっている。
自然を多く残す広い公園、快適なインフラに娯楽施設、密集しすぎないビルや居住区、
そして交通の要所としてのシステムを兼ね備えている。
その街の一角に、ひときわ高いタワーがそびえている。昨年完成した超高層ビル
「クラウド・カッティング」と呼ばれる、高度2000メートル級のシンボルタワー。
文字通り雲をも切り裂くごとくそびえたつその姿は、新たなこの街の名所として期待されている。
「うっわー、おっきぃー!」
「ホントだよ、コロニーの直径くらいあるんじゃないかい?」
セリカとアーチェスは車から身を乗り出して大はしゃぎだ。しかしまさか二人とも、
目的地がその塔自体だとはつゆぞ思うまい、ひそかに顔を見合わせてにやつくランドウ一家。
平静を装い、さりげなく話を振るトオル。
「んじゃ、ちょっと寄ってみようか。」
入場手続きをしてパスをもらい、最上階直通のシースルーエレベーターに乗る。
6人を乗せた箱が音もなく加速して上昇。地面が、近隣のビルが、シドニーの街が、
またたくまにミニチュアになっていく。
外の景色に夢中の女性陣に対し、リャンさんだけはエレベーターの案内板にある
「最上階:クラウドパレス・チャペル」の文字に気付き、笑顔でトオルにアイコンタクトする。
ニュータイプなのかどうかは分からないけど、相変わらず勘のいいヒトだ。
「ランドウ様でございますね、承っております。ようこそ、クラウドパレス・チャペルへ。」
最上階の教会前、やや白髪の混じった神父が一家を祭壇に招く。さすがに女性陣も
挙式がココであることに気付いたようだ。
目を潤ませ、顔を赤らめて感動してるセリカ、こんな彼女の表情は見たことが無い。
結婚前にようやく会心の一撃を入れられたようだ。
教会は全面がステンドグラスで覆われ、その外の空と雲と太陽と、そして眼下にシドニーの街、
結婚式のロケーションとしてこれ以上の舞台はまずないだろう。
「夕焼け時の眺めは絶品ですよ、もちろん挙式もその時間にセッティングしております。」
神父の説明にセリカはキュンキュンしっ放しだ、予定を明日にしようとか言いだしかねないな。
「ね、ねぇトオル、もう今日ここで結婚式しちゃおうよ。」
予想の斜め上を行かれた、さすがセリカ。両家の両親と神父が思わず笑う。
が、その話をきっかけに、神父は二人にちょっとしたエピソードを話しはじめる。
「今の気持ちを大事になさい。お二人には過去も未来もある、しかし神様に誓うのは
今その時の気持ちなのですから。」
神父は話す。かつて何組もの挙式を導いてきた彼が、式の前にとあるカップルと話していた時の事、
新郎側の青年が、神父と新婦にとんでもないことを打ち明けたことを。
彼は式で「永遠に愛する事」を誓う自信がない、と告白する、今は確かに彼女を愛している、
しかし未来の自分が変わらず彼女を愛せるかは分からない、と。
青ざめる新婦を前にして、神父はにこやかに諭す。あなたのその誠実さ、嘘をつけない正直さがあれば
将来のあなたが今日の誓いを裏切るはずはないと。
今の一瞬を胸に刻むことがあなたの、そして将来の二人の未来を創る。今の一歩を示さずして
次の一歩は刻めない、だから誓いなさい、今の気持ちを。それが未来につながるのだから、と。
現在、その夫婦は3人の子供に恵まれ、幸せな生活を送っているそうだ。
帰りの車の中、トオルによりかかって余韻に浸るセリカ。
「素敵な神父さんだったね。」
「ああ。」
それだけ言うと二人とも黙り込む。気持ちは言わずとも伝わる、超能力が無くとも、使わずとも。
今のこの気持ちがあれば、二人は未来永劫、共に歩んでいける。
プライマリーでの二人三脚の続きを、いつまでも刻んでいける、きっと-